アラフォー女性客が「号泣した!」男女4人の恋物語『ベター・ハーフ』、作・演出の鴻上尚史が大阪で再演への意気込みを語る

2017.5.20
インタビュー
舞台

『ベター・ハーフ』合同取材会にて(撮影/石橋法子)


天国ではひとつだった魂が現世では男性と女性、2人の人間に分かれて生まれるというーーー。身も心もぴたりと合致する”片割れ”を求め男女4人が繰り広げる、大人のためのラブストーリー『ベター・ハーフ』。2015年の初演から熱烈なアンコールに応え、一部キャストを変更し早くも再演が決定した。「単純なボーイ・ミーツ・ガールは僕の仕事じゃない」と語る作・演出の鴻上尚史。大阪の合同取材会で再演への意気込みを語った。

「ネットでの出会いやトランスジェンダーの存在など、”現代の恋愛”を描くのが僕の仕事」

ーー冒頭、若手社員の諏訪(風間俊介)は上司(片桐仁)から「自分の代わりにネットで知り合った女性とデートして欲しい」と告げられる。理由は「お前の写真を俺だと言って送った」から。一方、対面した女性の平澤(松井玲奈)もまた、トランスジェンダーの友人(中村中)に頼まれて来た身代わりだった……。本作は鴻上さんいわく愛がテーマの作品です。

恋愛の話って、男女が出会って二つ三つ悶着があって、最後に見つめ合ってハッピーエンドで終わることが多いけど、実際は付き合ってからが問題で。互いの恋の魔法が一段落ついた先に恋愛の真実があると思う。今回はそこを描くのが狙いだった。半年後、一年後と時間の経過と共に、互いの気持ちや色んなことが見えてくる。お話としては、付き合ってから都合3年半ぐらいの物語です。もう一つ書くきっかけとなった要因は、中村中さんとの出会いが大きかったですね。4年ぐらい前に、中ちゃんが僕のオープンワークショップに参加してくれたんですよ。「歌を歌うにも演技力は絶対に必要だから」と、そこからすごく親しくなって。一緒にお芝居をとなった時に、せっかくなのでトランスジェンダーの役をお願いしました。単純なボーイ・ミーツ・ガールは僕の仕事じゃない。ネットで男女が出会ったり、恋愛の当事者のひとりにトランスジェンダーがいたり、今の時代の恋愛のかたちを描きたかった。

鴻上尚史

ーー台本を書く際、中村さんの意見も参考に?

さすがに中ちゃんも自分のことを話すのは嫌だろうなと思ったので、「これだけはありえない」と思うことがあれば教えてねとだけ伝えて、取材は別の方にお願いしました。数名のMTF(身体的には男性であるが性自認が女性)の方から直接お話を聞いたり、本を読んだり、調べれば調べるほど、トランスジェンダーといっても一括りには言えなくて、結局全員違うんだなと。それは日本人一人ひとりが違うのと同じこと。なので、「このトランスジェンダーの描き方が間違っている」という言い方は、当てはまらない。このお話に出てくるキャラクターは、こういうトランスジェンダーなんですよ、ということですよね。初演の会見で中ちゃんが「トランスジェンダーの役を自分がやることは、近くもあり遠くもある」と話していましたが、そういうことなんだろうなと。

鴻上尚史

ーー再演での変更点は?

どこか直すところはあるかな?と思って見直したんですが、なかったんですね。それほどよく出来た台本なので(笑)。ただ、初演で真野恵里菜さんが演じた役を、今回は松井玲奈さんが演じてくれるので、そのキャラクターのイメージや作品の雰囲気は、必然的に変わるんじゃないかな。初演からの3人は役への理解が深まるので、クオリティは上がると思う。そこが上がらないと再演をやる意味はないという気がしますね。

鴻上尚史

ーー松井玲奈さんの魅力についてはいかがですか。

4人芝居でひとり抜けたところに入るというのは、かなりのプレッシャーだし、そこに立ち向かうだけのガッツが必要なので、松井玲奈さんが良いだろうと。彼女の演技は映像などで観ていたし、ガッツのある子だとも耳にしていたので。真野さんとはだいぶイメージは変わるけど、2人ともハロー!プロジェクト、SKE48という大グループの出身という共通点もあって。そこからのし上がってきた、野望と野心でギラギラした”戦う目”を持った人たちなので。デリヘル嬢をしながらアイドルを目指す、という今回のキャラクターにも合うんじゃないかな。

