ミュージカル『王家の紋章』イズミル役の平方元基が単独インタビューで明かす、2017年版の見所とは?
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ミュージカル『王家の紋章』イズミル役の平方元基(撮影/石橋法子)
2016年に東京・帝国劇場でのみ上演され、全公演即日完売に沸いた話題のミュージカル『王家の紋章』が、初の大阪公演を加え早くも再演決定。現代から古代エジプトにタイムスリップしたアメリカ人少女キャロルと時の少年王メンフィス、そして敵対するヒッタイト国の王子イズミルとの三角関係を軸に、時空を越えた壮大な人間ドラマを紡ぎだす。連載40周年を超す少女マンガを原作に荻田浩一演出、シルヴェスター・リーヴァイの全曲書き下ろしで贈る一大ラブロマンスだ。再演への期待が高まる中、銀髪のクールプリンス「イズミル王子」を演じる平方元基が単独インタビューに応えてくれた。彼が明かす2017年版の見所とは?
「やっぱり萌えて欲しいから。原作ファンも初心者もキュンキュンさせます!」
--まずは、初演の熱気からお聞かせください。
一番熱かったのは、原作者の細川智栄子あんど芙~みん先生たちかもしれません。俳優やスタッフが一丸となって作品に向かう姿にすごく愛情を感じたと仰って頂き、本当に頻繁に劇場まで足を運んでくださいました。お客様も、普段のミュージカルファンの方たちとは様子が違うわけですよ。どの辺りがと問われると、うまく言葉にできないんですけど(笑)。「この3時間を必死で見届けよう!」という熱い気持ちはすごく伝わってきました。やっぱり、”王族”と呼ばれる原作ファンの方々の作品に対する知識たるや、僕たちは叶わないわけですよ。そんな中イズミルを演じさせていただき、原作ファンの方々も喜んで下さっているという話を耳にした時は、とても嬉しかったです。
平方元基
--実際に作品を経験されて、40年以上愛される理由はどこにあるとお感じですか?
普遍的な「愛」というものがすごく分かりやすく描かれている。そこにお客様も安心するし、飽きずに何度も観ていただけるのかなと思います。奪ったり奪われたりでやきもきするし、スリルがあって、「こうあって欲しい」という思いも裏切られたりしながら、一筋縄ではいかない感じとか(笑)。本当にキャロルがあっちこっちいっての60巻で40周年ですから。でも、キャロルは18歳のままっていう(笑)。僕らも楽しみながら演じていますね。よく原作を読んで観た方がいいですか?と聞かれるんですが、予習はしなくても存分に楽しめる内容です。目だけでなく耳でも楽しめるので、逆に舞台を観てから原作を知りたくなるのは、ミュージカルの良いところだと思います。
--キャロルが行って戻ってを繰り返したくなるぐらいメンフィス同様、イズミルにも魅力が求められそうですね。
イズミル役が決まってから、まず原作の絵を見るわけじゃないですか。こんなに鼻は高くないし、顎も尖ってないし……僕、全然似てない…。キャスティングの時点で、お客さんを裏切ってるけど大丈夫かな!? と、第一印象は「えー!!」っていう、プレッシャーしかなかったですよね(笑)。やっぱり僕もほかの作品で”実写版”と聞いたら、どれほど原作に近いのかな?って気になりますから。だから、メイクもすごく研究したし、衣装のさばき方も原作の印象的なカットを参考に「この場面でこの仕草をやってるから真似してみよう」とか、様々な努力をしました。やっぱり、萌えて欲しいじゃないですか(笑)。「原作のあの場面キター!」って、僕だったら欲しいなと思うので。でもね、本番開けるまでは怖かったです。みなさんの中でイメージが出来上がってるキャラクターなので、そこに叶うのかなって。
平方元基
--初演での手応えは?
