クラシックから現代音楽まで~サクソフォン奏者・大石将紀が変幻自在の演奏を披露
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大石将紀(サクソフォン)
大石将紀「カフェライブはまるで別世界」 “サンデー・ブランチ・クラシック” 2017.1.22ライブレポート
日曜日の午後に、渋谷・道玄坂のeplus LIVING ROOM CAFE&DININGで開催される『サンデー・ブランチ・クラシック』。1月22日には、クラシックのみならず現代音楽の分野で精力的に活動しているサックス奏者・大石将紀が『サンデー・ブランチ・クラシック』に初登場してくれた。ピアノ伴奏は、原田恭子が担当する。
13:00の開演時刻になるとステージに大石が登壇し、早速演奏に入った。1曲目は、ミヨー作曲『スカラムーシュ』より「ブラジレイラ」。冒頭から、踊るような快活なメロディーが奏でられる。明朗にメロディーを歌ったかと思うと、スビトピアノで音量を落とし強弱の対比を印象付け、サックスの持ち味である目にも止まらない早回しが軽やかに披露された。
「ブラジレイラ」とは“ブラジル風の音楽”を意味しており、サンバなどの曲調を取り入れた楽曲だ。中間部では、ラテン系の音楽らしく、内面の情熱を感じさせる響きも聴かせている。コンサートの始まりにふさわしく、ムードを盛り上げる演奏だった。
演奏が終わると、客席からの拍手に応えて大石が「日曜日の午後の時間に、こんなに大勢の人に集まっていただいて嬉しく思います。ここでの出演は初めてとなりますが、30分ほどの時間、ぜひくつろいで聴いて頂ければと思います」と挨拶をした。
「1曲目の『ブラジレイラ』は、学校を訪問したときなどによく演奏します。サンバのリズムに合わせて手を叩くなど、楽しんでもらえる曲です。続いての曲も、ミヨーと同じフランスの音楽です」と、紹介してくれた2曲目は、ラヴェル作曲「亡き王女のためのパヴァーヌ」。
大石将紀(サクソフォン)、原田恭子(ピアノ)
前曲とは一転して、中低音域の丸みを帯びた暖かい音色で演奏が始まる。癒しに満ちた、非常に有名なメロディーだが、高音域に移ると印象がまた異なってくる。同じメロディーでも高音域では、澄んだ透明感のある音色で聴かせてくれる。サックスは音域が広いので、1つの楽器でも大きく違った表情になるのがよく分かった。
弱音であっても、芯のあるはっきりした音で、遠くまで響いていく。テンポを適度に揺らし、ためを作ることで心地よく歌っているように音を響かせている。優美な曲調の中にも、豊かな情感を込めた演奏だった。
『サンデー・ブランチ・クラシック』は、食事や飲み物を楽しみながらリラックスしてクラシックを聴くことができるというコンセプトのもとに開催されているカフェライブだ。しかし、大石の繊細な演奏に会場全体は自然と音楽に集中していた。
情感たっぷりの演奏
「次の曲ですが、1曲だけクラシックではなく現代の曲を演奏したいと思います……と言っても、クラシックからも大きな影響を受けている音楽です。オランダのヤコブTV(Jacob ter Veldhuis,1951~)という作曲家は、クラシック・ジャズ・ロック・ヒップホップなどのあらゆる音楽を取り入れた作品を作っています。今日演奏する『The Garden of Love』は、イギリスの詩人ウィリアム・ブレイクの同名の詩からインスピレーションを受けて作曲されました。この曲は、ピアノではなく人の声や自然の音などの入ったサウンドトラックとともに演奏します」
現代音楽を積極的に取り上げている大石は、「ヤコブTVという作曲家は、サックスの曲を非常に多く作っています。彼の曲のみを集めた『NO MAN'S LAND』というCDも出していますので、ご興味のある方はぜひ」と自身の活動についても紹介してくれた。
サックスとサウンドトラックという異色の組み合わせで、3曲目の「The Garden of Love」が始まる。冒頭は、英詩の朗読から。やがて鳥の鳴き声を模した笛や、ギロなどの音が現れ、それにサックスが加わって、賑やかな合奏になっていく。急速なごく短い楽句を幾度も繰り返す音楽に、ミニマルミュージックのような不思議な心地よさが芽生えた。
さらに、朗読や動物の鳴き声などによって、様々なイメージの断片が音楽に加わっていく。音の響きは、ヒップホップのように聞こえる時もあれば、ハードロックやR&Bなどのようにも聞こえる。美術で言うコラージュアートを音楽でやっている、そんな印象を受ける飽きのこない音楽だ。
サックスの動きも、鳥の鳴き声のような高音域の楽句や、息の長い落ち着いた様子の楽句など目まぐるしく変わる。作曲者の高度な要求に、高い技量で応えているのが伝わってきた。
カフェに響くやすらぎの音楽