鴻上尚史

「どんなに傷つこうが、勇気やエネルギーを貰える恋愛は”良いことだよ”というお話です」

ーー劇中では、中村さんが披露する歌も”聴き所”のひとつです。

芝居もやるけど、せっかく歌えるんだから劇中でも歌っていただこうと。中ちゃんとはシーンにぴったりの曲はないかと色々相談して、中島みゆきさん、橘いずみさんの曲などを教えてもらいました。中ちゃんの「愛されたい」という曲は、台本を描く直前に彼女のライブで聴いて、「いま俺が描こうと思っている話そのものだな!」と思い、この曲を使いたいと伝えました。森田童子さんの「たとえばぼくが死んだら」も僕のリクエストです。

鴻上尚史

ーー中村さんはご自身の曲を、劇中のキャラクターとして歌うのですね。

そこは僕も気になったので本人に確認したら、大丈夫だと言ってくれました。「愛されたい」をはじめ、全5曲の劇中歌は物語の句読点というか、段落替えのようなイメージで使います。中ちゃんがラウンジのピアノ弾きの設定で、曲によっては歌っているときにお客さんから野次が飛んだり、ある時は気持ちがたかぶって最後のフレーズが歌えずに終わったり。音楽もちゃんとドラマの重要な部分を担った、半分音楽劇のような作品です。

ーー初演での反響は、どこに理由があるとお感じですか。

この芝居は本当にロビーで泣いている大人が多かったですね。20代は瞳が潤んでいるぐらいだったけど、30~50代の女性は号泣していました。何でだろうね? 年齢を重ねて恋愛のつらさ、苦さ、もろさ、そして素晴らしさとか、プラスとマイナスの両面を実感できるようになったからかな。若い時は「登場人物はあんなだけど、私は違うから」とか、まだ愚かな希望を抱くんだけど(笑)。年齢を重ねると、恋愛や生きることの良い面や悪い面の両方が胸に染み入っているから、受け入れてくれたのかな。

鴻上尚史

ーー初演のアンケートで、印象に残っているコメントはありますか。

多かったのは、自分の苦しい恋愛話を延々と書いているもの。みんな吐き出したかったんだと思うんだよね。「あの時の私はどうして何も言えなかったんだろう」とか。劇中でも追い込まれた登場人物たちが、つい”最後の一言”みたいなことを言っちゃうんですよね。本来は隠しておきたかった感情が、最後の最後には、やっぱり思いの丈を言わなくてはいけなくなる。4人いると誰かに感情移入するんでしょうね。その誰かの決断に背中を押されたか、悔しかったか、勇気を貰ったか、それとも横っ面をひっぱたかれたか…。でも結局は人間と人間が交わるというのは、どんなに傷つこうが落ち込もうが、勇気やエネルギーを貰える”良いこと”なんだとよと。それを恋愛と呼ぶか、男女間の友情と呼ぶかはそれぞれだけど。人間と人間がつながることはマイナスより、プラスのほうが多いと思うよという作品です。僕は深刻に重くなる話は好きじゃないので。

鴻上尚史

ーーそれは、鴻上作品全般に通じる思いでしょうか。

そうですね、「劇場に来る前よりも、劇場を出るときは元気になってもらいたい」というのが、22歳で旗揚げした当時から使っているフレーズなので。やっぱり、演劇はわざわざ観に来てもらうものなので、それだけの意味と価値がないとダメだと思う。観る側も元気になれるからこそ、劇場に来る意味があるんじゃないのかなと。だから、絶望だけを売り付けたり、静かで何も起こらない演劇とか、劇場中継でいいじゃん!とか思っちゃう(笑)。本作は観た後に「それでも生きていこう」と思える作品なので、元気が出たと言ってもらえたら嬉しいですね。

鴻上尚史

取材・文・撮影=石橋法子

公演情報
『ベター・ハーフ』
 
■作・演出:鴻上尚史
■出演:風間俊介、松井玲奈、中村 中、片桐 仁

 
<東京公演>
2017年6月25日(日)~ 7月17日(月・祝)
会場:下北沢 本多劇場

 
<愛知公演>
2017年7月21日(金)~ 7月22日(土)
会場:ウインクあいち 大ホール

 
<福岡公演>
2017年7月28日(金)~ 7月30日(日)
会場:久留米シティプラザ 久留米座

 
<大阪公演>
2017年8月5日(土)~ 8月6日(日)
会場:サンケイホールブリーゼ

 
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