“投手イチロー騒動”から“史上最強の球宴男”まで プロ野球90年代オールスター事件簿

コラム
2017.7.3
 撮影=中溝康隆

撮影=中溝康隆

 突然だけど、あなたは2年前のオールスター第1戦はセとパ、どちらが勝ったか覚えているだろうか?

 

 ゴメン、俺は当時わざわざ東京ドームまで観戦に行ったのにまったく記憶がない。NPB公式サイトで調べてみたら8対6でセ・リーグが勝利し、MVPは藤浪晋太郎(阪神)だった。毎年試合は文句なく盛り上がるのに結果はほとんど忘れちゃうこの感じ。時間が経過しても覚えているのは、上原浩治vsイチローとか藤川球児vsカブレラみたいな個と個の対決だ。まさに結果がすべてのプロ野球で、結果よりも大事なモノを楽しむ特別な試合。それこそ、真夏の野球フェスの魅力でもある。今回はそんな夢の球宴が爆発的な盛り上がりを見せていた、90年代オールスターの印象的な出来事の数々を振り返ってみよう。

 

お祭り男・清原の活躍、“広末vs落合”の夢の対決で盛り上がった97年

 2017年の交流戦もソフトバンクが3年連続優勝を飾り、パ・リーグが8年連続12度目の勝ち越しで終えた(セ・リーグ勝ち越しは09年のみ)。近年は完全に「実力のパ、人気もセじゃなく大谷翔平」といった感じだが、90年代後半には逆にセ・リーグが圧倒的に強かった時期がある。オールスターは結果より個々の対決と書いた直後になんだが、97年第2戦から00年第3戦まで引き分けを挟み8連勝を記録。これには当時の球界事情も大きく影響している。93年に逆指名ドラフトが始まり有望新人が続々とセ球団に集結。さらに同年オフにはFA制度も導入され、まだメジャー移籍が現実的ではなかった頃、大物選手は巨人・阪神・中日(パではダイエー)と資金力のあったチームが仁義なき争奪戦を繰り広げた。

 

 ちなみにセ8連勝が始まった97年球宴は、お祭り男の清原和博が西武から巨人にFA移籍したシーズンだ。キヨマー(懐かしい……)はさっそく移籍初年度にプロ入り以来12年連続のファン投票選出されると、神宮球場で開催された7月24日の第2戦では2本の2ランアーチをかっ飛ばして、同僚の松井秀喜(3安打2打点1本塁打)を抑えいきなりMVP獲得。規格外の勝負強さを見せつけた。

 

 ちなみにこの試合の全パ1番打者は自身最後のオールスター戦に臨む落合博満(日本ハム)。そして、始球式を務めたのは当時17歳の広末涼子である。春に発売されたばかりの大ヒットデビュー曲「MajiでKoiする5秒前」が球場に流れる中、マウンドに向かった広末はキャッチャー古田敦也(ヤクルト)に向かって何度か首を振るジャスチャー。それに対して孤高の天才打者落合は笑いながら打席を外し、巻きのポーズで「早く投げなさいよ」と突っ込むオレ流パフォーマンスで盛り上げた。

 

 さらば、昭和の三冠王。この年の最多得票選手はもちろんイチロー(オリックス)。第1戦のMVPは4盗塁を決めてみせた球宴初選出の松井稼頭央(西武)と球界も新時代を迎えつつあった97年の出来事だ。

 

 あれから20年。あの夏、女子高生だったスーパーアイドル広末涼子は、現在36歳のマジで3児の母である。

 

「投手イチロー!」「……代打高津」仰木vs野村の名監督バトル 

 今思えば、90年代のプロ野球オールスター戦は混沌期だった。95年夏には野茂英雄がMLBのオールスター戦に初選出されたことで、日本の野球ファンも本場メジャーリーグの夢の球宴をテレビで目にする機会が増えた。その豪華絢爛な雰囲気に日本球界はこのままでいいのかと80年代のシンプルさを見直し、試行錯誤を繰り返していた時期だ。例えば、野手がマウンドに立ちスピードガンで競う「球速コンテスト」や、外野フェンス前からホームベースに向かっての送球で強肩を競う「返球コンテスト」が開催されている(98年はイチローと高橋由伸が最高得点)。

 

 結局、ガチすぎても引かれるし、ふざけすぎてもディスられる。平成オールスターは合コンに似ている。真剣勝負とファンサービスの狭間で……。そんな中、起こったのが今も語り継がれる「投手イチロー登板」騒動である。96年7月21日の第2戦、パ・リーグ4点リードで迎えた9回表二死、あと1人で勝利という場面で全パを指揮する仰木彬監督がいきなり「ピッチャー、イチロー」をコール。地鳴りのようなどよめきに包まれる4万2938人の大観衆を背にライトから駆け寄り、マウンドで西武の東尾監督からボールを受け取る背番号51。思わず苦笑いする次打者のゴジラ松井。すると不機嫌そうにベンチを出た全セ・野村克也監督は松井にこう聞く。

 

 「お前、イヤだろう?」

 

 で、松井がベンチに下がり、代わりにコールされたのが投手の「代打高津」というわけだ。結局、MAX141キロをマークしたイチローは高津を遊ゴロに打ち取りゲームセット。前年の日本シリーズから激しくイデオロギー闘争を繰り広げていた二人の名将、「球宴を冒涜するな」という硬いノムさんと、「投手イチローが最大のファンサービス」と考えた仰木監督。当時ファンの間でも、仰木さんさすがにやりすぎ派と、ノムさんお祭りなんだからイチローvs松井を見せてくれよ派で意見が真っ二つ。

 

 印象的だったのが、コーチとしてベンチに座る巨人の長嶋監督が苦虫を噛み潰したような顔をしていたことだ。もしも、この年の全セ監督がショーマンのミスターなら、恐らく松井はそのまま打席に入っていたのではないか。2015年シーズン最終戦でイチローがメジャーのマウンドに上がったり、アストロズの青木宣親が大量リードされた9回に6番手として登板する現在なら抵抗なく受け入られそうなこのアイディア。早すぎた仰木マジックのひとつと言えるだろう。

 

 ところで、あなたはこの球宴史に残る96年第2戦のMVPを覚えているだろうか? 

 

 答えはイチローでも松井でもない。なんと、またも清原和博である。西武最終年も8試合連続全パ不動の4番を託されると6回の満塁の場面で逆転の二塁打を含む2安打3打点の活躍で、この年も真夏の祭典の主役として君臨した。

 

 誰よりも夢の球宴で輝いた男。なお清原のオールスターMVP7度受賞は、もちろんぶっちぎりの歴代最多記録である。

 

(参考文献)
『週刊プロ野球セ・パ誕生60年 1996年』(ベースボール・マガジン社)

イベント情報
マイナビオールスターゲーム2017
 
<第一戦>
■日程
2017年7月14日(金) 試合開始 19:00 (開門 16:00予定)
セントラル・リーグ(1塁側)VS パシフィック・リーグ(3塁側)
■会場
ナゴヤドーム

<第二戦>
■日程
2017年7月15日(土) 試合開始 18:00(開門 15:00予定)
※予備日:2017/7/16(日) 試合開始 14:00(開門 11:00予定)
パシフィック・リーグ(1塁側)VS セントラル・リーグ(3塁側)
■会場
ZOZOマリンスタジアム

 

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