小栗旬、綾野剛ら“持ってる”役者と“アクション俳優”に求められる資質、アクション監督の‟権限”まで 本音がさく裂『アクションサミット』
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左から、横山誠、谷垣健治、高瀨將嗣、大島 遥、小沢和義、下村勇二、森崎えいじ、田渕景也、 辻井啓伺
3月18日、日本のアクション俳優・スタントマン・スタッフらが一同に会するイベント『春のアクションまつり』がLOFT9 Shibuyaにて開催された。同イベントで、その年の日本で最も優れたアクション俳優、スタントマン、アクション監督、そして作品を決める『第5回ジャパンアクションアワード』各賞が決定したのは以前の記事で触れたとおり。今回お届けするのは、イベントの後半に設けられた日本アクション業界の現在と未来を、スタントマンやアクション監督が本音で語るトークコーナー『アクションサミット』のようすをレポートする。同イベントに参加したアクション監督、アクション・スタントコーディネーター、俳優は以下のような面々。※敬称略
映画『るろうに剣心』シリーズ、『新宿スワンⅡ』などのアクション監督。「宇宙最強」の異名を持つアクションスター、ドニー・ イェンの作品や、多数の香港・中国映画にも参加。日本俳優連合アクション部会委員長。第1回と第3回において、ベストアクション監督受賞。
辻井啓伺
ジャパン・アクション・クラブ(JAC)出身で、『宇宙刑事ギャバン』『大戦隊ゴーグルファイブ』などのスタントも経験したベテラン。近年は映画『テラフォーマーズ』『無限の住人』など、三池崇史監督作品のほとんどでスタントコーディネート・殺陣を担当している。Stunt Japan代表。
下村勇二
映画『VERSUS -ヴァーサス-』、『GANTZ』シリーズ、『図書館戦争』シリーズ、『アイアムアヒーロー』などのアクション監督。ドニー・イェン作品にも多数参加。ユーデンフレームワークス所属。
田渕景也
映画『HK/変態仮面』シリーズアクションコーディネーター、『進撃の巨人』シリーズスタントコーディネーター、ドラマ『仮面ライダーアマゾンズ』シリーズのアクション監督などを担当。Stunt Japan所属。
森崎えいじ
映画『ガチバン』シリーズや『ヒーローマニア-生活-』、ドラマ『ナイトヒーロー NAOTO』『IQ246〜華麗なる事件簿〜』などのアクションコーディネーター。Stunt Japan所属。
横山誠
米ドラマ『パワーレンジャー』シリーズ、ドラマ『牙狼』シリーズ、映画『CUTIE HONEY –TEARS-』など多数のドラマ・映画で監督およびアクション監督、コーディネーターを担当。AAC STUNTS代表。
高瀨將嗣
ドラマ『特捜最前線』、ドラマ・映画『あぶない刑事』シリーズ、映画『ビーバップ・ハイスクール』シリーズ、『カムイ外伝』など多数作品の殺陣師。『ファンキー・モンキー・ティーチャー 2 東京進攻大作戦』『嗚呼!!花の応援団』(96年)『昭和最強高校伝 國士参上!!』など監督作も多数。高瀬道場主宰。日本俳優連合理事。
大島 遥
坂本浩一監督『赤×ピンク』や『忍たま乱太郎 夏休み宿題大作戦!の段』、NHK『バトルキャッツ』など出演の女優・スタントマン。Netflixオリジナルのアクションドラマ『マルコ・ポーロ』にスタントで参加しているほか、ドラマ『精霊の守り人』では綾瀬はるかのスタントダブルとしても活躍。『第5回ジャパンアクションアワード』ベストスタントマン部門では優秀賞に輝く。
小沢和義
俳優・監督。大林宣彦監督『姉妹坂』での映画初出演以降、北野武監督『その男、凶暴につき』、室賀厚監督『SCORE』、『激情版エリートヤンキー三郎』など多数の作品に出演。監督作には、『DOG TAG』、『SLANG/黄犬群』、第5回ジャパンアクションアワードベストアクション俳優部門で最優秀賞(山口祥行)に輝いた『覇王 凶血の系譜I』などがある。
アクションサミットは、昨年と同じく横山氏の司会で進行。アクションを得意とする俳優の台頭と“アクション俳優”に求められる資質、スタントマンやアクション監督らの作品クレジット・肩書についての問題など、トークテーマは多岐にわたった。
“俳優”ではなく“アクション俳優”に求められるもの
谷垣健治
横山:これだけ日本の最前線で活躍しているアクション監督がいるので、ちょっと真面目な話をしたいと思います。去年はギャラとか、暗い話ばっかりだったので(笑)。
谷垣:あれがよかったという話もありますけどね(笑)。
横山:どうしても愚痴は出てきますが、まずはアクション監督・殺陣師の立場から「これからアクション俳優になりたい人たちにどういうことを求めているのか」を訊きたいと思います。“俳優”ではなく“アクション俳優”に求めることは?
