ピアノソロ奏者の米津真浩&小瀧俊治がガチンコ連弾 パワフルかつ繊細なタッチに会場を圧倒
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小瀧俊治、米津真浩
「若い頃の演奏を知っているからやりやすい」米津真浩&小瀧俊治 “サンデー・ブランチ・クラシック” 2017.5.28. ライブレポート
ソロ演奏よりもパワフルで楽しく聞こえ、ピアノが身近に感じられる連弾。プロの世界ではコンビを組んで常時一緒に活動するケースが多いが、今回の『サンデー・ブランチ・クラシック』に登場したデュオ、米津真浩と小瀧俊治は、ともにソロ奏者だ。米津はすでに3回ほど『サンデー・ブランチ・クラシック』にソロ出演している。実はこの2人、10年余りの仲ということで昨年から時々、連弾の活動も共にしている。「大学の先輩後輩です(笑)」という言葉が示す通り、気心の知れた2人が繰り広げたのは、心がワクワクするガチンコ連弾だった。
オープニングは、ハチャトゥリアンの「剣の舞」。もともとバレエ組曲『ガイーヌ』の1曲で、クルド人が剣を持って踊る戦いの舞曲をイメージしたものだが、さまざまな楽器用に編曲されてピアノ発表会などでも人気がある。連弾用も複数存在するが、旋律を受け持つプリモがインパクトあるオクターブの連打を高音域で、リズムや伴奏を担うセコンドは管弦楽のチェロやコントラバス、ティンパニなどを低音域で展開していく。
米津真浩、小瀧俊治
プリモは小瀧、セコンドは米津。小瀧のオクターブの高速連打と、米津の力強いリズム旋律がぶつかり合うパワフルな演奏だ。お互い臆することなく、われ先にと弾き合っていくのがいい。若い舞踏手を彷彿するリアリティーが感じられる。小瀧の左手と米津の右手が交差したり、4手が追いかけ合うように鍵盤を移動したり、スピードに乗って駆けぬけるような、わずか2分半余りの短い曲に見どころ聴きどころがたっぷり。小瀧が、米津の背後から左手を伸ばして、決めの低音でフィニッシュ!
弾き終えるや、マイクを手にご挨拶。米津が「(『サンデー・ブランチ・クラシック』への出演は)ソロを入れると4回目ですが、連弾はお披露目です」と話すと、小瀧も「実は米津さんは、大学の時からの親友で先輩です……」など、昨日や今日の仲ではないことを告白。最近、連弾の機会が増えてきて今日を迎えたことをさっくりと語った。
MC中の様子
そんな二人は、それぞれのソロもしっかりと用意していた。米津はチャイコフスキーのバレエ組曲『くるみ割り人形』から「パ・ド・ドゥ」を演奏してくれた。『くるみ割り人形』というと「花のワルツ」を思い浮かべる人が多いだろうが、バレエではその後に、男女の主役二人が優雅に踊る見せ場がある。それが「パ・ド・ドゥ」で、独奏用に編曲されたロマンチックなピアノ曲である。
優雅な旋律をオクターブで奏でる手と、流れるようなスケールを上り下りしてムードを盛り上げる手、左右の手が役割をバトンタッチしたり、時折交差したり、両手で同じ旋律を奏でたりしつつ、音数を増やして進行する様子は、まさに鍵盤で男女がバレエを踊っているかのよう。米津の粒だった音が、跳ねたり揺らいだりしながら「パ・ド・ドゥ」を紡いでいく。
米津真浩
次いで、連弾2曲目は「カルメンファンタジー」。ビゼーのオペラ『カルメン』は人気作品だけに、ピアノアレンジ曲も多いが、彼らが愛奏しているのは若手作曲家・森亮平が2人用に編曲した連弾版。小瀧がプリモ、米津がセコンド、どんなカルメン、ホセらが登場するかと見守っていると、実にエンタテインメント性に富んだ脚色だった。ペダルを効かせながら、鍵盤をめいっぱい使ったアクティブな演奏で、二人が丁丁発止と渡り合う。「アラゴネーゼ」「ハバネラ」「闘牛士」など、おなじみの旋律が沸き上がる中に、ジャズっぽいフレーズがあったりして、身を乗り出して聴く人も見受けられたほど。
小瀧俊治
「息があがります(笑)。続きましては小瀧さんのソロで……」と米津。リストの「愛の夢」は、小瀧のCDアルバム『LIVE SELECTION2~ROMANTIC~』にも収録の十八番だ。エレガントな音色に、場内の空気がすうーっとやわらぐ。繊細な余韻に包まれて、客席は心地よくクールダウン。いよいよ最後の連弾となった。
