納期を守るクセがあるから『BLAME!(ブラム)』は生まれた 瀬下寛之監督、吉平”Tady”直弘副監督インタビュー
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劇場アニメ『BLAME!』瀬下寛之監督(右)、吉平直弘副監督(左) (C)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
ながらくファンの間でも、また原作者自身からも映像化は困難だろうと言われ続けてきた『BLAME!(ブラム)』のアニメーション映画が、ついに5月20日(土)より2週間限定にて公開される。難解かつ、高密度の情報量の作品世界を映像化するのは大きな挑戦だが、『シドニアの騎士』で一躍日本のアニメファンに認知されたポリゴン・ピクチュアズがこの困難なプロジェクトに立ち向かうこととなった。結果は、細部まで作り込まれたディテールで原作世界を見事に再現。縦横無尽のカメラワークとドルビーアトモスを駆使した大迫力のサウンドで、見事に映像化してみせた。映画『BLAME!(ブラム)』はいかにして生まれたのか。瀬下寛之監督と副監督兼CGスーパーバイザーの吉平"Tady"直弘氏に話を聞いた。
きちんと納期を守る体制が『BLAME!(ブラム)』を生んだ
劇場アニメ『BLAME!』 (C)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
――『シドニアの騎士』に続いて、弐瓶勉さんの原作の映像化となりましたが、本作の制作のきっかけは何だったんでしょうか。
瀬下寛之監督(以下瀬下):きっかけは『シドニアの騎士 第九惑星戦役』の脚本開発中に、当スタジオのエグゼクティブ・プロデューサーの守屋(秀樹)が、原作の劇中劇を、アニメ化に際して「これBLAME!にしちゃえば?」と軽い感じで言ったんです。それを聞いた僕と原作者の弐瓶勉先生が、「面白いなあ、やっちゃおっか」という軽いノリでやったっていうのが始まりです。
吉平"Tady"直弘氏(以下吉平):そこが最初のフックで、映像の出来栄えも良かったので、じゃあ次はこれを長編でやろうと。
瀬下:そうなんです。で、その劇中劇として作った短編の『BLAME!』が、悪ノリと言えるほどクオリティが上がっちゃったんですね。
吉平:そうですね(笑)。カット数も普通ではありえないくらいにたくさん詰んであって。
瀬下:そうしたら、それが視聴者や内外関係者で、驚くほどウケたんです。そこから映画の企画が浮上して、本当に作ろうとなってしまい…若干なりゆきですね(笑)。
――ある意味、ファンの方が後押ししてくれたようなものですね。
瀬下:そうですね、ファンの皆さんの応援が一番大きな要因ですね。弐瓶先生も僕らも『BLAME!』の本格的なアニメ化は無理だろうと思ってましたから。劇中劇版の制作も僕の感覚としては久々に自主映画作れたなっていう、そんな楽しさだけでした(笑)。
――でもポリゴン・ピクチュアズさんは作品の納品がすごく早いと言われるじゃないですか。スケジューリングがしっかりしているからこそ、そういう遊びをする余裕も生まれるというのはあるんじゃないでしょうか。
瀬下:それはありますね。スタジオがしっかりと工程管理をしてくれているので、そういうことも出来るような時間的余裕と人的リソースがあったというのは事実ですね。
――ではこの映画の企画は、そうしたしっかりとした制作管理ができるスタジオがあって、それを期日通りに実現できるスタッフがいたからこそ実現したってことですね。
瀬下:おっしゃる通りです。本当にそうだと思います。
劇場アニメ『BLAME!』 (C)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
――テレビアニメって当日納品みたいなことも普通にある世界になってしまっているじゃないですか。ポリゴンさんみたいに、そういう遊びをしている余裕のないスタジオの方が多いんじゃないかと思うんです。
瀬下:ポリゴン・ピクチュアズの制作管理については、色々な方から聞かれるし、様々なメディアで話しているんですけど、その部分に着眼してくれたのは初めてです。
確かに、僕がそんな絵コンテ描いてても許されるような状況を作ってくれたのは、このスタジオとスタッフ、当時の副監督も吉平でしたが、とにかくみんなですね。
吉平:こちらも後ろからコンテ覗き込んで、ああじゃない、こうじゃないって言ってみたり(笑)。
――それが実現できるのって、それは制作進行が優秀だからなんですか。
瀬下:全部ですね。全工程のスタッフがバランス良く優秀だと思います。