谷垣:今は“アクション俳優”が“アクション俳優”を続けるのがすごく難しくないですか?
横山:難しいですね。難しいし、世界中を見ても、今は(若いアクション俳優が)皆無の状態ですよね。40代ですから。30代、20代もいないです。
谷垣:世界で言うとドニー(・イェン)だったり、ジャッキー(・チェン)だったりが主演だから、その(年齢の)ギャップがある。
横山:ドニーはいくつだっけ?
谷垣:もうすぐ54歳。ジャッキーはもうすぐ63歳。30代で主演でアクション映画が作られる人って、限られてるじゃないですか。例えば、スコット・アドキンス(編注:『ドクター・ストレンジ』出演や『ニンジャ・アベンジャーズ』主演のイギリス人俳優。40歳)がやってるけど、そういう人たちに回ってくるマーケットは限られている。予算も限られてくるから、それをすごい(ビッグバジェットの)アクション映画と比べられると困りますよね。
大島 遥
横山:“俳優”についても後で話したいと思いますが、“アクション俳優”に限定すると、「ローバジェットでも頑張ってやるぞ!」という人も求められていると思うんですよ。
谷垣:そういうことだったら、「ぼくらと一緒に作れる人」がいいです。すぐ控室に戻って、言われたことだけをやるんじゃなくて。 今の中国の役者なんかそんなのばっかりですからね(笑)。そうじゃない、「共犯関係になれる人」がいいですよね。
横山:ぼくが知っているかぎり、大島は役者志望だよね? 『忍たま乱太郎』にも役付きで出てる。
大島:わりと昔の話ですけど。
横山:そういう夢が摘まれちゃう業界じゃないですか。でも、腕があればイケたかもしれない。顔とか芝居では、絶対に今の俳優に負けるに決まってますよね、“街にいないイイ男イイ女”を求めてるのが、今の芸能プロダクションですから。そうではなく技術面の話で、今なら(アクション俳優として活躍するために)どの武術を習うか、とか。
田渕:今の俳優はすごいですよ。俳優たちは俳優たちで、アクション業界と関係なく、独自のトレーニングをしているので、ちょっと普通にやっていたら敵わないと思いますよ、大島さん。
大島:はい。
辻井:小栗旬くんは自分のジムまで作りましたからね。今はそこに鈴木亮平くんとか、生田斗真くん、綾野剛くんとかが通って、日本だけじゃなくて世界に出られるように動いています。
田渕:それは、ぼくたちにも当てはまることだと思います。“アクション”という業界の中でぼくたちが練習してきたことよりも、ちょっと先にいったことを現実に色んな人たちがやっている。ぼくらも、それを組み合わせていいシーンを作っていかないといけないんですけど……ひとつの事実として、アクションというジャンルの中でやっているだけでは、色んな格闘技なんかを身につけている俳優さんたちには勝てないと思います。刀でひとつ斬るにしても、居合で三段・四段持っている人の斬り方のほうがカッコよかったりするし。そういうことを俳優の方々はやっているので、ぼくらは今のままだと足りないと思います。
田渕景也(右)
横山:小沢さんは、監督としてはどう思われます? これからの、若い“アクション俳優”について。
小沢:今は“アクション俳優”というくくりじゃなくて、できる俳優さんはすごく多いと思うんです。「自分はアクション出来るんです!」って言う奴はたいがい出来ないですけど(笑)。でも、自分でトレーニングして、表現者としても出来る人を一番求めていると思います。
田渕:ぼくらもそれを求めちゃってますし、ぼくらが伝えたいことは大したことなくて……まあ、大事なことなんですけど、「持っているものをもっとよく見せたい」ということですね。その分、ぼくらも勉強していかなきゃいけない。10年前とは全然違うし、映画によっても違うと思いますけどね。
