「今日は過去最高のライブ」ACIDMANの2マンツアーセミファイナル、“特別”なスカパラとの一夜
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ACIDMAN / 東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦、加藤隆志 撮影=taku fujii
ACIDMAN 20th Anniversary 2man tour 2017.5.28 Zepp Tokyo
ACIDMANがZepp Tokyoに還ってきた。今年最初で最後のプレミアムワンマンライブから4か月後、結成20周年記念2マンツアーのセミファイナル、15本目。ロックンロール、パンク、メタルコア、ヒップホップ、ソウル、オルタナ、スカ、インスト――先輩後輩入り乱れ、彼らが影響を受けた音楽を再確認する意図を持った対バンの中でも、今日のパートナーは特別だ。とてつもなくエモいライブになる予感しかしない、特別な夜の幕が開く。
Yasei Collective 撮影=taku fujii
午後5時55分。未だ客入れ中のステージで、オープニングアクト・Yasei Collectiveが演奏を始める。機械仕掛けのように精密なファンク・ビート、ジャズのインプロヴィゼーションを思わせるエレクトリック・ピアノ、猛烈な重低音を発するシンセベース、ミニマル・ミュージックのようなギターのリフ。ジャズ、ロック、ファンク、ダンスを股にかけて涼しい顔で超絶技巧を繰り出す4人は、現代のプログレッシヴ・ロックバンドとして実に刺激的な音を出す。純粋な音の快楽と、「ナンダコリャ?」という驚きが交互に押し寄せる。ツイッターのフォローを促すお茶目なMCには、明るい笑いと拍手が起こる。ACIDMAN率いるFREE STARの期待のニューカマー、掴みはOKだ。
Yasei Collective 撮影=taku fujii
午後6時30分ちょうど。フロアを揺るがす大歓声に迎えられ、東京スカパラダイスオーケストラが姿を現した。惚れ惚れするダンディズムとワイルドネスを全身から発散し、最初の一音で場内の温度を急上昇させるライブ巧者ぶりは、野外フェスでもライブハウスでもまったく変わらない。「DOWN BEAT STOMP」「スキャラバン」と立て続けに代表曲をぶっ放し、谷中、GAMOU、大森がマイクを持ち煽りまくる。踊りまくるオーディエンスの中に、スカパラTシャツがたくさん見える。
「ACIDMANは、硬派、ストイック。スタイルを変えずにやり続けているのは、すごいこと。一緒にできて光栄です」
谷中のMCに、愛がある。一緒に酒を飲む時、いつも感動して大泣きしていたという、大木を語るエピソードに優しさがある。音楽の刺激だけではない、人間同士の交流が感動を生むことがよくわかる、美しいシーン。さらに「Routine Melodies」から「Pride of Lions」へ、90年代スカパンクを通ってきた者なら涙ぐみそうな名曲が続く。「水琴窟-suikinnkutsu-」では、キーボードの沖が神がかったかのような凄まじいソロを弾いた。さらに最新ヒット「道なき道、反骨の」から、ロシア民謡でお馴染み「ペドラーズ」を華々しくぶちあげて、きっかり40分でライブを終える。「このあとACIDMAN、思い切り楽しんで!」と谷中が手を振る。いついかなる場所でも、必ず期待に応えるプロフェッショナル。スカパラ、やっぱり凄いなと呟くしかない。
ACIDMAN 撮影=taku fujii
午後7時半、いよいよ主役の登場だ。いつものインスト「最後の国(introduction)」、いつもの手拍子、いつもの照明。いつも通り胸高鳴るオープニングの中に、いつも通りではない特別なエモーションを感じるのは、スカパラが高めてくれた熱量のせいに間違いない。「この素晴らしい瞬間を、1分1秒を、みんなで最高のものにするぞ!」。大木の言葉も興奮で上ずって聴こえる。1曲目はいきなり「world symphony」。爆風のように猛烈な音圧がステージから押し寄せる。続いて「アイソトープ」。フロアは一人残らず拳を掲げ、リフに合わせて声を嗄らす。「今、透明か」で静かにスタートした4か月前のライブとは、テンションの向きがまるで違う。
ACIDMAN 撮影=taku fujii
「やっぱり東京はいい。みんなのパワーを感じます」
Yasei Collectiveへ賛辞を送り、スカパラへ謝意を述べ、オーディエンスへ礼を告げる。すべての人に感謝を伝えること、それがきっとこの2マンツアーの核心だ。曲は「River」から「スロウレイン」、そして「銀河の街」へ。軽やかにダンサブル、華やかにメロウな曲調が続き、ヒートアップした場内の熱気が少し和らぐ頃、大作バラード「世界が終わる夜」が始まった。世界は終わる。人は死ぬ。だから命は素晴らしい。僕らはつながっている。大木の思想の中核を成す名曲に、立ち尽くして聴き入るオーディエンス。後光のような白い光がだんだんと強くなり、超新星の爆発を思わせるハレーションを引き起こす。ドラムとベースとギター、たった三つの楽器がフルオーケストラのように高らかに鳴り響く、3ピースの最高峰。こんな壮麗な音を出せるトリオは、世界中探してもたぶんいない。
