松本幸四郎、市川染五郎に見守られ、金太郎も実感『高麗屋三代襲名』《口上スチール》撮影を篠山紀信が強力サポート
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高麗屋三代襲名 口上スチール撮影
3月29日、松本幸四郎、市川染五郎、松本金太郎の高麗屋三代は、それぞれ二代目松本白鸚、十代目松本幸四郎、八代目市川染五郎の襲名を控え、《口上スチール》の撮影の模様を公開した。
史上初、歌舞伎座の舞台をスタジオに
《口上スチール》は、襲名披露興行の看板、ポスター等に使用されるメイン写真だ。通常はスタジオで行なわれるものだが、今回は歌舞伎座の舞台にて撮影された。来年開場130周年を迎える歌舞伎座で初めての試みだという。関係者が見守る中、歌舞伎座の舞台には、金屏風を背に列座する幸四郎、染五郎、金太郎。シャッターを切るのは日本を代表する写真家・篠山紀信だ。
(左から)松本金太郎、市川染五郎、松本幸四郎
一役一役に感謝を込めて
松本幸四郎は、三世代同時の襲名を控え「それぞれが今の名前との別れ年となりましたが、幸四郎と言う名前で心おきなく悔いのないよう、感謝の気持ちを込め一日一日、一役一役を一生懸命務めさせていただきます」と語る。自身が幸四郎の名を継いだ前回の三代襲名について訊かれると、「父は襲名の翌年に亡くなりましたが、今にして思うと、自分の、そして息子と孫の歌舞伎に命を懸けていた。その頃はあまり親孝行ができなかったと思っているが、今回の襲名でやっと少し親孝行ができたかなと感じる日々」と目を細めた。
松本幸四郎
歌舞伎役者であり続けること
「来年名前は変わりますが、変わらず歌舞伎役者でありつづける」と語るのは、市川染五郎。名前と同時に紋が変わることにも触れ「もちろん柿(色)の裃に鉞(まさかり。髷の型)ではありますが、(四ツ花菱に加え)うちの場合は名前で紋が変わります。これまでの三ッ銀杏の紋への思いもありながら、新た(な名前と紋)になることで、どれだけ色んな力、覚悟をつけられるのかということを今日多少ですけれども実感しております」と、言葉ひとつひとつを丁寧に選び出すように語った。さらに前回の襲名をふり返っての感想を求められると、「後ろ向きと捉えられるかもしれませんが」と断りを入れた上で「色んな方が亡くなりました」と切り出した。
「幸四郎になることを目標にしたことは一度もありません。歌舞伎役者で有り続け、憧れの役を務める、それに向かう道に(襲名が)あったと思い、幸四郎になる覚悟を決めました。36年前にいた、今は亡くなってしまったたくさんの方たちに出会い、教わったことが、自分の中には生きています。ここでそれをご披露するのが、この襲名の役目ではないかと思っています」
市川染五郎
美少年との噂にも、冷静、知的な沈黙
金太郎は「来年の1月に、八代目市川染五郎を襲名いたします。昨年の会見の時はまだ実感がわかなかったんですけれど、今日、この口上の写真を撮って少し実感がわいてきました」と挨拶をした。美少年と噂されていることについてコメントを求められると、金太郎は表情はほとんど変えることなくわずかに首を傾けた。そのまま口を開くことはなく、父の染五郎が「まあ、気分悪くないよね」と場をつなぎ、和ませた。
松本金太郎
篠山紀信絶賛の歌舞伎座の設備と技術
篠山紀信は、冒頭で「金太郎を襲名することになりました」と挨拶し笑いを誘った。坂東玉三郎や片岡仁左衛門を始め、名だたる歌舞伎役者の撮影を手がけてきた篠山だが、松本幸四郎には特別な思いがあるという。篠山が初めて歌舞伎役者を撮影したのが、50年前の整髪料のCMだった。その時のモデルがGパンで馬にまたがりギターで歌う松本幸四郎(当時、六代目市川染五郎)だったと語る。それを縁に『ラ・マンチャの男』の初演時のポスター、結婚式など、人生の節目、節目で撮影を手がけてきた。37年ぶりの高麗屋三代同時襲名に立ち会う今回、「光栄です。感動しています」と声を弾ませた。
また、スタジオとは異なる環境での撮影にあたり篠山が絶賛したのが、歌舞伎座の舞台照明の設備とスタッフの技術だった。「ほんと上手!」と場内をぐるりと見渡すと、金屏風でも反射に困ることなく、「あえてこのまま撮影しました 」と語り、準備してきたライトも使う必要がなかったことを明かした。
染五郎に見守られ、幸四郎に背中を押され
会見前や準備の際、染五郎が金太郎を気にかけ、言葉をかけたり袴や椅子の位置を整えてやるシーンが幾度か見られた。幸四郎も、金太郎について「台詞はよく喋るのですがこういった場ではまだなかなか…。長い無言の状態は不気味でしたが(笑)、彼なりに言葉の重さに責任を感じているのでしょう」と助け船を出し「非常に知的で冷静な目をもっていて、我々の世代とまったく違う。そこが将来俳優としてプラスに働いてくれたらおもしろい。金太郎の初お目見えでは手を引いて初舞台へと参りました。八代目染五郎の襲名では、金太郎の背中をぽおんと押して『あとはひとりで、自分で歩いておいで』という気持ちでいます」と期待を込めた言葉で締めくくった。
襲名披露興行は、2018年1月「寿 初春大歌舞伎」(歌舞伎座)、2月「二月大歌舞伎」(歌舞伎座)を皮切りに、その後も2年に渡り全国で2年間に渡り行われる予定。
取材・文・撮影=塚田史香