作曲家・平本正宏が自身作曲のサウンドトラックを集めたコンサートを開催
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写真提供:Tekna TOKYO
1月末にSPICEで、現代アーティストの束芋と対談をおこなった音楽家・平本正宏。電子音楽を基点に、映画や舞台ばかりでなく、さまざまなジャンルへの楽曲提供を行ってきた。また自身の企画では『OPERA -NEO-オペラ ネオ』と題して新作オペラも手がけている。そんな平本が久しぶりにコンサートを行うという。映画『少女』『さよなら渓谷』『セトウツミ』、NHKドラマ『プリンセスメゾン』、篠山紀信映像作品『digi+KISHIN』など自身が手がけたサウンドトラックを演奏する、いわばお蔵出し。さて、どんなコンサートになるだろうか。
『OPERA -NEO-オペラ ネオ』 写真提供:Tekna TOKYO
『OPERA -NEO-オペラ ネオ』 写真提供:Tekna TOKYO
『OPERA -NEO-オペラ ネオ』 写真提供:Tekna TOKYO
音楽だけでは創り出せない世界の魅力があるから、さまざまなジャンルのアーティストとコラボを行う
ーー平本さんの音楽との出会いを教えてください。
母親がクラシック音楽、特にオペラ好きで、物心ついたころから家の中によく音楽が流れていました。僕は小さすぎて記憶にないのですが、母曰く、ドビュッシーを流すと喜んで、ベートーヴェンを流すと嫌がったらしいです(笑)。一番最初の出会いは、そんな感じでしょうか。
でも、そのときの体験の影響なのか、弦楽器、ピアノ、歌の3つの音に異常に反応します。それこそ楽器なんて全くやってもいなかった小学生のころから。それらは美しいものだと信じきっているようで、いい演奏への追究欲も、良くない演奏への嫌悪も強くあります。
ーー大学、大学院ではコンピュータ音楽、電子音楽ばかりを書いていらしたと聞きました。大学では何を一番吸収し、どんな魅力を感じていらっしゃいましたか?
実は大学へは本当に行かなかったんです、4年で学部、2年で大学院と普通に卒業しましたが、しばしば留年候補だったくらい(笑)。学校に行っていない間は、本当にたくさん曲を書いていました。あと、映画、展覧会、ダンス、演劇、本、漫画と気になったものは全部手を出して、気になる人のライブやトークショーにも行って。かなりパワーにあふれていたんです。だから、大学に行くのを忘れてしまったみたいで(笑)。
ーーありがちです(笑)。
コンピュータ/電子音楽を作っていたのは、それが時代や歴史の最先端だと思っていたから。未知の世界に、未知の音楽に触れたい、それを自分の手で作りたいという欲求が強かったんです。僕の想いを満たしてくれるのはコンピュータ/電子音楽しかないだろうと。音自体を一から作れますし、曲の構造や和音やメロディ、楽譜からも解放されている。こんなに面白いものはなかったですね。一日中機材をいじって、いろいろ試行錯誤して、曲を作って。ここらへんは現在も大して変わりませんが(笑)。あと、それに加えて、大学2年のときに演出・振付家の金森穣さんから音楽を依頼されて、ダンスと自分の音楽が競演することの面白さを知ったことも大きかったです。音楽だけでは創り出せない世界の魅力を肌で感じて、他のアーティストと協働して作品を作ることに積極的になりました。だから、大学時代は本当にがむしゃらに、作曲をメインツールにやりたいことをしていた感じです。
ーーお仕事ではアコースティックな曲作りもされていると思うのですが、それとコンピュータ音楽、電子音楽の違いはどこに感じていますか?
アコースティックな曲に関しては、すこし覚めた目線を持って作曲しています。メロディのある曲は世界中にさまざまなバリエーションがありますから、自分が作曲する上で、聞いたことのないメロディや新しい和音の発明など、新しさの探究には労力を割きません。それをやり始めるとドツボにハマってしまうので(笑)。でも、メロディや楽器が持つ、それ以外では成し遂げられない美しさがあるのは間違いない。だから、アコースティックな曲を書くときは、その美しさをいかに出せるか、をテーマにどの曲も作曲しています。自分が美しいと信じきれる曲を書く感じです。
一緒に仕事をしたいと言ってくれた人の世界をまるごと引き受ける
写真提供:Tekna TOKYO
画像提供:Tekna TOKYO
ーー平本さんは本当に多彩なジャンルの方々と仕事をしていますね。それぞれ演出家であったり、監督であったり、作品のコンセプトを受けての作業かと思いますが、平本さんの中でいちばん大事にされていることはなんですか?
