「初演当時の衝撃を現代に」ウェールズ弦楽四重奏団が3か年シリーズ企画をスタート~﨑谷直人にきく、創立20周年への想い

2026.4.16
インタビュー
クラシック

﨑谷直人(C)Tomoko Hidaki

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今年創立20周年を迎えたウェールズ弦楽四重奏団(﨑谷直人、三原久遠、横溝耕一、富岡廉太郎)が、2026年から年2回の“定期演奏会”をスタートさせる。2026年は、モーツァルト、2027年は没後200年のベートーヴェン、2027年は没後200年のシューベルトを中心としたプログラムが予定されている。

2026年の定期演奏会では、第1回と第2回で、モーツァルトの「ハイドン・セット」(注:モーツァルトがハイドンに献呈した弦楽四重奏曲第14番から第16番までの6曲のこと)全曲が取り上げられる。

新しく立ち上げる定期演奏会のこと、そして、初年度に演奏するモーツァルトの「ハイドン・セット」のこと、創立20周年のウェールズ弦楽四重奏団などについて、第1ヴァイオリンの﨑谷直人にきいた。

ウェールズ弦楽四重奏団(C)Tomoko Hidaki

――このたび、ウェールズ弦楽四重奏団としての“定期演奏会”をスタートされますね。

これまでいろいろなホールからベートーヴェン・ツィクルスなどのシリーズの依頼をいただいてきましたが、ちょうど今年でウェールズ弦楽四重奏団創立20周年なので、自分たち発信で、やりたいことをやる場を設けようと定期演奏会を立ち上げました。

――2026年の定期演奏会(第1回と第2回)について教えてください。

デビューCD(2015年録音)に入れたモーツァルトの弦楽四重奏曲第19番「不協和音」をメインに、ハイドン・セットでまだ披露していない曲もあったので、2回に分けて、ハイドン・セット全曲を演奏します。

曲の順番は、B♭(17番)→A(18番)→G(14番)、E♭(16番)→d(15番)→C(19番)というように、調性感で決め(注:2回の演奏会とも1音ずつ調性が下がっていく)、「不協和音」が2回目の最後に来るようにしています。

――モーツァルトには20曲以上弦楽四重奏曲がありますが、今回、「ハイドン・セット」全曲を選んだ理由は?

個人的には初期の「ミラノ四重奏曲」(注:モーツァルトが16歳から17歳にかけて書いた弦楽四重奏曲第2番から第7番までに6曲)も大好きですが、まずは一番有名な「ハイドン・セット」をしっかりと表現したいと思いました。

我々はこれまで、iichiko総合文化センター(大分)、第一生命ホール、サントリーホールの『チェンバー・ミュージック・ガーデン』やレコーディングも含めベートーヴェンが中心でしたが、これからはモーツァルトが主軸になっていきます。定期演奏会とは別になるかもしれませんが、「ミラノ四重奏曲」も今後披露していく機会を作りたいと思っています。

――モーツァルトの魅力について話していただけますか。

第1ヴァイオリン弾きとしては、ベートーヴェン以上にメロディ・ラインが魅力的ですね。装飾の違いやちょっとしたバリエーションがあり、もちろん考え抜かれたものでしょうが、降って湧いてきたような自然さがあるのです。

「ハイドン・セット」は、ウェールズが一番大事にしている和声感・フレーズ感といった形式美とモーツァルトらしいメロディの美しさを融合した作品群だと思います。

僕はモーツァルトのヴァイオリン協奏曲も大好きですが、そういうメロディの美しさと我々の演奏スタイルとが合致して、モーツァルトらしさとウェールズらしさがうまく融合した演奏ができればといいなと思っています。

――モーツァルトの弦楽四重奏曲の演奏について教えていただけますか?

たとえば、第15番にしても、次に何調に行くか分からない予測不能なハーモニー展開をしていく上にメロディがしっかりと乗っています。第1ヴァイオリンを弾いていると、ハーモニーの展開に縛られながらもどこか自由さもあって、和声の縛りと旋律の自由さのバランスをどう組み合わせていくのか、そういうモーツァルトの魅力を出せるかが大切だと思います。モーツァルトは、知識とセンスの両方が必要な作曲家なので、そうできれば理想かなと思っています。

――聴き手はモーツァルトの弦楽四重奏曲をどう楽しめばよいのでしょうか?

モーツァルトの弦楽四重奏曲は、どの曲も次の展開が読めない予測不能なスリリングさと美しさが同居しています。カルテットを聴きに来る方はクラシック通の方が多いと思うのですが、モーツァルトの当時のこの曲を初めて聴いた人々が味わったであろう衝撃を、我々の演奏で再発見してもらえればうれしいと思います。当たり前に演奏される曲たちだからこそ、奇をてらうのではなく、新しい視点や発見が我々にも必要ですし、お客さまにもそれが新鮮に映ればよいと思っています。

――ハイドン・セットのそれぞれの曲の魅力を教えてください。

第17番「狩」は、すごい名曲ですよね。この曲の下降する音型が、我々がこれまでたくさん演奏してきたハイドンの作品1-1がベースになっているので、今回のハイドン・セットの演奏会の最初に持ってくることにしました。

第18番は、今回初めて弾きます。合わせ(リハーサル)がこれからで、どうなるのかな。楽しみです。

第14番「春」は、ウェールズが2008年のミュンヘン国際コンクールのセミファイナルで弾いた思い出の曲で、それからずっと弾き続けています。個人的にも、あのときすごくがんばった思い出があります。とても大事に思っている曲です。

