鴻上尚史×小越勇輝にインタビュー「小越って実はのび太っぽいよね」 舞台版『ドラえもん のび太とアニマル惑星(プラネット)』
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小越勇輝、鴻上尚史
舞台版『ドラえもん のび太とアニマル惑星(プラネット)』(以下、舞台版『ドラえもん』)が9年ぶりに上演されることとなった。脚本・演出を務めるのは初演時と同じく鴻上尚史。のび太役を演じるのは、ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン、『サイケデリック・ペイン』『弱虫ペダル』などで数々の主人公役を務めてきた小越勇輝だ。
初演時は「2.5次元ミュージカル」という言葉もなかった頃。そんな「2.5次元」の先駆けのような作品を今上演する意義とは? また2.5次元の立役者の一人・小越が出演する意味とは?
小越勇輝=のび太!?
――小越さんにのび太役を、と思った理由は?
鴻上:この企画協力に入っているネルケプランニングのいちばん偉い人と、ひょんなことから「鴻上くん、舞台版『ドラえもん』って2.5次元の元祖みたいなもんだよね」という話になり、「(再演を)やらないの?」って言われて「やりたいんですよ」と返していると、「……のび太にそっくりな子を知っているよ!」って小越を紹介してもらったんです。
――小越さんはこれまで何度となくカッコイイ主人公を演じてきたイメージのほうが強いです!
鴻上:それがね。僕の芝居を観に来てくれた時はボーッとしていたんです。それがすごく“のび太”っぽかったの。「あ、のび太だ!」って思ったよ。でも、この芝居の顔合わせとなる稽古初日に入口から“出木杉くん”が入ってきた。「ちょっと! 顔が違うじゃないか!」って(笑)。
小越:(笑)。
鴻上:この舞台の音楽を担当してくださった森雪之丞さんも言っていたんです。小越は以前、森さん作の舞台(ロック☆オペラ『サイケデリック・ペイン』)に出演していたんだけど、森さんに「今度、小越と一緒に舞台をやるんですよ」って言ったら「あいつね、ボーッとしている日常と、演技している時のカッコよさが全然違うんだよ」って言ってました。
――かなり差があるようですが小越さん、自覚はありますか?
小越:普段は(のび太に)似ているねって言われるくらいボーッとしていたり……。“OFF”状態なんです。現場に入ると自然とスイッチを入れてしまうので、たぶんそこで普段との差が生まれているんじゃないかな(笑)。「またお芝居で新しい一面を見せられるな」とか「どうやって演じよう」とか考えるとすごく楽しみなんです。「突き抜ける」とか「カッコイイ」とか「キラキラする」って今考えると実は簡単だったのかも、と思うんです。もちろん、その時は考えて考えて苦労したんですが、今回の苦労とは全く違うんだろうなって思います。今、稽古中に鴻上さんに言われるんです。「誰でも共感できる普通さ=『のび太』を演じてほしい」と。そもそも人の前に立つ段階ですでに“普通”じゃないのかもしれませんが……。突き抜けずにいなければならない難しさがありますね。
鴻上:“キラキラ”も難しいんだぞー! 出せって言ったって出せない奴は山ほどいるんだから(笑)。キラキラが出せるのはすごくいいことなんだけどキラキラができる上で、キラキラを抑えて普通の、素に近い状態も演じられるようになると、演技の幅が凄く広がると思うよ。
小越:(真剣にうなづきながら話を聞く)
――小越さん自身に近いという“のび太”ですが、全国規模で知られているキャラクターを演じるって大変なのでは?
小越:そうですね。絵を見ただけで声などが頭の中に浮かぶ……というか、僕も台本を読んでいるとやっぱりのび太の声で脳内再生されるのを「んあああ!」(両手で頭の中からパタパタと消そうとする仕草)ってやってます。原作やこれまでの作品をリスペクトしながらも、一方で僕がやる意味。そこを大事にしなければと思っています。本当に誰もが知っているキャラクターなので、その点でプレッシャーはありますね。
『ドラえもん』だから深いんです!
――『ドラえもん』って子ども向けの漫画でありながら、ものすごくリアルに現代社会の問題、地球規模の問題などを真っ向から扱う回もありますよね。そもそも初演の時に本作を舞台化しようと思ったいきさつは?
鴻上:当時、数多くの映画用長編漫画がある中で、『ドラえもん のび太とアニマル惑星(プラネット)』がいちばん舞台でやる意味があるんじゃないかなって思ったんです。あれから9年経った今のほうが、より切実に上演する意義を感じますが。
――9年ぶりの再演となりますが、初演とあえてここは変えたいと思うことはありますか?
