『オワリカラ・タカハシヒョウリのサブカル風来坊!!』宍戸留美・福田裕彦27年越しの初対談
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オワリカラ・タカハシヒョウリ 宍戸留美 福田裕彦 撮影:中原義史
歌手、声優、元祖インディーズアイドル 宍戸留美、伝説のデビューアルバムを作曲した福田裕彦と27年目の"初"対談!!
ロックバンド『オワリカラ』のタカハシヒョウリによる連載企画『オワリカラ・タカハシヒョウリのサブカル風来坊!!』。毎回タカハシ氏が風来坊のごとく、サブカルにまつわる様々な場所へ行き、人に会っていきます。第四回となる今回は、元祖インディーズアイドル、宍戸留美と、そのデビューアルバムで作曲を担当した音楽プロデューサー福田裕彦の対談をお送りする。90年代アイドル事情と、当時の事を振り返るロングインタビューをお届けする。
26年目の"初"対面
タカハシ:今日はですね、宍戸さんと福田さんが26年ぶりの再会を果たした…というかほぼ初対面を果たしたということで。そもそも福田さんは、宍戸さんのデビューアルバム『ドレミファソラシドシシドルミ』のプロデューサーなわけですよね。
福田:いや、プロデュースではないんだよな。経緯を正確に言うと、基本的には俺は曲を書かないかって言われたの。コンポーザー(作曲家)&アレンジャー(編曲家)であって、プロデューサーは、ソニーの藤岡孝章氏って考えるべきだね。藤岡さんって「ポ〜ニョ、ポ〜ニョポニョ、魚の子♪」って歌っていた、藤岡藤巻ってわかります?
タカハシ:わかりますわかります!
福田:あれの一人なんですよ。もともと藤岡さんって変な人で、「まりちゃんズ」って変なバンドをやっていた人で。
宍戸:「尾崎家の祖母(おざきんちのばばあ)」とかで有名ですよね。
福田:そう。その人が当時ソニーのディレクターさんで。シブがき隊をやってたんですよ。で、シブガキ隊の五周年記念の時の12インチシングルって言うのがあって。そのふっくんの12インチシングルをサンプラザ中野と俺の二人でプロデュースしたの。
タカハシ:なるほど。
福田:そこらへんから、藤岡さんとの繋がりができていって、それがまずは下地なんですよ。それで、ちょうど宍戸さんがデビューされた時は、俺はもう全く違う場所にいて。 『コズミック★ランデブー』は90年?
宍戸:90年です。
福田:5月にバーン!って出て。すごいプロモーションで、ソニーの超一押しだったんですよ、俺は、またアイドルが出てきたんだなあって思っていたんだ。だから全くクロスすることはなくて。その時、イカ天がすごいブームだったんだよね。それがあったんで、アイドルって実は不調だったんですよ。
タカハシ:へえー!
福田:そのバンドブーム時代に突入している矢先で、俺がイカ天で出てきたFLYING KIDSのファーストアルバムのマニュピュレーターとして入っていたんですよね。その時に、FLYING KIDSのギターの加藤くんっていう人が書いた「見逃してくれよ!」っていうキョンキョンの曲をアレンジしてオリコンで1位になったんですよ。で、福田とは方向の違うエリアで動いてて「コズミック★ランデブー」の不調をなんとかせにゃ、と思ってた藤岡氏が、いきなり俺に、宍戸さんに曲書かないかってふってきたの。なんとかせな!と彼は思ったわけですよ。これが経緯です。今が頼み時かも、って思ったんでしょう。
タカハシ:じゃあ、ある意味ぜんぜん異端なところにいた人をフックアップした感じなんですか。
福田:超異端じゃないですかね。
タカハシ:ちょっと夢のある話だ。
福田:俺はもともとはフュージョンだったけど、その当時好きだったのが、特撮とか怪獣とか。藤岡さんも特撮とか怪獣が大好きだったんですよ。そのような話をしていたし、音楽としては、どっちかって言うとビートルズよりかはピストルズの方が好きだったりするキーボーディストだったんですよ。仕事としてアイドルのアレンジとかしていたけれども、一枚のアルバムをほとんど全部やるなんて体験も無かったから。今でも覚えてますよ。いきなり呼び出されて、「福ちゃん、アイドルに曲を書かない?」って言われたんだけど。すげえ!って思ったんですよ。やったことないし、正直アイドルというものと精神的な壁があったと言うか、基本的にアイドルという存在に仕事以外で興味を持ったことがほとんどなかったんですよ。だから、すごい意外だと思ったんだけど。しかも藤岡さんが、「好き勝手やっちゃって良い」って言うんで。それでタガがポーンって外れた。でも俺に頼んでくるんだから、オルタネイティブなアイドルだと思ったら、貰ったファーストシングルが。
タカハシ:「コズミック★ランデブー」
福田:すごい正統派でさ。曲も良い曲なんだけど、鷺巣(詩郎)さんがアレンジを勤めててさ。
タカハシ:鷺巣さんなんですか!