下村:ぼくも、田渕さんがおっしゃるようなことをずっと感じています。去年、今年と漫画原作の作品が多かったですよね。そうすると、ワイヤーだったり、アクションが増えるので、スタントマンの仕事も多かったんです。スタントマンたちは「アクション映画が増えてよかった」と思っているかもしれないですけど、日本で「アクション映画といえば?」と考えたとき、ぼくたちが関わっているものが本当にジャンルとして「アクション映画」と言えるのか、と自問自答することがあって。海外だと規模も違うんですけど……今の漫画原作の作品がこのままずっと続いていくとは思わないし、絶対に飽きられて、みなさん本物(のアクション映画)を観たがると思うんですよ。そのときに、自分たちに技術と知識があるのか?と思ったら、それも疑問で。自分たちでそれを身につけておかないと、この2、3年で変われないんじゃないか、という気持ちがあります。
谷垣:今のお客さんは、ぼくらが思っている以上に敏感ですよね。10年前なら、ちょっとワイヤーやってみました、とかハデなアクションやってますよ、とかね。そんなレベルでも満足してくれてたのが、だんだん見る目が厳しくなってきた(笑)。本物かそうじゃないか、本気かどうかを見分ける嗅覚が備わってき たというかね。今のお客さんは、理由はわかってないかもしれないですけど、我々の想像以上に「イケてる・イケてない」、「動きが染みついている ・染みついていない」というのを感じとっている。 だからアクションの撮り方にしても、ある程度の方法論はあるけれど、ぼくらはそこからもう一歩進んだものを作らなきゃいけないし、役者さんも自発的に普段何をやるか考えないと、これからはなかなか難しいかもしれないですね。
森崎:売れる作品は“売れる役者”を使いますよね。
谷垣:売れる役者って、すごくない?
森崎:すごい。だから、ぼくらも「ああこの人か」と納得するんですけど、時間をとりたいと思ったら、まずリハーサルの時間がほぼない。「時間とれますか」と聞いたら、「1日だけとれます」とか、圧倒的にそういうことが多いですね。本人(役者)たちは忙しい中で、「1日でも2日でも」とおっしゃって下さるんですけど、周りが気を遣いすぎて。あとから話を聞くと、「いや、時間はありましたよ」ということが多い。
谷垣:周りに微生物が多いんですよ。
森崎:微生物(笑)。
谷垣:でも、そういう売れてる人って、もちろん力があるから売れているんだけど、すごく真剣に取り組むし、そこから逃げない。もし時間がなかったとしても、何か“持ってる”じゃないですか。
森崎:(時間がなくても)出来ちゃったりするんですよね。だから、「役者はすごいなあ」と思うんですけど、ぼくらはそれ以上にすごくないといけないな、と思いますよね。
森崎えいじ(中央)
横山:ぼくは、売れないかもしれないけど、これから“アクション俳優”になる人は、まず「練習を好きであれ」と思います。練習することが長く続く秘訣なので、練習することに興味を持ってほしい。でないとダメだ、と思います。あとは、自分のキャラクターをわかってほしい。そりゃあ、美男子や美女には負けますよ。大島もアクションスターになるなら、作品はローバジェットしかないかもしれないけど、自分のキャラをわかってやったほうがいいと思います。セリフが言えなくてもいんですよ。ジャッキーなんて吹き替えだったんだから。
一同:(笑)
横山:そういうことも全部宣伝にしてやったほうがいいんじゃないかと。その代り、「動きは本物です」と。それぐらいでやったほうがいいと思う。
谷垣:『マッハ!』なんてトニー・ジャーのセリフってありましたっけ? 印象が全くない(笑)。
横山:「象を返せ!」くらいしか言ってないんだから(笑)。そういうのが足りなくなってることは確かなので。これからもっとローバジェットのネット作品も増えるでしょうし、それはそれでチャンスが増えるので、大島も諦めないでスタントもやりつつ、(役者を)やっていってもらいたいな、と。
辻井:(大島は)海外にいっちゃうんですよ。
横山:カナダでしょ? どうして行くの?
