君はバズマザーズというロックを知っているか? ほとんど取材をうけてこなかった彼らをSPICEで直撃
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バズマザーズ/山田亮一
バズマザーズが、前作から約1年半振りとなるアルバム『普通中毒』をリリース。「ロックって最軽量だからどこまでも飛んで行ける」そう語る山田亮一(Gu&Vo)が今感じていること、このアルバムを届ける為にインタビューを受けるに至った想いを語ってもらった。
バズマザーズ/山田亮一
――今までインタビューをあまり受けていらっしゃらないようですが、それはバンドや山田さんのこだわりだったのでしょうか?
これはカッコつけているとかこだわりとかではなく、自分達の事や音楽を知ってもらう努力を今までした事がないだけなんです。僕らはまだ沢山の人には知られていないと思いますが、かといってアンダーグラウンドな事をやっているわけではなく、ポップスをやるバンドなんです。例えば、良く行く立ち飲み屋で飲んでいるおっさんのような人達に向けて歌っていたりもするんですが、そういう人たちはYouTubeも見ないだろうし、音楽を聴かない人が多いじゃないですか。だから、好きになってもらうための音楽は作れないけど、知ってもらうための機会は放棄してはダメだと思って。平たく言うと「売れたい」という事です(笑)。「売れる」ための音楽を作ることができる人もいると思うけど、自分には無理で、でも知られていないだけで本来好きになってくれたはずの人に、僕らの音楽を届ける事ができていないのはもったいないと思いました。
――同じように、そういった音楽をやっているけど、まだまだ知られていないミュージシャンは多いです。
僕らはライブハウスを中心に活動していますが、対バンで一緒になるミュージシャンの中にはピュアな天才が沢山いますよ。客観性のなさとか融通の効かなさが、その天才が世に出る邪魔をしているのかもしれないと思ってます。俺達も、自分達の才能がアンダーグラウンドのものだとは思っていないんです。
――世の中にいい音楽やミュージシャンを紹介、教えてあげるというのが、僕らの役割だと思っています。バズマザーズのオフィシャルサイトには「リリック」というタグがあって、あれはやはり言葉をきちんと伝えたいという強い思いからですか?
全部の作品ではなく、MUSIC VIDEOがあるものだけですが、僕が活舌が良くないという事もあってそうしています。でも、活舌が悪いから何を歌っているのかわからないと思われがちですが、あえてやっている部分もあるんです。僕はボブ・ディランが大好きなんですが、小学生の時CMで「ミスター・タンブリン・マン」を聴いたのを今でも覚えていて、それをキャッチーなポップスとして聴いていました。ただ英語なので当時は何を歌っているかわからなかった。でも歌詞カードを見ながら聴いた時に、英語が断片的にリンクしてくる時ってあるじゃないですか。その感覚って、日本詞で歌ったもので聴き取りつらいものでも、歌詞を見ながら聴けば作り出せるのかなと思って。
――なるほど。
例えば尾崎豊の「I LOVE YOU」はアイ・ラヴ・ユーという三音だからこそ良くて、そこに「愛してる」という言葉を入れてもハマらない。英語詞の方が、“言葉が持っている意味の匂い”が出ると思います。でも曲を作る人は言葉の意味を伝えたいという想いが強すぎて、メロディの風味を殺してしまっている事も多いと思います。だから俺たちは、歌詞カードを見ないと何を歌っているのかわからないバンドでいたいと思っているんです。歌詞カードを見た時のひらめき、驚きはあると思うので、それを大切にしたいんです。今回のアルバム『普通中毒』に「せっかちな人の為の簡易的な肯定」という曲があるんですが、その2番の歌詞に《旧型はかく語りき》という言葉があります。俺はそれを「キュウガッタカッタリキ」という風に歌っていて、周りからは「相変わらず活舌悪いな」って言われました。でも英語にも発音しない音がたくさんあるのと同じように、それは日本語にもあってもいいと思っていて。何を歌っているのかがわからなければ歌詞カードを見ればいいのかなと。歌詞を作るというのは、音楽のアレンジをする事の一部だと思っていて、その工程として一番最後にやります。僕はイデオロギーとか思想は全くといっていいほどないんです。でもファンの中には思想家と思っている人がいるみたいで、でも実は夢想家でしかなく、歌詞は一番大事なものだと思いますが、自分の中では遊びに近い感覚で書いているのかもしれません。
――山田さんは“平成の阿久悠”と資料に書いていますが、確かに山田さんが書く詞は、職業作家が書くそれのような、濃密さというか様式美を感じる事ができます。その言葉が独特の“リズム”を生み、それがメロディと相まって、バズマザーズのオリジナリティのある音を作り出していると思います。
もちろん計算はしていません。やってもできないし、本当に僕らは客観性もないですし。
――潔い感じがします。
よく言えばそうかもしれませんし、何をすればいいかわからなかったというのが本当のところです。
――でも音と言葉から伝わってくる衝撃は、大きいです。
素直に嬉しいです。
バズマザーズ/山田亮一
――“平成の阿久悠”と“場末ポップバンド”という言葉が、逆にキャッチーです。
若い人たちからすると、そういう事を言うと「アングラな感じを狙っているの?」という感じがてしまうようで、でも全然そうじゃないんです。カッコつけてもないし。ロックってもっと陰湿でダサくて、しみったれたものだと思うんです。決してカッコイイものじゃない。だから“場末ポップバンド”というキャッチがしっくりきていて。
