中村倫也「この夏は千葉哲也の『糠漬け』になりたい」~舞台『怒りをこめてふり返れ』トークイベント
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水谷八也、中村倫也、千葉哲也
4月2日(日)、新国立劇場オペラハウス・ホワイエで舞台『怒りをこめてふり返れ』のトークイベントが行われ、翻訳の水谷八也、演出の千葉哲也、そして主演の中村倫也が出席し、作品の時代背景、演出、役作りなど、本作の舞台裏が垣間見えるような、真剣かつ楽しいトークが繰り広げられた。
まずは水谷から作品の背景について「この作品が生まれた1950年代は演劇が変革する時代。イギリスの演劇はそれまでは貴族の称号が付く人物が書く上の階級から見た世界観の作品ばかりだったが、ロイヤル・コート・シアターという新劇場を手に入れたイングリッシュ・ステージ・カンパニーという国立の新劇団が劇作家を公募した中に、貴族でもないジョン・オズボーンの『怒りをこめてふり返れ』があった。本作は、変革の時代を映し出し凝縮した作品であり、確実に現代に繋がりが見える作品」と説明し、演出の千葉に期待(プレッシャー!?)を寄せる。「千葉さんはこういう風体でこういう態度だけど非常にまじめなんです」
水谷八也
千葉は「初めて(脚本を)読んだときは『荒っぽいな』と感じた。時代を知っていくとなんとなくわかるが、とはいえ時代考証を中心に進めていっても「こういうホンがありました」と言う作品になりがち。シェイクスピア作品にしろ、ギリシャ悲劇にしろ、『時代は違うけど中の人間はそう変わらない」。人間としてちゃんとそこにいるかという点を今探っています』と語る。
千葉哲也
「最初はもう何を言っているのか、訳がわからなくて。ずっと喋っているんですよ、ジミーは。もう黙れ!って思いました。15ページ読んでは、飲み物を取りに行ったり、風呂に入ったり寝ちゃったりしてましたね」と言い出したのは中村。「字面だけで観ると身近な事じゃないことも出てくる。階級や大英帝国解体とかも僕らの身近にはない事。読み進めるのに苦労しました。でも何回か読んでいるうちに、不器用な男が何かを手に入れるため、自分を知るために汗をかいている物語なのかな?と思うようになって。人間ドラマとして作っていけば2017年に生きている僕らにもつながるproject!(ここだけ発音よく)になるのでは」と感じ取っていた。
中村倫也
早くもキャストで集まり本読みをしたそうだ。「中村(倫也)、中村(ゆり)、浅利(陽介)、三津谷(葉子)」のメンツでやった手ごたえについて、中村は「家で自分一人、脚本を読んでいることに限界を感じていました。たった一言、ゆりちゃんの声で受け取れるイメージというものがあって、感情の変化が起きましたね。本読みをしたことで見えてきたことがたくさんあって、やってよかったと思います」とコメント。また座組みについては「このメンバーだったら楽しいだろうな。いっぱい甘えよう、セリフが真っ白になったら浅利くんにふろうと思います(笑)」と言い観客を笑わせていた。
中村から見た千葉の印象は「見て面白くて、飲んで人柄がいい人。表現者としておもしろい。千葉哲也をもっと知りたい。この夏は千葉さんの糠漬けになれるように、手汗をしみこませてもらいたい」と絶賛すると、「僕のほうが(…教えてもらいたい)」と千葉が照れまくっていた。
千葉哲也
中村倫也、千葉哲也
トーク後半では、「昨今、わかりやすい、理解しやすいものが増えている」という話にも。
「せっかくお金を払っているんだから、少しでもわかりやすくしてあげないと、ってなっているが、せっかくお金を払っているんだからこそ、観たこともないモノを見せようって発想にはならないんですかね?」と千葉が言えば、「大学の授業でもありますね。授業をわかりやすくしてどうするんだ、生徒に疑問を投げかけることこそ大事なことなんじゃないかな?」と水沢。
演劇も同じで、観客に刺激を与え、時には疑問を投げかけ、心を動かすことこそが演劇であり劇場という場所では?と言う話に観客が興味深く聴き入っていた。
水谷八也、中村倫也
水谷八也、中村倫也、千葉哲也
「翻訳劇をやるときは人種・宗教・階級・セクシャリティが壁」と語る中村。といいつつも「演じる上ではそんなに意識していないかも。いち役者にできることは目の前で起こっていることに反応して、役の思惑、誰に、何をさせてくて、何を渡して、どう反応していくかってことだけかな」
「この作品はセリフ、セリフ、セリフの連続ですが、そのセリフの背景にも誰に、何をさせたくて、何を渡して、どう反応しているのか、が腐るほど流れています。セリフの数よりずっと多く流れていると思います」と語る。
中村たちが演じる登場人物が、水谷の言葉と千葉の演出を受けて、どう動き出すその日を待ちたい。
※この日のトークイベント後、中村倫也にミニインタビューを敢行!お楽しみに。
水谷八也、中村倫也、千葉哲也
JAPAN MEETS...-現代劇の系譜をひもとく- Ⅻ
「怒りをこめてふり返れ」
Look Back in Anger
■会場:新国立劇場 小劇場PIT
■作:ジョン・オズボーン
■翻訳:水谷八也
■演出:千葉哲也
■出演:中村倫也 中村ゆり 浅利陽介 三津谷葉子 真那胡敬二
■公式サイト::http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/16_007983.html
あらすじ:
英国中部のある大都会の屋根裏部屋。貧しい下層階級に生まれたジミーは、妻アリソンと、同じ下層階級出身の友人クリフとの奇妙な三人の共同生活を続けていた。ジミーは、政治、宗教、あらゆる旧世代の価値観や秩序に激しい怒りをぶちまけ、さらに搾取により裕福で欺瞞に満ちた生活を送る憎むべき中産階級出身の妻アリソンにいらだち罵倒する。善良なクリフはジミーに怒りの矛先を向けられ憔悴したアリソンをやさしくなぐさめるのだった。
ある日、アリソンの友人ヘレナが部屋を訪れる。窮状を見かねたヘレナは、アリソンの父親レッドファーン大佐に連絡を取り、説得されたアリソンは実家に戻るのだが……