クラシックもジャズ・ポップスも自由自在! 西谷牧人(チェロ)と新居由佳梨(ピアノ)が共演

2017.6.27
レポート
クラシック

西谷牧人(チェロ)、新居由佳梨(ピアノ)

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「幕の内弁当風の30分」西谷牧人&新居由佳梨 “サンデー・ブランチ・クラシック” 2017.6.11. ライブレポート

本格的に夏らしい陽射しになってきた6月11日の日曜日。この日、渋谷・道玄坂のeplus LIVING ROOM CAFE & DININGで行われた『サンデー・ブランチ・クラシック』では、チェリストの西谷牧人とピアニストの新居由佳梨が登場した。

開演時刻の13:00、拍手を受けながら登場した西谷と新居は、早速演奏を披露してくれた。最初の曲は、ラヴェル作曲「亡き王女のためのパヴァーヌ」。

西谷牧人(チェロ)、新居由佳梨(ピアノ)

冒頭から、チェロが有名な美しい旋律を提示する。優しげなピアノの伴奏に乗せて、温かみのある柔らかなチェロの中音域が会場に響く。ピアノがやや重みのある和音を奏でるのに合わせ、チェロも響きをたっぷりとふくんだ重音を聞かせ、メロディーの終止に向かう。

チェロがピッツィカートに移行すると、甘美な旋律はピアノに受け継がれていく。中間部に入ると、印象的な上昇音型が繰り返される。美しい音色と相まって、夢の中のような幻想的な雰囲気が醸し出された。

やがて冒頭のメロディーがチェロに戻り、再現部となる。甘くロマンティックな中に、凛とした気品を感じさせる演奏だ。ピアニッシモながら豊かな響きを残して、曲は終わりとなる。

新居由佳梨(ピアノ)

続けて演奏された2曲目は「親愛の言葉」。スペイン出身のチェリスト、ガスパール・カサドの作品だ。快活に踊るようなピアノの序奏で、曲は始まる。チェロが提示する明るい旋律は、民謡風の雰囲気を持っている。先ほどの曲とは対照的に、陽気に歌っているような演奏だ。ピアノ伴奏はダイナミクスが大きく変化するので、聴く側も面白く、音楽に引き込まれる。民謡風なので、ためを作るなどテンポ面での変化も目まぐるしいが、2人の息はぴったりと合っていた。

やがて曲調は変化し、短調の哀愁漂うメロディーが現れた。チェロの高音域が哀切に響いたかと思うと、快活なメロディーに変わるなど、曲は短い間に多様な表情をのぞかせる。

急激にテンポを落とすと、チェロが技巧的なパッセージを挟みながら、悲しげな歌を聴かせる。しかし、音楽は徐々に速度を速めていき、祭りの音楽のように多彩な表情に彩られていく。最後は一気にテンポを速め、情熱的に締めくくられた。

西谷牧人(チェロ)

満場の拍手に応えて、最初に西谷が挨拶した。

「ここの会場は初めてなのですが、こんな素敵な空間で演奏できるのを嬉しく思います。1曲目は、ピアノ・ソロで新居さんが得意にしている「亡き王女のためのパヴァーヌ」、2曲目はカサドの「親愛の言葉」を聴いていただきました」

また、西谷は新居との不思議な縁についても話をしてくれた。

「私たちは芸大時代の同級生でした。しかも、地元も同じ奈良で、高校も隣同士でした。知り合ったのは大学に入ってからですが、おそらく地元で同じ電車に乗っていたりしていたと思います。2人で奈良から出てきて、今渋谷にいるというのも不思議な感じがしますね(笑)」

続けて、共演する新居もコメントする。

「本日は2人のデュオのコンサートなのですが、ここからは短いソロの曲を、それぞれ皆さんにお届けしたいと思います。まずはピアノのソロで、シューマン作曲『ミルテの花』より「献呈」という曲です」

MC中の様子

新居は、続く曲目についても紹介をしてくれた。

「この曲は、シューマンが奥さんのクララのために、結婚式の前夜に贈ったと言われています。もとは歌曲ですが、愛に溢れた歌詞がたくさんついていまして<君は僕の心、安らぎ、悲しみ、喜び……>という全ての賛辞がつまった曲なんです。シューマンの愛情とともに、この曲をお届けしたいと思います」