――素敵な表現だと思います。
場末のポップさってあるじゃないですか?僕も若い頃は、場末の立ち飲み屋さんで飲んでいるおっさん達を軽蔑していたのかもしれませんが、今は気づけば自分もそこに足を踏み入れていて。最初の話にも出ましたが、そういうおっさん達はロックなんかに興味がないだろうし、ロックを聴いている人達だって、そういう人達とは最初から付き合う気なんてないだろうし。でも、例えば何かのきっかけで、おっさん達とロック好きのやつがカラオケに行って、そこでバズマザーズの歌を歌った時に、おっさんにも「聴いた事がない歌だけど、いいな」って思って欲しいし。
――うんうん。
ロックって最軽量の音楽だから、どこまでも飛んでいく事ができると思うんです。そういう意味では自分達の音楽が飲み屋でも流れていて欲しいです。よく思うのが「俺の事なんて放っておいてくれ」って気分で、知らない街や夜の街を歩く事がありますが、「でも無視はしないで」という感じ(笑)。別に一人で飲めばいいのに小料理屋のカウンター席に座ったりして、結局かまって欲しいという面倒臭い感じ(笑)。淋しくて仕方ない時に、赤ちょうちんの明かりを見つけると、なんか救われた気分になるじゃないですか?そういうロックバンドになりたい。
――灯、みたいな、ついつい引き寄せられてしまう感じですか?
そうですそうです。
――なぜ、歌おうと思ったのですか?
言葉を発信したかったんです。それには色々な方法があって、作家になる、お笑い芸人になる、ロックンローラーになるとか。その中で僕はロックバンドを選びました。発信する言葉ですが、曲ができて、その曲のテーマみたいなものは、メロディが「この言葉を使ってくれ」と言ってくれる時があります。曲って、右脳で作ったフィクションと、いわゆる降りてくる、聴こえてきたものの2種類あるんです。なんか俺、めっちゃカッコいいやつみたいですけど(笑)、でもそうなんです。
――フィクションも、聴こえてきたものも、やはり山田さんが張っているアンテナに引っかかったものですよね。だからこそ山田さんがどういう人間で、どういう生き方をしてきたのかが興味があって、何かのインタビューで読みましたが、死のうと思った事があったと。
僕のロックは27歳から始まっています。それまでハヌマーンというバンドをやっていて、曲がそのまま自分の中をただ通り過ぎていくだけで、努力もしなかったし、ギターの練習もしなかったんです。それでもバンドをやっていけていました。神様か悪魔が「ハマヌーンをやれ」と言っていたのだと思います。
――才能だけでできてしまっていた感じですね。
細胞でできていた感じです。そのハマヌーンを2012年に解散して、もうやりきったし何も残っていないから死のうと思いました。27歳までの人生だとその時は思っていました。でも死ぬ方法がわからない、みつからない、そうこうしているうちに27歳で死ぬ奴に選ばれなかったと思うようになって。
バズマザーズ/山田亮一
――神様に、27歳で次の事をやれと言われていたのでは?
そうかもしれないですね。でもその時は、ベースの重松(伸)の顔が浮かんで、あいつはとにかく俺の事が大好きだから「俺が死んだらあいつめっちゃ悲しむな」と思って。そんな時に元ドラムのやつが「もう一回バンドやってみようよ」と言ってくれ、その言葉に救われました。それで、半年間楽器も触っていない状況からバズマザーズをスタートさせたんです。そしてこのバンドは、僕らの音楽を聴いた誰もが「ロックミュージックって自分達の事を無視してないんだな」と思えるロックをやるバンドをやりたかった。それとバンドというのは、とにかくアルバムを作り続ける事、そう思っていたのでアルバムを作ってライブをやっての繰り返しで、取材まで頭が回りませんでした(笑)。
――コンセプトというよりもバンドとしてのテーマですね。
コンセプトって決めなくてもいいと思っています。だってその都度その都度でやりたい事なんて変わっていくし。でも一年位前に俺がいきなり「俺たちはプログレバンドになる!」って言いだして、メンバーは困っていました(笑)。2週間位で気が変わりましたが、バンドなんてそんなものじゃないですか。ロックバンドって、みんなにとってのオモチャみたいなものなので、どう思われてもいいんです。曲作って練習して、少しずつよくなっていけばいいんです。こういう事を言うと“俺たちは俺達で、周りには流されないぜ”タイプの気難しいバンドだと思われるかもしれませんが、全然そんな事はなく、こういうやり方でしかやっていけないんです。
――3月1日に発売されたアルバム『普通中毒』は、まずそのタイトルに惹かれます。
例えば曲を作る時に、イントロを作って次はAメロで……って普通はこういう構成になるよねという事が多々あるんですよね。普通って客観性の塊だと思う反面、自然にあるべき姿はどれ?という事が普通なのかもしれません。だから「普通中毒」ってめっちゃ普通でもあり、めっちゃ異常な事だと思います。そういう事をひと言で表したかったんです。今回制作している時は、曲の展開として「こうしたらカッコいいんじゃないか」という事は全く考えませんでした。曲の“あるべき姿”を引き出してあげたかったので、そういう意味で今回は“普通”のアルバムを作ろうと思っていたという事を、完成して総括した時に感じました。
――「サンダーボルト」のMUSIC VIDEOでは、「傷だらけの天使」(1974年)のドラマ史に残る名オープニングをオマージュしていますが、なんであれをやろうと思ったのですか?
