「死の存在によって愛が色濃くなる」ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』死のダンサー役:大貫勇輔&宮尾俊太郎インタビュー
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(左から)宮尾俊太郎、大貫勇輔
ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』プリンシパルキャストインタビュー第2弾は、死のダンサー役を務める大貫勇輔と宮尾俊太郎のおふたり。本作の大きな特徴となるのが、この死のダンサー。台詞を一切発することなく、ただ舞台上で踊りによって死を表現するという難役だ。13年版からの続投となる大貫と宮尾は、今度はどのように死を体現するのだろうか。その圧倒的な肉体表現で高い評価を得る旬のダンサーふたりに意気込みを語ってもらった。
(左から)宮尾俊太郎、大貫勇輔
――前回に引き続き死役を演じる大貫さんと宮尾さん。当時を振り返ってみて印象深いことはありますか?
宮尾:11年の初演から出ていたこともあって、ある程度死という役柄について掴んでいるところがあった大貫くんに対し、僕はそのときが初参加。まっさらな状態からのスタートでした。だから、自分の見え方について聞いてみたり、どういう見せ方が正解なのか話し合ったり、ふたりでディスカッションしながら稽古を進めていったのを覚えています。
大貫:あのときは中島周さんを含むトリプルキャストだったんですけど、それぞれ解釈も違うから自然と表現も変わってきて、結果的にはまったくタイプの違う死になりました。それが演じる側としても面白かったし、お客様にも楽しんでいただけたんじゃないかと思います。
宮尾:特に、死をどう表現するかという部分はダンサーにかなり委ねてもらえたんですね。演出の小池(修一郎)さんも、振付のTETSUHARUさんも敢えて細かい指示は出さずに、僕たちの自由にさせてくれた。だからこそ、悩む部分も多かったです。
――「死」ってすごく観念的だと思うんです。それを作品世界に添って具現化するのは相当の苦労があったと思うのですが。
宮尾:僕がいちばん難しいなと思ったのが、さじ加減ですね。どれだけ僕が死について深く考え理解した上で発信したとしても、お客様が見てわからなければ意味がない。だからこそ、時としてわかりやすさが求められます。そのバランスは難しかったですね。キャラクターの心情を映す鏡のような存在であればいいのか、生き物にとっての自然の摂理のように気づけばそこにいる存在であればいいのか。いろいろと考えましたが、一貫して意識したのは、恐怖を与える存在であろうということ。舞台上の登場人物も、お客様も、みんなが恐怖を感じる表現を追求しました。
大貫:僕は前回は2度目だったので、ある程度、自分の中で整理して臨めたんですけど、初演のときは本当に大変でした。当時の僕はミュージカル初参加。自分がどうすればいいのかなんて、何もわからなかった。だからこそ、指先1本までとことん考え抜きましたね。手を伸ばすにしても、親指が客席の方を向いているときは小指が見えない方がいいかな、とか。バーを握るときも小指から握った方が美しく見えるかな、とか。首の角度から目線の上げ方まで、とにかく神経を注いで死という役を表現しました。
宮尾:そういう意味で今回楽しみなのが、振付に小㞍健太さんが加わったことですね。彼とは10代の頃から知り合いで、僕がフランス留学をしていた頃、彼はモナコにいて、よく舞台を観に行きました。日本人コンテンポラリーダンサーとして素晴らしい実績を残されている小㞍さんがミュージカルでどんな振付をするのか。まったく想像がつかないだけにとても楽しみです。
大貫:小㞍さんが振付をした『エリザベート』を観ましたが、まさにミュージカルのレベルを超えたコンテンポラリーとしてのコレオグラフでした。ダンサーとして素晴らしい方であることはもちろん知っていましたけど、振付家としてもすごい才能を持っているんだな、と。コンテンポラリーは、ある種、自分の思考をかたどるもの。それをミュージカルという商業ベースに乗せるのはとても難しいことだと思うんです。でも小㞍さんは柔軟にコンテンポラリーを崩しつつ、自分のオリジナリティをしっかり入れながら表現をしていた。そこにセンスを感じました。
――死という存在は、本作の大きな特徴のひとつだと思います。死が舞台上に存在することで、観る人に、あるいは作品そのものにどんな劇的効果をもたらしているとお考えですか?