新居由佳梨(ピアノ)

そうして、3曲目のシューマン作曲「献呈」の演奏が始まった。

包み込むような優しい音色で、曲が始まる。冒頭部の美しい分散和音は、泉から澄んだ水が湧き出るような印象を残す。恋に心を高揚させているロマンティックさと、相手への深い慈愛を同時に感じさせる演奏だ。

一旦音楽が静まると、伴奏系がやや活発となり、甘美な中でもニュアンスが変わってくる。感情が溢れるのを抑えきれないような、情熱的な色合いが濃くなるのだ。情熱は少しずつ高まっていき、絢爛で熱気に満ちたクライマックスに導かれる。

音楽はやがて落ち着きを取り戻し、ほっとするような安らぎの中で、曲は余韻を残して閉じられる。限りない優しさを感じさせるような演奏だった。

次に演奏されるのは、チェロのソロ曲だ。

「とても素敵な曲の後に、がらっと印象を変えてしまうのですが……長いことアンコールなどで弾いている、私の十八番の曲を聴いていただきたいと思います。この会場では初めて演奏するので、これを弾いておかないと落ち着かないということで(笑)。アメリカのジャズ・チェリストのマーク・サマーが作った「ジュリー・オー」という作品です」

と、西谷が曲について紹介してくれたあと、4曲目「ジュリー・オー」の演奏が始まった。

西谷牧人(チェロ)

ギターを思わせる軽快なピッツィカートで曲は始まる。徐々に気分を高揚させたあと、弓引きで情熱的なメロディーが現れる。情熱を感じさせる一方で、カントリー風の伸びやかさも持ち合わせた演奏だ。重音も効果的に使われ、音楽に深みを持たせている。

やがて、ピッツィカートによるジャズ風の曲調が登場する。弦を指板にぶつけ、激しい音を出す奏法で、聴衆に強いインパクトを残す。音楽は少しずつ静まっていき、今度は緩やかで落ち着いたメロディーとなる。静かではあるが、深い郷愁のようなものを感じさせる、切なげな旋律だ。

よく響く美しい重音に続けて、再び前半部の明るいメロディーが戻ってくる。技巧的な早回しを見せたあと、軽やかに曲を締めくくった。

再び合奏の曲に戻る前に、西谷は次の曲への思い入れについてもコメントしてくれた。

「今回この演奏会のお話を頂いて、新居さんと共演できると聞いたとき、最初に『これを弾きたい!』と思った曲を本日のメインディッシュにしたいと思います。クラシックの作曲家には優れたピアニストがたくさんいます。中でもショパンやラフマニノフが有名ですが、この2人はピアノ以外には、チェロのためにしかソナタを書いていません。ショパンなどはピアノ以外だとチェロの曲しか書いていません。また、ラフマニノフがチェロとピアノのために書いたソナタは名曲として有名です。その中から、ゆったりとした第3楽章を演奏したいと思います」

お食事を楽しみながらクラシックを

5曲目の、ラフマニノフ作曲「チェロ・ソナタ」より「第3楽章・アンダンテ」の演奏が始まった。

曲の入りは、ゆったりとしたピアノの序奏だ。切々と歌うような、憂いに満ちたメロディーが提示される。チェロに受け継がれたメロディーは、息が長く、深い情感がこもっていた。一方、第2主題はやや趣きが違い、何かを希求するような雰囲気となる。上昇音型が幾度も繰り返され、徐々に頂点に向かっていくのが印象的だ。

チェロによる息の長いメロディーに、ピアノの対旋律が絡み合い、甘美でロマンティックな音楽がつくりだされる。やがて幻想的なピアノの音型が現れ、それに導かれてチェロが高音域のメロディーを奏でる。ピアノとチェロの澄み渡った音は、夢を見ているかのような安らかな気分にさせる。最後は名残を惜しむかのように、微かなチェロの伸ばしとピアノの静かな和音によって閉じられる。

