細貝圭、鳥越裕貴、赤澤燈、鯨井康介らが奮闘、舞台版オリジナルストーリー『TRICKSTER』が開幕~ゲネプロレポート
左から、鯨井康介、細貝圭
『TRICKSTER~the STAGE~』が4月12日、東京・Zepp ブルーシアター六本木で開幕した(16日迄)。
舞台の原作はテレビアニメ『TRICKSTER―江戸川乱歩「少年探偵団」より―』。2016年10月よりTOKYO MX、読売テレビなどの『あにめのめ』枠にて放送された。江戸川乱歩の推理小説『少年探偵団』を原案とし、Jordan森杉の手により時代を2030年の近未来に置き換えた。その舞台版『TRICKSTER~the STAGE~』は、歌、ダンス、アクション、さらにプロジェクションマッピングを取り入れたエンターテインメントショーだ。出演は、鳥越裕貴、赤澤燈、赤澤遼太郎、古谷大和、今川碧海、斎藤准一郎、山口大地、輝山立、鯨井康介、細貝圭など。多彩な演技陣、さらにオーディションで選ばれたダンサーたちが見せる、歌、踊りで魅せる極上のショーである。
舞台の幕開けは、GACKTが歌う「キミだけのボクでいるから」。この曲は、自身も怪人二十面相の声優として出演しているテレビアニメ『TRICKSTER―江戸川乱歩「少年探偵団」』のエンディング曲になっている。
今作は、明智小五郎の鯨井康介と怪人二十面相の細貝圭にスポットを当てたオリジナルストーリー。脚本・演出は、劇団「ACTOR'S TRASH ASSH」主宰であり、漫画『幕末奇譚 SINSEN5〜懐』の原案を手がけ、スタイリッシュで幻想的な舞台づくりの手腕が高く評価される松多壱岱だ。原作のファンも、この舞台で初めて『TRICKSTER』を知る人にも安心して楽しめることができるストーリーになるだろう。原作を損なわない、ダークでいて、ファンタジックでスピーディーなストーリー展開が観ていて飽きない。
ストーリーは、誘拐された戦場カメラマン、次々に殺される容姿端麗な男たち、一方、「私は人殺しを好まない」と言いつつ平然と暗殺者に人殺しをさせる怪人二十面相、彼を追う明智小五郎、さらに、そこに現れた地獄の道化師・ヘルクラウンによって、二十面相と明智小五郎の過去が次々と明らかになっていく……2人の因縁が徐々に暴かれながら、事件に立ち向かう少年探偵団が最後に見たものとは?
左から、鯨井康介、細貝圭
舞台の進行につれて、明智小五郎と怪人二十面相の二人の因縁が徐々に明らかになる。彼らは、かつてとある国の傭兵として共に戦場で戦っていた。だが、明智小五郎は日常的な殺戮にうんざりし、傭兵をやめ、三代目の明智小五郎を名乗って、日本で探偵事務所を作る。一方、二十面相は、仲間だと思っていた明智が、勝手に戦場を離脱したことが許せない。だからことあるごとに彼に対して、因縁を仕掛けて行く。そこにヘルクラウンという謎の快楽殺人鬼が絡んでくる。明智は少年探偵団を巻き込ませようにするのだが……。
まず、怪人二十面相役・細貝圭の演技と殺陣が素晴らしい。声を低くし、諭すようなセリフ運びは背筋が凍るほど。一癖も二癖もある悪役に成り切って演じていた。歌も見所で、彼のバリトンボイスがブルーシアター六本木の隅々まで響き渡る。彼は、戦場で見せられた殺戮現場から、自分では殺人をしないという「イズム」(怪人二十面相の合言葉)を胸に、殺人は自らはしないが、他人に殺人をさせることは許すという心持ちの複雑な役を見事にこなしていた。
左から、細貝圭、鯨井康介
明智小五郎の鯨井康介は、戦場で戦ったが故の悪夢をPTSDのようによく見てしまう。戦場を離れるも、怪人二十面相に、「君は殺戮に飢えている」と言われ、葛藤し悩み続けている。鯨井も「細貝くんの二十面相と一緒に作り上げるような舞台です。彼との関係性から明智を生み出して行こうと稽古をして、しっかりした二人の関係性が作れたと思います」と語ったように、怪人二十面相との掛け合いが絶妙で、その時の苦悶の心情は観客にリアルに伝わっていくことだろう。テニミュ出身の彼、ミュージカル仕込みの歌も見所だ。彼のソロが聞けるシーンでは、彼の抱える苦悶と、3代目明智小五郎として「正義」を全うしようとする間で揺れ動く心情が歌で表現されていた。
赤澤燈
彼らと行動を共にする少年探偵団では、花崎健介の赤澤燈が、まず目を奪われる。とてもほっそりとした体躯に、いつも笑顔が似合う素敵なキャラクター。明るくて、失敗しやすくて、それでも諦めない心持ちを表情や演技で豊かに表現していた。演技だけでなく、赤澤燈が「甘くほろ苦いソロを歌うので、チャラランラン♪と始まったら僕が歌うと思っていただけたらいいですね」と語った「名探偵になりたい」では、10代の憧れや不安を朗々と歌い上げていて素晴らしかった。
左から、赤澤燈、鳥越裕貴
