武道館という金字塔を経て、SKY-HIはどう進化していくのか
-
ポスト -
シェア - 送る
SKY-HI 撮影=北岡一浩
日本武道館で彼は、力強く言った。「10年前、お前には無理だって言われた。でも、武道館2daysやってやったぜ! この先どこまでも“最高”を見せつけてやるし、お前のネガティブをひっくり返してやる」と。“伝説”のライブの後にリリースした新作は、最高の場所へ一緒にたどり着いた仲間たちSUPERFLYERSとのライブのバイブスを凝縮させた「Silly Game」。武道館という輝かしい通過点を経て、SKY-HIは次なる最高のために、どう進化するのか?
世の中の出来事に単発のことはないし、因果も絶対にある。それを見るのが物を書く人間の仕事だし、“どのくらい伝えるか=どのくらい楽しませられるか”ってこと。
――新曲「Silly Game」は、初の武道館公演でやる前提で作っていたものですよね。
そうですね。それで決めてました。展開の多い曲をシングルにしようかと思っていたので、ライブの2時間半を4分にまとめたイメージの曲を作りました。
――「Silly Game」は、どういう位置付けの作品になるんでしょう。SUPERFLYERS(バンド)が参加しているということで、彼らと一緒に回った武道館までの『SKY-HI HALL TOUR 2017 ~WELIVE~』のボーナストラック、または、カップリング曲のオリジナルが収録されているアルバム『OLIVE』のボーナストラックなのかと思ったのですが。
そういわれると、確かにそうかも。でも、僕の中ではそれらは全部、ずっと地続きって感じなんですよ。“死す”を語る『カタルシス』ってアルバムができたから、“LIVE”と“I LOVE”がある『OLIVE』ができた。そこにはSUPERFLYERSのメンバーをはじめ、仲間の存在がデカくて。『OLIVE』はSUPERFLYERSとのライブをイメージしながら作ったし、このタイミングだったから「Silly Game」にもライブのバイブスを注入したかったんです。自分の作品と人生の距離みたいなものが、顕著に出た作品になったと思います。
――「ライブを4分にまとめた展開の多い曲」ということですが、すごいテンションと勢いのサウンドですよね。
SUPERFLYERSといくつかロックフェスに呼んでもらって感じたんだけど、日本のフェスで盛り上がる曲ってセオリーが決まってて、どのバンドでもそのキメ曲で同じ盛り上がり方をするんですよ。でもそれって、世界中見ても日本でしか流行ってない。家に帰ってそういう曲を作ってみたけど、これは俺の仕事じゃないって感じて。だから俺流の、ロックキッズにも刺さるアッパーなものをやろうと思ったんです。そこで引っかかたのが80年代の享楽的なサウンド。それもプリンスじゃなくて、UKのポストパンクのテンションだった。今は世界中どこに行っても“空気”が同じで、ファッションも音楽も統一されてるけど、日本だけが違うじゃないですか。だから2017年にこのへんぴな島のへんぴな都市に生きてる自分としては、全部ごった煮にして作るのはアリだった。そういう作品になったと思います。
――そして歌詞は、今の世の中に対する憤りが爆発していますよね。
1番は、出家した女優さんを見て思ったことなんです。彼女の本当の辛さを知りもしない周囲の人間やワイドショーがとやかく言ったり、つるし上げるのは違うじゃないですか。ここ数年、僕自身も偏見とか偽りとか、そういうイヤな面をたくさん体験してきたから、妙にシンパシーを感じて、胸が締め付けられそうだったんですよ。会ったこともない彼女のことが、自分のことのようにしか思えなくて。彼女のことを含めて、僕は、かねてから日本は戦争中だと思っているんです。中東のテロリストに「多国籍軍に金を出している日本も敵だ」と言われれば、彼らにとって日本は敵国になる。イジメられた側は「イジメだ」って言うけど、イジメてる側は「イジメてないよ、いじってただけ」って言うのに近いかもしれないんだけど。そういうことを「F-3」(2015年)で<人が使う正義はトランプ 裏表隠し押し付けるジョーカー>って歌詞にしたんだけど、2017年にはトランプが大統領になっちゃった(笑)。だからそのまま同じワードをラップ部分に引っ張ってきたんだけど、社会問題も全部つながってるんですよ。
――“つながる”がキーワードになる、と。
世の中の出来事に単発のことはないし、因果も絶対にある。それを見るのが物を書く人間の仕事だし、“どのくらい伝えるか=どのくらい楽しませられるか”ってこと。無条件に“楽しい”って思ってもらえないと、メッセージなんて届かないから。俺がこういう仕事をしてるのは、多分、それを見る目が備わっているからで。だから、メッセージは絶対に生まなきゃいけないし、吐き続けなきゃいけないと思っています。
SKY-HI 撮影=北岡一浩
――2曲目の「Walking on Water Remix (feat. Lick-G & RAU DEF)」は最新アルバム『OLIVE』収録曲のRemixということで、現役高校生ラッパーのLick-Gさんと、以前も共演している実力派ラッパー RAU DEFさんをフィーチャリングに迎えていますが、なぜ、あえて若手と?
