『ドラゴンクエスト』は、すぎやまこういち先生抜きでは語れない! 指揮者・大井剛史インタビュー
-
ポスト -
シェア - 送る
大井剛史氏
大ヒットRPG『ドラゴンクエスト』シリーズに欠かせないもののひとつに、すぎやまこういち氏が手がける音楽がある。4月22日(土)『ドラゴンクエストⅠ〜Ⅲ』の音楽にスポットを当て、東京佼成ウインドオーケストラと正指揮者・大井剛史氏がタクトを振るう『「ドラゴンクエスト」ウインドオーケストラコンサート』が川口リリア・メインホールで行われた。公演終了後、“ドラゴンクエストファン”であることを公言する指揮者・大井剛史氏に本公演における“ドラクエ熱”を伺うことができた。
――本日はお疲れ様でした。公演を終えられていかがでしょうか。
『ドラゴンクエスト』の楽曲は今までも何度か演奏しているのですが、このコンサートは、お客様との一体感がいいですね。お客様は『ドラゴンクエスト』が好きで聴きにいらしているわけですから、連帯感があります。僕も『ドラクエ』が大好きなので、一緒に繋がって一緒に音楽を楽しもうとする緊張感を感じました。
大井剛史氏
――公演中のMCでも原作ゲームの初体験は小学校6年生だとおっしゃっていましたが、大井さんの思う『ドラゴンクエスト』の1番の魅力はなんでしょう。
戦ってレベルが上がると、新しい街やフィールドに出かけられる場所が増えて、成長して目的を果たす。まさにゲームデザイナーの堀井雄二さんが「人生はロールプレイング」だとおっしゃられていた通りですね。僕もタクトを振るうようになっても、成長し続けて負けちゃいけないと思うようになれます。
――指揮する上で『ドラゴンクエスト』の楽曲と、その他の楽曲の演奏をする上で違いはありますか。
それはないですね。東京佼成ウインドオーケストラは、いろいろな種類の音楽を演奏する吹奏楽団です。普通のクラシックからジャズ、ラテン、真島俊夫さんが作曲された作品まで幅広くあります。僕らはどの音楽もバカにしないで一生懸命やる。そのひとつが『ドラゴンクエスト』で、違いはないんです。ただ、オケの中に『ドラクエ』をプレイしたことがあるという思い入れの強い人が多いですね。
――音に影響が出たりするのでしょうか。
テンションの入り方が違いますね。楽譜に対する問いかけで、「何小節目はどうしますか」という質問の仕方ではなくて、「ゾーマ(『ドランゴンクエストⅢ』の宿敵)のところはどうしますか」と具体的に聞かれます(笑)。
コンサートの様子
――なるほど(笑)。ゲーム音楽を指揮するにあたって注意している点はありますか。
ゲームをやることです。大半のお客様はプレイされているので、まったくゲームの内容を知らないというのは、許されないと思うんです。音のイメージを持つという意味でも作品の中身を知ることが大切だと思っています。
――過去の作品をプレイすることで何か発見されることも?
最初にゲームをプレイした時に、聴き過ごしている曲がありました。そして、年月を経て、演奏して、楽譜を勉強して、音楽が入る。そしてゲームに戻ると、頭で理解する以上に、実体験として音楽の良さを理解できるようになりました。
――シーンとそこに流れる音楽の関係性に納得できるんですね。
そうですね。どうしてすぎやま先生が、あの場面で、この曲を書いていらっしゃるのか理解できるようになります。
――大井さんが感じるすぎやま先生の楽曲のすごさとはなんでしょう。
『ドラゴンクエスト』以前のゲーム音楽は、すぎやま先生のようなヒット曲を書く作曲家が少なかったように思います。すぎやま先生はポップスの世界だけでなく、クラシックの世界に造形が深かったことも、ラッキーだと思います。作品の中にいろいろな音楽のスタイルが入っています。ポップス、ジャズ、「ラダトーム城」ではバロック音楽、モーツァルトのような曲、現代音楽的な曲まで様々です。
例えば、“復調”という音楽技法で、ハ長調と、ホ長調、違うキーの曲を同時に鳴らします。すると不思議なハーモニーが生まれるのですが、そういったクラシックのあらゆる技法を使われている。しかも、その場面に応じて使い分けているのが素晴らしいですね。街の場面だとポップスが多いし、一風変わったシーンの時は復調を使う。『ドラゴンクエスト』は様々な場面の音楽が必要で、それに対応する音楽のスタイルを持っていないと、そのシーンにあった曲が書けないし、多くの人を虜にできない。そう考えると、『ドラゴンクエスト』にはすぎやま先生以外の作曲家は考えられないですね(笑)。
大井剛史氏
――そんなすぎやま先生の創り出す『ドラゴンクエスト』の音楽の魅力とは。
すぎやま先生がおっしゃっていますけど「聴き減り」しない音楽ですね。ということは「演奏し減り」もしない。つまり聴き飽きない曲は、演奏しても飽きないんです。聴き飽きしてしまう曲は演奏し飽きるんです。同じように演奏し続けるのは、つまらないですから、演奏するたびに発見をしたいし、違う表現を試したくなる。演奏者によって、曲が違うのがクラシックの面白さですから。何回演奏しても、こういう風にした方がいいと、ゲームと同じように細かいところまでやり飽きないから面白いですね。
――演奏会はこのあとも続きますが、ここだけは気をつけて聴いて欲しいというポイントはありますか?
僕たちは吹奏楽のシリーズで、普段オーケストラで聴きなれた人でも違う面白さがあると思います。ゲーム音楽は、ゲームの音源で聴くのと、オーケストラで聴くのと違うので面白い。吹奏楽ならではの『ドラクエ』の新しい顔が浮かび上がってきます。そこに面白さがあると思うんです。また、クラシックに聴き慣れていない人でも、『ドラゴンクエスト』だと聴きやすいので、そこから違うオーケストラのプログラムを聴いていただけたらと思います。
――最後にドラクエ音楽のファンへ一言お願いします。
去年の練馬での演奏会で
大井剛史氏
取材・撮影・文=竹下力
1974年生まれ。17歳より指揮法を松尾葉子氏に師事。東京芸術大学指揮科を卒業後、99年同大学院指揮専攻修了。若杉弘、岩城宏之の各氏に指導を受ける。96年安宅賞受賞。スイス、イタリア各地の夏期講習会においてレヴァイン、マズア、ジェルメッティ、カラプチェフスキーの各氏に指導を受ける。様々なオーケストラでの指揮経験ののち、現在、東京佼成ウインドオーケストラ正指揮者。