吉平:作画のアニメと違って、外にバラまくことも出来ないし、社内の作業工程も非常に多いので、それぞれの締め切りスケジュールをクリアしていかなければいけないし、こぼれてどこかに不稼働が出たら、映像作ってないのに余計なコストが発生するわけです。それが一番イヤなんですよね。特にCGって作画のアニメよりお金がかかりますから、きちっとその制作費を映像のクオリティとして視聴者に還元したいですし。
――ポリゴン・ピクチュアズさんは『超ロボット生命体 トランスフォーマー プライム』シリーズや、『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』など、海外での仕事を長くやってこられていますが、海外では当日納品とかってあり得ないわけですよね。
瀬下:あり得ないですね。契約書がカッチリしてるので。だからポリゴン・ピクチュアズでは法務的な事は、最重要にしています。契約遵守が当然ですし、大前提です。
吉平:海外の役者さんのアフレコだったりとか、各国語翻訳や向こうのポスプロの時間も必要ですし、僕らも海外でのスタイルに慣れているので、自然と早めに納品するクセがもうスタジオに根付いてますね。
――すごく良いクセですね。
瀬下:そうですね。このクセはずっとこのまま守りたいですね。
新ツールでより没入感ある映像が可能に
劇場アニメ『BLAME!』 (C)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
――今回、“Maneki”という新しいツールを、子会社のジーキューブさんで開発されたということですが、これによってどんな表現が可能になったんでしょうか。
吉平:キャラクターの表現力が飛躍的に増したということです。より高度で計算が速く、物理ベースの光の計算をするレンダラー(※レンダリングを行うソフトウェアのこと)を用いて、現実にもあるような複合的な光の環境を作れるようになりました。
――今までのセルルック(※3DCGで手描きのセル画のような表現を行う手法)のCGは光源が1つだけだったというとですか?
吉平:はい、セルの陰影の塗り分けという意味であれば、1種類の方向のライトしかなかったんです。
瀬下:どこをどう塗るか、塗り分けを指定するためにライティングをやっているようなものなんですよ。本来の3DCGの利点でもある、もっと自由に様々なライトを使って、自然で豊かな表現をするには、セルルックの手法だと、とてつもなく手数がかかるんです。それがだいぶできるようになりました。
吉平:夜景であれば、今までであれば月の光の方向からしか光を当てられなくて、今まではそれで塗り分けを決定してたんですが、現実の世界では外灯があって、その近くにいたらその光もあたるし、街の灯りもあったりと、そういう環境を描けるようになったんです。見ている人がより作品世界に没入しやすいセルルックができたと思います。
――確かに従来のセルルックよりも、より世界に引きずり込まれる感覚が強くなったという印象でした。
吉平:ありがとうございます。フィクション寄りのライトから、もっとリアルで複雑な、しかも感情を伝えるライティングができるようになって、このSFの世界に自然にみんなが没入してこれるようになったのが、「Maneki」を使ったメリットですね。
瀬下:『シドニア』の頃から僕らのチームは、ライティングをすごく大事にしているんです。物語の世界が本当にあるんだと信じてもらいたい。臨場感、臨在感を高めたい。そうすると必然的にライティングを豊かにしなければならないんです。今回『BLAME』では、僕らがやりたいことにだいぶ近づいたかなと。…とはいえ、もっとやりたいですけどね(笑)。例えば、爆発して無数の火の粉が飛んでいく、そのひとつひとつの火の粉がライトであってほしいんですよ。今それは到底できないですけど。いつの日か実現したいですね。
日本の声優はメチャクチャ上手い。だからプレスコを採用した
――臨場感を作る上でもうひとつ重要なのが、音響だと思います。ポリゴン・ピクチュアズさんの作品はいつも音響も素晴らしいですよね。
瀬下:これは岩浪音響監督率いる音響チームのおかげですね。我々がこだわっている空間性を音響チームがすごく理解してくれているんです。実際、僕らは場面を精密に設計してから、画面を作るようにしています。いわゆる「名場面」をまず作ろうと。その場面で起こっていることそのものが面白いこと、なるほどそれが劇的だっていう場面がまずできることが重要で、その場面を画面としてどう切り取るかは映像論法として後で整理すればいいかなと考えているんです。