大島:映像の仕事をやるうえで、どうしてもハリウッドの作品に出たいと思ってずっとやってきたので……ちょっと自分探しに。
横山:武者修行でしょ(笑)。
大島:(笑) ちょっと迷っちゃって。愚痴になっちゃうんですけど……スタントのみなさんの動きとかを全部尊敬しているのに、そういう人たちが(エンドロールなどに)名前が無かったり、すごくいい作品なのに誰がやったのかを世の中の人が全く認識していないのが嫌で。女優をやりたいと言うよりは、「これをやったのは私なんだよ」というのがわかるから、表に出てアクション女優・俳優みたいなことが出来たらな、と思っています。
ないがしろにされるスタントマン・アクションプレイヤーの氏名表示権
横山:ちょうど今お話が出ました、スタントマンとアクションプレイヤーの氏名表示に関して話をしたいです。裏方ですからそんなに表示にはこだわってないですけど、酷いケースもあるといえばある。
横山:じゃあ詳しい現状を、まずは高瀬さんから。
高瀬:わたしはスタントマンもアクションプレイヤーも、俳優と同じ“実演家”だと考えています。“実演家”というのは表現者ですから、著作権はないけれども“氏名表示権”というものが保証されているんです。ですから、エキストラさんではないので、少なくとも自分が把握している作品の中で、タイトルロールに自分の名前を載せることが出来る。洋画などでは、エンドロールにズラーっとスタントマンの名前が出てきますよね。離れ業を演じた人だけではなく、そのシーンに携わったスタントマンが全て載る。今は邦画でもスタントマンの名前がキチンと載るようになりましたし、いわゆるスーパー戦隊ものなどでも、スーツアクターのみなさんもちゃんと名前が載っているわけです。しかしながら、ある放送局はそうではない。わたしは俳優連合の理事もやっていて、そういった折衝に携わっているのですが、ここ数年、某局はある公式な見解を出したままになっています。それは「スタントマンは主演になりかわって危険な実演をしている。しかし、視聴者の皆様は主演俳優・女優が危険なことをしていると思っている。だから、スタントマンの名前を載せるということは、ドラマの種明かしをしていることになるので、視聴者の夢を削ぐ」というものです。
高瀨將嗣(中央)
谷垣:おかしいですよね、そんなの! ほんとにおかしい。
高瀬:ただ、現状はそういう解釈なんです。さすがにそれについては、「氏名表示権があるんですよ。スタントマンも実演家に入っているんですよ」と言いましたら、某局は「持ち帰って検討します」と言って、来年に持ち越されているんですけど。今どき、仮面ライダーの中に主役の俳優が入っていると思う子どもはいないですよ。きちんとしたスーツアクターという職分で演じている人たちがいて、ファンクラブまである。良くも悪くも前例踏襲主義の局なので、今までは載せなかったからこれからも載せない。実は、昔の民放では、“斬られ役”の人たちの名前は載りませんでした。「〇〇剣友会」とか「〇〇アクションクラブ」という風に、グロスで載っていたんです。これは単純な理由で、エンドロールを作るのが大変だから。ところが、作品に携わるスタントマンやアクションプレイヤーの皆さんの働きかけによって、今はきちんと載るようになった。ですから、某局も歩みよっていただいて、「演じているメンバーの氏名表示をすることは大切なんだ」と認識していただきたい。さらに言えば、それが2次使用される場合は、自分が出ている証明になるわけですから。名前が出ていないということは、作品に関係していないということになっちゃう。これに関しては、プレッシャーをかけたり条件闘争するわけではなく、キチンと問題提起をして、スタントマンとアクションプレイヤーのために、私は矢面に立っていきたいと思っています。
