野水伊織、声優として、女優として- パーソナルインタビュー(前編)

2015.9.9
インタビュー
アニメ/ゲーム

野水伊織さん

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声優、野水伊織、別の名前として歌手「野水いおり」としての顔を持つ彼女だが、意外にその声優としてのパーソナルは知られていない部分が多い、器用に役をこなす、イベントでもトークが立つと評判の野水伊織のあまり見せない
ここまでの道程、本当の自分、本当の思いとはー


 

――今日は声優としての野水伊織さんにフューチャーして聞ければと思いまして。

「はい、よろしくおねがいします」

――野水伊織は正直アイドル声優か本格派声優なのかというところからいってみようかと。しっかりお仕事してるし、知名度もあるし、歌も歌っているけど、こういう立ち位置でやりたいというのを実はそんなにアピールしていない。声優としてこれからどういうビジョンをもってやっていきたいのか、パーソナリティを引き出していけたらなと思っています。

「ありがとうございます」

――正直アイドル声優という見方をされることもあると思うけど、それに対して自分はどう思っていたり、受け取っているのか本音を聞いてみたくて。

「アイドル声優とか言われるのはもちろん嫌じゃないしありがたいとすごく思うんです。最初はニンフ(編集部注:野水さんのデビュー作『そらのおとしもの』で野水さんが演じたキャラ)のイメージもあったのでイベントとかではツインテールにしていこうっていう、決まり事というか組立があって、そういうところから、アイドル声優って言っていただいたりとか、かわいいねって言っていただくことが多いんですが…でもアイドルっていう言葉が声優の上について見られてしまうっていうのは、ちょっと残念かなと思うところがあって…だけどアイドル声優が嫌とかそういうわけではないんです、ただしっかりとした立ち位置は築きたいとずっと思ってますし、私自身中身がアイドルっぽいと思ったことがないので(笑)自分で自分をアイドル声優だと思った事はないですね」

――その辺のユーザーが感じている野水伊織像といわゆる自分の中の野水伊織像に隔たりを感じた事とかありました?

「そんなに無いかなぁ…」

――最近本当に声優になりたい!って憧れてる人が増えてて、業界的にも伊織ちゃんぐらいのキャリア5年~10年の間ぐらいっていう声優さんって結構多くて。それを見てああいうふうになりたいって子たちはいると思うんだけど、その子たちは歌を歌ったりしてる声優さんにも憧れてるのは絶対あって、そういう子たちに対してどう思うのかっていうのと、伊織ちゃんは諸先輩たちにどういう憧れをもってこの業界にはいったのかっていうのも聞いてみたかったんですよ。

「私はキッカケになったのはやっぱり自分の子供の頃見ていたアニメで、ああ、こういう世界があるんだって思ったのが一つなんですけど、実際自分がこの世界に入ってみて、憧れとかそういうのだけじゃやれないですし、自分が見ていたアニメに出ていたような大先輩に現場で助けて頂くこともあったり…好きとか憧れで入った世界ではあっても先輩方と一緒に並んでお仕事するためには自分が何をしなくちゃいけないのかっていうのをまず第一に考えるようになりましたね。色んなきっかけでこの業界に憧れ持って、それが自分の原動力になるのは凄くいいと思うんですけど、一つ信念をもって欲しいかなっていうのはありますね」

――先輩方に何かアドバイス貰ったこととか?

「『そらのおとしもの』の時はまだ声優の勉強を始めたばっかりだったんです。デビューが決まってマイク前の勉強もほぼしたことがない状況で現場にいくことになって、「マイクどこに入ったらいいんだろう」ってなっているときに教えていただいたりして。その中でも保志さんには本当にお世話になっていて、大先輩ではあるんですけど態度が全然変わらない、いつでも勉強の方なんです。全力投球の方っていうイメージがあって、『そらのおとしもの』では保志さんは主人公だったのでセリフ多かったんですよ。でも「どう思う?俺こういう感じでやったんだけど」ってど新人の私たちにも声をかけてくださるっていうのに凄く感銘をうけましたね」

野水伊織さん

――2009年デビューですが、その前からずっと芸能活動はされていて、その流れを整理していきたいなと、一番最初っていうのは地元?