――2回目の演奏会(第16番、第15番、第19番)は、モーツァルトのシリアスな面が出るプログラムになっています。

第16番は、ウェールズとしては、今回初めて弾きます。出だしをどう作るか、楽しみです。次に何が起こるかわからない、この頃のモーツァルトの独特の雰囲気があります。「不協和音」もしかりですが。

第15番(注:6曲のなかで唯一の短調の作品)は、何度も弾きました。一番好きかな。複雑な展開をして、モーツァルトの天才的かつ、明るいのとは違う、ダークな一面がみられます。音楽史的にも重要な曲だと思いますし、何度弾いても新しい発見があります。大切にしていきたい曲です。

第19番「不協和音」は、2015年に、今回の演奏会と同じHakuju Hallで初めてのアルバムをレコーディングしたときの曲です。我々にとって思い出深いターニング・ポイントの曲。このハイドン・セットのチクルスの最後に持ってきました。

――ウェールズのモーツァルト演奏はこの20年で変化しましたか?

やっぱり長年一緒にやっていると、「ウェールズだったらこう弾く」というような我々の中でのマイ・ルール、阿吽の呼吸みたいなものが自然とあるんですけど、第1ヴァイオリン目線でいうと、できることなら、それプラス、良い意味で少し解放されたような、より自由に弾けるようになれたらいいなと思います。

「不協和音」のCDは今聴いてもすごく納得しますし、腑に落ちる演奏をしているのですが、そのルールのなかでより一皮二皮むけて、自分のなかで自由度を増して弾けたらいいなと思います。それをモーツァルトでやるのは難しいことなのですが。

――ウェールズ四重奏団創立20周年の感慨はいかがですか?

歳とったなと思いますね(笑)。2008年のミュンヘン国際コンクールで3位に入賞したのは、東京クヮルテット(注:1970年第1位)以来の入賞でしたが、近年は、カルテット・アマービレ(注:2016年第3位)やクァルテット・インテグラ(注:2022年第2位)のような若手も出てきています。自分たちが必死になっていた20年前と比べて、日本の室内楽シーンはだいぶ変わりましたね。今は、ソロを勉強する子も、カルテットをやったりしています。時代を感じますね。

僕はザハール・ブロン先生のもとでソロの勉強をたくさんしていましたが、帰国後、幸いなことにこのカルテットを組めて、キャリア転換といいますか、ソロから室内楽やオーケストラに向かうことができました。ウェールズを組んだ時は19歳。我々が、今の子たちがソロを勉強しながらカルテットをやるのも当たり前、という状況を作る、ちょっとしたキッカケになったのかもしれません。

それから、いつなくなってもおかしくない状況で、オーケストラをやりながらでも(注:﨑谷は元神奈川フィル・コンサートマスター、三原は東京都交響楽団、横溝はNHK交響楽団、富岡は読売日本交響楽団に所属)、地道に活動してこられたことは、少しは誇りに思っていいのかなと思います。弦楽四重奏を続けるのが難しいなか、ウェールズらしい20年間を過ごしてこられました。

ウェールズでしかできない表現、この演奏はウェールズ、というスタイルが確実にあると思うし、それが僕の音楽のベースになっています。でも逆に、それがすべてでもありません。いろんなピアニストとリサイタルやレコーディングをしたりすると、共演者によって、自分だけ、あるいはウェールズでの演奏だけでは、浮かばない発想も出てきます。いろんな人と弾けているのは良い意味で差別化されていますが、ウェールズで第1ヴァイオリンを弾くときは、ベースに帰るという感覚があります。

――﨑谷さんにとって、弦楽四重奏とは?

弦楽四重奏というのは、どうやって取り組むかによって変わるジャンルなんですよ。その場で組んだ人たちと弾く弦楽四重奏と自分たちが継続して演奏している弦楽四重奏では、表現が全然違う。何年、何十年も、良いこと悪いこと一緒に経験して、いろんな曲を共有して、本番を重ねてきた弦楽四重奏は、ちょっと他とは違います。たまに他の人たちと弦楽四重奏を弾くと、こんなに楽かと思う時もあるんですよ。

弦楽四重奏は「音楽の黄金比」とか「オーケストラの原型」とか言われますが、果たしてそんなものでしょうか。僕はそんなに浅いものではないと思います。ウェールズでもそうですが、本気で取り組んだ弦楽四重奏は、良くも悪くも正解の幅が狭く、針の穴に糸を通すようなすごく繊細な作業をしています。そしてそれを経た先に自由があれば、そんなに良いことはないと思います。

自分のなかでは、ウェールズがあるから、そのクオリティがあるから、他の人たちとの演奏で自分が解放され、またそれをいい形でウェールズに還元する、というサイクルにいます。

――最後に今回の定期演奏会へのメッセージをお願いいたします。

今回はモーツァルトなので、ある意味聴きやすいかもしれませんが、そうではない、本当のモーツァルトの斬新さ、当時の音楽史的なインパクトを現在でも再発見してもらえるような演奏をしたいので、そのあたりを楽しんでいただけるとうれしいです。

取材・文=山田治生

公演情報

『ウェールズ弦楽四重奏団 定期演奏会』
 
日程 2026年4月26日(日)14:00開演(開場 13:30)
会場 Hakuju Hall
 
出演者
﨑谷 直人(vn)       
三原 久遠(vn)       
横溝 耕一(va)       
富岡 廉太郎(vc)       
 
曲目
※曲目は公式サイトをご確認ください。
※都合により曲目・曲順などを変更させていただく場合がございます。
  • イープラス
  • 﨑谷直人
  • 「初演当時の衝撃を現代に」ウェールズ弦楽四重奏団が3か年シリーズ企画をスタート~﨑谷直人にきく、創立20周年への想い