“フィジカルシアター界のバスター・キートン” マルタン・ズィメルマン初のソロ作品『Hallo』で登場!
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マルタン・ズィメルマン
スイスを拠点に活躍するフィジカル・アーティスト、マルタン・ズィメルマンが初のソロ作品『Hallo』で来日公演する。日本ではこれまで、タンジール・アクロバット・グループ『シュフ・ウシュフ』、ズィメルマン エ ド・ペロ『ハンスはハイリ』で2013年、2015年に公演を行っているが、それはあくまでカンパニーとして。「約20年のキャリアを経た今だからこそできた」とマルタン・ズィメルマンが語る『Hallo』はすでに10カ国・42都市で150公演を実現。海外ではとても人気が高く、特にフランスでは「ル・モンド」「リベラシオン」「フィガロ」という媒体がこぞって大絶賛しているほど。東京公演に先駆けて行われた長野県松本市での公演も満員のお客さんの歓声を誘った。来日し、松本へ移動するわずかな時間にマルタン・ズィメルマンをスイス大使館でキャッチ。
『Hallo』 photo:Augustin Rebetez
『Hallo」 photo:Augustin Rebetez
『Hallo』は、これまでの作品群から“世界一上手に箱と遊ぶ男”の異名を持つマルタン・ズィメルマンが、コンセプト・演出・振付を手がけ、自ら出演もする70分の作品だ。最初はゴソゴソ、ゴソゴソと動き回っていた小さな箱が、ショーウィンドウやさまざまなものに形を変え、まるで生き物のように自分の意思で動いているかのごとく巨大なフレームへと変容していく。そしてその変化の都度都度に翻弄されてゆく一人の男の運命はーー。サーカス、マジック、演劇が融合したアクロバティックなパフォーマンスは、ユーモアとシニカルの要素をかいま見せ、やがて観客をミステリアスな世界へと誘う。
マルタン「私はスペースを使って作品をつくります。それがコレオグラファーとしての基本ですが、スペースをつくることにより、そこに置かれた人物がこれから起こることに対してどう動き、どう対処するかを考えるわけです。必ずしもフレームやボックスそのものが重要なわけではありません。それよりもフィロソフィー(哲学)が重要です。そして私はさまざまな個性的なフィジカルなフォルム、リアクションに惹かれるんです。そういった体の動きが見せるものは、あるときには、言葉よりも正しいことも多いからです」
まずは作品をつくる姿勢について語り始めたマルタン・ズィメルマン。『Hallo』の稽古場では、実際に自分で箱やフレームをつくりながら試行錯誤をはじめたそうだ。
マルタン「『Hallo』をつくるきっかけは、私はこの仕事を20年以上続けてきましたが、自分の肉体、体力がこの職業を務めながらも、どういうふうにこのステージから降りることができるんだろうと興味を持ったからです。小さな子供は秘密を持っていて、それを隠しておくスペースをつくるものですよね。けれども大人になるとなぜかあの気持ちは薄らいでいく。大人になってもっと大きな快適な世界を得たはずなのにそれが壊れてしまった。そうなるとすべてをさらけ出さないといけない。自分は何者なんだ、どんな存在なんだということをとにかく問い続けなければなりません。それと同時に私はますます道化という存在に惹かれていきました。クラウン的な人物は物事を過剰に見せ、さらにそれを面白くさせてくれる。だって実際はだれもこんな大変なことはしていませんよね(笑)。クラウン、道化師というのは、あたかもそれが初めての出来事かのようにお客さんに届けるのが役割。ただ、最近は素晴らしいクラウンが減ってしまっているのが残念です」
『Hallo』 photo:Augustin Rebetez
マルタン「もう一つのテーマは、一人でつくり一人で演じるとはどういうことなのか、ということでした。70分の間に、この人物が持つさまざまなキャラクター、感情をどうやって描くことができるか。異なるさまざまな人物を演じているわけではなく、たった一人の人物で、時には男の影のような存在も出てはきますが、すごくハッピーで楽しい部分もあれば、その裏に隠れた悲しい部分も持っている。人間はコンプレックスを複雑に抱えたすごくミステリアスな存在じゃないですか。一人一人の内部で何が行っているかは本当にわからない。私はそこが一番興味深かったわけです。ショーウィンド、一つのフレームは人生そのものかもしれない。こうやって今話している私たちも、第三者に見られている、そして見せているわけです。そのフレームの中でその人物がどうなふうに存在するか。そしてそのフレームが非常にもろくて壊れたり、なくなってしまうときに人間はワイルドになるかもしれないし、解放されるかもしれないし、狂気になるかもしれない。解放されたと思ってもまた次の問題にぶつかってしまうこともある。考えれば考えるほど人間という存在は、難しいものだと思います。けれどもがけばもがくほどパッション、命は動く。かたやうまくいっているとそこまで私たちはもがくこともない。この男の姿は私の人生であるかもしれません」
「Hallo」 photo:Augustin Rebetez
そして『Hallo』という作品名についてマルタンが語った。
マルタン「ソロだけど『ハロー(Hallo)』です(笑)。もしかしたら“ハロー”という言葉は語りかけのためにあるものであって本当は何も意味のない言葉かもしれません。みんながそのくらい気軽に“ハロー、ハロー”と言う。けれど“ハロー”と発することは、“僕がここにいるんだよ”という叫びかもしれないし、“ハロー”という言葉からこそコミュニケーションが始められる。前者の場合は“ハロー”という言葉を使う自分はつねにその時に何かを考えている。僕の“ハロー”という言葉はあなたにちゃんと聞こえているんだろうか。だからそれは自分を問う言葉でもあるわけです。後者の場合はコミュニケーションを求め続けていくための言葉になる。でも時にはコミュニケーションが奇妙なことを生み出してしまうこともあるけれど。
『Hallo』は、150回以上公演を重ねてきた作品ですが、いつも上演するたびに初心に帰るような気持ちになります。というのは、この主人公ものすごくむごい存在。自分をだましてはいないか、ごまかしているのではないかという問いを僕自身に突きつけてくる。初めての日本公演で、どんなふうに見ていただけるかとてもワクワクしています」
マルタン・ズィメルマン photo:Augustin Rebetez
■日程:2017年7月29日(土)~7月30日(日)
東京芸術劇場ボックスオフィスにて、前売のみ扱い。枚数限定・入場時要証明書。