ビッケブランカ 幸福の輪が大きく広がっていく未来を想像させたツアーファイナル
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ビッケブランカ 2017.1.20(FRI)Shibuya WWW 撮影=星野健太
Slave of Love TOUR 2017
2017.1.20(FRI)Shibuya WWW
昨年(2016年)10月にミニアルバム『Slave of Love』をリリースし、メジャーデビューを果たしたピアノマン・ビッケブランカがワンマンツアーを開催した。同作表題曲「Slave of Love」が“Google Play Music 音楽のある生活・ウェルカム篇”のCMソングとして話題になったことも記憶に新しいが(実際私も「あれ、誰の曲か知ってる?」と何度か訊かれました)、全国5都市をまわる今回のツアーはなんと全箇所ソールドアウト。4公演目の会場・Shibuya WWWに到着すると、仕事終わりのサラリーマンから若い女性、さらには母親に連れられた小学生ぐらいの子どもまで、幅広い年齢層の人々がフロアを埋め尽くしていた。
ビッケブランカ 2017.1.20(FRI)Shibuya WWW 撮影=星野健太
檻や手錠などの装飾がなされたステージ上にイルミネーションが灯ったのは、定刻を少し過ぎた頃。ほどなくして、囚人服のようなボーダー柄の衣装をまとったサポートバンドの面々、続けてビッケブランカが登場した。フロアに背を向けて彼が両腕を下ろした瞬間、バンドがジャーンと一発鳴らす。「こんばんは、東京!」とニコニコ手を振ってから1曲目「ココラムウ」がスタートした。この曲は“少年時代、鼻がコアラに似ているとバカにされた”というコンプレックス由来のエピソードをダンスミュージックに昇華した、ビッケブランカなりの自己紹介ソングともいえるもの。黒いビートに乗っかってソウルフルな歌声が炸裂すると、フロアからはすぐさま手拍子が起こる。
この日のサポートメンバーは、生本直毅(G)、大澤DD拓海(B)、脇山広介(Dr)、にしのえみ(Key/Cho)という4名。――というふうに書くと、あれ? サポートにキーボード奏者がいるの? と疑問に思う人もいるかもしれないが、その理由はすぐに明らかに。3曲目「追うBOY」ではビッケブランカがハンドマイクを手にステージ前方へ繰り出したのだ。この1曲のなかだけでも、キメに合わせて指揮者のような動きをしたり、コール&レスポンスをしてみたり、曲の途中でバンドの演奏を一時停止させたり……と彼の振る舞いはかなり自由。音楽への愛を全身から溢れさせるその姿を見ているだけでもうこっちまで楽しくなってきてしまうのだが、こういう魅せ方ができるのも今回の編成ならではの醍醐味だ。
ビッケブランカ 2017.1.20(FRI)Shibuya WWW 撮影=星野健太
「去年よりも(会場が)大きくなってたくさんの人が観に来てくれてて……本当にありがとうございます! まだまだ落ちるタイミングがないんですよね。ついてこれますか!?」と挨拶をしたあとは、フレディ・マーキュリーのように脚のないマイクスタンドを持ち出してシャウトをかました「step in control」、ミュージカル風の曲調と恋模様を描く歌詞の組み合わせが面白い「Bad Boy Love」へと続いていく。
表情豊かな演奏が持ち味のビッケブランカだが、喋りの方もなかなか達者。『Slave of Love』制作時にマンションの隣人(元ミュージシャン)との間に起きたトラブルの暴露、一人ひとりをいじりながらのサポートメンバー紹介、など飾らないキャラクターがにじみ出たMCで笑いを起こすと、フロアとの距離を縮めるように、「昔からすごく大切に歌ってきた曲」だという「秋の香り」、全編弾き語りの「Your Days」、オーディエンスのシンガロングがこの日限りに彩りを添えた「Echo」――というバラード3曲をしっとりと届けていく。そうしてオーディエンスの心をガッツリと掴んだところで「ここからさらにガーンと行くけど準備はいいですか? バーンといくけど、そんなんじゃついてこれないよ? もっと、ガーッと!」と興奮気味に後半戦へと突入だ。
ビッケブランカ 2017.1.20(FRI)Shibuya WWW 撮影=星野健太
ステージ上のビッケブランカはとにかく自由である、という話は先ほども書いたが、この後半戦ではその奔放さに拍車がかかる。特に、ギターロックサウンドのなかで“バンドのフロントマン”的な存在感を光らせたタイトル未定の新曲と、サンプリングパッド(音源の一部や生のサウンドを録音し、叩いたタイミングでその音を出力させることができる電子楽器)を用いて無機質なビートを強調させた「アシカダンス」は今思えば真逆のアプローチではあるが、その2曲が連続で演奏された流れには全く違和感がなかった。今回のワンマンを観て改めて気づいたのは、ビッケブランカというひとりのシンガーソングライターの中には様々なチャンネルが存在すること。そしてそのチャンネルが増えるキッカケは、例えば「ファルセットで歌うのもアリなんだ!」「ギター以外の楽器でもいいんだ!」「なんなら弾かなくてもいいんだ!」というような彼の中での気づきなんじゃないかと思うし、それが可能なのはこれまでの活動を通して音楽的/精神的ルーツ、つまり“自分がどんな人間なのか”を確かめてきたからこそだ。
ビッケブランカ 2017.1.20(FRI)Shibuya WWW 撮影=星野健太
「ビッケブランカの音楽に救われたって言われて心から嬉しいけど、本来音楽は自分で楽しむために生まれた文化であって、人を救うためのものではないと思っています。僕はみなさんを救いたいというふうには思っていません。それ(音楽)をキッカケに楽しい日々を送ったのはあなたで、僕は感謝される憶えはありません。だから自分を褒めてあげてほしい。僕はこれからも、みなさんの背中をちょっとだけ押せるような曲を永遠に作り続けていきたいなと思います」
アンコールで彼はそう話していたが、そんなふうに相手のことを尊重できるのは自分自身が音楽を楽しむ気持ち、もっと言うと内側の欲望や願いを大切に育んできたからであろう。いわば“自己の解放”に近い形で彼が生み出す音楽は、その自由さで以て「自分を解放させたい」「もっと素直になりたい」と思っている人たちの気持ちを呼び起こすことができる。本編クライマックスで演奏された「Slave of Love」にて、「no!」と叫びながらオーディエンスが拳を突き上げる光景は単純な一体感とはまた違う、一人ひとりのエネルギーの結晶そのもので。「幸せになってくださーい!」と叫びながらビッケブランカがステージを去っていくなか、その幸福の輪がもっと大きく広がっていく未来を想像せずにはいられなかった。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=星野健太
ビッケブランカ 2017.1.20(FRI)Shibuya WWW 撮影=星野健太
2017.1.20(FRI)Shibuya WWW
01. ココラムウ
02. Alright!
03. 追うBOY
04. step in control
05. Bad Boy Love
06. SPEECH
07. Golden
08. 秋の香り
09. Your Days
10. Echo
11. Natural Woman
12. タイトル未定
13. アシカダンス
14. Slave of Love
15. ファビュラス
アンコール
16. Wake up sweetheart