『ノーアラームの眠り』かもめんたる×上田誠に独占取材!

2017.1.26
インタビュー
舞台

構成協力の上田誠(ヨーロッパ企画)、かもめんたる(岩崎う大、槙尾ユウスケ)  [撮影]吉永美和子

 

その日見る夢が楽しみになるライブにするのが、今回の裏テーマです(岩崎)

前回の単独ライブ『なのに、ハードボイルド』では、冗談で人を狂わせることを楽しむ中年男や、商談を有利にするためにわざと蛇にかまれるビジネスマンなど、まさに「笑いと狂気は紙一重」なオリジナルの笑いを見せつけた「かもめんたる」。脚本・演出を担当する岩崎う大と、多彩なキャラを演じ分ける槙尾ユウスケが生み出す笑いの特徴や目指す世界については、昨年のインタビューでも詳しく紹介させていただいたが、次回の単独ライブ『ノーアラームの眠り』では、ほんの少し変化のきざしが現れているとか…? かもめんたるの2人と、今回も構成協力で参加する「ヨーロッパ企画」の上田誠に話を聞いた。

参照記事→『なのに、ハードボイルド』かもめんたる上田誠に話を聞く

■タイトルから想像されるよりも、壮大な話になりつつあります(上田)

──あれ? 槙尾さんがいらっしゃいませんね。

岩崎  前の仕事が押しちゃってるんですよ。もう少しで到着できそうなんですけど。

──じゃあ先に、岩崎さんと上田さんから話をうかがいましょうか。今回のライブ、まずタイトルが何だか幸せそうで、共感できる感じですね。

岩崎  ライブのタイトルは毎回、その季節に合った感じのものにしてるんですけど、冬はやっぱり布団から出るのが難しい季節だから、ノーアラームの眠りができたら最高だなあ…っていうので付けました。なので全体を貫く話は、夢とか眠りをテーマにしています。
上田  構成としてはいつも通りというか、全体を貫く話と、それとは独立した6本の短編を見せるって感じですね。
岩崎 コントの部分は、台本としては全部上がっています。全体のテーマに沿った話がまだ…ラストはできてるんですけど、オープニングをもう少し詰めている段階で。
上田  短編はすでに年明けに、う大さんからビシっと6本完成形で送られてきたんですけど、それがもう揺るぎなく面白い。それ自体はライブのメインディッシュだと思うけど、全体を貫くコーティングの部分といいますか、世界観の部分をまだやり取りしている所です。でもタイトルから想像されるよりも、壮大な話になりつつありますよ。僕も「このタイトルから、こんなSF的な世界観が出てくるなんて!」って驚いてます(笑)。
岩崎  SF的な世界の中で、眠りが異なる種族の2人が繰り広げる、個人的なお話ですね。今回も僕のやりたいことを色濃くやってるというか、あまり他では観たことのないようなお話に挑戦しています。

──観たことがない話というのは、具体的には?

岩崎  たとえば壮大な世界観を設定したら、話も壮大なモノになるのかなと思いきや、その中ですごく個人的な話をするというのが、僕は割と好きなので。どんなに科学テクノロジーが進化しても、人が2人以上いたらする会話や遊びは、原始時代の洞窟の中とそんなに変わらないんじゃないかな? っていう。設定はぶっ飛んでいるのに、その中で行われる人間の営みはリアルに近いということを面白がるというか、笑いにしたいと思うんです。

岩崎いわく「冬眠をイメージした」という『ノーアラームの眠り』フライヤー。

──その「壮大な世界観の中で人間のみみっちい営みの普遍性を見せる」っていうのは、ヨーロッパ企画さんの世界にも通じるものがありますよね。

岩崎  ああ、そうかもしれません。僕はだからそういった所が、ヨーロッパ企画さんを観て楽しいと思うので。
上田  舞台上でやることって結局ね、人間同士のサイズ感以上のことってなかなかできないんで。だからバックボーンを突拍子もないことや壮大なものにした上で、舞台上では割とリアリティのあるやり取りをするっていうのは、僕も好きなやり方です。でもかもめんたるさんは僕らよりも、やり取りの解像度みたいなものは断然ニッチな感じがします。
岩崎  (登場人物が)2人だけだから、確かにより細かくはなるのかなあ。ケンカでも周りに人がいない分、お互いリミッターがない感じでとことんまで行くとか(笑)。でもそれは誰しもが、きっと経験があることだと思います。
上田  やっぱり2人だと極端になるというか、濃くなりやすいんでしょうね。

──全体の話がまだ固まらないのは、何かやっかいなポイントがあるんですか?