理由はいっぱいあって。この曲は『OLIVE』の中で1番ヒップホップな曲で、唯一、暴論を差し込んでいる大事な曲なんです。でもそれって本来、若者の文化じゃないですか。昔、パンクスが“DON'T TRUST OVER THIRTY”(30歳以上を信じるな)って言ってたけど、今の時代は、ステージに立つ人間だったら30代以降が責任を持って、10代、20代を自由にさせないといけない。ハミ出さないと見えないものがたくさんあるから、どのくらいハミ出せたかが後に大事になると思うんです。
――若手を導く立場として?
そういう使命感はなくて。俺は、ここまでくるのに本当にいろいろあったから。リスナーが俺の音源を買ってくれるお金や、ライブに来てくれる時間と交通費を認識させてくれる出会いがあったし、未だにAAA(日高光啓として所属する6人組ダンス&ボーカルグループ)ってだけで俺の音楽を聴かない偏見や、いろんなトラブル、もちろん暖かいサポートも経験しました。だからこそ自分が音楽を作って、それを受け取ってくれる人がいる状況の尊さを噛みしめるきっかけになったし、命懸けでステージに立てるようになった。大げさじゃなくて。それって、やっぱり10年くらいかかるんですよね(笑)。死にかけるくらい何回もハミ出さないとわからないから。それに、パンクとかヒップホップには、いい意味で若いヤツの無責任さが必要で。俺はスキルとか関係なしに、若い人から学ぶべきだと思っているし。あと、若い世代には、同世代の上手いラップをちゃんと聞いてほしいというのもあって。RAU DEFの才能はNo.1ですよ。彼の場合は、ハミ出しすぎだけど(笑)。ちょうど次のアルバムを協力して作ってる最中だから、このタイミングで自分のリスナーにも聴いてほしいと思ったんです。Lick-Gは高校生ラップ選手権出身の中では、どう考えても頭1つ抜けてるスキルの持ち主。彼の所属レーベルを主宰するKEN THE 390は、俺が世の中に出るきっかけになる曲をくれた恩人なんです。KEN THE 390が俺をフィーチャリングに呼んでフックアップしてくれたように、俺も彼のレーベルの若い子を少しでもサポートできたらって思うし。
――シーンも育てていきたい、ということでしょうか。
どうだろう。結果的にそうなればいいけど、“育てる”みたいのはあまり好きじゃないから。単純に上手いラップとかカッコいいラップをする人が増えるといいと思うし、そうじゃないラッパーが増えた今だからこそ、そういうのはやっていった方がいいと思ってる。
――若者に“やられた!”って思うところはありましたか。
いや、ないですね、残念ながら(笑)。みんなスゴイなって思うけど。
――まだ俺は超えられない?
そういうのじゃないですよ(笑)。
SKY-HI 撮影=北岡一浩
――そして、近年SKY-HIのアンセムともいえる「ナナイロホリデー」が、「ULTRA MUSIC FESTIVAL」日本代表のTJOさんによるリミックスで収録されていますが、彼には「こういうテイストに」ってリクエストをしたり?
リクエストはしていません。TJOがかけやすいようにしてほしくて、自由にやってもらいました。それが大事だった。TJOはいろんなところでプレイできるパーティDJで、日本語のトラックを混ぜても違和感なくプレイできる達人で、なんといっても最高の遊び人だから(笑)。出来上がりも本当にTJO一色で、最高でした。あと、「Silly Game」のiTunes先行配信の特典になっている「リインカーネーション(qlius Remix)」もフューチャーベースというか、最近のハウスのムーブメントに寄せていたからそことの統一性もあったし、「ナナイロホリデー (TJO Weekendisco Remix)」ってリミックスの名前も気が利いてたし、すべてが完璧でした。
――SKY-HIのシングルには、最後に必ずインストと、アカペラのトラックが収録されているじゃないですか。これは、クリエイターに対するサービスなのか、挑戦なのか、気になるんですけど。
二次創作って、大事だと思うんです。俺も昔、インストが入ってるものを買ってラップしたし。日本以外の国ではリミックスで当たった曲がそのままオリジナルのヒットにつながるじゃないですか。ブルーノ・マーズ然り。人のクリエーションに刺激されて作品を作るって、若いクリエイターには健康的なことだと思うから、インストとアカペラは毎回つけたいと思っているんです。
――聴かせてくれる子もいます?