「そうです、北海道ですね、舞台女優になりたいと思ってて、アクターズスタジオで勉強することになったんですがあまり演劇のカリキュラムというものがなくて(笑)私たちが学生のころって安室奈美恵さんとか倖田來未さんが流行る直前ぐらいでダンサーや歌手でデビューしたい子とかが多かったですね。それで野水はリズム感がなさすぎるからダンスをしっかりやれ、といわれたり(笑)ダンスのカリキュラムも取って、土日にもがっつりレッスンがあって。平日はグループ分けのレッスンがあるぐらいだったんですけど、そのうち歌だけじゃなく、芝居をやりたいっていう仲間が何人かできたので社長に演劇のクラスを作って下さいって直談判して、俳優プロジェクトを作って貰って。地元のCMとか営業さんがとってきたお仕事やったり、舞台にもださせてもらったりしました」

――自分でカリキュラムを作れって野水的なアグレッシブさはその頃から。

「生意気でしたねー(笑)社長とよくケンカしてました。でもラジオドラマの脚本を自分で書いて出演したりとかもしてましたね」

――もうクリエイター感がそのころからあったと。

「そうですね、好きだったしやらせてもらえるきっかけがあったらやります!みたいな」

――で、東京に来る。

「大手芸能事務所に決まりまして、女優になりたくて行ったんですけど、文化人とか年齢の高い俳優さんが多い事務所だったんです。私童顔なのでどんなオーディションに出しても箸にも棒にも引っかからないっていわれて(笑)だから自分で好きな仕事とってきていいよって(笑)放任主義で自由にやらせてもらってる中で、お客さんとチャットをしながら一緒にゲームをして、そこで人気がでたらCDデビューやテレビ出演もあるっていうオーディション型番組に参加させて貰いまして。その会社さんが小さなタレント事務所を持つと言うのでそちらに移籍しました。あとは秋葉原のメイドカフェでバイトをしていたのでどちらかというとアキバ系の活動に移っていきましたね」

――その頃って今以上に本当に秋葉原がメイド全盛期というか。

「秋葉原感がとてもある時代ですね~」

――ものすごい有名メイドだったわけじゃないですか。

「恥ずかしい、ただのバイトだったのに申し訳ない…!(笑)」

――バイトだったんですね!

「シフト変わってもらえやすそうっていう魂胆もありまして…(笑)急にオーディション入ってもコスプレイヤーさんが多いって聞いてたので融通きくだろうなって、そういう気持ちで入りました。でも面接を受けたら普段受けていたオーディションより多い100人単位でメイドさんになりたい子が来てて!でもその中の二人に選んでもらって…」

――でもそのメイド時代があるから「電車男」の出演があったのかなという気が僕はしてて。

「それはあると思いますね」

――野水伊織がメディアに出てきた、「この子だれだろう?」って検索されるようになったのが「電車男」だったと思うんですけど、あの作品はどうでした?

「今考えるとちょっと声優的な作り方でしたね。先に自分たちの声を録音してそれに動きをつけるというかんじで収録をしてて、ひとりひとりのお部屋のセットをスタジオに箱型みたいに組んでもらって、「せーの!」って合わせて声を流すんです。自分の所は書き込みしながらリアクション取るなりやってくださいって言われまして、一台ずつカメラがある状況で。テレビドラマでレギュラーやらせてもらったのは初めてでしたし、またそれって舞台のお芝居とは違ってて凄く楽しかったですね。」

――っていう時代をふまえて、次に小説を書いてたっていう時代も知っているんですが…

あぁ~!!(笑)」

――黒歴史も知っていますから(笑)でもどういうきっかけで声優に?何か自分の中で転換期が?

「声がかわいくないと無理だっていう勝手なイメージがあったんです、でも秋葉原で活動して、ドラマに出させてもらう中で色々考えて。ずっとそこでお仕事していくことは可能だったのかもしれませんけど、もっときっと自分がやりたいことがあるって思って…もう一回考え直してみようと思ったらちゃんと芝居がしたい気持ちが残ったんです、じゃあドラマなのかなんなのかって考えたら私の中でアニメへの憧れが残ったんです。好きなキャラクターとかセリフってずっと残ってたりするもんなんですよね。あの作品のこの場面いいよねって言って貰えるものに携われたら素敵なことだろうなって。それで今の事務所のオーディションに応募しました」

――オーディション応募したんですね?

「今の事務所はもともと外画系(吹き替えなど)の事務所だったんです。そこがKADOKAWAさんとAMGアミューズメントメディア総合学院さんと協力して、アニメでも活動できる若い声優さんを募集し始めた第1期生オーディションを受けたんです」

野水伊織さん

――デビューして6年、もう中堅なんですかね?

「だと思っています。新人という枠がとれたぐらいかなと。」

――声優界の新人枠はどれぐらいなんだろうなと思って。

「う~ん(笑)2年ぐらい前からもう新人じゃないみたいに言われるからそうなのかなって思ってました。気持ちはいつまでも新人です。新人でいたいです。(笑)」

――でもイベントに呼ばれて特別講師やったりもしてますもんね。

「声優を目指す若者に「現場ではこういうことをやってますよ」っていうことを伝えるだけの簡単なお仕事…ではないんですが(笑)私でいいのかなと思いながらやらせていただいたり、はい」

――これだけは目指す子に伝えたいみたいな事あったりします?