福田:そうですよ。鷺巣くんは当時アレンジャーとしては、俺より既に数段上のところにいて、同い年なんだけど「鷺巣詩郎」っていうのはA級プロジェクトだったんですよ。その時点で鷺巣さんアレンジだし、曲も歌も素晴らしいじゃないですか。でもあれ15歳の時だったんだよね。
宍戸:だったと思います。
福田:声がすごい可愛いくてさ。で、それ聞いて、「これどうすんの?」って思ったわけですよ。
タカハシ:もう完成されてた。
福田:でも俺自身は、俺的に直球を投げるしかない!って思って、ああいう風になった。
タカハシ:宍戸さんは、先にシングル2枚、福田さんの作曲、石嶋(由美子)さんの作詞ではない曲じゃないですか。そこからカップリングで初めて福田さんたちが入ってくるんですよね。
福田:そう、カップリング、『ナクヨアイドル平成2年』のカップリング。
タカハシ:そこに異質な要素が入ってくるわけじゃないですか。それを初めて受け取った時はどういう感じなんですか。
宍戸:いや、ポップだなって思って。
タカハシ:「カラータイマー」とか言われてわかったんですか。
宍戸:その時、色々調べたんですよ。難しい言葉が多くて。パルスとか電波系のこととか。
タカハシ:結構今はやれない歌詞がありますよね。
福田:平然とやってて、それに関しては言われなくて。
タカハシ:ある意味おおらかな時代。
福田:おおらかだね。2枚目のシングルにカップリング「恋のロケットパンチ」を、テストケースとして入れたんですよ。で、この路線で行こうっていう話になって。じゃあアルバムを秋に出すからって、時間が本当にないから石嶋とブワーッと曲を作り出して、二週間ぐらいかな。
タカハシ:作詞作曲を?
福田:作詞作曲を。レコーディング自体は、10日ぐらいで全部やったんじゃないですかね。
タカハシ:ビートルズみたいですね。
福田:ものすごい勢いです。
宍戸:歌入れも一日三曲とか。
福田:それなのに、ちゃんと歌えていて。石嶋由美子がパパイヤパラノイアってバンドやってたんですけど、彼女がバンドを脱退か解散かして、で、彼女の初めてのソロアルバムのアレンジをやったんですよ。それが89年で、ものすごい振れ幅の広い人だから、この人なら歌詞を書けるなって思って頼んだんです。それで最初に投げられたのが「ロケットパンチ」で。まだメールとかない時代だったんで、ファックスでバンバン面白いものが来るんですよ。だから次から次へと曲を作っていく感じだったんですよね。あっという間に曲ができたんで、まず、悩むとか落ち込むとかなし。
タカハシ:その時にお二人が一度もお会いしたことがないっていうのがすごいんですけど。すれ違うことすらないんですか。
福田:実は一回すれ違ったことがあったんですよね。その時は覚えてない。
宍戸:あれですよ、「地球の危機」のシングルのコーラスをラジオの視聴者でやろうって。
タカハシ:伝説の!
宍戸:伝説の。
福田:500人。
宍戸:ニッポン放送の銀河スタジオで。でも人が来過ぎて、2回ぐらいやった。
福田:でも藤岡氏が盛り上げようとしても全然盛り上がらなくて、俺が業を煮やして出て行った。
宍戸:めっちゃ指揮してましたね。そのイメージがある。
福田:出て行って、説教ですよ。とにかく「地球の危機を楽しんでしまえ!」ぐらいの気持ちでやってくれって言った時に。500人が腑に落ちたっぽい雰囲気があって、もうみんなね…ファッと入ったの。それであれが録れたんですよね。
タカハシ:500人のコーラスが一回ですか。
宍戸:確かすごいいっぱいやりました。
タカハシ:じゃあ1000人分ぐらい。そんな入っているコーラスって他にあるのかな。
宍戸:確かに!
