萩尾望都『エッグ・スタンド』舞台化で“観客を冬のパリに” 特別対談&製作発表記者会見レポート
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萩尾望都『エッグ・スタンド』舞台化
劇団スタジオライフが萩尾望都原作の『エッグ・スタンド』を舞台化する。上演に先駆けて、萩尾と脚本・演出の倉田淳の対談が行われた。
スタジオライフはこれまで、『トーマの心臓』、『11人いる!』、『マージナル』など数々の萩尾作品を取り上げているが、『エッグ・スタンド』は初上演。40年ぶりの続編となった『ポーの一族』連載開始、そして2016年朝日賞受賞で大きな話題を呼んだ萩尾の登場とあって多くの報道陣が詰めかけ、熱気の中で対談が始まった。
『エッグ・スタンド』は第二次世界大戦中、ナチス占領下のパリを舞台として少年ラウル、キャバレーの踊り子ルイーズ、レジスタンスの青年マルシャンを中心に描く人間ドラマだ。萩尾が原作を発表したのは1984年。「親の世代が太平洋戦争を経験したので、興味があって(戦争に関する)本を読んでいた。20歳くらいのころアラン・レネ監督の『二十四時間の情事』を見て、“戦争の悲しみは個々人に落ちてくる”と非常にショックを受けた。そういう作品が描きたいなと思ったんです」ときっかけを話す。
「パリを脳内旅行しながら描き上げた」という本作。印象的なタイトルについては「卵ってもともと壊れやすいものじゃないですか。世界全体が不安定なもので、ちゃんとエッグ・スタンドの上に乗せて守らないと壊れてしまう。そういう危機感があったんだと思う」とタイトルが意味するところを語った。
それを受けて倉田は「あやうい空気が漂う今の時期だからこそ、この作品を上演する意義がある」と上演を決意した理由を述べる。「登場人物の心情が(心に)響いて響いて仕方がない」と萩尾作品の持つ美しく繊細なドラマに心を寄せる倉田。「登場人物の奥行きの深さに打ちのめされます」と舞台化での苦労を語ると、萩尾は「スタジオライフなら、観客を冬のパリに連れていってくれるはず。倉田マジックで何か感じる舞台にしていただけると思う」と絶大な信頼と期待を明かした。
なお、40年ぶりの続編となった『ポーの一族』について、萩尾は「夢枕獏さんが会う度に“ 『ポーの一族』の続編が読みたいなあ”とずっとおっしゃるのを聞いていたら、だんだん“描こうかな”と洗脳されました(笑)。描けるかどうか不安だったんですけど、還暦を過ぎて、“描くなら今だ”と。何か言われたら“すみません、還暦を過ぎたから許して”と言おうと思って(笑)」と笑顔を見せた。
現在、月刊フラワーズ(小学館)で連載中の『ポーの一族』の番外編「春の夢」も、『エッグ・スタンド』も第二次世界大戦が舞台。萩尾は「ちょうど似た時期なんですよね」と意外な共通点を語った。
萩尾望都『エッグ・スタンド』舞台化
続いて、『エッグ・スタンド』製作発表記者会見が行われた。
スタジオライフ代表の藤原啓児は「萩尾先生のご厚意に恥じぬよう、出演者一同精一杯務めていきたいと思います」、脚本・演出の倉田は「この作品は第二次世界大戦のナチス占領下のパリという状況にありながら、人間がどう生きていかなければいけないかという普遍が描かれている。真摯に、一言一言を大事に取り組ませていただこうと思います」と上演への熱い思いを述べた。続いて、メインキャストが意気込みを語った。
ラウル役(Noirチーム)の松本慎也が「上質なフランス映画に自分が入り込めたような感覚になる。登場人物たちの繊細な感情のやり取りを生身の僕たちが舞台で演じられるように、密な稽古をしています」、ラウル役(Rougeチーム)の山本芳樹は「萩尾先生の作品はスタジオライフの原点。その分大変で難しいこともあるが、ワクワクしながら取り組んでいる」と稽古の様子を語る。
ルイーズ役の曽世海司(Noirチーム)は「この作品を演じて、戦争で割を食うのは庶民だなということを感じた。ルイーズという若い女性の役をやらせていただくが、彼女が今生きているという瞬間を大事に演じたい」、ルイーズ役(Rougeチーム)の久保優二「何一つ妥協することなく、自分の中にあるものをすべて絞り出しながら演じたい」とコメント。マルシャン役(Noirチーム)の岩﨑大は「マルシャンのような大人の男はほぼ初めてに近い役どころ。
マルシャンが原作の中に描かれていない過去に何があったか模索しながら、少しずつ形になるように挑んでいます」、マルシャン役の笠原浩夫(Rougeチーム)「稽古をやればやるほど、重さをひしひしと感じている。マルシャンとしてはその重さを現代に通じる身近なものとして感じていただけるようにしたい」と役作りを明かした。
1996年の『トーマの心臓』初演から21年。萩尾望都作品とスタジオライフの縁は深い。「萩尾先生が作った美しい台詞を舞台で口にできるのは役者として幸せなこと」(松本)、「初めて演じたのが『トーマの心臓』のユリスモール。役者としての僕を形成しているものの多くが、萩尾先生の作品との出会いにある」(山本)、「演じないとわからない気づきや奥行きがある」(曽世)、「萩尾先生の作品を演じると感情の幅がどんどん広くなる。
今いる自分は萩尾先生の作品とスタジオライフのおかげ」(久保)、「萩尾先生の作品は役のしみこみ方が全然違う」(岩﨑)、「『トーマの心臓』初演でオスカーを演じて、役者としての寿命が何年か伸びたかな(笑)。僕にとってはターニングポイントになった」(笠原)と口々に語り、萩尾作品を演じる意義の大きさが改めて感じられた。
劇団スタジオライフ公演『エッグ・スタンド』は3月1日~20日新宿 シアターサンモール、3月24日~25日、大阪ABCホールにて上演される(ダブルキャストでの上演)。
文=大原 薫
【東京公演】
会場:シアターサンモール
公演日程:2017年3月1日(水)~3月20日(月・祝)
【大阪公演】
会場:ABCホール
公演日程:2017年3月24日(金)・3月25日(土)
【OSAKA SPECIAL EVENT】
会場:ABCホール
公演日程:2017年3月26日(日)
■原作:萩尾望都(「エッグ・スタンド」小学館文庫「訪問者」収録)
■脚本・演出:倉田淳
■キャスト:
ラウル:松本慎也/山本芳樹
ルイーズ:曽世海司/久保優二
マルシャン:岩崎大/笠原浩夫
船戸慎士 奥田努 仲原裕之 宇佐見輝 澤井俊輝 若林健吾 田中俊裕 千葉健玖
江口翔平 牛島祥太 吉成奨人 藤原啓児
■公式サイト http://www.studio-life.com/