演奏を終えると、大石が「ヤコブTVの曲は私のコンサートでもよく演奏するので、初めてでない方もいらっしゃると思いますが……初めて聴く方は、とても新鮮に感じたのではないでしょうか」とコメントし、ここで共演者の原田を紹介してくれた。
「原田さんは『サンデー・ブランチ・クラシック』は2回目の出演です。私たちは大学の同級生で、学生時代からよく一緒に演奏しています」と息の合った演奏の理由も明かされた。
本編は早くもプログラム最後の曲へ。4曲目は、ラヴェル作曲「ソナチネ」より第2楽章と第3楽章。「原曲はピアノ曲ですが、今回はオーボエとピアノに編曲したものをサクソフォンで演奏します。ピアノを弾く人にとっては、こうした編曲版には新鮮な驚きを感じるようです。原曲の雰囲気を損ねず、かつ新しい響きを作れたらと思います」
そう楽曲紹介をしてくれた大石から、田舎の民謡を思わせる素朴な明るいメロディーが奏でられた。暖かい響きの中低音域に対して、頂点となる高音は張りのある鋭い音色だ。全体としては静かな曲想だが、その中でも盛り上がる箇所と静まる箇所の対比を作り出している。ピアノの奏でる和音も、フランス印象派らしい優雅で幻想的な雰囲気を演出していた。
原曲をリスペクトしつつ新しい音を
静かに消えるように終わった第2楽章に続いて、第3楽章はテンポの速い活発な音楽だ。水が泉から湧き出てくるようなピアノの伴奏に乗って、サックスがユーモラスな音型を提示する。サックスとピアノが掛け合いをする箇所は、ちょうど子どもが遊んでいるような楽しげな雰囲気。音楽は一度テンポを落とすが、すぐに再度進みを早めていく。最後は、同一の楽句を繰り返しながら、ゴールを駆け抜けるようにして曲は閉じられた。
ステージで一礼する大石に、この日一番の拍手が送られ、「3月15日(水)には、“HORIZON”シリーズとして、近江楽堂でコンサートを行います。ヨーロッパの現代音楽の作曲家の作品を、無伴奏のサックスで取り上げます。4月28日(金)には、白寿ホールにて『スーパー・リクライニング・コンサート』を予定しています。ゆったりとしたシートで演奏を聴けるというコンサートで、フランスの音楽とアメリカのミニマルミュージックを組み合わせたプログラムを演奏します。2つのコンサートは全く性格が違っていて、私も楽しみにしています」と、今後の活動についても話してくれた。
その後、大石はこの日のアンコールとして、ポンセ作曲「エストレリータ」を披露。サックスが伸びやかに歌い上げる序奏から提示されるメロディーは、物憂げで哀愁が漂っているが、どこか温かみがある。ジャズやブルースを思わせる、耳になじみやすいメロディーだ。
同一のメロディーを繰り返していく曲だが、繰り返しごとに異なるテイストで観客にアプローチする。ロマンティックに歌うかと思えば、激しい情熱をこめた箇所もある。最後は大きくテンポを緩め、情感をたっぷりとこめて吹ききり、30分強のコンサートは、あっという間に終演となった。
大石将紀(サクソフォン)、原田恭子(ピアノ)
終演後のインタビューで大石は会場の雰囲気について、「控え室を出たとき、まるで別世界のような印象を受けました。食事やお茶を楽しみながら生演奏を聴ける場所は、他にはありません。お客様がくつろぎながら、同時に演奏にも集中してくださっている。そういったところが、本当に特別な空間なのだと思います。演奏中は会場がシーンとしていて、気を使わせてしまったかな、と申し訳なく感じたくらいです。また、日曜日の午後に気軽にどうぞ、とお客様に声をかけやすいのも、この会場の魅力だと思います」と語ってくれた。
本会場は2回目の出演となる共演者の原田も、「ステージからは、はっきりとお客様の顔が見えるわけではありませんが、それでも皆さんが集中しているのがわかります。こんな素敵な雰囲気のある場所は、他にないと思います」と感想を述べた。
インタビューに答える大石
現代曲も取り入れた今回のプログラムについて、大石は「私は、普段から現代の音楽をよく取り上げていますが、今回の演奏会のタイトルは『サンデー・ブランチ・クラシック』。そこで、私がよく取り上げているクラシックのレパートリーに加えて、お客様に楽しんでいただけるような現代の曲を入れる、という選曲にしました。日曜日の午後のミニコンサートという場面にふさわしい曲を選んでいます。ヤコブTVの曲は、私がCDを出していることもありますが、お客様にも楽しんでいただけるので、もっと沢山の方に知っていただきたいと思い、プログラムに入れました」と選曲の意図を教えてくれた。
今後の活動についても「3月15日(水)の“HORIZON”シリーズのコンサートは、自分の活動の中でも『挑戦』したいことを取り上げています。そこでは、私のライフワークである現代音楽、とりわけ西洋音楽の代表的な巨匠と言われる作曲家に挑戦します。その中のさらに無伴奏サックスという限られた枠になりますが、それでもサックスのレパートリーは増えています。その上で、日本人にあまり知られていないような曲を紹介するプログラムになっています」とコメントしている一方、4月のコンサートは性格が大きく異なるそうだ。