吉平:実際に3Dで空間セットを作って、先に配置演出をするんです。なのでどれくらいの距離感で、何処に何があってというのが全部決まってるんですよね。そこに基づいて音響をつけていただけるので、もちろんそれは映像と強く合致したものになるし、臨場感がより一層増すことで、さらに凝った音響の仕掛けもできるんです。
瀬下:岩浪(美和)さん率いる音響のみなさんが本当に凄い方々で、画面外に連続していくキャラクターの息づかいまで作ってくれています。フレームアウトしたキャラクターがどこにいるかを劇場で感じれるのは、本当にすごい没入感だといえます。
――『シドニア』2期からプレスコ(※映像よりも先にセリフを収録すること)を採用していますね。
瀬下:1期では12話だけ、2期からは完全にプレスコです。『シドニア』の1期で僕は初めて日本のアニメの仕事に携わったんですけど、日本の声優さんが驚くほど上手で感動しまして。全く絵が無い状態で、純粋に彼らの演技を引き出して、まずラジオドラマとして面白いものを作るといいんじゃないかって思いついたんです。
吉平:タイムシート(※時間経過に沿って芝居・セリフのタイミングを指示するもの)とか入れると声優さんの演技が型にはまっちゃうし、僕らの想像の範疇でしかやっていただけなくなってしまいますが、実は声優さんもそれぞれが、いろんな表現や演技を持っているんですよね。
瀬下:そうですね。そうかも知れません。あれから複数の作品でプレスコを行い、我々独自のやり方を確立できてきました。とにかく声優さんの表現力が豊かなので、彼らのクリエイティビティを最大限に発揮してもらい、一緒にキャラクターを作り上げていく事が、とても楽しいです。
――あと今回ドルビーアトモスを採用していますが、いかがでしたか。
瀬下:いやあ、もう、とにかくすごいですね(笑)。
吉平:僕らが今まで『亜人』、『シドニア』でやってもらってた音響に対する効果が5倍にも10倍にもなったような感じでしたね。ましては『BLAME!』って上にも下にもいろんな方向に空間が広がっている作品なので。
瀬下:今回『BLAME!』で思ったのは、ドルビーアトモスを前提にするなら、場面設計の段階から、画面には映っていない存在、例えば階下で怪物が歩いてるような、そんな状況を作り込んでおいて、音響の皆さんに共有したいですね。画の中にない恐怖、画の中にないドラマを音が作ってくれるみたいな事ができる。それってすごいですよ。
CGで日常を描くのが理想
「BLAME!(ブラム)」サブ画像4 (C)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
――CGの表現力というのをどこまで高めることができるのか、瀬下監督の理想がどこにあるのかをお聞きしてもいいでしょうか。
瀬下:僕らのチームは何を目指しているかというと、「日常」を描くことです。それはご飯を食べたり、お風呂に入ったり、着替えたり、そういうことをふんだんにやれる表現力が欲しいです。僕はCGを仕事にして、もうすぐ30年になりますけど、「日常」を描く表現力が昔からのテーマです。
吉平:CGはメカが得意だとかSF得意とか言われてますけど、僕らにしてみればドラマの表現力、キャラクターの表現力いいねって言われたいんです。
瀬下:SFの世界は、いわば誰もが見たことない世界なんです。悪くいえば、省略できるし、そういった「非日常」の中のリアリティは比較的作りやすいんです。繰り返しになりますが、とにかく難しいのは「日常」ですね。ごく普通に朝起きて、シャワー浴びて、ご飯食べて、トイレ行ってというような、全ての日常、そういう些細なことがCGは難しいです。そういう難関を全部超えたいですね。
映画『BLAME!』は5月20日(土)より全国公開(2週間限定)。
(C)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
霧亥::櫻井孝宏
シボ:花澤香菜
づる:雨宮天
おやっさん:山路和弘
捨造:宮野真守
タエ:洲崎綾
フサタ:島﨑信長
アツジ:梶裕貴
統治局:豊崎愛生
サナカン:早見沙織
原作:弐瓶勉『BLAME!』(講談社「アフタヌーン」所載)
総監修:弐瓶勉
監督:瀬下寛之
副監督/CGスーパーバイザー:吉平”Tady”直弘
脚本:村井さだゆき
プロダクションデザイナー:田中直哉
キャラクターデザイナー:森山佑樹
ディレクター・オブ・フォトグラフィー:片塰満則
美術監督:滝口比呂志
色彩設計:野地弘納
音響監督:岩浪美和
音楽:菅野祐悟
主題歌:angela「Calling you」
音楽制作:キングレコード
アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
配給:クロックワークス
製作:東亜重工動画制作局
公式HP:http://www.blame.jp