気鋭の若手アーティスト週間! NHK・BSプレミアム『クラシック倶楽部』でオーボエ奏者のラモン・オルテガ・ケロのリサイタルを放送

2017.7.16
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クラシック

ラモン・オルテガ・ケロ


7月17日週のNHK・BSプレミアム『クラシック倶楽部』(午前5時~5時55分)は、注目の若手演奏家の室内楽演奏会やリサイタルのライヴ収録を5日連続で放送する。

17日はフランスの女性弦楽四重奏団のアキロン・クァルエット、18日は オーボエ奏者のラモン・オルテガ・ケロ、19日はピアニストのボリス・ギルトブルグ、20日はサックス奏者のエイミー・ディクソン、21日はウィーン・フィル首席ファゴット奏者のソフィー・ダルティガロング……と、充実のラインナップ。

この中から、ケロとディクソンのリサイタルを、楽器にまつわる話しなども含め、順に2回でご紹介する。

18日の、ラモン・オルテガ・ケロは1988年生まれで、ミュンヘン国際コンクールの2007年優勝者。このコンクールは「1位なし」が頻繁にある難関で、オーボエの1位は1961年のハインツ・ホリガー、1967年のモーリス・ブルグ以来で、実に40年ぶり! 史上3人目の快挙だった。

明るく開放的でナチュラルな音色、力強いフレーズも消え入るようなピアニシモも美しく、耳に残る。巧妙な息継ぎ、早いパッセージもものともしない。そんな注目株、ケロの2014年の日本初ソロリサイタルからの放送だ。そもそもオーボエはソロの名曲が限られるが、ケロがスペインのグラナダ出身ということから、プログラムにスペイン絡みの曲目が複数入っていることも興味深い。

まず、サン・サーンス(1835~1921)の『オーボエ・ソナタ』は、作者の最晩年の作品で、どこか達観したシンプルな旋律ながら、深みのある音楽だ。同年の『クラリネット・ソナタ』『バスーン・ソナタ』ともども各楽器奏者に愛奏されている。

カッコウの鳴き声のような単旋律で始まる第1楽章は、風そよぐのどかな田園風景を思わせる。一日の始まりにも、しっくりくる感じがする。静寂の中で響く牧童の笛のような第2楽章、技巧的でアップテンポの第3楽章…と、楽曲の展開とともに変化する、ケロの表情豊かで温かいサウンドから、どんな情景が浮かぶだろうか。

続くシューマン(1810~56)の『幻想小曲集 作品73』は、もともとクラリネットとピアノ用に書かれた曲で、オーボエ、チェロなど他の楽器とピアノのコンビでも演奏される。3曲からなるが、放送では第1曲と第3曲の演奏が聴ける。どちらも、休みなく吹き続ける曲なので、ケロの息継ぎやなめらかな指使い、アニタ・トロイラーのピアノとの呼応などに注視しながら聴くのも一興だ。

そして注目の後半。ファリャ(1876~1946)のバレエ組曲『恋は魔術師』は、もとは管弦楽曲。その「オーボエ&ピアノ版」を演奏する。編曲してあるとはいえ、オーボエだけで管弦楽曲を吹くとは、実にチャレンジング。スペインの民俗風旋律を多用した独特のメロディーを、オーボエがつややかに歌い、盛り上げるピアノと熱いハーモニーを繰り広げる。編曲者のアンドレアス・N・タルクマン(1956~)は、歌劇を室内楽や吹奏楽に編曲するなど、大曲のアレンジを数多くこなしているドイツの名手。編曲の妙も味わってほしい。

『カルメン幻想曲』は、フランスのボルドー歌劇場の首席フルート奏者だったフランソワ・ボルヌ(1840~1920)が、フルートとピアノ用に作ったショーピース。「ハバネラ」「ジプシーの歌」「闘牛士の歌」など、有名旋律を散りばめた華やかな展開で、オーボエとピアノが、独特のニュアンスを醸しながら渡り合う。オペラのハイライト・シーンを思い浮かべながら、オーボエの新たな可能性を感じられることだろう。

オーボエは、葦の茎を削った細いリードを2枚重ねたダブル・リード楽器で、そのわずか5mmほどの吹き口に息を吹き込んで音を出す。ピッチの微調整がきかない、逆に言うと音程が安定しているので、オーケストラの音合わせのとき、皆がオーボエに合わせてチューニングする。ちなみに、リードは消耗品で、自ら削って仕上げるため、根気のない人には不向きに思える。携帯する本数は人にもよるが、専用のケースに20本くらい入れているようだ。

こういった楽器の特性から、目立たないブレスでフレーズを自然につなげ、草笛のような独特の音が単調に聞こえないよう、いかに豊かな表現をするかなど、腕前の見せどころがいろいろある。もしオーボエををよく知らなくても、ケロのような若い逸材を追いかけると、奏者の成長とともに自身の耳も養われ、楽器や楽曲にも精通できるものだ。番組をふりだしに、オーボエ通になってみては。

文=原納暢子

番組情報
NHK-BSプレミアム『クラシック倶楽部』
新進気鋭の若手アーティストたち

7月17日(月)~21日(金) 

 
・7月17日 (月) アキロン・クァルエット
 (2016年ボルドー国際弦楽四重奏コンクール優勝)
・7月18日 (火) ラモン・オルテガ・ケロ
 (オーボエ、2007年ARDミュンヘン国際コンクール優勝)
・7月19日 (水) ボリス・ギルトブルグ
 (ピアノ、2013年エリザベート王妃国際コンクール優勝)
・7月20日 (木) エイミー・ディクソン
(サクソフォーン、グラミー賞に2度ノミネート、新星サックス奏者)
・7月21日 (金) ソフィー・ダルティガロング
 (ファゴット、2015年24歳でウィーン・フィル首席に就任)

ラモン・オルテガ・ケロ オーボエリサイタル
■放送日時:7月18日(火)午前5時~5時55分
■出演:ラモン・オルテガ・ケロ(オーボエ)、アニカ・トロイトラー(ピアノ)
■曲目:
サン・サーンス「オーボエ・ソナタ ニ長調 作品166」(11分06秒)
シューマン「幻想小曲集 作品73から第1曲・第3曲」(6分40秒)
ファリャ「バレエ音楽「恋は魔術師」」タルクマン:編曲(19分48秒)
ボルヌ「カルメン幻想曲」(10分40秒)
■収録:2014年7月2日/浜離宮朝日ホール
■公式サイト:http://www4.nhk.or.jp/c-club/