夢あり恋あり冒険ありの牧阿佐美バレヱ団『三銃士』は初バレエにもおすすめ

2017.3.2
インタビュー
クラシック
舞台

「三銃士」坂爪智来、篠宮佑一、清瀧千晴 2014年 撮影:鹿摩隆司


3月4日(土)、5日(日)に牧阿佐美バレヱ団『三銃士』が上演される。フランスの文豪アレクサンドル・デュマ原作の冒険小説にアンドレ・プロコフスキーが振付けたこの作品を、バレエ団では1993年に初演。人気演目の一つとして再演を重ねている。

「三銃士」は主人公ダルタニヤンがアトス、ポルトス、アラミスの三銃士とともにストーリーを引っ張る男性中心のバレエで、古典の風味を残しながらも男性ダンサーの生き生きとした踊りが楽しめるのが特徴だ。しかも物語は冒険あり、恋あり、策謀ありのわかりやすいストーリー展開で、剣を携えた男性の群舞やソロ、男女のパドドゥ、女性同士のパドドゥ、男性4人を従えた「ローズアダージョ」ならぬ“悪女のアダージョ”ともいえる踊りなど、内容も盛りだくさん。気軽に楽しめるエンタテイメント性も擁している。

音楽はデュマと同時代の作曲家ヴェルディの曲が使われて、ヴェルディならではのドラマティックで華やかな音色が17世紀の「銃士絵巻」に彩りを添える。そこで今回は『三銃士』稽古場に潜入。ダルタニヤンと三銃士を演じる男性ダンサーたちに、作品の話と意気込みを聞いた。

■剣の打ち合う音もリズミカル。真剣勝負のリハーサル現場

リハーサルは1幕のダルタニヤンが三銃士とあわや決闘、というところに敵方のロシュフォール率いる親衛隊が現れ、ダルタニヤン+三銃士VS親衛隊のバトルとなるシーン。

この日は主演ダルタニヤンを演じる菊地研をはじめ、ゲストで参加するイヴァン・プトロフも初合流。ダルタニヤンと三銃士があわや決闘、という緊迫の場面から一転、今度は三銃士側と親衛隊の戦いがあちこちで戦いが始まる。

男性ダンサーたちが音楽に合わせカウントを取りながら、剣の打ち合いの音をリズミカルに響かせる。スピーディーなアクションのなかに、しかしバレエらしい跳躍や動きもあり側で見ると相当の迫力だ。

手前で2対1の打ち合いをしているかと思えば、あちらでは蹴り合い。倒れたところを踏んづけるなど、ユーモラスさもあるが、全体の動きはかなり複雑だ。何より普段とは違い剣を持っているため、距離感を一歩間違えると相手にぶつかったり刺さったり。身体ならまだしも、目に入ったらかなり危険で、実際刺さることもあるそうだ。そのためリハーサルはより一層の、真剣勝負の世界であった。

リハーサル風景

■主演のイヴァン・プトロフと菊地研。今回はダルタニヤンと公爵の2役

「このバレエ団は居心地が良くて、家に帰ってくるような気分」と語るのは今回ゲストで出演するイヴァン・プトロフ。「三銃士」のダルタニヤン役として2014年公演に引き続き、今回2度目の出演だ。プトロフはこの作品のほかにも「リーズの結婚」のコーラスをはじめたびたびゲスト出演しており、バレエ団のゲストとしてはすっかりお馴染みのダンサーだ。「古典作品だけでなくアシュトンやプティなど作品の幅が広いので、このバレエ団で踊るのは楽しい。ダルタニヤンはアグレッシブでパワフルでエネルギッシュな若者。のびのびと踊れる役」とも。

今回は4日ダルタニヤン役に加えて、5日に敵役にしてフランス王妃の恋人であるバッキンガム公爵を踊る。「ダルタニヤンと正反対。これからつくっていくので当日をお楽しみに」と話してくれた。

「三銃士」イヴァン・プトロフ(ダルタニヤン)2014年 撮影:鹿摩隆司

もう1人のダルタニヤンはバレエ団の菊地研で、彼もまた2014年公演でダルタニヤン役を初めて踊った。今回はプトロフと入れ替わりで4日にバッキンガム公爵、5日にダルタニヤンを踊る。「今回ダルタニヤンに加え、品性のある貴族の役が加わる。頭をどう切り替えるか、どう動き表現していくかが難しいところ」と話す。

菊地はこの「三銃士」にはこれまでも親衛隊やポルトス、ロシュフォールなど様々な役で参加してきた。「前回ダルタニヤン役をもらったときは本当にうれしかった。ダルタニヤンはかっこいいし、いつかやりたい、男性ダンサーの憧れの役ですから」。ダルタニヤンは冒頭から見せ場も出番も多く、群舞やソロ、三銃士たちとの踊りや恋人コンスタンスとのパドドゥなど見せ場も多様だ。「最後2人の世界になるパドドゥまでしっかり踊って、物語の世界をつくりあげたい」(菊地)。