演目はローゼンブラットの「2つのロシアの主題によるコンチェルティーノ」。連弾好きならご存じだろう。ロシア民謡「カリンカ」と「モスクワの夜」の主旋律が、ジャズ風のお洒落なリズムや和音と溶け合って、独特の異国情緒を醸と出す。しかも“目”でも楽しめる曲なのだ。
米津が「僕たち、ちょっとこの身長差があるから、やりやすいところもあると思います(笑)」と、前置きしてプリモの高音域に、小瀧がセコンドの低音域にそれぞれ着席した。
「モスクワの夜」の追いかけ合いのバリエーション後、「カリンカ」に展開。やがて小瀧が弾きながら立ち上がり、小柄な米津の背後から覆い被さるようにして演奏。“二人羽織”の俗称で呼ばれることもある人気曲を大喝采で終えた。
アンコールの「熊蜂の飛行」は、今やいろんな楽器の独奏速弾き、速吹きの代名詞的な存在と化しているが、二人の連弾は「クシコス・ポスト」を生かしたファンタジックなアレンジ作品。「熊蜂に追われる郵便馬車」のタイトルで楽譜が出ていて、小瀧が「郵便配達のおじさんが、蜂に追いかけ回されるイメージの編曲です」と説明。その通りで、軽快に走っていた馬車に遠くから熊蜂が近づいて来て……。作曲者のリムスキー=コルサコフが生きていたら、きっとお客さんと大笑いするだろう。米津と小瀧は、連弾コンサートを増やしていくようなので、ぜひナマで聴いて楽しんでいただきたい。
米津真浩、小瀧俊治
終演後、素晴らしい連弾を見せてくれた2人に短い時間だがお話を伺うことができた。
――二人とも東京音楽大学出身ですが、なぜこんなにも仲がいいのでしょう。米津さんは先輩ですよね。
米津:お互いよく似てて、おっとりしてるというか、パソコンでかわいい動物を見つけたら「カワイイねぇ」とか言い合ってる感じで“まったり系”というか(笑)。ラーメンも好きで、一緒に食べに行ったりしてます。
――先輩後輩で“親友”と言い合えるのは、そう多くはないと思います。
小瀧:音楽大学って男子が少ないんです。それに1学年しか違わないので。
米津:僕は千葉の実家から通っていたので、帰りが遅くなったりすると小瀧くんの部屋に泊めてもらっていました。
小瀧:はい、よく泊まりに来ていました(笑)。
終演後にサイン会も
――連弾はいつから?
小瀧:去年、イベントで初めてやってみたら楽しくて。米津さんとは長いつき合いなので“あうんの呼吸”というのか、気を使うことなく演奏できるんです。尊敬している先輩で自分とは違うものを持ってるから、一緒にやると融合して化学反応をおこす気がするんです。
米津:ソロで弾くときでも、座る位置がちょっと違うと弾きづらくなるわけで、連弾だともっと細かなことが出てくるんです。手の交差だって上下を間違うとぶつかったり、移動しにくかったりします。今日の「熊蜂の飛行」も、交差は上からでないといけなかったり、タイミングなどもいろいろとありますし……。彼の若い頃の演奏を知っているので、いいところや苦手なところがどう変化したか分かるから、やりやすい面もあると思います。
――小瀧さんはエレガントで繊細な音色、米津さんは音の粒が立ってて良く鳴る感じで、それぞれの持ち味も違いますね。連弾ではどんなカラーを出していきたいですか?
小瀧:一般的に“連弾”というと、いつもデュオで活動してて、演奏も「バランスをとる」方向へ持ってくことが多いと思うのですが、僕たちは、お互いのソロ演奏の時とは違う楽しさを、お客さんに味わってもらえるようにと考えています。
米津:お互いソロやってるけど、一緒に連弾もするという人は珍しいと思います。合わせに行くとこは行きつつ「個性のぶつかり合い。だけど、まとまりがある演奏」をしたいです。お客さんがドキドキワクワクする演奏は、やりがいがあります!
米津真浩、小瀧俊治
取材・文=原納暢子 撮影=岩間辰徳
青木智哉/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
9月3日
1966カルテット
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
9月24日
高橋洋介/バリトン
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
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