観客:(拍手)
谷垣:アクションする人って、プレイヤーと裏方のスタッフに分かれますよね。両方合わせて「アクション部」 って言い方をしてますけど。画面に出てアクションするだけが、我々の仕事ではないわけで。プレイヤーもそうですけど、スタッフなんだから表示してくれないとね。N〇〇で仕事したときに、「( 肩書きを)アクション監督で」って言ったら、「監督は本来は職員から出すので、“アクション監修” にしてください」って言われて、アクション監修にさせられて。 助手も、殺陣なんてやってないのに“殺陣”にさせられて。あと、「常駐のアクション部は毎週一人だけはクレジットに載せられますんで」みたいなことを言われたんです。 それっておかしいですよね。
辻井啓伺(右)
高瀬:2次使用については、大事なことなのでもう少しお話ししたいです。例えば、「テレビ映画」と呼ばれる作品では、俳優もそうなんですが、スタントマンにも‟2次使用料”が発生しないんです。これは、テレビ“映画”だからなんですね。例えば、劇映画が地上波で放送されますと、これに対しては2次使用料は発生しません。これは、(ギャラが)“映画の出演料”ということで完結しているからです。でも、テレビ映画、例えば『水戸黄門』は今でも色んなところで再放送されていますね。この作品に最多の出演回数を誇る俳優の内田勝正さん、日本俳優連合の副理事長なんですけど、15、16回再放送されても一度も2次使用料が払われていない。それは、テレビ“映画”だから、テレビでオンエアされたドラマであっても、「これは映画なんです」と言われると、2次使用料が発生しない。2次使用料が発生するのは、テレビ“ドラマ”だからです。映画だったらしょうがないですよ、それで終わっている話だから。でも、テレビでオンエアされたドラマを「これは映画仕立てだから」と言われたら、キリがないですよね。放送料が支払われて、2次使用料がカバーできる状態にも関わらず、俳優にも監督にもスタッフにも何も払われない。こういう矛盾をはらんでいるんですが、その中でスタントマンやアクションプレイヤーが一番しわ寄せをくっている。誰よりも命をかけて現場に臨んでいるにも関わらず、それが報われないのはおかしいと思います。
横山:氏名表示の話だと、ぼくのやっている『牙狼-GARO-』シリーズなんかは、監督やぼくが「全スタッフを載せたい」と言ったので、テレビなので(エンドロールが)1分しかないんですけど、ものすごい数のクレジットが流れます。観ていただいている方はわかると思いますが、まったく読めない状況になっていますが(笑)。クレジットを入れるのは、だいたいはプロデューサーの仕事ですよね。大きな会社ほど規定があってなかなか難しいこともあるんですけど、できればスタントをやったら、「スタント」で載りたいですよね。
谷垣:N〇〇は、他の部署であっても外注はなかなかクレジットに載せないですよね。局員はみんな載せるけど、大友組で『るろうに剣心』の助監督なんですけど、彼はN〇〇でずっとドラマ の演出部をしてたにも関わらず、一回もクレジットに載ったことがないんですよ。初めて名前が載ったのが、『るろうに剣心』。10 何年やっているのに、一度も載ったことがなかった。
横山:エリート会社の社員を口説いていくのは大変ですけど、ぼくらはそれをやらなきゃいけないですよね。頑張りましょう。
国や会社によって違うアクション制作と“アクション監督”の権限
横山 誠(左)