今はSNSで聴けるから。毎回、俺のアカペラを使っていろいろやってくれる人もいますよ。自分が人のインストにラップのっけてたのも最近に思えるから、親近感わきますよね。俺のやってた頃はSNSがないから、CDに焼いてクラブに持って行ってたけど(笑)。自分自身がこの10年で技術的なものも内側の芯なものも各段に進化したから、期待を持って聴かせてもらっています。そういうクリエイターたちには就職して子供が生まれたりしても、何らかの形で音楽に携わっていてほしい。ある程度の年齢になると、みんな辞めちゃうから。
――やっぱり、シーンや後進、日本の音楽のことを考えてるんじゃないですか?
自分にできることを精いっぱいやるだけですね。あんまり変な使命感は意識すべきじゃないと思う。いい曲を作っていいライブをして、来てくれた人に何か持って帰ってもらうことが第一だし、ゴールなので。「Walking on Water」でも言ってるけど、シーンがどうとかジャンルがどうとかって、どうでもいいことに巻き込まれたくないんですよ。俺は、カッコ悪いものがなくなって、カッコいいものが増えればいいだけ。自分の出自がそうだから、ラッパーに対してそうしているだけ。そういう意味では、シーンの自浄作用みたいなものが働いてるのかもしれないけど。
――「Walking on Water」では<俺をジャンルわけするのは間違いだ>と言っていますが、新作が出るたびに、引き出しの多さに驚かされます。どこに興味が向いているのかって思います。
作品を作るときに、ジャンルから作ってないからかな。意識とかメッセージとか、聴いてくれた人の中に生み出す感情みたいなものを優先に考えてるから。そもそもジャンルとかシーンなんて、日本にはない。それの最たるものが自分のような気がします。
――今、音楽をやるモチベーションって何ですか。
特にないんですよ。音楽を作るって、歯を磨くことのように日常。作らないと気持ち悪い。あまり平穏な環境にはいられないから、書くべきことは日々増えるばかりで(笑)。だから、スランプも、ない。
――ないの!?
今は“出ない”って感覚がわからないですね。“出なくなる日がまた来るかも”って思うと怖いけど。「スマイルドロップ」(2014年)は出なくて、200回くらい書き直しました。これはスランプっていうより、曲を作るスキルの底上げが必要だったからなんだけど。それ以降はほとんどないですね。
――“平穏な環境にいられない”という発言がありましたが、自ら平穏ではない環境に飛び込んでいる気がするけど(笑)。
そんな気がしなくもない(笑)。楽できればそっちの方がいいんですよ。苦労や努力って世の中で美談にされがちだけど、たくさんしてきた立場からすると、なきゃない方がいい(笑)。自分は必要があったから努力したけど、楽な方に行った方が毎日辛いんじゃないかと思います。辛い方に行けば手に届くものを追いかけられるけど、楽な方に行っちゃうと手が届かないものを追いかけなきゃいけないから。そんなの、永遠に報われない。俺は辛い道を行ったけど、その過程で出会った人たちがいっぱいいて、そのおかげで身についたものもいろいろある。全部ひっくるめて誇りに思う財産なので、“平穏な環境にいられない”っていう自分の道はそんなに悪くないと思ってます。
――武道館という金字塔を経て、SKY-HIはこれからどう進化していくのでしょう。
フィクションを見せて、喜ばせるって嘘っぽい芸能の時代は終わりでいいと思うんです。“つながる”って話でした“広げるために、楽しませるてる”って、ディズニーやジブリの方法論と同じだと思うんです。彼らの映画もフィクションに思わせて、すごいリアルの上に構築されているじゃないですか。そういうクリエーションがある一方、音楽だけ違う方向に行ってるのが歯がゆくて。“人生を変える”っていうと大げさかもしれないけど、音楽を聴く前より聴いた後の方が良い人生になる瞬間っていっぱいあると思うんです。そうするためには中身を練るのはもちろんだけど、何も考えないで聴いても楽しいって必要がある。そういう“人生を変える”打率をもっと上げたいですね。
――これからまた、SKY-HIの新章がスタートすると思いますが、『カタルシス』→『OLIVE』→武道館→「Silly Game」の流れは、まだまだつながっていきそうですね。
「Silly Game」を書いていろんな人と話したら、まだ書くことが多すぎて。「Silly Game」を作った段階で、なんとなくアルバムまで頭の中にできています。あとは少しの時間さえもらえれば(笑)。
取材・文=坂本ゆかり 撮影=北岡一浩
SKY-HI 撮影=北岡一浩
2017年5月31日発売
「Silly Game」Music Video盤
「Silly Game」Documentary盤
「Silly Game」CD盤
予約はこちらから→ http://avex.jp/skyhi/discography/