さあ冒険の旅に出よう! 「ドラゴンクエスト」ウインドオーケストラコンサート 公演レポート
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コンサートの様子
『ドラゴンクエスト』シリーズは、ゲームデザイナーに堀井雄二、キャラクターデザインに鳥山 明、音楽にすぎやまこういちといった、豪華メンバーが手がけた大ヒットRPGである。1986年5月27日に第1弾が発売されるやいなや、瞬く間に日本中のファンを虜にした。以降、様々なゲーム機でそのシリーズ作品は発売され、現在までに累計出荷本数は7,000万本以上(ダウンロード販売含む)にのぼる。ゲームシステム、キャラクターデザイン、どれも卓抜しているのだが、音楽を聴いただけで当時の思い出が鮮明によみがえるのは、すぎやまこういちが手掛けた素晴しい音楽のおかげだろう。
2017年4月22日(土)『ドラゴンクエストⅠ〜Ⅲ』の音楽にスポットを当てて、東京佼成ウインドオーケストラが演奏、正指揮者の大井剛史がタクトを振るうコンサートが川口リリア・メインホールにて行われた。今回はこの公演のレポートをお届けする。
発売後、瞬く間に
東京佼成ウインドオーケストラが舞台へ登場したのち、自ら“ドラクエファン”だと公言する大井剛史が登壇した。彼の一礼のあと、チューニングののちに始まったのが、勇者ロトの伝説シリーズ(ロト三部作)の『ドラゴンクエストⅠ』から、「序曲」。
最初の1音を聴くだけで、発売時1986年にタイムスリップしてしまう。当時はファミリーコンピュータというプラットフォームで発売された本作は、わずか3トラックしかなかった。このたった3トラックで音楽史に名を残したすぎやまこういちの作曲力には驚嘆させられる。さらに吹奏楽のオーケストラによって演奏されると、あのドット絵の背景に、前を向いてしか歩けない主人公の姿が、鮮明にフラッシュバックしてくる。
指揮者・大井剛史
「序曲」が終わると大井は「実は、『ドラゴンクエストⅠ』は小学校の卒業式の日にクリアしました。午後5時ぐらいでした(笑)」と客席の笑いを誘っていた。2曲目は、「ラダトーム城」。当時のセーブデータは、お城の王様から聞く「ふっかつのじゅもん」という文字をプレイヤーが紙に書き写して、再びプレイする時に呪文を打ち込むことでしか再現できなかった。だから、1字でも間違えたらアウト。そんな小学生時代の悲しい記憶が優美な調べに乗って思い出される。
もちろん楽しい思い出もある。何時間もかけてモンスターと戦い、レベルをあげて、たくさんのお金を稼いで、1500ゴールドで買った「はがねのつるぎ」の喜びのこと。大げさではなく、子供達にとって「ドラクエ」は、大人の社会をちょっとずつ学ぶ教科書のような存在なのだろう。
3曲目は「フィナーレ」。ローラ姫を竜王から救い出した時の感動がひしひしと蘇る。横に動いても、後ろに動いても、ローラ姫をお姫様抱っこしたまま、ずっと正面を向いていた主人公がなんだか勇ましかった。
そして、『ドラゴンクエストⅡ 悪霊の神々』より、「遥かなる旅路~広野を行く~果てしなき世界」というメドレー。誰でも口ずさめるすぎやま節のメロディーがありありと蘇る。すぎやまの曲を口ずさみながら、5ゴールドの「ひのきのぼう」でひとり平野を歩いていた恐れ知らずの子供時代を思いだすだろう。
前作は主人公1人の冒険だが、本作では主人公が複数のパーティシステムを採用していた。しかも正面だけを向いてない。横顔があるだけで、なんてリアリティがあるんだと感動した。そして出会った仲間たち。「サマルトリアの王子」と「ムーンブルクの王女」との戦いと友情の日々が再び脳裏から剥がれなくなる。
次に披露された「恐怖の地下洞~魔の塔」では、初めて見た塔という存在。あの不気味に屹立している塔。長い道のりを歩んでいく辛さ、敵が強くなっていく怖さ、そして、ようやくたどり着いたゴールで、ボスにあっけなくやられてしまった切なさがはっきりと蘇る。「聖なるほこら」では、幽玄の調べに乗せて、そこには伝説の防具「ロトのかぶと」があるけれど、「きんのかぎ」がないと入手できないと泣く泣く引き返した思い出がリフレインする。
『ドラゴンクエストⅡ』では最終決戦で戦うハーゴンとシドーというモンスターたちにも驚嘆させられた。ハーゴンをやっと倒したと思ったのに、シドーが出てきた時のコントローラーを投げ出したい気持ち。しかもハーゴン以上に強い。その気持ちを抑えてようやく倒した時に聴けるエンディング曲「この道わが旅」にどれだけ救われたことだろう。
コンサートの様子
第2部では、『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』から「世界をまわる(街~ジパング~ピラミッド~村)」が披露される。ロト伝説の謎が明らかになるだけでなく、仲間の登録や転職システム、昼夜の概念を導入した画期的なゲームだった。このころから『ドラクエ』ブームが到来。発売日前から量販店に長蛇の列ができるのが当たり前になる。
この曲は、Ⅰ、Ⅱよりもさらに広大になった世界を音楽で表現。オリエンタルな曲調、ジャズな曲調まで多数あった。それをたった3トラックで表現していたすぎやまこういちには改めて目をみはるけれど、それを管楽器ならではのアレンジにした真島俊夫と、東京佼成ウインドオーケストラの面々、そしてタクトを振るう大井剛史による手腕に頭が下がる。
「冒険の旅」では初めて1人で出発することなくパーティで出発する時の感動を。「海を越えて」「おおぞらをとぶ」では、海を船で渡り、ラーミアという不死鳥に乗って大空を駆け巡った冒険の喜びを。「戦闘のテーマ~アレフガルドにて~勇者の挑戦」では、通常の敵との対戦から宿敵ゾーマまでの強敵に身震いした恐怖を。勝てるかなと思う不安、やっぱり負けた時の悔しさ、勝った時の喜びは感慨ひとしおであった。おそらく、プレイヤーのひとりひとりが思うところがあるはず。
指揮者である大井が「ラーミアに乗って大空を飛ぶ音楽が好き」と語ったように、すぎやまの音楽には選り好みがないのだろう。どの曲でも好きになれる。そして最後が、エンディング曲「そして伝説へ」。この曲を聴きながら感動に打ち震えていた当時を思い出す人は多いはずだ。
コンサートの様子
アンコールでは、次回の5月4日の公演から、吹奏楽では初披露となる『ドラゴンクエストⅦ、Ⅷ』からⅦの「エデンの朝」を初披露。次回の公演がますます楽しみになる。そしてフィナーレに「ドラゴンクエストによるコンサート・セレクション」と称したメドレーが聴ける。泣いて、怒って、笑った、あの時が蘇る、そして今でも様々なプラットフォームでプレイしている子供達も感動できる素晴らしいコンサートだった。
大井剛史氏
取材・撮影・文=竹下力