良いか悪いかまでは分かりませんが、すごく目で追ってくださっているな、というのは感じました。ミュージカルでイズミルが唐突に歌ったりするから、驚いて注目せずにはいられなかったのかもしれませんが(笑)。楽曲はゆったりした曲からロック調の曲までバラエティに富んでいますね。初演ではわりと展開が早かったのですが、それも漫画でページをめくる感覚に近いのかなと。決して話の筋がおざなりになることもなく、原作の特徴を押さえた魅力的なポイントのひとつかなと思います。
平方元基
--イズミルを演じる上でポイントにされた部分とは。
僕の場合は「賢さ」です。賢くて余裕があるから、そんなにせかせかと動かない。何かを拾うときもゆったり動くし、衣装のさばき方にも余裕がある。鋭くて妖艶な感じです。ダブルキャストの宮野(真守)くんは、わりと熱さが全面に出るイズミルで、それもすごく良いなと思ったんですけど、僕はここぞ!という時にしか爆発しない。頭の良さや物事に耐えられる許容量、器の大きさをそんな風に表現できれば。今は王子でも今後は国を治めていく人物なので、メンフィスと対峙するときは「彼に見劣ってはいけない」という強い気持ちでやっていました。あと、原作でイズミルは気づいたら背景が変わっていて、瞬時に違う場所へ移動してたりするので、どこか超人的な部分も意識してました(笑)。
平方元基
--その辺りが宮野版とは違う、”平方イズミル”ならではの魅力と言えそうですね。
あとは、緩急がポイントかな。台詞はもちろん、歌も一曲の中で緩急をつけるように意識していました。じっくり溜めてから台詞を言ってみたり。近現代のお芝居でやると「ん?」と思うような言い回しも、この作品なら違和感なく、ありえることだなと気付いたので。やっぱりその方が、お客さんも物語を追って行きやすいんですよね。話の展開もそれなりに早いので、その中でキャラクターの心情の変化を上手く伝えるには、緩急をつけた言い回しが効果的だなと感じました。
--原作の熱心なファンで、王族歴30年の”新妻キャロル”こと新妻聖子さんによるとイズミルは、「女性の心をキュンキュンさせるキャラクター」だそうですね。
確かにそうですね。その場面では客席の反応も気になりますけど、舞台上では100%キャロルに意識を向けています。そうしないと言えないような、恥ずかしいセリフが多いんですよ。それを恥ずかしげもなく言えて、お客様にも「恥ずかしいけど……キュンキュンする!」と思ってもらうためには、全力でキャロルに向かっていくしかない。言葉をグサッと心に刺しにいくんだ!という気持ちでやっています。だから、成功したなと思うときは、キャロルの反応がちょっと違ってたりしますよね。
--それは、どのように?
ちょっと恐ろしく台詞を言ってみたら、そこで一瞬ゾクッと肩が上がったり。鼻先が触れ合うほどの距離感でやっているので、その2ミリぐらいの動きも伝わってくるんですよね。すごく繊細な芝居なので、客席からは観えないかもしれませんが、それでもここでちゃんと物語が起きていれば、お客様には伝わるんじゃないかと思っています。
平方元基
--互いの感情が作用し合う、舞台ならではのライブ感が伝わってきます。
舞台って何回も繰り返し演じるじゃないですか。そこで守るべきルールは守るんですけど、ただ芝居はその場で起きたことに反応するので、やっぱり日によって全く違うものになる。キャロルが違えば、僕らも違う。それによって浦井(健治)くんが演じるメンフィスの反応も違うわけだから。何度観ても飽きないのはその部分も大きいと思います。
--イズミル同様、ヒロインも新妻聖子さんと宮澤佐江さんのダブルキャストです。それぞれの魅力を教えてください。
宮澤さんは飾り気がないというか、偉そうに聞こえるかもしれませんが、まだミュージカルに対する不安定さが残っているから、「おっと、そう来たか!」という状況が起こりやすい。それが、すごく良いんですよね。揺れる感じが、現代から三千年前のエジプトにタイムスリップして来たヒロインの状況とリンクして、こちらも気持ちを作りやすい。上手く芝居につなげていけるんですよね。一方の新妻さんは、彼女が作り出す空気にポンっと乗っかればイズミルとして立っていられるから、素晴らしいですよね。逆に言うと、こっちは飲まれないように必死です(笑)。彼女は舞台上での仕掛け方を知っているので。そういう意味でもこのお二方は、全然違いますね。
平方元基
「お客さんも衣装やメイクは濃い目にね、一緒に古代エジプトへタイムスリップしましょう!」
--演出の荻田浩一さんとは、意外にも初顔合わせなんですね。
そうなんですよ。コンサートのお仕事でご一緒したり、普段からよくお食事をしたりしていたので、ミュージカル作品でご一緒するのは初めてでしたが、何でも質問しやすかったです(笑)。ただ最初は、演出の意図を汲み取るのに苦労しました。荻田さんの演出は具体的な説明というよりは、こんな風なものを見せて欲しいという伝え方なんですね。その「こんな風」に近づく作業がすごく難しくて。「わかりました。こんな風ですね」と見せても、「うーん。ちょっと近づいたけど、ちょっと離れたかな」とか、一歩進んでは二歩下がるような状況が続いたので、自分でも焦りましたよね。でもそれは、荻田さんがうまく焦らしていたのかもしれないです。きっと舞台上で爆発させるためにやっていただいたことだったんじゃないかなって後から思いました。
--そんな実感があったのですね。
言われていることが上手くつかめなくて、「今日は煮詰まっちゃってダメだー」とか言っても、「いつもじゃん」と上手いこと回収されちゃう。それは荻田さんなりの優しさなんですよね。とても愛情深い方ですし、絶対に諦めない。だから時間が足りない(笑)。
--そういう意味では、再演で掘り下げられるのは嬉しいことですか。
嬉しいですね。日本の演出部やスタッフさんの頭の良さや、きめ細かい仕事ぶりは相当レベルが高いみたいですよ。よくコンサートなどで海外の俳優さんたちとご一緒すると、「日本のスタッフは優秀だ」って皆さん仰いますから。海外では3、4ヶ月稽古してプレビューをやって、また練り直すので。それが日本だと、稽古期間は通常一ヶ月半ぐらいで本番なので。「日本ではどうやってるの!?」って皆さんに驚かれます。だから、役者である僕はその環境に乗っていくだけだなと。共演者もほとんど先輩方ばかりなので、自分のことに一生懸命集中して取り組めるのは本当にありがたいです。怖いものがないですもん、このみんなといると。
平方元基
--逆にプレッシャーを感じることは?