「『最後に一言』って時に必ず言わせて頂いている事があって、「色んなものを見て感じてほしい」っていうのは伝えてますね。よく嫌なこととか悲しいこととかあっても、それは自分のためになるとか糧になるとか言うじゃないですか、本当に観た映画でも遊んだゲームでも、気づけば自分の蓄積されるものになったりとか、無意識であっても何か糧になると思うんです。その辺歩いてて感じた事とかももちろんそうだし、なんか綺麗事のように聞こえるけど絶対に色んな体験をしている人の方が引き出し多いと思うんですよ。例えば人殺した経験がないからどうやって殺すんだろうとか、そういう絶対的に経験できないものとかがあっても、もしかしたら自分で感じたこの感覚に近いのかなっていう引き出しがあったほうがより芝居への理解が深まると思うんです、芝居だけじゃなくてステージに立つときだったり歌を歌う時だったりとかも。だからそういう細かいものでも無駄にしないでほしいなっていうのは伝えたいですね」

――その野水さんが最近影響を受けた映画とかあります?

「最近影響をうけたのはサイモン・ペッグさんですね。『ショーン・オブ・ザ・デッド』っていう…私ホラー大好きなんですが」

――よく存じております(笑)

「(笑)最近のは鮮明になりすぎていて、昔のぼやっとしていた方が怖かったりするんです。じゃあホラーコメディってどうなんだろうって思ってみてみたら、意外とゾンビはしっかり作られているし、話もブラックジョークが効いてるし、笑えるし、ホラーとしても楽しくて(笑)私海外の俳優さんの名前、カタカナが苦手で名前覚えるのも得意じゃなくて、むこうの方って結構役によって風貌かえてくるじゃないですか。なので顔もなかなか覚えられないんですけど、その主演のサイモン・ペッグさんをみて、あ、おもしろい役者さんだなって思ったんです」

――印象に残ったんですね。

「はい、『ショーン・オブ・ザ・デッド』が面白かったのでその監督とサイモン・ペッグさんのタッグ作品をいろいろみていたら、この人は本当に役によって芝居ががらっと変わるというか、髪も肉体的にも変えて、全然芝居が違うのが英語がわからない私でもわかるというか、すごい魅力のある役者さんだなと」

――そういうの自分ではどうですか?こう、声質だったりお芝居の質だったりっていうカラーがあると思うけど、これは野水伊織だったのかっていうのが意外にある気がして、言われることないですかね?

「ありました!地元の友達が『いなりこんこん恋いろは』を見ていて、「出てたよ」って言ったら「は?え?どれ?」って(笑)墨染さん役だって伝えたら「はーーーーー!?」って(笑)信じないから「伏見さん…!」ってセリフやったら「本物だあ!」って驚いてて」

――確かに墨染さんは良かったですよね…!(深く頷きながら)

「なんでキャストクレジット見てないんだよ!って思いました(笑)」

――でも役者冥利に付きますね。

「嬉しかったです。『いなりこんこん恋いろは』は実際に伏見弁を指導していただいて、自分でもひとつずつ勉強しながら墨染さんらしさを意識して演じていたので。デビューこそニンフみたいな小柄のツンデレといわれるようなキャラクターだったんですけど、『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』のクロウサギでお姉さんっぽいふんわりした感じのキャラクターをやらせていただいて、そして『艦隊これくしょん』でも翔鶴や阿武隈みたいなお姉さんだったり小さい子だったりと。そんなに私も声幅が広いわけではないので声を変えていくだけじゃ絶対に芝居って追いつかないと思うんですけど、同じような声質でも絶対そのキャラの性格って違うからしゃべり方とか、表現の仕方ってかわると思うんですよ。そこは意識してるつもりです」

野水伊織さん

――やってみたい役とかは?

男の子ですね!

――あんまり印象ないかも。

「私意外と地声が低いのですが、イメージないのかあんまりやらせて貰ったことないんですよね」

――男性とか、少年的なものに憧れあったりするんですかね。

「憧れもあると思うんですけど、んー…私がやってきたゲーム中の影響の一つなのかもしれないんですけど、『俺の屍をこえていけ』っていうゲームが好きで、それに黄川人(きつと)という少年が出て来るんですけど、声を高山みなみさんが演じてらっしゃるんです。みなみさんは憧れの声優さんの一人なんですが、そのちょっと皮肉っぽいというかブラックな感じの言い回しをする少年のキャラクターというのが凄い素敵で!高山さんの声が本当にピッタリで!いつか自分もああいう役をやってみたいって憧れがあるんですよ、たぶん追いかけているところがあると思います」


 

地元北海道でのデビュー前から、憧れまで大いに語ってくれた野水さん。
後編では彼女のマネージャーさんにも話を聞きつつ、現在の、そしてこれからの野水伊織について聞いた話をお伝えしたい。



インタビュー=加東岳史

イベント情報
野水いおり 3rd Live 「コギト・エルゴ・スム」

 日時:2015/10/18(日)
 会場:新宿BLAZE