阿佐ヶ谷スパイダース『はたらくおとこ』12年ぶりの再演が開幕! 芝居好き垂涎の個性派俳優が勢揃いで熱演、怪演 

レポート
舞台
2016.11.5
『はたらくおとこ』(撮影:引地信彦)

『はたらくおとこ』(撮影:引地信彦)


 今年、結成20周年を迎える阿佐ヶ谷スパイダース(長塚圭史、中山祐一朗、伊達暁)の代表作にして出世作とも評される『はたらくおとこ』が、12年ぶりに再演されている。この作品は、2004年の初演時には物語の刺激的な展開と、命を削るかのような演者の熱演、舞台装置等のスペクタクル的要素も相俟って、「とにかくスゴイ!」と噂が噂を呼んだ“伝説の舞台”でもある。11/3、東京は本多劇場にて待望の初日の幕が上がる数時間前に、マスコミ向けに公開されたゲネプロを観た。

 待望の再演が実現した今回は、池田成志中村まこと松村武池田鉄洋富岡晃一郎中山祐一朗伊達暁長塚圭史という初演のオリジナルメンバーが再結集(紅一点の女優は北浦愛が初参加)! 初演のパワフルさはそのままに、さらに深く濃く、より激しい感情が渦巻く演劇空間を作り出すことに成功した。

 舞台右側は雑然とした作業場、左側は雪が積もった屋外となっている舞台装置。開演時間になると、まるでこれから可愛らしいおとぎ話でも始まるかのような音楽が流れ、暗転。そして明転して芝居が始まると、左側の屋外部分ではチラチラと粉雪が降り続ける。物語の舞台となるこの作業場兼事務所は“茅ケ崎リンゴ園”。ここに集うのは茅ケ崎社長以下、登場順に、夏目、佐藤弟(豊蜜)、前田兄、佐藤妹(涼)、佐藤兄(蜜雄)、満寿夫、前田弟(愛)、真田、というリンゴ園の従業員とアルバイト、その兄弟、組合の人間、そして謎の闖入者という面々だ。雪深い東北のとある小さな村にあるこのリンゴ園で、なぜか“渋くて苦くて、でも美味いリンゴ”を作ることが茅ケ崎社長の夢だった。しかし社長が思い描く味のリンゴは作り出せないまま、借金がかさみ農園は既に潰れてしまい、夢も未来も見えなくなった男たちは互いに口ゲンカばかりの日々を送っている。そんな中、バイトの豊蜜の妹・涼(すず)と兄・蜜雄が、組合が使うことを禁止している農薬を持って作業場に逃げ込んできたことから、物語は急展開していく。兄弟ゲンカが始まり、やがて刃傷沙汰、さらには前田弟の運転するトラックがとんでもない積み荷と共に作業場に突っ込んできて……!

『はたらくおとこ』(撮影:引地信彦)

『はたらくおとこ』(撮影:引地信彦)

 シニカルな笑いと恐怖と風刺、ファンタジーに満ちたワンシチュエーションのハイテンション芝居だ。12年も前に書かれた脚本とは思えないほど、現代にもリンクしてくるこの物語をキャスト陣はそれぞれ全力で熱演、怪演している(ゲネプロにもかかわらず、中山祐一朗が池田成志の背中を叩く場面ではバシバシと音がして本当に痛そうだった……)。トラックの積み荷の危険物質に関しては具体的には語られないのだが、それだけに様々な想像をしてしまい、客席に座っているだけで同じ空気を吸うのが不安になるほどのリアルな恐怖さえ感じた。物語が進むにつれて、従業員たちがなぜこのリンゴ園にやってきたのか、社長はなぜそんなにも渋い味のリンゴを作りたいのかが語られていき、それにいちいち笑いが挟まれつつも、男優たちが芝居巧者ばかりが揃っているからこその切なさ、哀愁がいやというほどにじみ出てくる。中でも、茅ケ崎社長を演じる中村まことは劇中に一発ギャグコーナーのような場面まであり、その暴走っぷりは果たしてどこまでアドリブなのか、もう一度観て確かめてみたいくらいの自由度で痛快だった。その中村と従業員の夏目を演じる池田成志の場面では、二人の間に流れる狂気の凄味と笑いへの貪欲な姿勢が秀逸。さらに佐藤兄弟(池田鉄洋・松村武)、前田兄弟(中山祐一朗・伊達暁)それぞれの、いびつではあるけれども確かにある兄弟愛、富岡晃一郎の特殊な体型にされながらも醸し出すリアルな存在感、この濃密すぎる空間で北浦愛も大いに健闘している。また劇中で突然乱入してくるように登場する長塚圭史も、この物語のスパイスになるようなダークな役柄を嬉々として演じていた。