横山:次は、日本と海外のアクション制作の現場で良いところを挙げてみたいです。悪いところもちょこちょこ言っていいですけど(笑)。例えば、日本のスタッフは頑張りますよね、小沢監督。
小沢:そうですね。
横山:キャパシティ以上のことをやってくれますよね。120%のことを。
小沢:ぼくらがやっているのは、ローバジェットなんですが、ローバジェットのぶん、力で押し切ろう、みたいな部分に賛同してくれる人たちばっかりが集まっているんで。非常にやりやすいですね。
横山:瞬発力があるのと、まあ文句は言うんですけど、寝ないでやってくれますよね。あと、誰も訴えない。
小沢:そ、そうですね。
横山:だから、うまく騙せばすごく働いてくれるんです。
小沢:そういう観点では思ってないですけど(苦笑)。
横山:ぼくはアメリカのプロデューサーに言われましたよ。「本当によく働くなあ。このシーンは2,000万か。安いから日本に発注しよう」と。アメリカは基本的に高い。2時間オーバーしたら、スタッフはすぐ帰っちゃいますよ。アメリカ人はみんな現金主義なので、「もう2時間も働いたぞ、オーバータイムで。(ギャラは)出ないんだろ?」って。そういう悪いところもアメリカにはある。きっちりしすぎている。いいところは、土日が休みなところ。これは大事ですよね。土日休めないと銀行にも行けない(笑)。
田渕:日本は優秀ですよ。ぼくが『KARATE KILL/カラテ・キル』というアメリカでやった映画は撮影期間は3週間ですけど、実質労働で言うと日本映画なら10日間ぶんもないですよ。あと、熱量の差はありますね。本当のことを言えば、みんな朝6時に集合してるから、(夕方の)6時に終わればいいと思うんですよ。でも、日本のスタッフは夕方6時に終わって、次の日の朝6時までに色いろ準備してきてくれるから撮れるんですけど、アメリカのスタッフはそれをやらないんです。みんな休んじゃう。だったら、最初から3週間じゃ撮れないんだから、4週間(撮影期間を)とれよ、と。
下村勇二
横山:そういえば、アメリカでも「アクション監督」とはあまり言われないですけどね。「セカンドユニットディレクター」か、もしくは「アクションコーディネーター」。
小沢:アクション監督になると、日本で言う「カット割り権」を手に入れられるんですか?
横山:そうですね。その名前をもらって現場を仕切れるようになったという実感は、なんとなくあります。下っ端のスタッフが「誰に聞けばいいの?」という時にわかりやすいんですよね、「アクション監督」って。
森崎:でも、日本はあいまいですよね。どこからが殺陣師でどこからがアクション監督かが。ぼくはよく「アクション監督ですか?」と聞かれるんですけど、編集に呼ばれないときがいっぱいあるので。カット割りは当然やりますけど、やっぱり編集するのが監督じゃないの?と思っちゃう。
田渕:ずるいと思うんですよね。ぼくは乗せられて乗せられて、自分で(アクション監督と)宣言してるわけじゃないんです。ハッキリ言うと、スタントコーディーネーターのほうが儲かるんです。アクション監督になると、構成から編集から何からやっていくけど、日にちで割ると一番ギャラが安くなっちゃう。とはいえ、アクション“監督”と付いたら、ぼくがやりたいことをみんながやってくれるのがいいじゃないですか。それをOKされるのがアクション監督だと思うんです。台本に飛び降りがあったり、階段落ちがあったりしたら、それはスタントとして認められる。だけど、ぼくがいきなりやりたくなってやったことは、「あなた、勝手にやったでしょ?」と言われちゃうか、お金がもらえない。だから、もし思いついたことをやりたかったら、脚本に書いてもらうしかないんですよね。