鴻上:曲が2曲くらい増えるんです。小越も歌い踊るし、全部で6曲くらいやります。前回よりちょっとミュージカル色が強くなりますね。より楽しさを増してます。
――鴻上さんの前説バンドは今回もありそうですか?(笑)
(※初演では開演前にロビーや客席で鴻上さんたちが楽器を演奏しながらお客様をお迎えする演出があり、鴻上さんはギター担当でした)
鴻上:今回は誰がギターを弾いてくれるんだろう。初演のときは小林顕作にやらせようとしたんですが「……別料金になりますよ」って! 「貴様、そんなことを言うのか!?」「だって僕は歌でもお仕事受けてますから(笑)」「じゃいいよ、俺がやるよ」そんないきさつであの時は僕が弾いてました。ムッとしながらね(笑)。今回は他のメンバーでバンド編成ができるのなら、僕がやる必要はないので任せます。
鴻上尚史
――いやいや、鴻上さんが動物の鼻つけて歌っている姿、個人的にはまた観たいです!
鴻上:あの鼻は初演のときにぞうさん役をやっていた女性が作ってくれたんですよ。「鴻上さん、普通にやるのもつまらないでしょ? これどうぞ」って。その鼻が9年間俺のギターケースに入ったままです(笑)。
――それはやはり、今回もやらないと!(笑) 今回キャストががらっと変わり、いわゆる2.5次元系で活躍する方々が増えました。かつ、メインキャストの方々はいずれも身体能力の高い人たちが集まっていて、楽しみですね。
鴻上:大事ですね! 振付の川崎(悦子)先生も初演に比べて喜んでますよ(笑)。こんなことをいうと怒られちゃうな! 初演のときののび太役は小越の事務所の先輩(坂本真)ですからね。
――小越さん、先輩からこの役を引き継ぐことになりましたが、何かアドバイスをいただいていますか?
鴻上:アッハッハッハ。この二人が同じ事務所っていうのがすごいよねえ。
小越:坂本さんとはほぼ全く会わないんですよ。事務所に入ってから1度お会いしたかな?というくらい。9年前のポスターは事務所で見ているので「へー!『ドラえもん』で舞台をやるんだー」って当時驚いた記憶があります。
鴻上:え? いくつから事務所にいるの?
小越:3歳からです。で、坂本さんがのび太の役で、眼鏡もかけていて「のび太っぽいなあ!」って思っていました。あと、脇(知弘)くんもいたし、どんな舞台だったんだろうって。
小越勇輝
――その当時の映像はご覧になりましたか?
小越:じっくりとは観ていないんです。普段からあまり前回キャストの公演映像は観ないようにしていて。自分の公演が終わってから観ることはあるんですが、稽古中とかに観てしまって、うっかり同じ演技になったりするのが嫌なんです。他の手法を考えればいいんですが、いやでもその動きが脳裏によみがえるので自分の中で邪魔になってしまうんです。
――鴻上さんとしては、過去映像は観なくてもいいですか?
鴻上:いいんじゃないかな。今の小越がやるのび太でいいよ。
ドラえもんの変わらない魅力とは?
鴻上:『ドラえもん』を舞台化するということは、ドラちゃんはあの姿のまま舞台にいるんですが、周りの人間は生身の姿でいるという衝撃的なことなんです。今も稽古中にドラちゃんにはドラちゃんの恰好をしてもらい、そこにいてもらうと、みんな自然に顔がほころんでくるんです。稽古場でドラちゃんが動いているだけで楽しいんです。“スター”ってそういうものなんだろうなあ。本当に体温が2度くらい上がるんですよ。その周りに生身の人間がいるということは、やはり演劇でしかできないすごい事なんだと思うんです。映像で撮っても意味がない。目の前に生身の人間がいて、その横にドラちゃんがいる……それだけでも不思議。それだけでも『ドラえもん』なんだなって思いますね。
小越:僕は漫画を読むというよりアニメで観る世代でした。小さいときは“夢“というか、こんなものがあったらいいなとかそういう存在。今見ると、あの頃感じていたものと全然違う想いが芽生えたりもする。自分が携わっている中で感じるのが“まっすぐさ”です。言葉をどこまで考えてるのかわからないし、大人ほど考えてはいないかもだけど、子どもなりに考えている言葉や行動はすごくまっすぐで、熱くぶつかっていく。それが素敵だなって感じます。
小越勇輝
――ちなみに稽古場の生身の人たちは今、どのような状況ですか?