大貫:『ロミオ&ジュリエット』と言えば、誰もが知っている愛の物語じゃないですか。最後にふたりが死ぬこともみんな知っている。でもそれはあくまで頭の中でわかっているだけで、実際に目に見えるものではないですよね。僕らが存在することで、お客様は常に死が見えるようになる。それによって、一層愛も色濃く浮き立つ。愛と死という相対的な関係をより明確に浮かび上がらせるのが、僕たちの役割なんじゃないかなと思います。
宮尾:きっと死の見え方って、それぞれキャストの組み合わせによって変わってくるような気がするんですね。あるキャストでは、儚く美しく散っていた命のように見えたものが、別のキャストでは、若者たちが衝動のまま突き進んでいった果てのように見えることもある。僕はそれでいいと思うし、ぜひお客様にもいろんな見方をして楽しんでもらえたら嬉しいです。
――ちなみにおふたりは前回の再演が初共演。以降、昨年には『Clementia』を上演されたり、すっかり意気投合されているようですが。
宮尾:大貫くんとはまさに運命的な出会いという感じでして(笑)。
大貫:当時は週6くらい一緒にいましたよね。稽古の後も、必ず御飯に行って。
宮尾:それからもずっとプライベートで付き合いは続いています。
――おふたりはお互いのことをダンサーとしてどんなところにリスペクトを感じているんですか?
宮尾:最初に大貫くんのことを見たのは映像だったんですね。第一印象は、ものすごく動く方だな、と。身体が小さい方ってよく動く人が多いので、勝手に小柄なイメージを持っていたんです。だから、自分と同じくらいのサイズで、これだけ動ける人がいるんだということに、まず興味を持ちました。現場を一緒にするようになってから感銘を受けたのは、アーティストとしての姿勢ですね。作品や役柄を深く深く掘り下げていくし、見せ方もとっても上手い。人の心を捉える表現が上手なんです。大貫くんと知り合ってからは、自分のことでも「大貫くんだったらどうするだろう…」と置き換えて考えることが増えたような気がします。
大貫:僕の中で、バレエダンサーのみなさんって、ひとつの道を一心に突きつめていく方たちというイメージがあったんですね。でも、宮尾さんはそれと同時にどんどん活動の場を広げていっている。この前も、宮尾さんが座長を務めるBallet Gentsのディナーショーの映像を拝見したのですが、本当に素敵なショーで。宮尾さんの振付もすごく良くて、振付の才能もあるんだとビックリしました。宮尾さんの中には常に上昇していこうという強い意識がある。その意識に僕も感化されています。
宮尾:上昇志向が強いというのは、確かにそうかも。興味を持ったことに関して、とにかくスキルアップしていきたいという気持ちが強いんですよね。何か狙って活動の場を広げていこうとしているつもりはないんですけど、もっと上を目指していきたいと思っている結果、自然とそんなふうになっているのかもしれません。
――運命的な出会いとおっしゃいましたが、その現場が終わってもずっと交流が続いて、刺激を与え合える関係って、誰とでも築けるものではないと思うんです。そこはやっぱり何かおふたりの間でシンパシーを感じるような部分があるからですか?
宮尾:それこそ上昇志向は、僕も大貫くんも共通するところがあると思う。僕たちって素敵だなと思うことやワクワクできることが近いんですね。ダンスの映像を見てても、「ここカッコいいね」と思うポイントは大体同じ。だから自然と一緒にいることが増えたんだと思います。
――おふたりが、お互いに「会いたい」と思うときって、どんなときですか?
宮尾:くすぶっているときですね。そんなときに大貫くんに会うと、必ず何かもらえるというか、襟を正されるような気持ちになるんです。
大貫:僕も同じです。自分が停滞しているとき、よく宮尾さんのことを思い浮かべるんですよ。「恋人か!」っていう感じですね(笑)。
――本作を含め、多彩な活動をされていますが、おふたりの中にあるダンサーとしての矜持とは何ですか?
