「もっともっと大きくなって、世界につながるように」GLIM SPANKYのロックが過去最大キャパの会場を完全制圧
GLIM SPANKY Photo by KAMIIISAKA HAJIME
Next One TOUR 2016 2016.10.30 新木場STUDIO COAST
「ロックで世界をひっくり返してやろう」
GLIM SPANKYの2人はことあるごとにそう発言してきたし、この日もそうだった。もちろん、大言壮語であることを自覚した上での発言なのだけど、それは並大抵の話ではないし、過去最大級のキャパシティをソールドアウトさせてみせたといっても、「お、世界がひっくり返りはじめたぞ」というにはまだ遠い。だが、途方もない終着点に向かって伸びる“ワイルド・サイド”を彼らと共に歩もうという人々の輪が広がり続けている事実=彼らの信じる王道ロックが、2016年の日本において、これだけたくさんの観客にとっても信じるに足るものであったことを証明してみせたという点で、充分にシーンにおける結構な事件であり、大きな意義を持った『Next One TOUR 2016』ファイナル@新木場STUDIO COASTだった。
定刻を少し過ぎ、BGMのボリュームが大きくなると、もう待ちきれないといったオーディエンスから歓喜の声が上がる。場内が暗転するとそのボリュームはさらに上がり、まずバンドメンバーが、次いでガッツポーズを繰り出しながら亀本寛貴(G)が、さらには松尾レミ(Vo/G)が登場して頭上で手を合わせ一礼をすると、会場を揺るがす歓声と声援に包まれた。逆光に照らされながらのオープニングナンバーは最新アルバム『Next One』でも冒頭を飾る「NEXT ONE」だ。松尾の小気味良いカッティングと唸りを上げる亀本のギター。<誰もがやらない事を 掲げて挑め 世界へ>というGLIM SPANKYのマインドそのものな声明とともにライブははじまった。
GLIM SPANKY Photo by KAMIIISAKA HAJIME
怒涛の前半戦。オーディエンスの熱のこもったリアクションにも後押しされながら、「焦燥」「褒めろよ」とグリムのアグレッシヴ・サイドを代表するアンセムを連発。続いて、デビュー前から演奏されている「ダミーロックとブルース」を挟んだ後、一気にペースを落としてアカペラパートやアコギの音色が印象的な「闇に目を凝らせば」と「NIGHT LAN DOT」を並べる。彼らのブルースに備わった埃っぽさとマッドな妖しさが、荒涼とした情景を見事に描き出し、最後の一音の余韻までじっくりと聴かせてくれた。そこからダンスビートに対するグリム流の回答ともいえる新境地、「grand port」で再加速すると、「時代のヒーロー」「いざメキシコへ」まで、9曲を一気に駆け抜けてみせた。ここでやっと初めてのMCである。
過去最大規模の公演数と会場や未知の県に訪れることから、始まる前は不安だったという本ツアー。それでも蓋を開ければ「最高に楽しく、最高のコンディションで挑めました」「みんなが背中を押してくれて、私たちもこの人たちの背中を押したいと思えた」と、松尾は晴れ晴れしい表情で語っていた。客席からの呼びかけもいちいち拾うし、飛び交う声援には照れ笑い浮かべながらのMC。カリスマティックな佇まいからは意外に思えるほど、口を開けば親しみやすさや近さを感じさせてくれる2人。ロックを信じる人々と“ともに”進んでいこうという彼らの姿勢は、こんなところにも滲み出ている。
GLIM SPANKY Photo by KAMIIISAKA HAJIME
でもやっぱり、ひとたび演奏がはじまれば、GLIM SPANKYは孤高のロックヒーロー然としている。その中核となる松尾の歌声、そして亀本のギターという2トップの破壊力を前面に押し出すため、バンド全体の中でかなりリードギターが強めの、前に出た音作りとなっているのだが、アンバランスにならないギリギリをいく匙加減が絶妙だ。亀本は、間奏やアウトロになると「待ってました」とばかりに進み出て、長身痩躯を折り曲げながらギターソロを炸裂させ、我々がものすごく根源的な部分で抱いている「ロックギターでギュワーンとやること」に対しての「かっこいいなぁ」という憧れや興奮のツボをガンガン刺激してくれる。テクニック面がどうとか、エフェクトがどうとか語ることが野暮に思えるくらい、速く走るバイクやスポーツカーがかっこいいとか、すごいドリブルをしてシュートを決めるサッカー選手がかっこいいとか、そういった類の、時代や理屈を超越する「かっこいいなぁ」というロマンだ。