谷垣健治
辻井:昔はアクション監督には権限はなかったんですよ。脚本を変える権限もないし、編集する力もなかった。谷垣くんはそういうことをやってきたパイオニアだと思うんですよ。そういうやり方を、『るろうに剣心』とかで作ってくれて、アクション監督に編集の権限を持たせた。彼は脚本に関係のないこともやっているんですよね。それでヒット作を作って、「谷垣くんを使えばお金はかかるけど、いい作品が出来る」という風にしてくれた。
谷垣:かかりますよ~。
一同:(笑)
辻井:下村くんもそれに乗っかって……
下村:「乗っかって」ってどういうことですか(笑)。
辻井:(笑) そうやって「アクション監督」という立場を作ってきてくれたんですよね。ぼくたちの年代はあくまでも「殺陣師」と言う。まあ、昔の殺陣師もカット割りとか色いろやっていたんですけど。「辻井さん、“アクション監督”の肩書きでやってください」と言われても、ぼくはいつも「そんな権限もないし、能力もないから、アクション監督なんて嫌だ」って言うんです。そんなの、「カット割りなんて監督がやれよ!」と思うわけですよ。
谷垣:でもね、ポンコツな監督もいっぱいいるじゃないですか。
一同:(笑)
谷垣:(編集された映像を見て)「え?コレかよ!?」ってなりたくないでしょ。最終的に編集して、仕上げのダビングまで顔出すわけじゃないですか。僕の場合は「アクション監督」と名乗りたいからじゃなくて、その仕上げの場所に行ってごちゃごちゃ言われたくないから。「なんで殺陣師の人が来るの?」とかね。そんなこといちいち論議するのも 面倒臭いので、「うるせーな、俺はアクション監督だから来るんだよ!」と。現場や仕上げをスムーズに行うために、その名称を使っているだけであって。本当は最後までチェックする権利があれば、 肩書きなんてどうでもいいです。マジで。
森崎:ぼく、ディーン・フジオカさん出演の作品をやらせていただいたんですけど、それが基本的に瞬殺だったんです。数秒間でアクションが終わってしまう。でも、現場で「こう繋いで欲しい」と言っても、(編集されたものが)思った通りになってないわけですよ。「ああ、こうきたか」と思ったので、現場で言うわけです。でも、(編集には)呼んでもらえなくて。まあ、ぼくも現場に出張ってるから、そんな時間もないんでしょうけど。で、あるとき時間が押して、監督の方に「いやあ、編集の人がうるさいんですよ。繋ぎづらい手(殺陣)をつけられると」って言われて。それで頭に来ちゃって、「ふざけんなよ!あんなワケわかんない繋ぎ方するんだったら、もういいよ。そのまま使ってくれよ!」って言ったら、そこにディーンさんもいたんです。
一同:(笑)
森崎:「やべえ!」と思ったら、ディーンさんも「ですよねえ」って言って下さって(笑)。
下村勇二(左)、森崎えいじ(右)
谷垣:ぼくらがアクション演出をしていて一番いいのは、役者を味方につけやすいということですね。
森崎:それはありますね。
谷垣:プロデューサーにはぼくらがいくら言っても言葉は届かないけど、役者の言葉は届くじゃないですか。
辻井:(谷垣氏は)綾野剛くんとかを味方につけて編集してるんですよね。
横山:ぼくはアクション監督とはいえ、映画は監督のものだと思っているので。編集はしますけど、最終的には「ここまでやりました。こういうつもりで撮りました。監督おねがいします」と、監督に渡します。で、監督のほうからは「ここを切ってもいい?」って相談してもらって、切ってもらいます。監督として、小沢さんはどう思われますか?