宮尾:バレエダンサーとして活動しているうちは、必ずバレエダンサーであることを軸にすることですね。そこが揺らぐと僕はダメになる。揺るがないからこそ、バレエもおろそかにせず他のこともいろいろ挑戦していけるんだと思います。
大貫:僕にとってもダンスが軸。こうしてお芝居をやらせていただいて、歌う機会も増えましたが、何があっても僕からダンスをなくすことはできない。ダンスがないと生きていけませんから。僕は死ぬまでダンサーでありたいし、死ぬまで現役でいたい。だから、それに耐えうる身体をキープし続けることも、僕にとっては大切なことのひとつなんです。
<ヘアメイク:国府田圭(大貫)、小坂えみこ(宮尾)>
インタビュー・文=横川良明 撮影=岡崎 雄昌
【ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」キャストインタビュー】
★ロミオ役:古川雄大&大野拓朗
★ベンヴォ―リオ役:馬場徹&矢崎広
★ティボルト役:渡辺大輔&広瀬友祐
★マーキューシオ役:平間壮一&小野賢章
★ジュリエット役:生田絵梨花&木下晴香
1988年8月31日生まれ。神奈川県出身。バレエ、ジャズ、コンテンポラリー、アクロバットといったジャンルの壁を飛び越えて活躍するダンサー。本作品の初演でミュージカルに初参加し、注目を集めた。近年の主な出演作に、『GQ Gentleman Quality -紳士の品格-』、『SEKAI』(DDDプロデュース)、『Underground Parade』、ミュージカル『100万回生きたねこ』等がある。2012年には、本作品の演出家である小池修一郎氏の抜擢により『キャバレー』のクリフ役を好演、俳優デビューを果たした。2013年にはマシュー・ボーン演出・振付の『ドリアン・グレイ』に主演。2014年にはラスタ・トーマス率いる『BADBOYS』ワールドツアーに参加した。その他の主な出演作に『アドルフに告ぐ』、『ピーターパン』等。今年6~7月に出演の、DANCE LEGEND vol.3 BAD GIRLS meets FLAMENCO BOYS『FLAMENCO CAFÉ DEL GATO』では、フラメンコに初挑戦した。
宮尾 俊太郎(みやお・しゅんたろう)
1984年2月27日生まれ。北海道出身。14才からバレエを始める。2001年、フランス・カンヌ・ロゼラハイタワーに留学。モニク・ルディエールに師事。帰国後、2004年10月熊川哲也が芸術監督を務めるK-BALLET COMPANYに入団。2015年12月にプリンシパルに昇格。熊川版『シンデレラ』、『ドン・キホーテ』、『白鳥の湖』、『海賊』、『くるみ割り人形』、『ロミオとジュリエット』、『ジゼル』など多くの作品で主演を務めている。2013年、自身が座長を務めるダンサーグループ「Ballet Gents」を結成。「東急ジルベスターコンサート2014-15」出演や、単独ディナーショーを開催。またTV・CM・映画でも活躍し、ドラマ「ヤマトナデシコ七変化」、「レジデント~5人の研修医」、CM「氷結」、「たかの友梨ビューティクリニック」、映画「花のあと」出演等、幅広い分野で活躍している。10月8~10日、「Ballet Gentsと巡る秋の松山観光&バレエの旅」開催決定。10月16日よりスタートする日曜劇場「IQ246~華麗なる事件簿~」(TBS系)にレギュラー出演。
公式ブログ http://ameblo.jp/shuntaro-miyao/
<東京公演>
日程:2017年1月15日(日)~2月14日(火)
会場:東京都 TBS赤坂ACTシアター
<大阪公演>
日程:2017年2月22日(水)~3月5日(日)
会場:大阪府 梅田芸術劇場 メインホール
<スタッフ>
原作:W.シェイクスピア
作・音楽:ジェラール・プレスギュルヴィック
潤色・演出:小池修一郎
<キャスト>
ロミオ:古川雄大 / 大野拓朗 ※Wキャスト
ジュリエット:生田絵梨花(乃木坂46) / 木下晴香 ※Wキャスト
ベンヴォーリオ:馬場徹 / 矢崎広 ※Wキャスト
マーキューシオ:平間壮一 / 小野賢章 ※Wキャスト
ティボルト:渡辺大輔 / 広瀬友祐 ※Wキャスト
死のダンサー:大貫勇輔 / 宮尾俊太郎 ※Wキャスト
キャピュレット夫人:香寿たつき
乳母:シルビア・グラブ
神父:坂元健児
モンタギュー卿:阿部裕
モンタギュー夫人:秋園美緒
パリス:川久保拓司
大公:岸祐二
キャピュレット卿:岡幸二郎
ほか