第三回あべの歌舞伎・晴の会は和製ホラーの傑作『東海道四谷怪談』、怖~いだけじゃない見所を出演者が語る!
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『東海道四谷怪談』記者会見より(撮影/石橋法子)
松竹・上方歌舞伎塾第一期生の片岡松十郎、片岡千壽、片岡千次郎を中心に2015年に結成された歌舞伎ユニット「晴(そら)の会」がこの夏、最新作『東海道四谷怪談』を上演する。旗揚げ公演『浮世咄一夜の仇討』、翌年『伊勢参宮神乃賑』(平成28年度大阪文化祭賞奨励賞受賞)では上方落語を題材にした新作を上演したが、第3回の今年は本格的な初の古典モノとなる四世鶴屋南北の代表作に挑戦する。今回は監修に片岡仁左衛門が加わり、出演者も過去最高の8名を数える。約300収容の三面客席という近鉄アート館特有の劇空間で、名作がどう生まれ変わるのか。記者会見には片岡當史弥を除く出演者7名が登壇し、意気込みを語った。
殺し殺され、恨み恨まれーー人間の欲と業が絡み合う傑作怪奇譚、上演!
赤穂の城主、塩冶判官の旧家臣、四谷左門(當十郎)の娘お岩(千壽)とお袖(りき彌)の姉妹を巡る怪談劇。色と欲に目が眩んだお岩の夫、民谷伊右衛門(松十郎)は、裕福な家の娘・お梅(りき彌・2役)に鞍替えするためお岩に毒を盛る。毒薬で人相が崩れ苦しみの果てに死んたお岩はしかし、幽霊となって恨みを晴らしに舞い戻るーー、ここから怒濤の復讐劇が始まる!
今回は片岡仁左衛門の監修とあって、とりわけ”色悪の大家”から直々に教えを乞う松十郎は、不安と興奮を隠さない。
片岡松十郎
片岡松十郎(以下、松十郎):いつもは上方歌舞伎のお役なので、伊右衛門は想像もつかない大役です。イントネーションもそうですし、演じ方も今まで教わってきたものとは違うので、正直不安でいっぱいです。仁左衛門の旦那が演じると、悪い男なのに男の僕ですら心惹かれてしまう。醸し出す恐ろしい雰囲気のなかにも、好きになってしまう魅力がありますよね。それが何なのか。試行錯誤して、少しでも盗めれば良いなと思います。仁左衛門の旦那が大切になさっている役を直接ご指導いただけるのはとても光栄なこと。少しでも近づけるように頑張ります。
片岡千壽
片岡千壽(以下、千壽):お岩さんと佐藤与茂七(お袖の夫)の2役を勤めます。以前、中村福助さんがおやりになったお岩さんと廊下ですれ違ったことがあり、とてつもなく怖かったのを覚えています。うちの師匠・片岡秀太郎も20代のころに勤めていたお役ですので、よく教えを伺いながらアツい夏にしたいです。大事にしたいのは怖さよりも心。伊右衛門への愛というものを表現したい。松十郎さんには色気出してもらって、惚れさせてもらいたいなと思います(笑)。
左から、千次郎、千壽、松十郎
片岡千次郎(以下、千次郎):直助権兵衛という小悪党を演じます。悪さや憎たらしさのなかにも愛嬌を見せられたら。また「深川三角屋敷」を一部分抜き出す場面では、忠義にかられた直助の男らしい一面もお見せできればと思います。
片岡佑次郎(以下、佑次郎):按摩宅悦を勤めさせていただきます。本作は怪談話ですが、それも人間たちの欲望がすごく正直に出てしまった結果だと感じています。なかでも宅悦は嫌らしさが際立った役なので、そこを上手く表現できれば良いなと思います。
片岡りき彌(以下、りき彌):お岩の妹・お袖と、喜兵衛の孫娘・お梅の2役を勤めさせていただきます。晴の会では、1年目は後見、2年目にはお役をいただいき、そして3年目の今回も気心の知れた素敵な仲間たちと一緒に舞台を作り上げられることが嬉しく、今からお稽古を楽しみにしております。お袖は忠義のある志の強い人、お梅は純粋に伊右衛門に一目惚れした娘さん、そのイメージをちゃんと作り上げて魅せられればと思います。
左から、當十郎、翫政、りき彌、佑次郎
中村翫政(以下、翫政):この度初めて参加させていただきます。今までは客席から先輩たちの熱い芝居を勉強させていだいていたので、今回出演させていただけるのは非常に嬉しいこと。お岩さんが亡くなる場面に登場する小仏小平という大事なお役なので、雰囲気を損なわないように勤めたい。伊右衛門に仕える一途さやひたむきさがあればこそ、彼への恨み辛みが募る役なので、小平の健気さが出せればと思います。また、通常は(「戸板返し」の場面で)お岩さんと小仏小平は一人2役で演じられますが、今回はおのおので演じます。
片岡當十郎(以下、當十郎):四谷左門を勤めさせていただきます。「戸板返し」「仏壇返し」など、とにかく仕掛けの多い作品という印象です。昔、伊右衛門の悪仲間・秋山長兵衛役で出演した際、「仏壇返し」の仕掛けで大道具さんとの息が合わず、舞台の奥でひっくり返って頭を打ったことがありました(笑)。今回はアート館の舞台でどう表現するのか、みんなで協力してこしらえたい。今からワクワクしています。
片岡當十郎
今回も「うわ! そうきたか」と、面白い演出でお客様を驚かせます!