福田:すごい迫力あるよね
撮影:中原義史
伝説のデビューアルバム『ドレミファソラシドシシドルミ』
タカハシ:僕は、オワリカラってバンドをやってるんですけど、その初代マネージャーが『ドレミファソラシドシシドルミ』がめちゃくちゃ好きだったんですよ。多分、宍戸さんもご存知の男だと思うんですが。
宍戸:はいはい。
タカハシ:僕が福田さんと初めてお会いしたのは6年ぐらい前。
福田:そうだね。
タカハシ:福田さんって言うキーボーディストの人に会ったんだよねってマネージャーに言ったら、その人が作曲した『ドレミファソラシドシシドルミ』は絶対聴いた方がいいって言われまして。本人は当時から好きで。それで聞いてみて、良いな!と。よく「元祖テクノアイドル」とかって言われているけど。もうちょい違う印象でしたね。
福田:さっきもそんな話になったんだよね。
タカハシ:ニューウェーブ・パンクって感じがしたんですけど。
福田:多分ニューウェーブ・パンクって言葉がなかったから、テクノって言われたのかな。俺自身はさっきも言ったけど、すごい直球にするつもりだったんだけど、結構オルタネイティブに取られた部分があったね。シンセの音的に、VFXってシンセがあって、デジタルシンセの過渡期のすごい乾いた音っていうかプラスティックな音っていうか。だから、ウェットなことをやってるんだけど、音は乾いているっていう。
タカハシ:それが異質な感じ。
福田:それがテクノっていう風に言われたのかなって思ってて。
宍戸:石野卓球さんがはじめてアイドル曲のリミックスをした曲が『恋はマケテラレネーション』で、そのへんも関係があるかもですね。
福田:えー、それもぜんぜん知らなかった。
タカハシ:音もかっこいいですよね。
福田:だから、宍戸さんもそう思っていたらしいんだけど、ほとんど全部打ち込みと思ってたらしいんだよ。
宍戸:うますぎるから。
福田:実は生を結構やってて。
タカハシ:ドラムの音とか超タイトですね。
福田:ドラマーは三原(重夫)さんっていう、実は偶然宍戸さんの飲み友達だったっていう(笑)。
宍戸:5年ぐらい前に、いつも来ている酔っ払いのおじさんのドラマーがいて、「え、宍戸留美ちゃん!?おれドラム叩いたんだよ、アルバム」って。「うそうそ!打ち込みだから嘘でしょ」みたいな。
福田:って言ったらしいんだよ。
タカハシ:めっちゃ面白い、それは。
撮影:中原義史
タカハシ:その後の26年間っていう時間の中で、宍戸さんと福田さんがお互いを再認識したタイミングってあるんですか。
福田:認識はしてたよ。
宍戸:常に意識はしていますね。
福田:なぜか知らないけど、宍戸さんの電話番号知ってるんだよな。電話したことないけど。なんで電話番号知ってるんだろう。誰かから聞いたのかなって思うの。で、宍戸さんがずっと声優やられてる、音楽活動もやられているのを知っていて、それで5年前、フッと気になって、22周年を祝ったブログを書いて。なんで22年なのかわからないんだけど(笑)。今回も27年じゃないですか。
タカハシ:常に2年ズレてる(笑)。
福田:その22周年の時に『ドレミファソラシドシシドルミ』に至る経緯は、全部結構細かく書いたんですよ。
タカハシ:しかし、すごいタイトルですよね。
福田:タイトルについては伺い知らないんだけど。
タカハシ:最初からこのキャッチコピーってついてたんですか。
宍戸:私が小学校の時に男子に笛で、「ドレミファソラシド」って、「ドレミファソラシドシシドル(レ)ミ」ってやられてて。
福田:そうだったの!