小沢:アクション監督という立場の方に(現場に)いてもらったことがないんですけど、もしいたら相談が出来るじゃないですか。ぼくが「こういう画が撮りたい」、そのときに例えば谷垣さんが「こういう画が撮りたい」、そういうものがミックスされると面白くなるだろうし。ぼくも役者をやっていて、アクションをやらせてもらってみんなで頑張って撮り上げたものが、編集でダメになったケースをすごく知っているんです。(『覇王 凶血の系譜I』の)主演の山口も同じことを味わってきたと思うんで、そういう目にはあわせたくないという思いがあって。だから、アクション監督のものすごく新しいアイデアがあれば、どんどん取り入れるべきだと思います。
小沢和義(中央)
横山:ありがとうございます。一緒に何か作れそうですね(笑)。
■編集後記:
昨年2016年に引き続き、『春のアクションまつり』は優れたアクションプレイヤーや監督・コーディネーターにスポットを当てる『ジャパンアクションアワード』とアクション制作の裏側を語る『アクションサミット』を主軸に開催された。アニメ・漫画の実写化作品が増えたことで、アクションプレイヤーやアクション監督・コーディネーターの需要も増えたが、一方で“アクション俳優”の在り方や蔑ろにされてきた氏名表示権など、まだまだアクションに携わる人々が直面している問題がいくつもあることがわかったのではないだろうか。谷垣氏も最後に「アクション映画もなかなか難しい岐路に立っていると思います。ここからどうなるかはわからないけれども、ぼくらはかなり危機感を抱きながら、それぞれでやっていると思います」と思いを明かしている。また、「『ラ・ラ・ランド』はぼくも好きだし、『チア☆ダン』もいいんだけど、アクション映画も応援するつもりで観ていただければと思います。そして、エンドロールにも注目して観てください」と、少しでもアクションに携わる人々に興味を持ってくれるよう観客に呼び掛けていた。
ほとんどの観客・視聴者にとっては「スタントマンが誰なのか」「アクション監督が誰なのか」は重要なことではないのかもしれない。しかし、アクション映画に限らず、現在の映画・ドラマで関わっていない作品はないといってもいいほど、アクション監督やコーディネーター、スタントマンの役目はなくてはならないものになっている。にもかかわらず、日本のほとんどの映画賞には音楽賞、撮影賞、照明賞、美術賞、録音賞、編集賞は存在するが、アクション監督賞は設けられていないのが現状だ。業界内での地位向上は彼ら自身が取り組まざるを得ない問題だが、谷垣氏の言うように、エンドロールやクレジットに注目する程度でも、その助けにはなるのではないだろうか。そしてさらに興味を持った方は、彼らそれぞれの作品を劇場やレンタルショップで選んで欲しい。
『アクションサミット』に参加したアクション監督、アクション・スタントコーディネーター、俳優の関わった新作は以下のとおり。
・『精霊の守り人』シーズン2(NHK)放送中、『精霊の守り人 最終章』(NHK)11月から放送
・映画『無限の住人』4月29日公開
・『仮面ライダーアマゾンズ』シーズン2(Amazonプライム・ビデオ)4月7日から配信
・ドラマ『ハロー張りネズミ』(TBS)7月から放送
・Netflix『僕だけがいない街』(Netflix)2017年冬に配信
・映画『RE:BORN』2017年夏公開
・『覇王 凶血の系譜I』『覇王 凶血の系譜I』DVD発売中 パート5まで予定
・『精霊の守り人』シーズン2(NHK)放送中、『精霊の守り人 最終章』(NHK)11月から放送
・Netflix作品
・『昭和最強高校伝 國士参上!!』全国順次公開中、4月23日渋谷ユーロライブにて上映
・YouTuberのアクション作品
・『モンスターハント2』中国にて2018年の旧正月公開
・ドニー・イェン作品 9月撮影(未定)
・『モンスターハント3』2018年3月撮影予定
映画『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』『東京喰種トーキョーグール』『銀魂』『鋼の錬金術師』など担当未解禁のもの多数