本作は『仮名手本忠臣蔵』を背景としているため、掘り下げるほどに深くなる奥行きのある物語だ。通常の歌舞伎公演では7時間はくだらない大作をどう90分程度にまとめるのか。じつは亀屋東斎名義で改訂も担う千次郎が、上演プランを明かす。
千次郎:例えば伊藤喜兵衛(孫娘・お梅のために毒を手配する)の登場場面をカットしてその分、補足の芝居を足すなど、仁左衛門の旦那からもご助言をいただきながら改訂しています。作業を通して感じるのは、端役一人ひとりにも性格がはっきりと描かれていること。南北作品に感じる魅力や人間臭さは、こういう細部へのこだわりから来ているんだなと思います。仕掛けなど恐ろしいケレン味が魅力の作品ですが、”お化け屋敷”にはしたくない。今回は人間ドラマの部分を重視した作りにしたいなと思っています。宙乗りができないとか、劇場としての制約もあるので、これまで同様つい立を使うなど、簡単な道具で面白い効果が出せないかなと模索しています。
片岡千次郎
りき彌:正直、初めて『東海道四谷怪談』をやりますと聞いたときは、「え、マジで? できるの!?」と思いました(笑)。でもそれは1年目、2年目も同じこと。できるのかなと思いながら、みんなで力を合わせて上演してきたので、今回もできると思います。
片岡りき彌
翫政:私も最初は「大変なことになった」と思いました(笑)。ただ、これまでも客席で観ていて「うわ! そうきたか」とびっくりする演出ばかりだったので、今回もきっとお客様を驚かせる舞台に仕上がると思います。
佑次郎:(私も)思います。
左から、當十郎、翫政、りき彌、佑次郎
会場は、百貨店内の劇場という場所柄もあり、若い観客への取り込みにも積極的だ。本公演は、高校生以下は1,000円という破格の価格設定。また本公演の翌日には百貨店の夏休み企画と連動した歌舞伎ワークショップも開催する。小学生以下は無料と、こちらも1年目から大好評を得ている恒例企画だ。
當十郎:小さい子どもたちには、夏にはお化けの出る『東海道四谷怪談』というお芝居があるんだなと、この作品を通して歌舞伎の良さや古典の面白さを観ていただければと思います。
片岡當十郎
千壽:先日、お岩さんゆかりの寺社を巡り舞台の安全と成功を祈願して参りました。偶然にも先にお参りをしていた千次郎と同じお札を持ち帰り、お岩さんも応援してくださっているのだと解釈しています。不安な気持ちも落ち着き「やるぞ!」と決意が固まりました。
片岡千壽
松十郎:きっちりした古典を新しい空間でどう表現できるのか、僕らも楽しみながらお届けできればと思います。毎回アート館のお客様は通常の舞台よりも距離が近いせいか、まるで家族を見守るように温かく迎えてくださるので嬉しいですね(笑)。
片岡松十郎
千次郎:しっかりっと型をなぞり心を教えてもらって、それをどこまでお客様に伝えられるのか。3人で始まった「晴の会」も今回は大人数で古典の大作に挑めるので、チームワークよくアツい夏にしたいと思います!
左から、千次郎、千壽、松十郎
■改訂:亀屋東斎
■監修:片岡仁左衛門、片岡秀太郎
■演出:山村友五郎
■出演:片岡松十郎、片岡千壽、片岡千次郎、片岡佑次郎、片岡りき彌、片岡當史弥
中村翫政、片岡當十郎
2017年8月3日(木)~6日(日)
■会場:近鉄アート館06-6622-8802(11:00~18:00)
■料金:前売7,000円、当日7,500円、高校生以下1,000円(要事前申込・当日学生証提示)<全席指定・税込>
『ようこそ歌舞伎の世界へ!』
2017年8月7日(月)11:00~12:30
■会場:近鉄アート館
■料金:一般2,000円、高校・大学・専門学校生1,000円、中学生500円、小学生以下無料<全席自由・税込>