宍戸:スタッフに話したらそれ面白いねってなって。
タカハシ:これ、素晴らしいキャッチですよね。
福田:そうなんだ。それ初めて聞きました。27年目にして。すごい話だ。
タカハシ:曲もそうですけど、石嶋由美子さんの歌詞も、宍戸さんの歌声と合った時に、すごい。
福田:圧巻ですよね。
タカハシ:歌詞、めちゃくちゃいいですね。
宍戸:あれを20代で書いてたの、ほんとに天才ですね。
福田:石嶋は、89年に『BABUHAJAH』って傑作アルバムがあるんですよね。ここに持って来てるんですよね。
タカハシ:ジャケかっこいいな!( このあと聴きましたが、中身も超かっこいいです。)
福田:すごい振れ幅が広いんですよ。『WAR3』って曲があるんですよ。ヤッバイですよ。「しし死んでしまえ」っていう歌が、最初から最後まで絶叫していて。でもそれ以外は、とつぜん可愛い世界観の歌もあって。それで石嶋とは何個か、企画もので仕事をしたんですよ。そういう振れ幅の広さを見て、やってもらおうと思って、「アイドルとか興味ある?」って言ったら、「やります!!」みたいな感じで。
タカハシ:これは絶対女性にしか書けない歌詞ですよね。
福田:少女漫画的な主人公っていうか。俺自身が、男が少女漫画を読む第一世代なわけよ。
タカハシ:はいはい。萩尾望都、大島弓子、、
福田:竹宮恵子とかね。俺が高校ぐらいで読み出しているから。少女漫画像っていうのがあって、大島弓子の漫画に出てくるような女の子がいて、おでこの広い女の子なんですけど。そういう少女漫画的なイデアみたいなものがあったんですよ。そこにポンと石嶋の歌詞がきて、これはハマるなって思ったんだよ。実は、歌詞カードって石嶋の手書きがいっぱいあるんだよ。石嶋はイラストレーターでもあるので。(歌詞カードを広げて)「Panic in my room」もこれだからね。
タカハシ:「Panic in my room」ほんとすごいっすよね。
福田:これがファックスで来たんですよ。ほぼ、これが。それを清書した。
タカハシ:宍戸さんは歌入れで歌詞を見るときはこういうのを見ている?
宍戸:そうですそうです。
福田:これを見てたの!?
宍戸:はい。
タカハシ:手書きのものを見ているっていう。
福田:これを見てたのね。
タカハシ:この歌詞を見た時っていうのはどうでした。
宍戸:いや、もうレコーディングはいいけど、絶対テレビで歌いたくない!って言ったのに、すごい歌わされて、生で(笑)。
福田:そうだよね。だって、実は最初のシングルカットが「Panic in my room」だよね。
タカハシ:そうか、めちゃくちゃ攻めてますね。
福田:攻めてますよ。だって、俺知らなかったんだけど、替え歌企画っていうのをやって、宍戸さん本人が歌ったの。
宍戸:ラジオのパーソナリティーの人から、自分の普段のストレスを歌詞にしてくださいっていう募集をかけて。10人ぐらい選んで、替え歌にして。誰も指導してくれないから、自分でメロディーに当てはめたんです。
福田:すごいよね。
宍戸:譜割りがぐちゃぐちゃなのに。
福田:俺はそれをもちろん聞いたことがなくて。すごい聞いてみたいけど。
タカハシ:それは音源として残っているんですかね。
宍戸:CDにしてプレゼントっていう。
福田:だからプレゼントされた人は持っているんだよ。これツイッターで初めて知って。持ってます!っていう、自分の歌詞が当選しましたっていう人から、選ばれてCDになりましたって。マジで!?って思って。
タカハシ:日本が世界に誇るストレス解消ソングですね。
福田:そうだね。実はノーメイクス(福田さんがプロデュースしているアイドルグループ)でもこれを一回イベントでやったんだけど、メンバーみんな絶賛だったね。25年前は早すぎるわって。
タカハシ:完全なパンクですよね。
福田:ドラムの三原さんがスターリンでしたから、ザ・スターリン。ローザ・ルクセンブルク。
タカハシ:はいはい!