MC中の様子

会場全体から、惜しみない拍手が送られた。再度西谷がマイクを取ってコメントする。

「早いもので、もう最後の曲になります。昨日は5時間45分のオペラを演奏したので、一瞬のように感じてしまいます。さて、私もそろそろ中堅どころに入り、なにか新しい活動も始めたいと考えています。よくよく考えてみると、先ほどのラフマニノフを始め、多くの作曲家は自分で作曲して自分で演奏しているんですね。今は作曲する人と演奏する人が分かれていますが、“作曲者と演奏者が同じ”という本来の状態に戻ってみようと考え、作曲を始めました。ラフマニノフの名曲の後に自分の曲を弾くのは緊張してしまいますが(笑)、挑戦してみようと思います。」

また、西谷は自身の活動について、さらに詳しく話してくれた。

「私事ですが、数年前から、同じ東京交響楽団のヴァイオリニストの清水泰明君とともに「清水西谷」というわかりやすい名前で活動しています(笑)。2人ともクラシックというよりポップスの曲をつくるのですが、全編オリジナルの曲でCDも出させていただきました(※デビューアルバム『KODO』)。今回は、CDを出したあとに作った「KOHAKU」という曲を演奏したいと思います」

西谷牧人(チェロ)、新居由佳梨(ピアノ)

いよいよ、プログラムの最後として、西谷牧人作曲『KOHAKU』の演奏に入る。

穏やかなピアノの和音に続けて、チェロの旋律が静かに入る。繊細なバラード調のメロディーで、丁寧に情感を込めて音がつくられている。

ここで、思いもよらないサプライズ演出が入る。演奏中にヴァイオリニストが舞台に登場し、三重奏になったのだ。粋な演出をしたのは、先ほど西谷に紹介されたヴァイオリニスト・清水泰明だ。

旋律を受け継いだヴァイオリンは、徐々にダイナミクスを大きくし、さらに情熱を高めていく。三つの楽器で最高潮を築いたあと、全休止によって聴衆の緊張感を頂点に持っていく。

清水泰明(ヴァイオリン)、西谷牧人(チェロ)、新居由佳梨(ピアノ)

静寂のあとには、ピアノが優しげなメロディーを奏で、チェロがピッツィカートで答える。ヴァイオリンによる甘い旋律も加わり、曲は落ち着いた雰囲気の中で終わりとなる。

この日一番の拍手が、舞台の3人に送られた。清水が改めて自己紹介してから、西谷が締めの挨拶をする。「こうなってしまったら、このまま終わるわけにはいかないので(笑)、アンコールをやらせていただきます。我々が出したCDの中から、清水君の作ったとても綺麗なピアノ・トリオの曲がありますので、それを最後に演奏したいと思います」

清水泰明(ヴァイオリン)

アンコール曲は、清水泰明作曲の「花」だ。

ピアノの繊細な序奏のあと、チェロによる優しげでロマンティックな旋律が現れる。先ほどの曲に続く、甘いバラード風の曲調だ。その上にヴァイオリンが入り、可憐なメロディーが奏でられる。ヴァイオリンの主旋律にチェロが絡み合い、和やかな対話のようになる。

続けて、ピアノの強奏による和音が現れ、曲調が変化する。ピアノ・ソロのパートは、一転して情熱的で、激しい思いを感じさせる。さらにヴァイオリンやチェロも加わって、ジャズや民族音楽を思わせる激しい音楽となる。

やがて情熱的な場面も静まっていき、冒頭部の雰囲気がまた戻ってくる。ヴァイオリンとチェロが交代で奏でる主旋律は、甘く美しいと同時に、何かを懐かしむような切なさに満ちている。最後は、ピアノがテンポを極限まで緩め、ピアニッシモの消え入るようなヴァイオリンとチェロの音によって締めくくりとなった。

清水泰明(ヴァイオリン)、西谷牧人(チェロ)、新居由佳梨(ピアノ)


今回出演した西谷と新居、清水は、いずれも『サンデー・ブランチ・クラシック』への出演は初めてとなる。終演後、3人に少しだけお話を伺うことができた。

――初出演の会場となりましたが、出演されての感想はいかがでしたか?