「三銃士」青山季可、菊地研 2014年 撮影:山廣康夫

■「いつかは銃士になりたい」。男子ダンサーが目指す三銃士

フランス王ルイ13世に仕える銃士隊のなかでも、トップクラスのカリスマ的存在がアトス、ポルトス、アラミスの“三銃士”だ。バレエ団の男性ダンサーにとって“三銃士”の1人を踊ることは「憧れだった」とそれぞれ語るように、牧阿佐美バレヱ団の男性ダンサーの憧れの役のひとつは銃士なのだ。今回登場する銃士たちは数度目から初役まで多様な顔ぶれが揃う。

まずヴェテランの清瀧千晴は連日ポルトスを演じる。「今回でポルトス役は3回目。力の入れ所や抜きどころがだいぶわかってきた。原作では巨漢という設定なので、その大きさをどう表現しようかと。大きくのびのびとジャンプをするなど迫力を出していければ」と話す。原作のポルトスはムードメーカー的な味わいもある。そのファンキーな味わいも注目したい。

「三銃士」清瀧千晴(ポルトス) 2014年 撮影:鹿摩隆司

アトスはダブルキャストとなり、4日が坂爪智来、5日が濱田雄冴と、いずれも初役だ2014年公演でアラミスを演じた坂爪は「アトスはリーダー格と言われているけれど、初演から見ているとやんちゃなところもあると感じている。アラミスやポルトスとも違う、3人のキャラクターの違いを出せれば」。

「三銃士」アラミス 坂爪智来 2014年 撮影:鹿摩隆司

また濱田は「ダルタニヤンとの絡みも多く、動きも3人になったり4人になったりとスピーディー。冷静なところもあるキャラクターだと思うので、話の流れを考えながら演じていきたい」とそれぞれ意気込みを語る。

アラミス役は両日ともラグワスレン・オトゴンニャムで、彼もまた初挑戦となる。「アラミスはかっこいいロマンチスト。クールさも持ち合わせている。バトルシーンは柔らかさを出しながら演じていきたい」と話す。

“三銃士”のそれぞれの動きや個性も注目だ。

「三銃士」ダルタニャンとアトス 2014年 撮影:山廣康夫

■初バレエ鑑賞にもぴったり!物語世界を存分に楽しんで

「三銃士」は登場人物の多い作品ゆえ、例えば舞台の片隅でダルタニヤンがコンスタンスと会話するシーンで物語が展開していることもある。踊りはもちろん、主要人物の動きひとつひとつにもぜひ目を向けてみたい。またバトルシーンでは「フェンシングの剣のカチ合う音も音楽のひとつ」(菊地)だという。動きがつくり出す音楽にも耳を傾けてみよう。

最後に出演者たちに作品の見どころや観客へのメッセージを聞いてみた。

菊地は「とにかくダルタニヤンは最初から最後まで走り回っている。その疾走感も楽しんでほしい。昔に比べ、今は踊りながら頭がとても軽く冴えている感覚がある。今まで以上にやれる、やってやるっていう気概でいっぱい。子どもから大人まですべての人が楽しめる作品なので、ぜひ見に来てください」と意欲十分だ。

「日本でこの作品を上演しているのは牧バレヱ団だけ。ぜひこの機会をお見逃しなく!」とは清瀧。「ファンタジー世界でない、人間中心のドラマ。冒険や禁断の恋など、ドラマもぜひ楽しんで」と坂爪が話せば、「三銃士の3人の個性も注目です」と濱田。「誰が見ても楽しめる作品。とにかく気楽に、背筋を伸ばさず(笑)楽しんでほしい」とオトゴンニャムが言う通り、バレエに感じられがちな敷居の高さを考える必要は、この作品にはない。

間もなく上演の『三銃士』。バレエに感じられがちな敷居の高さなど気にすることはない。17世紀のルイ王朝の世界を存分に楽しもう。

取材・文・撮影:西原朋未

公演情報
牧阿佐美バレヱ団『三銃士』
■日程:3月4日(土)15:00~/3月5日(日)14:00~
会場:文京シビックホール 大ホール
出演:牧阿佐美バレヱ団
キャスト:
ダルタニャン:イヴァン・プトロフ(4日)/菊地研(5日)
コンスタンス:青山季可(4日)/太田朱音(5日)
ポルトス:清瀧千晴
アトス:坂爪智来(4日)/濱田雄冴(5日)
アラミス:ラグワスレン・オトゴンニャム
■公式サイト:牧阿佐美バレヱ団 http://www.ambt.jp/index.html