あったとしても、そこを含めてみんなが見守ってくれる。本番を乗り越えると全員が、頑張ったね!という意味で、駆け寄って声を掛けてくださったり。こんなことあるんだなって思いました。全員がみんなのことをまるで自分事のように喜んだりする現場って、なかなか珍しい。すべてを共有して、一丸となって舞台に上がっていたんだなって、公演が終わってから改めて実感しました。初演後、それぞれが別の作品に入っていても、みんなでこの作品について話したり、情報交換をしたり。「会いたいね」と言ってるし、実際に会うとホッとしますもんね。日常生活でも、その場にいる全員と仲良くなるなんて難しいことじゃないですか。それがひとつのカンパニーで出来るなんて、やっぱり互いを認め合えるからなんでしょうね。このカンパニーに巡り合えたのはすごく幸せなことだし、本当に楽しい現場ですね。
平方元基
--カンパニーのムードは、作品にも良い影響を与えそうです。
やっぱり仲が良いに越したことはなくて。馴れ合いになってはダメだと分かっているからこそ、ルール違反のギリギリ手前まで攻めた芝居ができる。今日はここを越えるとまた違うものが生まれるのかなとか。そういう空気感を生み出すまでには、すごく時間がかかるはずなんですけど、このカンパニーは不思議なほど温かい。やっぱり中心にいる浦井くんのお陰だと思います。みんなのことをすごくよく見ていて、それでいて必要以上のことを言わないし。オンでもオフでも、素で人に温かくできる方ですね。
--そんな”浦井メンフィス”の魅力とは?
わがまま放題のメンフィスだけど、どこかお客さんが温かい目で見守りたくなるのは、浦井健治という役者が演じているからこそだよねと、みんなでも話していました。オラオラ系にも色んな種類があって、浦井くんにとってのオラオラはこうなんだな、というところも楽しんでもらえれば(笑)。
平方元基
--平方さんが、再演に向けて挑戦したいことは。
衣装や音楽がものすごく贅沢に作られているので、それを超える心情をよりダイナミックに表現していきたいですね。
--楽曲はシルヴェスター・リーヴァイさんによる全曲書き下ろしですね。
この曲のあとにこれ来るか!?というぐらい、曲調も構成もバラエティに富んでいます。今回は特にトリッキーな印象で、一曲の中でもAメロではそういくのにBメロではいかないんだ、とかそういう絶妙なニュアンスの違いがある。歌いこなすためにはすごく大変な作業だったんですけど、練習を重ねていくうちに「ここまでセリフと音楽ってマッチするんだ!」という驚きがありました。
平方元基
--歌詞の意味を音楽が補い、そこへダイナミックな役者さんの芝居が加われば、何十倍にも感動が広がりそうです。最後にイズミルから改めて、お誘いのメッセージを。
妖艶に見つめ合って囁く場面もあり、平方元基としても今までにない姿をお見せできると思います。衣装もメイクもエジプトの王族のように着飾って、ワクワクしながら観に来ていただきたいです。そうすればきっと、お客様にも現代から三千年前のエジプトへタイムスリップする感覚を楽しんでいただけると思います。
平方元基
■脚本・作詞・演出:荻田浩一
■作曲・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
■出演:
浦井健治、新妻聖子/宮澤佐江(Wキャスト)、宮野真守/平方元基(Wキャスト)、伊礼彼方、愛加あゆ、出雲綾、矢田悠祐、木暮真一郎、濱田めぐみ、山口祐一郎ほか
■日程:2017年4月8日(土)~5月7日(日)
■会場:帝国劇場
■日程:2017年5月13日(土)~31日(水)
■会場:梅田芸術劇場メインホール
■公式サイト:http://www.tohostage.com/ouke/