妻夫木聡、綾野剛を「愛していた」。出会いのシーン撮影の日から同居生活をスタート

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2016.9.10

「映画って奇跡だと思った」。妻夫木聡は、李相日監督との3度目タッグとなった映画『怒り』(9月17日公開)で、映画の力を改めて実感したと力強く語る。「兄貴のような存在」という李監督について、そしてカップル役を演じた綾野剛との濃密な日々について振り返ってもらった。

吉田修一原作の小説を、『悪人』に続き李監督が映画化した本作。ある未解決殺人事件を軸に、「信じるとは?」という根源的な問いかけを投げかけるヒューマンミステリーだ。妻夫木が演じるのは、東京の大手通信会社に勤める男・優馬。直人(綾野)という素性の知れない男と出会い、同居生活を始めるものの、愛と疑惑の間で揺れていく役どころとなる。

妻夫木は、原作を読んで「優馬という役をやりたい」と思ったそう。それは「恋をした時に、『あ、これだ』と思う感覚と似ていた」と言う。「『悪人』での役作りで、李監督と一緒に『ブロークバック・マウンテン』を見ていたんです。その時に『ヒース・レジャー、良いよね』とふたりで言っていて、いつか僕もゲイの役をやってみたいとは思っていました。日本映画でゲイの純愛を描くというのは、あまりないことでしたから。『怒り』を読んだ時に、それがしっかり描けていると思った。なおかつ、言葉では説明できないような感情や、衝動的な思いがものすごく詰まった原作だと思いました」。

原作を読んで、その内容、優馬役に心を鷲掴みにされたというが、「この役をやりたいと言って、本当にやらせていただけるなんて奇跡」としみじみと語る。「それだけでも奇跡なのに、ここまでのキャストをそろえて、想像以上のものが出来上がった。とにかく役者の芝居がすごく良くて、映画って生きている。生き物だなと思った。完成作を観た後、僕は立ち上がれないほど圧倒されてしまったんです」。

すべてにおいて「本物を求める」李監督。妻夫木は、ゲイの男性である優馬という役を生きるために、新宿二丁目に通ったり、ゲイ役の共演者と多くの時間を過ごした。「優馬は基本的に、恋愛することを諦めているみたいなところもあって。裏切られるのも怖いから、人のことをあまり信じないという姿勢もある」と優馬を分析。「直人と出会って、彼と関係性を築く上で、優馬は自分自身を知っていったんだと思う」と直人との関係が、優馬にとっての「鏡になっていた」と話す。

妻夫木と綾野が紡ぐのは、濃厚な本物の愛。その関係性を作り上げるために、今回が初共演となる彼らは「同居生活をする」という驚くべき手段に出た。それを決めたのは、ハッテン場での出会いのシーンの撮影の日だったそう。「そのシーンでは、優馬はちょっとイラっとしながら、半ば強引に直人とエッチをするんです。最初はなかなかそのシーンがうまくいかなくて。何度目かに、台本を無視して自由にやってみたんです。それが自分自身に腑に落ちて、なんだか楽しくなってきて。優馬と直人が出会った時にどうなるのかということと、すごくしっくりきたんです。その日にどちらともなく、『一緒に住んでみようか』という話になりました」。

その日から、2週間の同居生活を実施した。妻夫木は「楽しかったですよ。一緒の部屋に男同士で泊まることってほとんどないですから。僕がいつも使っているワックスを、剛が使っているのを見るとキュンとしたり」とニッコリ。綾野に対しては「僕は、剛がいたから優馬になれた。こんなにも同じベクトルで、役や作品に対して向き合えた人は初めて」と心を寄せる。「同居生活をしたからこそ出せる表情というのは、当然あったと思う。そもそもお互いがお互いを愛していない限り、出ない感情や表情ってあると思うんです。撮影中、僕は本当に剛を愛していたし、剛も同じ気持ちでいてくれていたと思います」。

信頼の置ける相棒と出会い、奇跡的な映画を作り上げられたことへの自信がみなぎる。「李監督の現場は覚悟がいりますね。なんでもやれることはやってみようと思うし、絶対に今までにないものを見させてくれる分、自分をさらけ出さないといけない。僕は、5年周期で李監督とご一緒しているんです。僕自身の成長も見てほしいし、李監督の成長も見たい。尊敬し合っていると、これだけ欲深いことができるんだなと思えた作品です」。【取材・文/成田おり枝】
 

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