「4月28日(金)の『スーパー・リクライニング・コンサート』は、クラシック音楽と新しい音楽を組み合わさったプログラムです。新しい音楽 のほうは、スティーブ・ライヒ、フィリップ・グラス、グラハム・フィトキンといったミニマルミュージックを取り上げます。ライヒのコンサート にテクノのファンが集まるなど、ミニマルミュージックの裾野は広いので、幅広い層に楽しんでいただける選曲にしています。」
現代音楽・クラシックと、枠にとらわれない挑戦を続ける大石将紀。今後の活動から、目が離せない。
大石将紀(サクソフォン)
毎週日曜日、午後の昼下がりに渋谷のカフェでおこなわれる『サンデー・ブランチ・クラシック』。ぜひ一度訪れてみてほしい。
取材・文=三城俊一 撮影=荒川 潤
同年9月渡仏し、パリ国立高等音楽院に入学。02年から04年まで文化庁派遣芸術家海外研修員として研鑽を積む。
同年6 月にパリ国立高等音楽院サクソフォン科、室内楽科を、06年には即興演奏科を全て最優秀の成績で卒業。さらに05年よりパリ国立高等音楽院第3課程室内楽 科(サクソフォン四重奏)に進み07年6月に修了。
これまでに安田生命クオリティオブライフ文化財団、メイヤー財団、エラスムス財団、ソシエテジェネラル財団から助成を受ける。
在仏中はソリストとして、またサクソフォン四重奏「OSMOSE」のメンバーとしてクラシックはもとより、現代音楽、また若手作曲家の作品発 表を精力的に行っており、これまでにウンドル国際音楽祭(イギリス)、ダヴォス国際音楽祭(スイス)、ヴァル・ド・オルネー音楽祭(フラン ス)などの音楽祭への出演、フランス、オランダ、イギリス、などのヨーロッパ諸国を始め、ナイジェリア、ニジェール、中国等で演奏活動をして いる。
2008年3月に日本に拠点を戻し演奏活動を開始。東京オペラシティ財団主催「B→C100」に出演し、朝日新聞紙面上に白石美雪氏の批評が 掲載され高く評価された。近年では、2014年所属するグループ「東京現音計画」で第13回サントリー芸術財団佐治敬三賞受賞、15年5月初 のソロアルバム「NOMAN’S LAND Masanori Oishi plays JacobTV」をリリースほか、サントリー芸術財団「サマーフェスティバル」、東京オペラシティ文化財団「コンポージアム」、横浜みなとみ らいホール「JUSTCOMPOSED in YOKOHAMA」「武生音楽祭」などに出演。CM、テレビ、ラジオ番組などの録音にも多数参加している。
教育の分野では(財)地域創造「公共ホール音楽活性化事業」支援アーティストとして全国の学校、公共ホールでコンサート、ワークショップを展 開。また東京藝術大学、洗足学園音楽大学、東邦音楽大学の非常勤講師として後進の指導にもあたっている。
■日時:2017年3月15日 19:00開演
■会場:東京オペラシティ内 近江楽堂
■出演:大石将紀(サクソフォン)
■プログラム:
ベリオ:セクエンツァⅦb
シェルシ:イクソル、マクノンガン
シャリーノ:歓喜の歌
細川俊夫:スペルソング 他
公式サイト:http://www.m-oishi.com/agenda/
大石将紀 サクソフォン・リサイタル
スーパー・リクライニング・コンサート 第124回
■日時:2017年4月28日(金) 1部 15:00 / 2部 19:30
■会場:HAKUJU HALL(渋谷区富ヶ谷) (東京都)
■出演
大石将紀(サクソフォン)
黒田亜樹(ピアノ)
有馬純寿(エレクトロニクス)
■曲目・演目
ドビュッシー:牧神の午後の前奏曲
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
ドビュッシー:シランクス ※サクソフォン・ソロ
グラス:グラドゥス ※サクソフォン・ソロ
フィトキン:ゲート
ライヒ:ヴァーモント・カウンターポイント ※サクソフォン・ソロと多重録音
布谷史人/マリンバ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
渡辺克也/オーボエ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
3月5日
海瀬京子/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
3月19日
松田理奈/ヴァイオリン&中野翔太/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
※祝前日は通常営業