穂の国とよはし芸術劇場発、宮川彬良作曲のミュージカル『ナイン・テイルズ~九尾狐の物語~』上演決定
左から、昆夏美、小野田龍之介、JKim
愛知県豊橋市にある「穂の国とよはし芸術劇場」が開館から5年目を迎えた。蜷川幸雄のシェイクスピア作品から尖った小劇場までを招へい、旬の若手劇作・演出家を迎えての高校演劇や市民演劇、実力ある若手音楽家への演奏機会の提供、ファシリテーター育成など各種ワークショップや講座etc.と多彩なプログラムを組んできた。約800席という主ホールは、一体感を生み出される空間でなんとも心地よい。その「穂の国とよはし芸術劇場」では、5年目の記念事業として、オリジナルミュージカルの制作を行う。地域でプロフェッショナルな舞台制作をする劇場が増えてきているとはいえ、ことミュージカル、しかもオリジナルとなると、まだまだ開拓途上だ。しかし、音楽監督に宮川彬良、演出に田尾下哲、振付に平山素子と、この4年間、豊橋の舞台芸術の土壌を一緒に耕してきた才能たちが顔をそろえるのだから心強い。その作品は『ナイン・テイルズ〜九尾狐(クミホ)の物語〜』。霊狐塚で有名な豊川稲荷のお膝元と言っても過言ではない豊橋で、感動の愛の物語が立ち上がる。
数奇な運命をたどった幻のミュージカルが豊橋で産声をあげる。
九尾狐[クミホ]とは、9つの尾を持ち、1000年という年月を生きる狐のこと。中国・朝鮮・日本では昔からこの九尾狐にまつわるさまざまな伝説がある。『ナイン・テイルズ』は各国の伝説や民話をもとに構成した物語。脚本・演出は韓国人劇作・演出家の金是佑(キム シーウ)で、若き作曲家・宮川彬良に白羽の矢を立てて、韓国語ミュージカルとして制作を開始した。17年前のことだ。ところが2001年に韓国で上演されるはずだったミュージカルは諸般の事情により上演されないまま、お蔵入りとなってしまったのだ。
2016年、穂の国とよはし芸術劇場のシニア・プロデューサーである中島晴美、演出家の田尾下哲、そして宮川が次年度の企画についてミーティングしているなかでこの幻のミュージカルが話題となり、その楽曲や物語の素晴らしさに惹かれ、生まれることができなかった命に再び息吹を当てようということになった。
人間に憧れた狐・梅花の数奇な愛の物語。
とある山中では、永遠のいのちと9つの尾を持つ千年狐たちが、旅人を襲うといううわさがあった。しかし、まだ8つの尾しか持っていない女狐の梅花[メイファ]は、千年生きることを神の呪いでしかないという思いを抱き、儚くも美しい愛を生きる人間に憧れていた。千年生きることこそ神の祝福であり、愛は人間を支配するため神が作った戯れと考えている姉の紅梅[ホンメ]は梅花をことあるごとに諫めていた。
ある日、猟師との戦いでケガを負った梅花は木こりの河柳[ハユ]に助けられる。梅花が人間の姿に変身し、河柳の家を訪ねると二人はやがて恋に落ち、祝言をあげて松花[ソンファ]という一人娘も生まれ幸せに暮らしていた。ある満月の晩、河柳は、王の病気の治療のため不老長寿の特効薬となる千年狐の肝を探すという命を受けた武士たちの道案内を依頼される。そこで起きた武士と狐の争いに巻き込まれ、河柳は自分と紅梅を心配して山に様子を見にきた梅花に誤って矢を放ってしまう。梅花が真実を告げて息絶えると、怒りの紅梅は自らの体を引き裂き、肝を河柳に無理やり食べさせ死んでいく。一方の河柳は千年生きる呪いをかけられた狐として、妻を殺めた後悔を背負って生きていくことに。膨大な時が流れる。狐と生きている河柳は、人間に生まれ変わった紅梅、梅花と出会う。しかし再び起こった狐と人間との争いの中、梅花を守ろうとする河柳が、今度は梅花に斬りつけられ致命傷を負ってしまう。死にゆく河柳は千年前の愛を告白して絶命する。前世で愛し合った記憶を思い出した梅花は永遠の愛を誓い泣きじゃくるのだった―。
梅花役には、映画「美女と野獣」(プレミアム吹替版)のベル役、『レ・ミゼラブル』のエポニーヌ役、『ミス・サイゴン』のキム役などの昆夏美、河柳には、『ミス・サイゴ ン』のクリス役、『三銃士』のダルタニアン役、『ウェストサイド物語』のトニー役、『アリス・イン・ワンダーランド』のエル・ガト役などの小野田龍之介という、これからの日本のミュージカル界を背負っていく二人が演じるのも注目。そして紅梅役には、韓国出身で劇団四季などで活躍したJKim。梅花と河柳の子・松花役は豊橋でのオーディションで確定する予定だ。
去る4月30日、『プラット開館5年を祝うトーク&コンサート』では、田尾下が作品を紹介し、小野田、JKimが楽曲の披露を行い、客席いっぱいのお客さんたちも盛大な拍手で、豊橋発の作品の誕生を歓迎していた。
「私たちは1000年という年数を、永遠とほぼ同義で用います。ですが、実際に1000年生きる九尾狐にとっては、人間の命は実に儚いものです。しかし、ある一匹の九尾狐が人間に恋をします。そこにはどのような憧れがあり、どのようにお互いが惹かれ合うことになるのでしょうか。この物語は、中国に伝わる神話をベースに、韓国で作られた物語です。その物語に、作曲家の宮川彬良さんが音楽をつけ、私たち人間は1000年も生きることは出来ませんが、彬良さんの音楽を劇場で聞くことによって、1000年の重みを体験することが出来ます。時の重さ、命の尊さ…たとえ種族が違っても、大切なものは同じなのではないでしょうか」(田尾下)
夢は全国へ、そして世界へ
『ナイン・テイルズ』制作にあたっては、クラウドファンディングを通してファン作りをしたり、愛知大学経営学部経営学科太田幸治ゼミの学生たちがプロモーションのアイデアを提案したりと、さまざまな取り組みをこれからも展開していく予定でいるとか。今回の公演を成功させて、いずれ日本全国で、そしてもともと上演されるはずだった韓国をはじめ海外への発信も視野に入れたいと、夢はでっかくふくらんでいる。
■音楽監督・作曲:宮川彬良
■構成・演出:田尾下 哲
■振付:平山素子
■出演:
昆 夏美 小野田龍之介 JKim
宮川 浩 中山 昇 香取直登 宮垣祐也
白木美貴子 堤 梨菜 鈴木亜里紗 桑原麻希 水田千聖 宮川安利
子役(女の子1名をオーディションで決定)
■演奏:ピアノ(宮川彬良)・ヴァイオリン・チェロ・他(全5名)
■公式サイト:https://www.toyohashi-at.jp/