福田:これはプロデューサーは、岡井大二っていう四人囃子のドラマーなんだけど。で、紹介されて、やったらすごく良くて。そこでこの話が来て、俺はちょうど九州かどこかに夏休みで遊びに行ってて、この話をわざわざ九州から三原さんに電話したんだもん。
宍戸:(笑)
福田:やりませんかって言って。ヤルヤルって話になって。「Panic in my room」のレコーディングの時に、「せーの!」で一斉に録ろうって言って。ベースは美久月千晴さん。今、浜田(省吾)と一緒にやってるけど。ギターは稲葉政裕くんって言って、今小田和正さんのところで一緒にやってるんですけど。その三人なんですよね。スリーピースで、せーので録って、2、3テイク。3テイク目ぐらいでもう一回やろうかってなったら、三原さんが「福田くん、パンクは真面目にやったらパンクじゃ無くなるから」って、これ以上やるとパンクじゃ無くなるからやめようって言って。おお、わかった!って。
タカハシ:至言ですね。
福田:至言だよね。これ以上ちゃんとやるとね、スラッシュメタル的になっちゃうんだよ。少し「適当」じゃないとダメなんだよパンクはって。
タカハシ:真面目すぎちゃダメだって。
福田:そうそう。
福田さんが持参した91年の『BOMB!』を読む宍戸さん 撮影:中原義史
声優、歌手、アイドル…「宍戸留美」という記号
タカハシ:そのあと宍戸さんがフリーになってからも、仕事で関わることはなかったってことですよね。
福田:全くないんですよ。『KO世紀ビースト三獣士』が、曲を書いた最後の仕事ですね。
タカハシ:あれは声優が決まってから、曲が決まったんですか。
宍戸:いえいえ。歌う人がちょっとやってみる、ということで。
タカハシ:ああ、なるほど、後々の声優さんのお仕事とは別にあったんですね。後々に声優さんとしてたいへん活躍なさるじゃないですか。
宍戸:実は、そのきっかけもこのアルバムにあって。『ご近所物語』って矢沢あいさん原作のアニメのオーデションをしてて、なかなか決まらなかったらしいんです。それで全然知らない人が、東映の女性プロデューサーに、「こんな子がいるよ」って、主題歌の候補としてこのアルバムを出したら、『コンビニ天国』とかの喋ってる部分を聞いて、これはいいぞとその人が思ってくれて。で、なんか呼ばれて行って、やってみたら「7点」ぐらいだったらしくて。
タカハシ:100点満点で?
宍戸:うん。
タカハシ:めちゃくちゃ低いですね(笑)。
宍戸:そのプロデユーサーが「やばい!」と思って、一応監督に指導してあげてって言って指導したら70点ぐらいになって。
タカハシ:一発で63点ぐらい上がった!
宍戸:この伸びしろはすごいってことになって。矢沢先生とかも気に入ってくれて、先生のお母さんも「この子は実果子よ」って。
タカハシ:ええ、すごいですねそれは。それでいきなり、主役で出たってことなんですか。
宍戸:そうそう。ヒロインと歌とエンディング。それまで干されてたんで、シンデレラストーリーで。
タカハシ:すごい!
宍戸:生きててよかった!と思って。
タカハシ:それは、やっぱり明確に干されてたんですか。
宍戸:明確に干されていました。
タカハシ:そういうものなんですね。
福田:それは事務所をやめたから。
宍戸:契約書でちゃんとやめたんですけど。芸能界に復帰はできない。よく生きてたなって思います。
福田:すごいよね。
宍戸:今は一緒になってるんですけど、昔は音楽業界と声優業界ってちょっと離れていたんですね。ちゃんとオーディションがあって。今はバーターになってるけど。
タカハシ:このアルバムの存在がきっかけとは。
宍戸:きっかけですよ。
福田:これね、突然レコーディングしてるんですよ。ほとんど経験値もなくて。それなのに石嶋の仮歌デモっていうのがあるんだけど、それを本当に完コピしてるから。石嶋がフラットしているところはフラットにしているから。
タカハシ:すごいですね!
福田:めっちゃ耳がよかったですね。で、セリフの言い方も完コピだもん。
タカハシ:そういう演じることの天性の才というか。
福田:得意だったんだろうね。
宍戸:そうですね。「秘密よDIET」のちょっとラップっぽいところもすごいですよね。あれ、取り憑かれたみたいに歌っているから。
福田:そうそう。語りも、石嶋が聴いてもどっちかわからないかもしれない。
宍戸:本当にわからないぐらいに似てるんですよ。
タカハシ:当時レコーディングしている時っていうのは、自分が歌うというよりかは、物語の主人公になって演じるような感覚で。
宍戸:そうですね。「歌」って感覚でやってなかったかもしれないですね。お芝居だし、喋ってるみたいな。
福田:ミュージカルっぽいって言ったらミュージカルっぽいかもしれないですね。「ロックの神様」とか。
タカハシ:「ロックの神様」も超好きです。あの角度からロックの神様をこき下ろしたやつってないですよね。
福田:最後のギターソロめっちゃかっこいいじゃない。
タカハシ:あれは結構バンドやってる人の歌詞っていう感じですよね。
福田:そうそう。あれはそうですよね。「ロック似合わねえ」っていうのは。実はこの後「ダンスの神様」っていうのもやったんですよ。
宍戸:ブームに乗ってね。
タカハシ:常にカウンターパンチっぽいですね。
福田:その頃クリスタル・ウォーターズの「ジプシー・ウーマン」って曲が大ヒットしてて。ハウスの。それが91年ぐらいかな。その当時はハウスは嫌いだったんだけど、これのカバーしてほしいって言われたのよ。歌詞は石嶋が書くからって。で、もうひどいっていうか。ハウスってずっと変わらないのが売りじゃない。それを8小節ごとにシーンを変えるみたいな。宍戸さん、クリスタル・ウォーターズと会ったんだよね。
宍戸:ご本人にお会いしました、宝島で。
タカハシ:いつですか?