MVを頼んだ人と意見が合わなくて。僕は「白い壁で、スナックっぽいところがいいんじゃないの?」って言っていたのに「廃墟風のところになりました」と言ってきて。なんでロックバンドは廃墟で歌いがちなんだ、と(笑)。絶対嫌だって言いました。でも時間も予算もないし、仕方なく撮影が始まって、ドラムシーンを撮って、ベースシーンが終わって「次、山田さんお願いします」って言われた時に、だったら普通にやるのは絶対嫌だったので「じゃあ俺ショーケン(萩原健一)でいくわ」って言ってやったという。廃墟風なのがなんとなくショーケンぽかったと感じたというか。
――ちょっとやさぐれてる感じ、とか。
そうです。「廃墟で撮るなら演奏とかじゃなくてショーケンで行くから」と。本当は「傷だらけの天使」のオープニングを完璧にオマージュしたかったのですが、その場で思いついた事なので、付け焼刃的な感じにはなってしまいましたが、あのMVの中では気に入っているシーンです(笑)。
――牛乳を久々に飲んだとおっしゃってましたが。
そうなんですよ、元々飲めないのに久々に飲みました。でもショーケンは瓶の牛乳の蓋を口で開けて飲んでいたのに、僕は紙パックで……仕方ないんですけどね。あのシーンを観た人に「俺は全てを食い尽くしているんだとか、そういう意味があるんですか?」と言われて「いやそういうことじゃないんですけどね。ショーケンのパロディをやっているだけで」と、ギャグを説明する事ほど恥ずかしい事はなかったです(笑)。
――「スクールカースト」を聴くと、イントロはプログレで、でも非常にキャッチーなメロディで、J-POPのような親近感がありますが。
あの曲は人に嫌われるものを作ろうと思いました。青春時代の歌って、讃歌っぽいのとそうじゃないタイプとありますが、俺はそのどちらでもないと思っていて。青春時代ってほぼ全員が「みんな俺の事好きになって! さもなくばこの場で皆殺しだ」という、訳のわからない躁鬱状態なので、もっと気持ち悪い歌があるべきなんです。それを表現したかった。自分が当時好きだったのが、プログレ、パンク、歌謡曲だったので、それをそのまま一曲に入れました。曲の構成も色々考えてプログレっぽいイントロから入って、そのまま行くと思わせておいて、全然違う展開、別の曲になっている。音楽を表面からしか聴いていないやつからすると「台無しじゃん」という展開にしたかった。思い通りになると思うなよ!という意味を込めて(笑)。
バズマザーズ/山田亮一
――その天邪鬼嫌いじゃないです。
あの頃はよくわからないとんでもないエネルギーがあったし、誰も歌っていない事を歌いたかったんです。「なんでこんなダサい事言うの?」って言われても全然構わなくて「でも今まで誰かこういう内容を歌った、言った事ある?」と思っていますし。
――「スクールカースト」は初めてのEP盤でしたね。
それまでアルバムしか作った事がなかったので。EP、つまりシングルというのは、みんなにわかってもらえるもの、つまりヒット曲を作らなければいけないんだなと思った時、「俺にはその能力はない」と思いました(笑)。それで間口を広げるのがヒット曲なら、極端に間口を狭めればいいんだと思って。残念ながらそこしか狙えなかったです。そこを狙ったのがカッコいいとか言われると、困るんですよ(笑)。そこしか狙えなかったから。俺は自分の事をヒット曲を持たないヒットメーカーだと思っているので。人が歌う曲ならヒット曲が書けるかもしれませんが、自分が歌う曲となると、歌も下手だし、耳障りがいい声でもないですし、情けないけど狭くするしかなかったんです。本当は「翼をください」のような誰からも愛されるような曲を書きたかったです(笑)。
取材・文=田中久勝 撮影=三輪斉史
バズマザーズ/「普通中毒」
HZL Record
2. サンダーボルト
3. せっかちな人の為の簡易的な肯定
4. 月と鼈
5. ソナチネ
6. 傑作のジョーク
7. 吃音症
8. スクールカースト
9. 熱帯夜
10. 豚の貯金箱
11. ナイトクライヌードルベンダー