ケラリーノ・サンドロヴィッチ版『ワーニャ伯父さん』でタイトルロールに挑む、段田安則を独占インタビュー!

2017.7.5
インタビュー
舞台

段田安則 『ワーニャ伯父さん』

画像を全て表示(7件)

ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)がシス・カンパニーと組み、チェーホフの四大戯曲に取り組んできた“KERA meets CHEKHOV”シリーズ。2013年の『かもめ』、2015年の『三人姉妹』に続くシリーズ第3弾として、今年はいよいよ『ワーニャ伯父さん』が上演される。キャストはこれまで同様、華やか、かつ実力派の面々が顔を揃えることになった。シリーズ第2弾『三人姉妹』からの続投となる段田安則と宮沢りえ、そして映像に舞台にと飛ぶ鳥を落とす勢いの黒木華、KERA作品の常連でこのシリーズすべてに出演している山崎一のほか、横田栄司、水野あや、遠山俊也、立石涼子、小野武彦が出演し、さらにギター奏者として伏見蛍が舞台上で登場人物の心情を生ギターで表現する。KERAならではの丁寧な描写により、チェーホフの新たな魅力が発見できそうだ。そこで今回、まさに題名にもなっている“ワーニャ伯父さん”役に挑む段田安則に、シリーズのことや作品への想いなどを語ってもらった。


――KERAさんがチェーホフ作品に取り組むこのシリーズには、段田さんは前回の『三人姉妹』から引き続き2回目の参加ということになりますね。前回の『三人姉妹』を振り返ってみて、印象深いエピソードは。

『三人姉妹』は、出演者が今回も一緒に出る、はじめちゃん(山崎一)や(宮沢)りえちゃん、それと堤くん(真一)とか、みんな以前からよく知っている人たちばかりでしたからね。初めてご一緒した赤堀(雅秋)くんたちも含めて、とにかく顔ぶれが楽しい方ばかりだったなあ、という印象が強く残っています

チェーホフの作品は、『三人姉妹』も『桜の園』も、タイトルから覚えやすくて美しくて、いいですよね。前回の『三人姉妹』は文字通り三人の姉妹に光を当てたお話でしたが、余(貴美子)さんと、りえちゃんと、(蒼井)優ちゃん、三人の顔合わせがとても素敵な舞台でした。

段田安則

――タイトルという意味では今回は『ワーニャ伯父さん』で、しかもそのタイトルロールが段田さんです。

今回はそのタイトルを背負うわけですから、そういう意味でも責任は重大だ、と感じています。でも、『かもめ』『三人姉妹』『桜の園』に対して、『ワーニャ伯父さん』ですから……。いやあ、『オジサン』ですから、他の三作品のタイトルに比べたら、さほど美しい響きはありませんからね、なんだよ、ただのオジサンの話かよって、思われないですかね(笑)。以前、『ワーニャ伯父さん』を読んだときは、イメージとして、もっと年配だった気がしていたので、「え? 僕がワーニャ?」と最初は思ったんです。でも、思ったよりも「伯父さん」も若かったんだ、というのが今回読んでみての最初の発見でした。黒木(華)さんが演じるソーニャにとっての親戚の「伯父さん」で、年寄りというわけではなかったんですね(笑)。

――そうですね、ソーニャのお母さんの兄、ということですから。“おじいさん”ではないでしょうね(笑)。

そう、だったらいいかと思って(笑)。冗談はともかく、『ワーニャ伯父さん』というタイトルで、自分がワーニャを演じるわけですから、やはり責任重大ですね。もちろん俳優としてタイトルを背負うというのは、名誉なことですし、自信にもなります。でもやはり稽古前の今の時期は、まだまだ「自分で本当に大丈夫なのか」とドキドキしているところです(笑)。

段田安則

――KERAさんが手がけるチェーホフという意味では、一般的なチェーホフ作品の印象ともまた少し違ってくると思うのですが。

確かにそうですね。KERAさんとは、前回の『三人姉妹』の他10年くらい昔になりますが、チェーホフ以外でも『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?』(2006年)や『どん底』(2008年)でご一緒させていただきました。今回の上演台本もそうですが、KERAさんが手を入れるといっても、大胆に翻案したり、カットするわけではないんです。大元のところは変えないんですね。もちろん、原本はロシア語ですから、そこから日本語にした時点で、ある程度の違いは多少はあるのかもしれませんが、KERAさんの上演台本は、原作から決して外れることはなく、でもKERAさんの色はシッカリと出ているんです。100年以上前の作品に、KERAさんのセンスや間でセリフ回しや語順に手を入れているので現代の僕らが演じるのにふさわしい言葉変換されている、という印象が強いですね

――今回の上演台本でも、それは感じましたか。

はい。笑いの部分でも「ああ、こういうニュアンスの笑いがKERAさんは好きなんだな」とか。僕らにもわかりやすいように書かれていると感じました。

――ほんのちょっとしたニュアンス、少し言葉尻が変わるだけでも、独特の笑いが生まれたりしますよね。

そうですね。特にチェーホフ作品、それこそ悲劇なのか喜劇なのかよくわからないところがあって、そこがまた魅力でもある。チェーホフを研究しているようなお客は、もしかしたら「ん? これは本当のチェーホフじゃないよ」と最初は感じられるかもしれませんが、決して本質は変わっていないので今の日本で僕らが演じるには最適な本だなと、読んでいて改めて思いました。