宍戸:1991年じゃないですかね。
福田:でもその時点では、彼女は聞いてなかったんだよね。
宍戸:どうなんだろう。
福田:「楽しみにしてる」って。多分、そのインタビュー読んだもん。
タカハシ:そういう企画の一環としてやったんですね。
福田:どう思ったんだろうな。あまりにも、俺が全身全霊をかけて、ハウスを否定しているアレンジなんですよ。そこまで嫌うなよっていうぐらいの。
タカハシ:宍戸さんが対談しているのに(笑)。
宍戸:わかってないから。
福田:俺はその頃クラブ系の仕事とかしてなかったから。クラブ的なアレンジの安易さみたいなものがイヤで、その当時クリスタル・ウォーターズ聞いても、これが世界的大ヒットするって意味がわからない!って思ったの。それで、リアレンジって言われたから超破壊的なのをやった。ひどいっていうか、面白いんですけど。
宍戸:MCハマーのオマージュだよね。
福田:あれは俺じゃないんだよね。「ヒア・カムズ・留美ちゃん」でしょ。
宍戸:はい。
福田:あれは何に入ってるんだっけ。「おとこのこ」のカップリングがそれでしたよね。その後、結構ダンスブームきたよね。89年90年がバンドブームで、91年ぐらいから、MCハマーとか。
タカハシ:貴重な話ですねー。
福田:その辺移り変わりだから。また、ねじれがあって戻ってくるじゃないですか。オルタネイティブが出てきて、音楽的にもレア・グルーブが流行ったりして、シンセの方向性もどんどん変わっていく時代だから。すごい時代の中にいて、宍戸さんが今もいるってすごいこと。
『ドレミファソラシドシシドルミ』 撮影:中原義史
タカハシ:いやそうですね。その後も、現在までご自分で色んなことやりながら、音楽活動を続けて。
福田:そうなんですよ。すごいよね。この間、新曲聴いた時超かっこいい。参ったなって思った。
宍戸:ありがとうございます。
そして、"初"共演へ。
タカハシ:直接、連絡を取ったのはいつなんですか。初めて。
福田:いや、今回のイベントだよね。
宍戸:会ったのは初めて。
タカハシ:このイベント、1月23日の初共演のオファーがちゃんと初めての。
宍戸:そうですね。ちゃんとした。
タカハシ:マジですか。
福田:直接お会いする前に、間に入ってる人経由でどうですか?って。
宍戸:どうですかってやって。
福田:初めてメール出した時なんか、超緊張してるのね(笑)。
タカハシ:すごいですね。ってことは本当に26年間は、全くコミュニケーションしたことは無い。
福田:存在してないかのごとくですよ。
宍戸:どっかでもすれ違っても良さそうなのにね。
タカハシ:すごいですね、それは。
福田:俺が22周年のブログ書いた時に、宍戸さんと津田大介さんの番組に、俺と藤岡氏を呼んで、このアルバムの話をする企画があったのよ。
タカハシ:へえ!