ACIDMAN 撮影=taku fujii
ACIDMAN 撮影=taku fujii
「ずっと、理解してくれる人が少なくて、孤独を感じていました。でも、デビューして、みんなが聴いてくれることで、救われました」
穏やかな口調の中に、万感の思いを込めた大木のMC。宇宙はどうやって始まったのか、どうやって終わっていくのか。その中で生まれて死ぬ、僕たちの運命とは。それだけを歌っている音楽家人生だと、鮮やかに言い切る姿に、谷中の言った硬派、ストイックという言葉が重なる。「この二人(佐藤&浦山)は全然わかってくれないけどね」と、笑いを誘う言葉に朗らかなユーモアがにじむ。音楽家として、思想家として、今の大木伸夫は素晴らしく成熟している。
ACIDMAN 撮影=taku fujii
ACIDMAN 撮影=taku fujii
インスト曲「彩-SAI-(前編)」と「Slow View」は2曲続けて。何もないところから命の鼓動が始まっていく、ACIDMANのインストにはどれも力強い生命力が宿っている。続いてはお馴染み、一悟のくだけたMCタイム。いつものようにオチがなく、佐藤が茶々を入れ、大木が混ぜっ返す。大木はなぜだか、最近見たという映画『メッセージ』を熱烈に絶賛している。大木が言うなら見てみようかと、その気になる。言葉に説得力を持つ男は強い。
ACIDMAN 撮影=taku fujii
ACIDMAN 撮影=taku fujii
「最後の星」は、ビートの効いたミッドバラード。ルート音を弾くだけのプレーに、佐藤が魂を込めているのが伝わる。彼もまた、ストイックに成長を続けている。そして久々に聴いた気がする「アレグロ」。1曲の中にシンフォニーを詰め込んだかのような、なんと複雑な、なんとストレンジな、なんとエモーショナルな曲だろう。初めて聴いた15年前も、今も、感動は瑞々しいままだ。今日のクライマックスはここだな、と思った。が、まだその上があった。
ACIDMAN / 東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦、加藤隆志 撮影=taku fujii
1か月前の『ARABAKI ROCK FEST.』でも共演したという、スカパラの谷中、加藤を呼び込んでの「ある証明」。もともとエモーショナルな曲が二人のパワーを得て、大木の思いを乗せて、熱狂を通り越して異様な興奮へと至る。谷中のサックスが火を吹き、加藤のギターが叫ぶ。ここはスタジアムか? 鬼気迫る爆音祭り。こんなにエモい「ある証明」は聴いたことがない。二人が去った後の「飛光」でもテンションは持続し、大木と佐藤がステージ左右に飛び出してオーディエンスを煽る。いや、煽られている。嵐の海のように沸騰するフロアを見ているだけで胸高鳴る、ACIDMANのオーディエンスは本当に凄い。
ACIDMAN / 東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦、加藤隆志 撮影=taku fujii
「今日は過去最高のライブでしょう。みんなのおかげです。いいエネルギーをもらいました」(大木)
本編ラストは、「愛を両手に」。いつものように、大木が丁寧に曲の解説をする。この曲はただ聴くだけでは足りない、語られるべき曲だ。これからも世界が終わる曲を、人が死ぬ曲を書き続ける。生きていることは普通じゃないと歌い続ける。そうすれば、いとおしくなる、優しくなる。「一緒に歩いてきましょう」と大木は言った。最新曲になればなるほど、大木の思想は最も核心に近づいて行く。それはまるで、最新の宇宙望遠鏡が最古の昔を解き明かすように、ACIDMANの一番新しくて一番古い原点がここにある。
ACIDMAN 撮影=taku fujii
アンコール。Yasei Collective、東京スカパラダイスオーケストラ、そして満員のオーディエンスにあらためて深い感謝を告げ、最後を締めくくったのは「Your Song」だった。あなたの運命を讃えよう。あなたの戦いを受け入れよう。僕はここに立っている。まばゆく輝く光、はじけ飛ぶ爆音、圧倒的な肯定、圧倒的な演奏。ワンマンツアーではない、対バンとの対話があったからこそ到達した高み。多くの支えと交流を得て、ACIDMANはまた一つバンドのレベルを上げた。目指すは11月23日、さいたまスーパーアリーナ。『SAITAMA ROCK FESTIVAL“SAI”』では、この日以上の特別な光景が見たい。見せてほしい。見られるはずだ。
取材・文=宮本英夫 撮影=taku fujii
ACIDMAN 撮影=taku fujii
2017/11/23(木・祝)
故郷・埼玉県、さいたまスーパーアリーナにACIDMAN主催『 SAITAMA ROCK FESTIVAL “SAI”』開催決定!
2017年7月26日発売
(価格)¥1,200+消費税
(品番)初回限定 紙ジャケット仕様 TYCT-39059
(収録内容)
M1.ミレニアム
M2. Seesaw
M3. 青の発明 -instrumental-
M4. Live Track From 20141023 Zepp Tokyo(『世界が終わる夜』リリース記念プレミアム・ ワンマンライヴ)
アイソトープ/赤橙/type-A