上田  夢とか眠りとかそういう話は、なかなか輪郭がつかみにくいというのが。
岩崎  やっぱり人それぞれ感覚が違うモノだから。だから今回はより、上田さんと2人で話をしながら考えることに大きな意味があります。
上田  最初う大さんは「眠りの気持ちよさをお客さんに伝えて、帰って眠るのが楽しみになるようなライブに」って言ってたんです。でも一週間ぐらい経ってから…。
岩崎  また全体の話を詰めていたら、上田さんに「テーマが眠りじゃなくて夢に変わってますよ」と言われまして(笑)。そう言われると僕は“夢”と“眠り”をそんなに区別していなかったというのがあって、知らず知らずのうちに変わっていってたんですね。今は「ライブを楽しんで大いに笑ってもらった後に、その日見る夢がどんな夢になるか楽しみになる」というのが今回の目標というか、裏テーマになっています。

かもめんたる第17回単独ライブ『なのに、ハードボイルド』より。 [画像提供]HEP HALL(上下とも)

■夫婦のコントは、人間って愛すべき生き物だよねと言えるようなもの(岩崎)

(ここで槙尾が取材現場に到着)

──早速ですけど新作コントの稽古をして、何か今回ならではの傾向みたいなものを感じたりしましたか?

槙尾  まだ読み合わせの段階なんですけど、今までやってこなかった新しい部分に挑戦してる所はあるかなあと思いました。
岩崎  『なのに、ハードボイルド』は全体の雰囲気が何となくダークだったんですけど、あの時は前年に「キングオブコント」の準決勝で落ちたとかいろいろあって「本当に自分が面白いと思うことをやろう」という気持ちが強かったんです。それまでは「伝わらなさそうだから止めよう」と思ってたことを「ちょっと頑張って何とか伝わるようにしてみよう」とか、結構いろいろやってみて、それが意外といい感じでできたんですね。だから今回もまた「今自分が一番面白いと思うことを、どこまでちゃんと形にして伝わるようにできるか?」というのが、自分の中での挑戦です。

──それが槙尾さんから見たら、今までやったことがないようなものがそろったと。

槙尾  そうですね。前回に比べたら、すごくポップに寄ってるとは思います。
岩崎  たとえば『監督』ってコントがあるんですけど、それは4・5年前にはすでにシチュエーションの構想はできてたんですよ。でもその時は、実際にやったら寒い感じで終わっちゃいそうだなあという気がしたんです。後になって「この空気感で進めればいいんじゃないか?」という展開が見つかったけど、まだ何かが…演技力かな? 足りないなあと思って。でもそろそろやっても伝わるようになるんじゃないかという気がし始めたので、今回やってみる気になりました。
上田  お2人にしては異色な感じですよね。う大さんから送られてきたコントのセットリストを見てみたら、タイトルの横に「岩崎ボケ」とか「槇尾ボケ」とかコメントが書き添えてあったんですけど、『監督』は「両者普通」って書かれていて(笑)、不思議なコントになってます。

──お2人の演技力が上がったことで、ようやく日の目を見るコントなわけですね。

岩崎  それもあるし、自然と「他のこともやりたい」と考えている中で、より演技を上達させたいと思ったというのが強いかもしれないです。
槙尾  それで言うと、夫婦のコントが1本あるんですけど、表現が難しそうなんですよね。言葉よりも、言い方とか微妙なニュアンスが重要になりそうな気がするんで。でも「あー、こういう奥さんいそうだなあ」みたいなのをいい感じで出せて、それが上手く伝わればすごく面白がってもらえると思います。
岩崎  その夫婦に関しては、実はモデルになってるカップルを槙尾と一緒に目撃したんですよ、電車の中で。「それはダメだよ」って言いたくなるような、日陰で育った愛の形みたいな関係だけど、でもそれが面白いというか、人間ってやっぱり愛すべき生き物だよねって言えるような。ただあまり、TVドラマとかでフューチャーされるような話でもないということもあって「あの夫婦をやりたいなあ」と思いました。
上田  僕はねえ『山菜』ってコントがもう、サザンオールスターズで言うと『TSUNAMI』みたいなものだと思ってるんです(笑)。それぐらい、これぞかもめんたる! って感じの。
岩崎  かもめんたる節が(笑)。
上田  節がもう、炸裂してる。シングルレコードのようなコントですね。前回は全体的にダークなかもめんたる節って感じだったけど、今回はこれを中心において、いろんな方向に行ってるって感じです。『山菜』はもう、ぜひ観ていただきたいですね。

[撮影]吉永美和子

■2人の肩の力が抜けていることで、また変化が起こるかもしれません(槙尾)

──前回の取材から、笑いの考え方やコンビの方向性とかで変化した所はありますか?