段田安則

――もしかしたら、チェーホフをお堅い作品なのかもしれないと思って、つい敬遠してしまっている方もいるかもしれませんが。

例えば、この作品のチラシを見て「ん? なんか難しそうだな」なんてイメージを抱く方もいらっしゃるかもしれませんが、劇場を出るときには、「なんだ、全然難しくなかったじゃん」って思っていただけると思います。KERAさんが手がけてきたシリーズ前2作を振り返っても、まずはひどいことにはならないと思いますよ。って、こんな言い方はダメか(笑)。とにかく、シリーズ2作をご覧になってきた皆さんが楽しみに待ってくださっていた第3弾です。初めてご覧になる方にも、根っからのチェーホフ好きの方々にもご満足いただける作品になると思います。ただ、正直なところ、まだ稽古が始まっていないので、僕自身、今は、「どうなるんだろう」とワクワク半分、ドキドキ半分、というところです。

――稽古してみないことには?

今回に限らず、稽古前は、正直なところ、わからないことは多いですね。ただ、ハッキリしていることがひとつ! とにかく今回キャスト陣が、タイトルロールの僕は別としても(笑)、素晴らしい俳優さんが揃っているので、その俳優さんたちの演技が間近に観られる、というのは、お客様にとって最大の醍醐味だと思うんです。芝居を観る目的のひとつが、好みの俳優を観にいく、でもいいと僕は思うんですよ。

――そういうお客様も、たくさんいらっしゃるかと思います。

もちろん、チェーホフが好きでとか、KERAさんが好きでとか、いろいろ理由はあるでしょうから、そういう動機でご覧いただいて存分に楽しめます!それに加えて、今回は見応えある俳優が揃っておりますからね。「宮沢りえが観たい」「黒木華を観たい」「山崎一を観たい」と、そういう目的でもいいと思います。ちなみに、山崎さんと僕は同い年なんです。でもはじめちゃんは、僕よりも、なぜかいつもりえちゃんにいじられてますね(笑)。

――そうなんですか?(笑)

いじりやすいんでしょうね(笑)。だけど、そうやっていじっていじられている二人のやりとりを稽古場でまた見られるのが、僕の楽しみでもあります。そのお二人が今回夫婦役なんですが、前回の「三人姉妹」とまた違った面白さが出てくると思います。

――ちょっと年の離れた。

不思議な夫婦でね。チェーホフ作品って、わりと奥さんや旦那さんがいたりしても告白しちゃったり、という展開がよく出てきます。今回の『ワーニャ伯父さん』も、そういう恋愛をめぐる人間関係が面白く出てくると思います。といっても、もちろんチェーホフさんは単に好きだの嫌いだのの、痴話げんかの話を書いているわけではないんですが。でも具体的には結構、ちまちました話が多い(笑)。「あの人を好きなんだけど、どうしよう」とか、「ああ、俺はもうだめだ、おちぶれてしまった」「それでも、がんばりましょうよ」みたいな会話が続くんです。

――結局はそういうお話だと。

しかも結構、細かいんです。もしかしたらその裏に、僕には理解できない大きなテーマがあるのかもわからないですけど(笑)。だけど、やっていること自体はそういった身近なことが次々と起こってくる芝居ですので。決して暗くて難しく、重い芝居ではありませんので、このシリアスっぽいビジュアル写真を見て躊躇されている方にも「大丈夫ですよ! 全然重くないですよ!!」と言いたいです(笑)。

段田安則

――KERAさんが関わることで、登場人物同士で交わされる会話がとても面白くなりそうですしね。

人間の浅はかな部分であるとか、誰もが持っている悩みとかは、実は当事者たちにはとても重大なことでも、傍から見ていると滑稽に見えたりするものですからね。この芝居は、そういうことが、舞台上で次々と起きてくるわけです。

――あと、今回はギターの生演奏が入るというのも楽しそうだなと思いました。

そう! 今、まさにそれを言おうと思ったんです(笑)。ト書きに「ギターを奏でる」とあって、ここで録音だったらダサいかも……なんて思っていたので、生でギターを弾いてくださる方が入るなら、これはいいな!とうれしくなりました。新国立劇場の小劇場という、あの濃密な空間にギターの音が流れるだけで、かなりいい空気が生まれるはずです。それだけでも観に行く価値があるのではないかと僕は思います。とにかく、チェーホフといってもハードルは高くなくKERAさんの手で現代の身近な感覚の台本になっています。とても素晴らしい俳優さんたち揃いましたので、きっと心地よい芝居になるはずです。それこそチェーホフファンの方も、初めてチェーホフに触れる方も一緒になって楽しんでいただけると思います。こうやって話してきたら、稽古前のドキドキが段々落ち着いてきて、自分でも自信が出てきました(笑)。

段田安則


インタビュー・文=田中里津子 撮影=荒川 潤

公演情報
「ワーニャ伯父さん」
 

ワーニャ伯父さん

日時:2017年8月27日(日)~9月26日(火)
会場:新国立劇場 小劇場 (東京都)

作:アントン・チェーホフ 
上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 
出演:段田安則/宮沢りえ/黒木華/山崎一/横田栄司/水野あや/遠山俊也/立石涼子/小野武彦 
ギター演奏:伏見蛍