福田:でも俺のスケジュールが合わなくて、藤岡氏だけが行ったんですよね。
タカハシ:その時も会うことは叶わず。ついに。
福田:その時に、会ったら話そうと思ってたんだけど。セカンドアルバムっていうのは、1/23はセカンドアルバムの曲もやるんですけど、結構不思議な成り立ちでございまして。『ドレミファソラシドシシドルミ』をやった後に、俺と石嶋でユニットを作るっていう話があったんですよ。曲をバンバン作って、俺と、ドラムにファンキー末吉、ベースに美久月みたいな。多分15曲ぐらい録ったんですよ、スタジオで。で、結構完成に近づけた曲もあったのに、ソニーの編成が変わっちゃって、その企画が流れちゃったの。どうするのかなって思ってたら、実はいつの間にかそれが宍戸さんのセカンドのオケに。
宍戸:私も知らなかった。
タカハシ:全然知らなかったんですか。すごいですね、知らぬ間に作曲をしていた。
福田:そう、「デジタル・ボーイ・フレンド」っていう曲があって、今回もやるんだけど、それはアレンジ途中なのが入ってるの。
タカハシ:じゃあデモみたいな感じ。
福田:デモですよ。
タカハシ:ある意味パンクな話。
福田:すごい名曲だと思っているのが、「ママ悩んでるよ」っていう曲があって、それも歌詞が最終バージョンの前で入っちゃってるんですよ。たしかね、宍戸さんに使うよっていうのが本当にギリで来たんだったと思う。ちょっと待って、って言ってる間に出ちゃった。
タカハシ:間に合わないぐらいギリで。
福田:そういう経緯もあって、だから、もう一回ちゃんとやりたいよねっていうのが俺の中にはあって、特に「ママ悩んでるよ」とかは、最終歌詞バージョンでもやりたいし、「デジタル・ボーイ・フレンド」もアレンジ終わったやつを出したい。
タカハシ:それめっちゃ面白そうですね。完全版アレンジ。その時の曲をもう一回お二人で録音っていうのは。
福田:それはちょっとやりたいですね。
タカハシ:このタイミングで連絡したのは、どういう感じなんですか。
福田:まずね、人づてになんとなく宍戸さんが「やっても良い」みたいなことを言っているというニュアンスを聞いて。
宍戸:私的には自分のアルバムを出して、タワーレコードとかでイベントをやる時に、お客さんを呼ぶのにセットリストを最初に公開するんですね。アニメの曲これやります、「地球の危機」やります、って。そうすると、「地球の危機」を聴きたいって人がたくさん集まったり。だからそういう感じで曲は歌っていたんですよ。
タカハシ:なるほど。
福田:実は何回かタワーレコードにゲストでって言われてたの。これもスケジュールが合わなかったんですよ。こんだけ会えないってことは、会ったら終わりだな、ってぐらいの感じ(笑)。
タカハシ:で、福田さんが『DAIZ FEST』をやるって。一番良いタイミングですね。
福田:ここでやるっきゃないぞっていう。
タカハシ:お二人でやるっていうのはどういう形態でやるんですか。
福田:基本的には打ち込みでオケ出して、俺が合わせて演奏して、それを歌っていただくっていう感じと。
タカハシ:オケは…
福田:もちろん元のデータはないんで。一から作り直しです。
タカハシ:じゃあ、それで録ったらもうアルバムになるじゃないですか!
福田:なりますよ。
タカハシ:ゆくゆくやったほうがいいですよそれ。
福田:それをやりたいんですよ。今日歌ってもらったら、全然声変わらないっていう。
宍戸:私も本物とやってる感じが。
タカハシ:お互い「本物だ…」と(笑)
福田:宍戸留美っていうのが記号化しているから。だから、現実のものじゃないですよ。宍戸留美っていうのは。
タカハシ:概念的な。
福田:本当にいるんだ…っていう。
宍戸:生きている(笑)。よく伝説とか言われるけれど(笑)。
タカハシ:今言うところの「地下アイドル」っていうのは違うと思うんですけど、フリーランスアイドルとしても元祖なわけですよね、今そういう方がいっぱいいる中で、もう一回注目が集まっているっていうのはすごいですよね。
福田:宍戸さんを見ている人はいっぱいいて、一人、全然、俺もその子と会ったことがないんだけど、絵恋ちゃんってアイドルの子がいて、宍戸さんの「君はちっともさえないけど」をカバーしてて。それをyoutubeにあげてて。あ、やっぱりいるんだ、って思って、嬉しくなってフォローしちゃったよ。だからその子来るって言ってました。
タカハシ:そうやって繋がりが出来てくる。
福田:あとは宍戸さんがフリーになった後に、俺はずっと付き合いがあるんですけど岸谷五朗が、応援してたんですよね。宍戸留美ちゃんてすごいよねって。フリーでやって根性あるよねって言ってて。声優としても、ガーッっとなってくのはびっくりしたよね。
タカハシ:俺も世代なんで、おジャ魔女どれみ。
福田:そうでしょ。