槙尾  多分あの取材の時は、さっき言ってた「キングオブコント」の件もあって、よりディープな方に行くぞ! という感じだったと思うんです。でも去年の「キングオブコント」では決勝まで、しかも『ハードボイルド』で上演したネタ2本で進出できたから、またそこから浮き上がるというか…。

──さっき言ってた「ポップ寄り」に?

槙尾  また向かっている感じはしますね。
岩崎  去年はブランディングというか「かもめんたる気持ち悪い」っていうのを定着させようっていうようなことがあったんですよ。でもそれ自体に僕が…言葉が悪いけど飽きてきたっていうのが(笑)。自分がそういう笑いが好きだから、自然と「気持ち悪い」っていう枠の中には居るけど、その濃度みたいなのはいろいろ蛇行してるかもしれない。そういう意味で言ったら、今はポップな感じというか、エンターテインメントの要素が前よりも強いかもしれないですね。やっぱり「キングオブコント」でウケたことで、もう少し明るい方向にベクトルが向くようになったというか。
上田  う大さんが漫画を描いたりとか、槙尾さんがソロでいろいろやってたりとか、単独ライブ以外に新しくやっていることとの関係性はあるんですか?
岩崎 前までは単独ライブが自分たち…特に僕の世界観を出す唯一無二の場、という意気込みがすごく強かったんです。でも漫画という、表現をする場が一個増えたことで…。

──気持ちが楽になった、みたいな?

岩崎  そうです。今までコントを書く前は「これ1つで俺だと思われたら怖いから、絶対面白くする」とか「無駄なことをしたくない」という力みがあったんですよ。でも「この1本が生死を分けるわけじゃないし」とか「途中でポシャって、無駄になっても別にいいや」と思って、第一歩の歩み出しを軽くするようにしたら、意外と道が開けたんです。実際今回のネタに関しては、割と悩まずに書くことができたんで。
槙尾  僕は僕で、以前から女装ライブとかインプロビゼーション(即興芝居)の企画はやってたんですけど、もっと自由にやってもよさそうな空気がかもめんたる内に出てきてる感じがして。そうやって肩の力が抜けることで、また変化が起こるかもしれないですね。単独ライブはもちろん重要ですけど、他のこともやりながら単独もやるっていう、そのすごくいい距離感に今はなってるのかもしれないです。
岩崎  アスリートでも、力んだからっていい結果が出るとは限らないじゃないですか? だからネタを書くことに関して言うと、気分が軽くなった分すごく調子がいいです。こんなこと言うと感じ悪いかもしれないけど、無限にできるなっていう気が今はしています(笑)。
槙尾  実際今回のネタを読んでみても、今までで一番強いという感覚があったんですよ…去年もそう思ったんですけど(笑)。でも前回は、かもめんたるワールドがより濃く出て、煮詰まってて面白いという強さだったんですけど、今回はその濃さがもっと幅広い人に伝わりそうな感じで面白いという感覚ですね。今までで一番楽しみで、また最高傑作になりそうな雰囲気を感じています。

[撮影]吉永美和子

取材・文:吉永美和子

公演情報
かもめんたる第18回単独ライブ『ノーアラームの眠り』
 
《東京公演》
■日時:2月3日(金)~5日(日) 14:00~/18:00~ ※3日=19:30~
■会場:新宿シアターモリエール
■料金:前売3,300円 当日3,800円
※4&5日昼公演は終演後にアフタートークあり。

 
《広島公演》
■日時:2月11日(土・祝) 18:30~
■会場:よしもと紙屋町劇場
■料金:前売2,500円 当日3,000円
 
《大阪公演》
■日時:2月12日(日) 18:30~
■会場:ABCホール
■料金:前売3,300円 当日3,800円
※終演後にアフタートークあり。ゲスト:上田誠・石田剛太・土佐和成(以上、ヨーロッパ企画)
 
《名古屋公演》
■日時:2月13日(月) 19:00~
■会場:東建ホール
■料金:前売2,800円 当日3,300円
 
■作・演出:岩崎う大
■構成協力:上田誠(ヨーロッパ企画)
■出演:かもめんたる(岩崎う大、槙尾ユウスケ)
■公式サイト:http://kamomental.com/