一緒に仕事をしたいと言ってくれた人の世界をまるごと引き受けることです。基本的には、どういう曲にしたいとか、どの場面で曲をつけたいとか、音楽に対してイメージしていることをすべて受け止めて、それ踏まえたうえで、その上をいく音楽や発想を示します。これは相手のジャンル関係なく必ずやっています。というのも、相手の考えから出発する方が、僕が面白いんです。僕に音楽を依頼してくる人は、音楽に詳しい人もいますが、基本音楽の専門家や作曲家ではないので、その発想や視点は僕とは違います。そうすると、こちらにとっては意外なアイデアも多く、それを出発点にすると、いままで書いたことの無いような曲が作れるんです。
ーー具体的には?
最近だと、映画『セトウツミ』でアルゼンチンタンゴ、映画『少女』でバロック調の音楽をお願いされたことなどがいい例で、どちらのジャンルも普段から聞きますが、自分で真剣に作ったことはほとんどなかった。だから、まずはそれらの音楽を勉強して、核となる要素を知ってから作曲をしました。その作業はとても刺激的で、自分の音楽の世界が拡大していく興奮を得られます。
あと、そういう依頼の中で唯一違うのが写真家の篠山紀信さんで、「好きにやっていいよ」としかおっしゃらない。しかも、もう10年以上、篠山さんの映像作品digi+KISHINの音楽を作曲していますが、ほとんど注文されたことがないんです。これはもう常に真剣勝負、前回の上を行く曲をいつも求められるので、大変です(笑)。来月発表の新作もすごいです、音楽も自信作です。
写真提供:Tekna TOKYO
お客さんと音を通じてコミュニケーションする場が重要
ーー平本さんにとって、コンサートはどんな意味を感じていますか?
お客さんと音を通じてコミュニケーションする場、作曲家には重要な時間だと思っています。最近は作曲ばかりしていて、コンサートをしていなかったんです。そうすると自分の作った曲に対する生の反応を知ることができていないから、なんか身体がムズムズしてきて(笑)。自分でいい曲だと思っているものしか残していないので、それはやっぱり生で聞いてもらいたいですし、きっと楽しんでもらえるはずと思っている。コンサートをすれば、それを目の前で見られるわけですし、そのコンサートの空気から刺激をもらって次の曲が生まれる可能性だってあります。本当に、なんでこんな長い間コンサートしなかったのでしょうかね、僕は(笑)。
ーー早稲田奉仕園スコットホールは素敵な空間ですね。平本さんにとっては空間がすごく重要であるような印象があります。あるとしたら、それはどんなことですか?
今回のコンサートを企画するにあたって、コンサートホールだけは避けて、会場を探しました。というのも、演奏する曲目は映画やドラマのサウンドトラックなので、聴いているうちにその曲が流れていたシーンを思い出したりするかもしれない。そういうときに、その思いをお客さんが受け止めやすい会場がベストだと思ったんです。そのために、空間が素敵な、ゆったり、のんびり聴いてもらえる会場で演奏したいと思いまして。いくつか候補があったのですが、スコットホールは映画『少女』の撮影見学で訪れたことがあり、日程もうまく調整できたので、ここに決めました。映画『少女』の曲も演奏するので、映画を見られた方はかなり楽しめるのではないかと思っています。
画像提供:Tekna TOKYO
画像提供:Tekna TOKYO
作曲家。音楽レーベルTekna TOKYO主宰。1983年東京生まれ。東京藝術大学大学院音楽研究科修了。2006年より写真家・篠山紀信の映像作品digi+KISHINや展覧会の音楽を担当。2013年映画『さよなら渓谷』(監督:大森立嗣)の音楽を担当。第35回モスクワ国際映画祭にて審査員特別賞を受賞する。2016年東京芸術劇場シアターイーストにて全編コンピュータ音楽によるオペラ『OPERA -NEO-』を上演。2016年映画『セトウツミ』(監督:大森立嗣)、映画『少女』(監督:三島有紀子)、NHKドラマ『プリンセスメゾン』の音楽を担当。2017年Kyoto Art For Tomorrowー京都府新鋭選抜展2017ー にて現代美術家・束芋の新作『網の中』、オープニングパフォーマンス『網の外』の作曲、演奏を担当する。その他、振付家・金森穣、デザイナー・奥村靫正、演出家・前川知大など、さまざまな分野の精鋭とのコラボレーションや、蜷川幸雄演出の舞台作品『ジュリアス・シーザー』への楽曲提供など幅広い活動を行う。
取材・文:いまいこういち