風と愛で育つビースト 三重県立美術館 開館35周年記念Ⅱ『テオ・ヤンセン』展
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テオ・ヤンセン『アニマリス・ユメラス・セグンダス』 ©Media Force
「21世紀のレオナルド・ダヴィンチ」と称されるオランダ出身アーティスト、テオ・ヤンセンの展覧会が三重県立美術館で9月18日(月・祝)まで開催されている。彼は、「ストランドビースト(Strandbeest)」という、大型の造形物の展覧会をスペイン、フランス、ロシア、アルゼンチン、韓国など世界各地でおこなっており、キネティックアート(動く芸術作品)の巨匠として人気を博している。国内ではSONYや中外製薬のテレビCMにも起用されている。国内外問わず高い評価を受け続けるテオ・ヤンセン。夏休み期間に開催される本展では、その実物作品の迫力を体感できるだけでなく、それらがどのように構想され誕生してきたのかという芸術創造の源泉にも迫っていく。
入口で出迎えてくれるビースト ©Media Force
砂浜に生息する謎の物体
「ストランドビースト」とは、オランダ語で砂浜を意味する「ストランド」と生物「ビースト」を組み合わせたテオ・ヤンセンによる造語である。風を食べて(風力を利用して)動く作品は、どれもプラスティックチューブ、使用済のペットボトル、結束バンドから成っている。
この動画に映るビーストは、アニマリス・ユメラス・セグンダスという名前で展示もされている。素材を感じさせない美しい動きに驚かされる。またそれ以上に「ビーストの存在は生物なのか、人工物なのか」「いま私は何を観ているのか」と戸惑いを覚えてしまう。
ビーストの親、テオ・ヤンセン現れる
展示期間中、毎日1時間ごとに、ストランドビーストを動かすデモストレーションが披露される。筆者が訪れた時は、幸運にもテオ・ヤンセン自らが説明し、ビーストを操ってくれた。テオ・ヤンセンは優しい笑顔が印象的な人だ。ときどきユーモアを交えながら、観客とビーストの距離を縮めてくれる。彼は笑いながら「みんなビースト菌に感染してきたね!」と話し、来場者の心を掴んでいた。
ビーストの前に立つテオ・ヤンセン
身振り手振りでの解説
物理学を大学で専攻していたテオ・ヤンセンは、若いころから生物の進化に深い関心があった。コンピューター内で仮想生物をつくり、進化させ、それが現在のストランドビーストに至っている。彼は、チューブが伸縮される構造をつくり、それを「筋肉」と呼んでいた。「神経」「脳」と名づけられた機能もビーストには備えられている。あるビーストの「脳」は、水を察知して方向転換したり、歩数をカウントして、進む距離を知ることができるという。
ビースト自身が子孫を産み出すことは不可能だが、遺伝子を残すために、ヤンセンは増殖させることを思いつく。その方法は、設計図や、チューブの長さの比率などをオープンにし、世界中の学生や興味ある人たちに作ってもらうというもの。テオ・ヤンセンの創造は大きく深い。説明を聞いているうちに、目の前のプラスティックチューブでできた物体は呼吸をしているのではとさえ思ってしまう。
©Media Force
本展では、人力で動くビーストを、実際に操作することができる。2メートルほどある高さのビーストは片手でも軽く動かすことができた。複雑に組まれた脚が動く様は感動的で、進む速度は思いのほか速かった。わたしたち人間が歩く速さを合わせなければいけないほどで、それはとても不思議な体験であった。ギシギシとチューブがこすれる音は、竹を思い出させ、気持ちを和らげてもくれる。一瞬、タイムスリップで恐竜の生息地に迷い込んだかのような感覚さえも覚えた。
©Media Force
テオ・ヤンセンは、生きている間にストランドビーストを自立させたいと話す。例えば天敵である強風などに対して、ビースト自身で危機回避できるように進化させることを目標にしていると繰り返した。それは、まるで親が子供に向ける愛情のようで、彼の話を聞いていた観客全員は、みなそれを心の底から願っているように思えた。
風で傷むビースト ©Media Force
三重での展示後は、沖縄県立博物館美術館へ巡回する。サービス精神旺盛なテオ・ヤンセンは、沖縄の砂浜でサプライズをみせてくるかもしれない。そんな勝手な期待が膨らんでしまう。
取材・撮影=カワユカ
会 期: ~2017年9月18日(月)
休 館 日 : 月曜日(ただし9月18日は開館)
開館時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
会 場 : 三重県立美術館
テオ・ヤンセン in 沖縄
日時:2017年10月3日(火)~11月11日(土)
会場:沖縄県立博物館美術館