金子 平(クラリネット) 触発し合いながら生まれる五重奏の妙味
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金子 平(クラリネット)
金子平は、リューベック国立音大でザビーネ・マイヤーに学び、当地の楽団を経て2013年から読売日本交響楽団の首席奏者を務める、クラリネット界屈指の名手。彼は3月、紀尾井ホールの新シリーズ「Quartet Plus」で、実力派の誉れ高いウェールズ弦楽四重奏団[﨑谷直人、三原久遠(共にヴァイオリン)、横溝耕一(ヴィオラ)、富岡廉太郎(チェロ)]と共演し、クラリネット五重奏の醍醐味を披露する。
両者は08年、難関のミュンヘン国際音楽コンクールで共に3位を獲得した際、「現地で食事して」意気投合。14年以降モーツァルトの五重奏曲を3回共演し、録音も行っている。
「彼らと共演して、出だしからこれまでとは違うと感じました。真直ぐな音が内に熱さを秘めながら奏され、望む音楽がストレートに伝わってくる。緊張と緩和といった波長が自然に合うんです」
今回の1曲目は、モーツァルト未完のクラリネット五重奏曲変ロ長調 K.Anh.91(バイヤー補筆版)。同曲の生演奏は貴重だ。
「単一楽章で、サロン風の小品といった趣。優美でチャーミングな、コンサートの導入に相応しい曲です」
メインはモーツァルトと並ぶ名作、ブラームスのクラリネット五重奏曲。
「彼らとはこれまで演奏していないので、今回はぜひこれを! と要望しました。この曲は、1対4の協奏曲的なモーツァルトの作品と違って、クラリネットが内声に回るなど、完全な五重奏になる場面が多く、動いているパートの音をきちんと聴きながら、皆で1つの音色を作らないといけない。そこが難しさであり、魅力でもあります」
ブラームス晩年の枯淡の境地といわれる曲だが、彼の捉え方はそれにとどまらない。
「過度に暗く吹きたくはないのです。第3楽章の初めには、暗さを経て希望に昇華していくような明るさがあり、ジプシー風の場面や生き生きした部分もあります。私はよく映像を思い浮かべるのですが、例えば第2楽章は、ゆらゆらと揺れる雲の上を魂がふわふわ漂っているイメージ。また、弦が短調で降り、クラリネットが長調で上がる冒頭部分をはじめ、全体が短調と長調の間で揺らいでいる。かように情景変化の大きな、ブラームスの様々な人生観が反映された曲だと感じています」
室内楽は「皆が意見を出し合って1つのものを作るのが魅力」だという。
「特に全員対等に割り振られたブラームスの五重奏曲は、リハーサル時のプロセスから対等に音楽を作っていく必要があります。今回は、クラリネットが目立ちすぎず隠れすぎず出入りしていく、その微妙さを表現できればと思っています」
紀尾井ホール室内管のメンバーでもある彼は、「ホールのピュアな響きを用いて、より良い演奏を」とも語る。本番の成果が実に楽しみだ。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ 2017年3月号から)
Quartet Plus ウェールズ弦楽四重奏団 & 金子 平
3/29(水)19:00
紀尾井ホール
問合せ:紀尾井ホール
http://www.kioi-hall.or.jp/