鴻上:試行錯誤していますね。
小越:そうですね(笑)。
――個人的に皇希さんが演じるジャイアンが気になってまして。見てくれがそのままジャイアンですし、ダンスの腕前はこの世界に入る前から注目していました。
鴻上:皇希は見かけがジャイアンなんですが、中身が優しいんです(笑)。本人もその自覚があるようで、徐々に中身もジャイアンにしていくって言ってましたね。一方スネ夫(陳内将)は今時点でもうズルい(笑)。周りから「スネ夫、ぴったり!」って言われているのが「誉め言葉なのかどうなのか、どっちなんですかねえ?」って言ってますよ。
――しずかちゃんを演じる樋口日奈さん(乃木坂46)は?
鴻上:しずかちゃんって実は難しいと思うよ。こんな女の子っているの?ってくらい何にも染まっていないキャラクターだから。リアルな部分はお風呂好きってことくらいなので、演じる側はすごいしんどいと思う。オタサーの姫(※男性の割合が多い文化系サークルに存在する数少ない女性メンバー)は生々しくあってはいけないから、これから先苦労すると思います。“優等生で嫌味にもならないまじめで一生懸命な子”ってのを演じなければいけないので。
――のび太の役作りってどうなんでしょうか。周りのキャラクターが濃いので相対的にダメな子扱いになってますが、本当はごく普通の小学生だと思うんです。
鴻上:演出家になって30数年、「そんなにかっこよく踊るな」という指示を出したのは初めてだと思います。普通「かっこよく踊れ」という指示しか出さないと思う。この稽古場では「それはのび太じゃない。かっこよすぎる」って言ってます。
小越:あるものから“引く”のは簡単とは言いますけど、今は“引く”作業が自分の中で難しくて、戦ってます。“のび太”にたどり着くまでにどうすればいいのか……。
――小越さんのファンがどのような反応をするのかも楽しみですね。
鴻上:大好きな小越くんに「ああ、こんな面もあるのか!」っていう発見の喜びにつながるんじゃないかなあ。小越くんとデートして、そのまま2人がお泊りして、「なあんだ、寝顔はこんな顔してるんだ」とか、朝起きたら「ああ、こういう感じなんだ」ってところを見せることに近いんじゃないかな?
小越:あはははは!
――素の部分を見せる?
鴻上:まあ本当にそれが“素”なのかは俳優の秘密なんだけどね(笑)。でもまあ安心感を感じてほしいですね。あとは、男性のファンがついてほしいと個人的に思っています。男たちが「小越って俺たちと地続きのカッコいい奴じゃん!」って、そう思えるといいですね。前回は子どもが3割、大人が7割。大人のうち男女比が6:4くらいでした。『ドラえもん』の男性ファンは多いから、今回は前回以上に様々な属性の人がいる客席になると思いますよ!
2.5次元舞台の元は小劇場にあり!?
鴻上:2.5次元舞台の隆盛を『弱虫ペダル』を例にして見ていると、結局小劇場な手法がここで花開いたんじゃないかって思うのよ。演劇という舞台のイマジネーションを身ひとつとアイディアでどのように表すのか。お金がたっぷりある訳でもないから宝塚歌劇のような大きな装置を作って回すような事もできない。だったらどうするか? そうだ、自転車のハンドルだけでそれを表してみようか。……小劇場運動として30年前くらいからやってきたことが蓄積されて、今、花開いたと思ってる。
フライヤーにも書いたんですが「ヨーロッパでイギリスを中心とする演劇にできないものはない」という演劇人側のプライドは、何百年もの間、蓄積されてきた事を応用しているんです。だから『テニミュ』『弱ペダ』から来たお客さんは舞台版『ドラえもん』を観ることで“2.5次元の元祖を観る”なんて思うかもしんないね。
小越勇輝、鴻上尚史
インタビュー・文・撮影=こむらさき
【東京】2017年3月26日(日)~4月2日(日)
サンシャイン劇場
【福岡】2017年4月7日(金)~4月9日(日)
キャナルシティ劇場
【愛知】2017年4月14日(金)~4月16日(日)
刈谷市総合文化センター 大ホール
【宮城】2017年4月21日(金)~4月23日(日)
多賀城市民会館 大ホール
【大阪】2017年4月29日(土)~4月30日(日)
森ノ宮ピロティホール
■原作:藤子・F・不二雄
■脚本・演出:鴻上尚史
■作詞・音楽プロデュース:森雪之丞
■出演
小越勇輝、樋口日奈(乃木坂46)、皇希、陳内将、
佃井皆美、嶋村太一、澤田育子 ほか
■協力:藤子プロ
■企画協力:ネルケプランニング
■企画製作:サードステージ
7,500円/under12 4,500円 (全席指定・税込 前売・当日共通) 発売中
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■公演に関するお問合せ:サードステージ 03-5772-7474(平日11:00~18:00)