GLIM SPANKY Photo by KAMIIISAKA HAJIME
松尾の歌声は言わずもがな。ハスキーさが際立つ中低音域での色気といい、ハイトーンを張り上げたときの迫力や説得力といい、やはり彼女はナチュラルボーンのロックヴォーカリストである。そんなハードな歌声の中にもどこか優しさや深みを内包しており、聴く者の郷愁を誘ったり勇気を抱かせたりと有機的に作用していることも改めて感じた。曲作りの中で自然と生まれやすいのはフォーキーでミドルテンポの楽曲なのだ、とインタビューで語ってくれたことがあるが、きっとそのことと無関係ではないだろう。そういうミドルテンポで寄り添うような楽曲=「風に唄えば」と「話をしよう」を披露したのはライブ中盤。グリムのライブでは、みな思い思いに盛り上がってソロやサビなどでは自然と拍手や歓声が起きるという、ノリ方が画一化されたシーンにおいては良い意味で異質な空間が常なのだが、この2曲では大きな一体感とともに上がった手が左右に揺れたりする様子が見られた。近くの観客同士で肩を組んでいる人までいる。このシーンに象徴されるように、それだけグリムの楽曲をステージ上と客席とで共有できているということだろう。ここに集まった人間はみな同志、という感覚に近いのかもしれない。
後半に入り、派手に明滅する照明の下、映画『ONE PIECE FILM GOLD』の主題歌として一躍彼らの名を知らしめた「怒りをくれよ」をぶっ放して場内を沸かすと、大盛り上がりのフロアを見渡し「なんて良い景色なんだろう」と、喜びと感慨を表現する。静寂の中、スーッと息を吸う音とともに歌い出したのは「大人になったら」。ドラマティックにアレンジされたアウトロで亀本のギターが哭き、喝采を浴びる。彼らのマインドを象徴した楽曲であり、必然のごとく本編ラストナンバーとなった「ワイルド・サイドを行け」では、自身の立ち位置と行く先を燦然と打ち鳴らしてみせた。
GLIM SPANKY Photo by KAMIIISAKA HAJIME
「ツアーファイナルをこんな……ウッドストックの丘のような(笑)、景色で歌えて最高でした」「もっともっと大きくなって、世界につながるように、私たちはロックを続けます」(松尾)
最初に述べたように、まだ限りない道程の途中ではある。だが、この日ステージに立った2人を待ち受けていたのは、巨大なライブハウスを埋め尽くした、これまでの道中で出会った仲間たち一人一人の姿であり、GLIM SPANKYが、ともすれば時代錯誤とも取られかねない彼らの音が、愚直な精神が、現時点でこれだけ多くの耳と心を打ち抜いているのだという、揺るぎない事実だった。その景色を目の前にしながらのアンコール。松尾は「リアル鬼ごっこ」の最後の一節をオフマイクで、2000人を超える仲間たちと合唱したのだった。
<私たちは いま輝きの中>
ロックに魅入られロックで魅了し続ける稀代のバンド・GLIM SPANKY。“ワイルド・サイド”のど真ん中から放たれる輝きが、一層輝度と照射範囲を増していくことを願わずにはいられないし、見届けていきたいと思う。本当に世界をひっくり返してみせるその日まで。
取材・文=風間大洋 撮影=KAMIIISAKA HAJIME
GLIM SPANKY Photo by KAMIIISAKA HAJIME
1. NEXT ONE
2. 焦燥
3. 褒めろよ
4. ダミーロックとブルース
5. 闇に目を凝らせば
6. NIGHT LAN DOT
7. grand port
8. 時代のヒーロー
9. いざメキシコへ
10. 風に唄えば
11. 話をしよう
12. BOYS&GIRLS
13. 怒りをくれよ
14. Gypsy
15. 大人になったら
16. ワイルド・サイドを行け
[ENCORE]
17. リアル鬼ごっこ