小林芳雄の鳥越裕貴は、死ねない体を疎ましく思い、なんども自死を図るのだが、彼の体には何かしらの膜のようなものが張っていて、それが全てを拒絶する。他人でさえも彼に触ることができない。だから、誰かを傷つけることが嫌で、おまけに誰にもわかってもらないという気持ちから、どこか閉じこもってしまう優しい孤独な姿を、鳥越は「物怖じせず、この役と仲の良いカンパニーでこの作品にぶち当たって行くんじゃ!」と気合を見せていたが、少ないセリフをカバーする豊かな表情の変化で卓抜に役を表現していた。
鳥越裕貴
少年探偵団の元リーダーの井上了を演じる赤澤遼太郎は、とある事件で片足に重い怪我を負い、杖をつかなくては歩けなくなる。そんな不自由さを丁寧に演じていた。赤澤は「杖を使っているので、階段の上り下りが苦労しました。杖でどう登るのか、切迫した状況の中で、どう見せるかというところを意識しながら稽古しましたね」と言っていたとおりに、新鮮味の溢れる演技をしていた。アニメ版では車いすという設定なので、舞台版ならではの井上了を見ることができ、ファンも刮目すべきキャラクターといえるだろう。
勝田雅治
勝田雅治を演じる斎藤准一郎は「遼太郎と同級生の10代ですが、風貌は気にしないでください(笑)」と余裕を感じさせるように笑っていたけれど、同級生・井上了の怪我は自分のせいだと思い、少年探偵団を辞め、花屋をやっている難しい役どころ。それを巧みにこなせているのはさすがだ。自責の念を抱えながらも、精一杯明るく生きようと、花言葉をところどころに差し込んで笑いを誘う様子は観ていて飽きない。
左から今川碧海、宮西琢巳
少年探偵団の武器を作る科学班の大友久を演じる古谷大和は、「歌は、オープニングが難しいです。歌ってないけど(笑)」と、役を地でいくような、少し変わったキャラクターで、摩訶不思議な「おちゃらけた」喋り方をし、相棒の山根たすくの揚げ足をことあるごとにとる。けれども、仲間を守りたいという芯の強い様をきちんと演じていて、かっこいい。
山根たすく役の今川碧海は今回が初舞台。「初舞台で緊張しっぱなしで、先輩たちに頼りながら役作りをしていきました」と語っていたが、初舞台であることを微塵も感じさせない。おっとりして、どこか間が抜けていて、いいように大友にイジられてしまうキャラクターを、小さい体躯ながらもリズミカルに演じていた。ダンサー出身だが、1ヶ月の激しい稽古で身につけたセリフも口跡がよく、会場中に轟かせていた。
山口大地
明智小五郎の友達である警察官・宮西琢巳役の山口大地は、面白いの一言。お母さんが自分よりも年下の男の子にハマってしまい、お金をせびられて苦労しっぱなし、おまけに二十面相やら、ヘルクラウンで頭が痛い。人生何十苦という中間管理職である。そんな、どこか切ないキャラクターを、よどみないセリフ運びや、アイドル好きであるというキャラを生かしたギャグで、会場の緊張を和らげるコメディーリリーフぶりは、観ていて実に楽しい。そのキャラクターを山口は「すみれちゃんをどこまで愛せるかにかかっています! それは舞台で期待してください。ちなみに、名前は日替わりです」と語っていた。
輝山立
そして舞台版のオリジナルキャラクターである少年ルイトの輝山立は、将来有望な体操選手だったが、自分のせいで兄がいじめに合い、自殺してしまったことを悔いている。だから、そんな子供達を守りたいと少年探偵団入りを志願するのだが、そんな彼こそ……。輝山立は、「ウェディングドレスを着ているような役も演じるので、階段をのぼるのも大変でした。早替えが10回もあるんです!」と語った。彼は、どこか屈託のある役を堂々と演じ、殺陣も早替えも見事にこなしていた。後半は彼の狂気に満ちた演技にも注目だ。
さらに、振付の石岡貢二郎(K-DanceNexus)によるダンスシーンも見逃せない。堂本光一主演『endless SHOCK』、『フットルース』など話題作に出演し、安定感のある踊りを見せていた。今回は、自らオーディションを行い、アンサンブルダンサーを選出。この、オーディションで選ばれたダンサーたちも注目してほしい。殺陣や歌の間にも踊るのだが、アクロバティックなダンスから、クラシカルなダンスまで幅広くこなし、統制が取れていて見事だった。
舞台『TRICKSTER』は、怪人二十面相にスポットが当たるので、原作のダークな部分を強調している。しかし、だからこそ、仲間の大切さ、命の大切さを訴えるメッセージがしっかりと観客にも届くようになっている。それはひとえに個性的なキャラクターの演者たちを見事にまとめあげていた、悪役に徹した座長・細貝圭の手腕も大きいのではないだろうか。「ここまできたら稽古でやってきたことを全力でぶつけるだけですね。5日間の公演ですが、1ヶ月間かけて作ってきたので、原作を知っている方にも、初めて観る方にも、楽しんでいただけるように全力でやっていきます」と座長らしく思いの丈をぶつけてくれた。そして息のあったカンパニーの演技も見事だ。公演は9回。原作ファンも、舞台で初めて触れる人も、ぜひ劇場で体験していただきたい。
取材・文・撮影:竹下力