西谷:この会場は前から知っていて、音楽仲間も出演したことがあるので、注目はしていました。なんといっても、渋谷・道玄坂というすごく良い場所にありますし、内装も雰囲気があって素敵な会場です。取り上げた曲はいつもと同じですが、お客様がどんな感じで聴いてくれるかは未知数で、とても楽しみにしていました。今日、実際に訪れたときも、雰囲気に圧倒されましたね。

新居:ヨーロッパでは、昔サロンコンサートが主流だった時期がありました。この会場のように、距離が近くアットホームなイメージに近いのではないでしょうか。かつてサロンで音楽を楽しんでいたのは比較的裕福な層だったと思うので、このような豪華な場所で演奏していたのかな、などと想像しながら、雰囲気を楽しんで演奏させていただきました。

清水:渋谷の109の裏という一等地に、こんな素敵な場所があるということ自体が、すごく驚きでしたね。音の響きもよく、そんな素晴らしい場所で演奏できて嬉しく思います。

――後半には、清水さんが飛び入りするというサプライズも。どういった経緯で、あの演出を取り入れたのでしょうか?

西谷:この会場では、平日にクラシックでないものを取り上げています。僕も個人的にクラシック以外の曲を普段から弾いているので、短い時間ですがクラシックとそうでない曲を混ぜてやりたいな、と。そこで、一緒のユニットでクラシック以外の活動をしている清水君に出てもらおう、ということになりました。最近、クラシック曲と自分たちで作った曲を混ぜて演奏する試みを始めており、それをここでもやりたかったわけです。

インタビュー中の様子

――本日は、クラシックから現代の曲まで多彩な曲目が演奏されました。これらの曲目はどのような意図で選ばれたのでしょうか?

西谷:まずは、新居さんと共演する上で、ラフマニノフのチェロ・ソナタをメインディッシュにしたいと思いました。次に、新居さんはフランス音楽を得意にされているので、ラヴェルの作品を入れました。「亡き王女のためのパヴァーヌ」は肖像画を見たイメージがもとになっているので、絵などが飾ってある会場にマッチするかな、と考えたんです。

それに、チェロの曲はどうしてもゆったりしたものが多く、飽きやすくなります。なので、スペイン風のカサドの作品、ジャズ調の「ジュリー・オー」などのリズム感のある曲も取り入れました。さらに自作も取り入れて、いわば幕の内弁当風の30分としました(笑)。

――演奏会しかり、今後も色々な活動が続いていくと思います。今後の活動のみどころや、目標にしたいことをお聞きしたいと思います。

新居:直近のコンサートとしては、7月9日(日)に代官山のヒルサイドテラスで『日曜午後のコンサート』に出演します。また、7月20日(木)には新潟のりゅーとぴあ、21日(金)には北九州の響ホールでの演奏会を予定しています。私はアンサンブルが好きなのですが、今は主軸をソロ活動においていて、これらも全てソロ・コンサートです。アンサンブルを得たものを、ソロでの演奏に活かしていけたらいいなと考えています。今日の演奏会も、チェロの歌い方、表現などとても勉強になりました。

西谷:僕は東京交響楽団での活動が主なので、オーケストラでの演奏をまず頑張っていきたいと思います。それとは別に、8月19日(土)に、恵比寿のアート・カフェ・フレンズで「清水西谷」のライブもありますので、ぜひお越しいただければ。地元の奈良での活動も大事にしていまして、6月後半には、『ムジークフェストなら』という音楽祭にも出演します。オーケストラでは正統的な演奏を目指し、「清水西谷」ではいい曲をつくるという目標でやっていきたいと思います。

清水:基本的には、西谷君と共通のところをめざすわけですが、僕の場合は“いい曲をつくる”ことを最大の目標にしたいですね。それに付随して、演奏もさらに上達するように頑張っていきたいと考えています。

西谷牧人(チェロ)、新居由佳梨(ピアノ)

毎週日曜日、午後の昼下がりに渋谷のカフェで行われる『サンデー・ブランチ・クラシック』。ぜひ一度訪れてみてほしい。

サンデー・ブランチ・クラシック情報
7月9日
ピーティ田代 櫻/チェロ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円

7月16日
藤田真央/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円

■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
※祝前日は通常営業
■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html

 

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