新国立劇場『ワルキューレ』ヴォータン役 グリア・グリムスレイに聞く【シリーズ『ワルキューレ』#3】
グリア・グリムスレイ
グリア・グリムスレイ
――グリムスレイさんがヴォータンを初めて歌われたのは2005年のことだったそうですね。それから役の解釈や取り組み方は変わりましたか?
「簡単に言うと『イエス』です。この役は無限の可能性を持っており、上演を重ねるごとに自信がついてくるので、そこからまた新しい目標が見つかります。面白いことに、ヴォータンが神としてのパワーを見せる場面は、数えるほどしかないのです。一方、オペラでは人間関係のことが主に描かれています。ですので、私は『リング』全体をとても人間的な物語ととらえていますし、ヴォータンも神としてではなく、人間として演じています」
――ラスト近くでブリュンヒルデを置き去りにして別れを告げて去る場面は、どのような気持ちで演じられていますか?
「このシーンは本当に気を付けなければなりません。というのも、私にも娘がいるので……毎回、感傷的にならないようにしています。別れを告げなければならない状況であることは理解できるんです。でも、永遠の別れではない……親としては、とても深い心理とつながっている場面ですね」
――今回ブリュンヒルデを演じるイレーネ・テオリンさんとはバルセロナで既に共演されていますが、彼女との間にはケミストリーがありましたか?
「素晴らしいケミストリーがありました。イレーネはとてもオープンな人で、感情が敏感で、すぐ相手の立場に回ることが出来る人。ですので、かなり早い段階で心を通じ合わせることが出来ました。バルセロナでの経験が、日本での共演の手助けになってくれると思います」
グリア・グリムスレイ
――なるほど。ところであなたがマスタークラスで指導をしている映像を見たのですが、とても温かく包容力があって、生徒たちのお父さんみたいに見えました。
「はっはっはっ(大笑い)」
――それを見てふと思ったのですが、ヴォータンにもひとつ模範的な歌い方というものがあって、それは指揮者も演出家にも触れられないものなのではないですか?
「とてもいい質問です。歌手がワーグナーのスコアから直接感じるものが存在し、それは精神と身体の非常に深い部分とつながっているのです。もし演出がそこからあまりにかけ離れている場合、頭ごなしに反対はしないけれど、話し合って折衷案を見つけようとすることもあります。指揮者とテンポを決めるときもそうですね」
――5時間の『ワルキューレ』を演じるために、食事や体力作りにも大変気を使われているそうですが、既にストイックなライフスタイルに入っているのでしょうか?
「ははは! その通りです。食生活には最大限気を使っていますし、ジムやエアロビクス、ランニングも続けています。オペラがどんどん進行するにつれて……我々も人間ですので、始まったときと同じ状態ではないわけです。エクササイズは一貫してハードに取り組んでいます」
――グリムスレイさんの醸し出す大自然のパワーは他のオペラ歌手にはないもので、非常に魅力的だと思います。旅の多いライフスタイルだと思いますが、ふだんから自然に接しているのですか?
「自然にはつねに触れるようにしています。先日も、ニューヨークの北のほうで行われる大自然の中でのフェスティバルに参加していました。前回『サロメ』で来日していたときも、オフは公園を散歩していたんですよ」
グリア・グリムスレイ
(取材・文:小田島久恵 | 写真&動画撮影:大野要介)
リヒャルト・ワーグナー 楽劇『ニーベルングの指環』第1日『ワルキューレ』
<新制作>(全3幕/ドイツ語上演/字幕付)
2016年10月02日(日)14:00
2016年10月05日(水)17:00
2016年10月08日(土)14:00
2016年10月12日(水)14:00
2016年10月15日(土)14:00
2016年10月18日(火)17:00
【演出】ゲッツ・フリードリヒ
【美術・衣裳】ゴットフリート・ピルツ
【照明】キンモ・ルスケラ
【フンディング】アルベルト・ペーゼンドルファー
【ヴォータン】グリア・グリムスレイ
【ジークリンデ】ジョゼフィーネ・ウェーバー
【ブリュンヒルデ】イレーネ・テオリン
【フリッカ】エレナ・ツィトコーワ
【ゲルヒルデ】佐藤 路子
【オルトリンデ】増田 のり子
【ヴァルトラウテ】増田 弥生
【シュヴェルトライテ】小野美咲
【ヘルムヴィーゲ】日比野 幸
【ジークルーネ】松浦 麗
【グリムゲルデ】金子 美香
【ロスヴァイセ】田村由貴絵
本公演は、フィンランド国立歌劇場(ヘルシンキ)の協力により上演されます
■公式サイト:http://www.nntt.jac.go.jp/opera/walkure/index.html