タカハシ:僕の周りはそうなんですよ。そういう意味でも、瀬川おんぷちゃんとお会いできて光栄って感じでもあります。でもやっぱり、音楽活動をこういう風に続けて来たから、このタイミングがやって来たってことになったんでしょうね。
宍戸:そうですよね。
福田:俺もさっき言ったんだけど、宍戸さんってすごいじゃないですか。セルフプロデュースでやってらっしゃって、そのセルフ・プロデュースが的確なんだよね。その年齢年齢で、本当にバチっとハマるって言うことをやってて、それがずれてないって言うか。今回の曲も超かっこいいんです。
宍戸:ありがとうございます。
タカハシ:今モード的にはどういう感じなんですか。今のスタンスというか。
宍戸:アニメのキャラクターで歌ったり、それは人気で認知度もあったりするんですけど、そこと私のやってる音楽とのリンクをさせたくて。アニメの曲から入って、アルバム買ってもらって「これもいいじゃん」とか、例えば「声が瀬川おんぷちゃんだ」とか、そういう風に思ってもらって、広げたい、繋げたいっていうか。
タカハシ:ある意味今までの活動が、一つになって広がったらいいなっていう。
宍戸:地方でライブすると中学2年生ぐらいの女の子からOLさんから、60歳前の男性まですごい不思議な空間になってどこに向けて歌えばいいんだろうみたいな(笑)。客層がすごく広くって。
タカハシ:それはいいですね。
宍戸:すごく楽しいです。
撮影:中原義史
タカハシ:では、最後に23日のイベントのお話を。
福田:大頭って音楽レーベルをやっていて。2006年に作って、キリが良いことに11周年なんですよ。良くねえか(笑)。去年が10周年で、映像や音楽とか分かれているのをクロスさせたいなと思って始めたんですけど。それで映画を作ったりとかしてるんですよ。
タカハシ:井口昇監督の。
福田:そうですね。映画の製作もやるし、レーベルの活動もやるし、音楽もやるしっていうようなことをやりたくて、いつの間にか、(タカハシヒョウリが在籍する)科楽特奏隊のシングルもうちのレーベルから出て。漁港という大変に楽しいバンドもやってて。で、まあ、一回ぐらい、えいや!で大きなフェスみたいなことをやったらどうかって、フッと思いついちゃって。それが1月23日のイベントです。そして宍戸さんを呼ぶにはこのタイミングの他には無いと。そして、今年は俺は還暦なわけだ。
タカハシ:おお。ついにキリのいい数字が!
福田:ついに60になるわけだよ。キリがいいものを記念しているわけではないけど、たまたまなんですけど。あと大頭レーベルにはノーメイクスっていうアイドルがいて。アイドルに関しても、俺、宍戸さんの曲を書いているけど、アイドルに曲を書くことってもう二度とないって思ってたんです。でも掟ポルシェさんと一回飲んだ時に、掟さんが宍戸さんの大ファンじゃないですか。すごいファンなんですよ追っかけやってたんですよ、当時。
宍戸:ロマンポルシェの二人が出会ったのは私が司会をやってた番組を見に来てて、毎週会うようになって。そこでロマンポルシェが生まれたんですよ。
タカハシ:すごいな(笑)
福田:それぐらいのファンなんですよ。「福田さん、またアイドルの曲やってくださいよ」って言われて、俺も「もうアイドルの曲は書けない」と言いながら、インディースだけどノーメイクスっていうアイドルをやることになり、シングル5枚出して、アルバム出してってるから、ここいらで彼女たちにも本物のアイドルに会わせてやろうと。イベントで「地球の危機」のカバーとかやってるしね。
タカハシ:コラボもあるんですよね。
福田:リハをやって萌え死んでました彼女たち。宍戸さんの声を聞いて。まあ、自分の中では実験なんですよ。だから、「VOL.0」としてまして、これで惨憺たる入りだったら、もっとすごい縮小して、「VOL.0.1」とかでやってみようと。とりあえず、えいや!ってやって赤字覚悟でやるんですが、赤字覚悟だとやばいのでぜひ来て欲しい(笑)。色んな人が出るし、とにかく宍戸さん。
宍戸:むしろセットリスト公開しちゃった方がいいぐらいの。
タカハシ:それはいいですね。
福田:しちゃおうかなって思ってるの。どうですかね?
宍戸:した方がいいと思います!
福田:セットリスト初出しでいうと。「デジタル・ボーイ・フレンド」というさっきのアレンジの途中だった曲の。
タカハシ:ある意味完成版で。世界初公開!
福田:完成版でやる。それから「ピンクのラフレシア」というすごい可愛い曲、一番可愛い曲をやって。シングル曲は「恋はマケテラレネーション」、「全人類が愛しい夜」は「地球の危機」のカップリングのバラード、「panic in my room」そして「地球の危機」!どうですか!
タカハシ:かなりハードですね。
宍戸:ヘトヘトになりそう。
タカハシ:パンクバンドのライブみたいなことになりそうです。
福田:「地球の危機」は普通のオケでもやりますが、科楽特奏隊の演奏で生でもやろうと。こういうことをやりますので、ぜひ聴きに来てください。