土田英生のコメント付き! MONO初の音楽劇『ハテノウタ』初日レポート

2017.3.9
レポート
舞台

MONO『ハテノウタ』大阪公演より [撮影]井上嘉和


「99歳、今も青春」な高校同窓生たちの“果て”をめぐる群像コメディ。

テンポのよい会話の中から、現代の社会のムードや人間のネガな面を浮き彫りにしていくコメディが人気の京都の劇団・MONO。新作『ハテノウタ』全国ツアーが、3月4日の大阪公演を皮切りに始まった。終演後に聞いた作・演出の土田英生のコメントをはさみつつ、その様子をレポートする。

舞台となるのは、学校の教室を模したカラオケボックス。すでに40代ぐらいの男たちがいて、その会話から高校の同窓会のメンバーが集まるのを待っていることがうかがえる。しかし学生時代の話が出てきた時に「80年も前のことだもんなー」という言葉がサラリと出てきて、思わず「?」となる。

さらに女子たちが合流すると、彼女たちはどう見ても20代ぐらい。どうやらこの時代の日本では、老化を遅らせる薬「エバ薬」が一般的になっていること。その効果は、性別や服用量などで個人差があること。薬の効果で、彼らは全員99歳を迎えていること。そして100歳になる人は法律によってある施設に入らねばならず、その第一号となる尼子(金替康博)が同窓会を呼びかけたこと…と、この物語の基本となる情報が、ごく普通の会話の形で一気に語られ、観客はそれを頭に置いた上で、この奇妙な同窓会の様子をのぞき見することになる。

MONO『ハテノウタ』大阪公演より [撮影]井上嘉和

外見こそ若いけど、身体機能や嗜好は割と年相応というギャップから生まれるおかしさや、80年も前の曖昧きわまりない記憶を呼び起こそうとするドタバタなど、MONOの最大の特長であるナチュラルな笑いが相変わらず光る。さらに今回は、カラオケで歌われるオリジナルの音楽が笑いに一役買っている。歌詞の内容が原因で気まずい空気が流れたり、歌のリズムと動きが微妙にリンクするシーンがあったりと、これまでのMONOにはなかったおかしみが生まれていた。

今回はMONOで音楽劇をすることが一番大きな試みでしたけど、暗転が一度もなかったり、内面と肉体がバラバラの役柄を演じたりと、これが初めての挑戦となることが意外と多い芝居になりました」とは土田英生。確かに今までのMONOは、暗転で時間の経過を示唆し、幕ごとに人物たちの関係性がガラリと変化していくことがドラマの大きな効果を生んでいた。今回のように90分間リアルタイムで、関係性の変化をギュッと濃縮して見せるスタイルは「今回脱稿に時間がかかった、一番大きな原因(苦笑)」と語るほど苦労させられたそうだ。またどのように演じれば、外見はそのままでも全員が99歳という説得力を出せるか? ということにも試行錯誤させられたそうだが、「外見が若いままだと、意外と精神面も極端に年を取らないのでは」と思い至り、随所で年寄りくさいエッセンスを出すレベルにとどめたそうだ。

物語中盤、女子の中で一人だけ見た目年齢が大きく異なる陸(浦嶋りんこ)が現れた辺りから、少しずつ不穏な影がチラつき始める。様々な理由で皆がボックスを出たり入ったりし、その場に残った人たちが、少人数だからこそ明かせる本音や事実をポロッともらし、新たな問題やわだかまりが次々に生じてくる。特にエバ薬に反対していたある教師の話題になると、それぞれが先生に対して80年間抱き続けた後ろめたさや疑問が吹き出していき、次第に自分たちの生き方や、薬の登場によってなし崩しに決まった今の社会制度を省みることになり……。

土田英生MONO『ハテノウタ』会見にて) [撮影]吉永美和子

ラストでは結局全員が「最後だから」と気を取り直し、陸が皆の思い出の歌を歌う(浦嶋の美声!)という、MONOの王道である寂しいけど希望のある終幕を迎える…ように見せかけて、舞台の端々では「未来のない彼ら」を象徴するような小さな出来事がさりげなく散りばめられる。土田自身「観客にどう受け止められるかが、不安であり楽しみ」と語るように、最近のMONOの作品とはちょっと異なる余韻が残る舞台となった。

同調圧力が強まる現代の日本を、弥生時代の人々の姿と巧みに重ねた前作『裸に勾玉』と比較すると、一見風刺色はそれほど強くは感じられない。しかし土田が「世界全体が、人々の管理を強める方向に向かっている」という今の風潮を意識して本作を書いたことを頭に入れて観ると、現代社会への危機感と、未来を自分の意志で決められることのかけがえのなさを、これまでにないほど感じられるかもしれない。大阪公演の後は、北九州、四日市、東京の3ヶ所で上演。

公演情報
MONO『ハテノウタ』
 
《大阪公演》※公演終了
■日程:2017年3月3日(金)~7日(火)
■会場:ABCホール

 
《北九州公演》
■日程:2017年3月11日(土)・12日(日)
■会場:北九州芸術劇場 小劇場

 
《四日市公演》
■日程:2017年3月18日(土)・19日(日)
■会場:四日市市文化会館 第1ホール舞台上特設ステージ
 
《東京公演》
■日程2017年3月24日(金)~29日(水)
■会場:東京芸術劇場 シアターウエスト

 
■作・演出・出演:土田英生
■出演:水沼健、奥村泰彦、尾方宣久、金替康博(以上、MONO)/高橋明日香、松永渚、松原由希子/浦嶋りんこ 
■公演特設サイト:http://www.c-mono.com/hatenouta/