 そして、やがて訪れる衝撃のクライマックス。登場人物たちの様々な感情が爆発し、絡み合い、カオスとなって意外な幕引きに至るまで、一瞬もゆるむことなくノンストップで走り続ける約2時間15分だった。どんな作品でも賛否両論にはなるものだが、これこそまさに激しく真っ二つに意見が分かれる舞台であることは否めない。感想もおそらく「面白い」「笑った」「楽しんだ」から「グロい」「気持ち悪い」「怖い」まで、さまざまな感情に分かれて語られるはず。しかし個人的にはそういう気持ちよりも圧倒的に感じたのが「全員が、とにかくカッコイイ!」という想いで、これに関してはきっと多くの観客が同意見になるだろうと思う。だからこそ、もし観ようかどうしようかと迷っている方がいたとしたら「何としても観るべき、でないと後悔する!」と力一杯、その背中を押したいと思うのだ。

『はたらくおとこ』(撮影:引地信彦)

『はたらくおとこ』(撮影:引地信彦)

 阿佐ヶ谷スパイダース『はたらくおとこ』は、このあと東京・本多劇場にて11/20(日)まで上演。その後、福岡、広島、大阪、名古屋、盛岡、仙台でも公演あり。

公演情報
阿佐ヶ谷スパイダースPresents 『はたらくおとこ』
 
■日程・会場:
<東京>
2016/11/3(木・祝) ~ 2016/11/20(日) 本多劇場 (東京都)
<福岡>
2016/11/23(水・祝) 18:00 キャナルシティ劇場 (福岡県)
<愛知>
2016/12/8(木) 19:00 名古屋市青少年文化センター・アートピアホール (愛知県)
<仙台>
2016/12/16(金) 19:00 電力ホール(宮城県)
<盛岡>
2016/12/14(水)19:00 盛岡劇場 メインホール(岩手県)

※他に広島・大阪公演あり
 
■作・演出 長塚圭史
■出演:池田成志、中村まこと、松村武、池田鉄洋、富岡晃一郎、北浦愛、中山祐一朗、伊達暁、長塚圭史
<STORY>幻のリンゴを作り出す夢も破れ、朝から晩までまんじりともせず、今やもうすることもない閑散の事務所でストーブの小さな炎を囲み、北国の大雪を見つめる男たち。雪はまるで借金のように降り積もってゆく…。もはや東京に帰る場所もない。そんなある日、地元の若い女が運び込んだ幸運の液体。この液体を手に、男たちは手段を選ばず暴走しはじめる。そう、すべては幻のリンゴの栽培を再開するために。運命を打開すべきチャンスが目前となったとき、トラックに乗ってアイツがやってきた!

<アフタートーク>
■11月4日(金)19:00 
『はたらくおとこ』の出演者× 中山祐一朗+ 伊達暁+長塚圭史(以上、阿佐ヶ谷スパイダース)
■11月5日(土)19:00
ゲスト:山内圭哉 × 中山祐一朗+ 伊達暁+長塚圭史(以上、阿佐ヶ谷スパイダース)
■11月7日(月)19:00
ゲスト:古田新太  八嶋智人 × 中山祐一朗+ 伊達暁+長塚圭史(以上、阿佐ヶ谷スパイダース)
※参加者は急きょ変更になる可能性あり。;
 
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