松雪泰子がある女性の“死の瞬間”を演じる! ネリー・アルカン原作『この熱き私の激情』は「とても美しい作品になる」
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松雪泰子
かつてコールガールをしていた過去を持つ小説家で、2009年に36歳の若さで自らの人生に幕を閉じたネリー・アルカン。彼女がそれまで心の奥に秘めていた、怒りや哀しみなどの激しい感情を爆発させながら綴った小説をベースに、ロベール・ルパージュ作品に数多く出演しているカナダ人の女優であり演出家でもあるマリー・ブラッサールが翻案・演出して2013年にカナダ・モントリオールで舞台化したのが『この熱き私の激情~それは誰も触れることができないほど激しく燃える あるいは、失われた七つの歌~』だ。ネリー自身の生涯を綴っていると思われる小説の中から、デビュー作の『Putain(娼婦という意味)』(9月下旬にパルコ出版から改訂翻訳版が発売)、『Folle(狂った女性という意味)』、『L‘enfant dans le miroir(鏡の中の子供)』の一部を使って構成し、6名の女優と1名のダンサーとで、ひとりの女性の姿を多面的に描いていく。女優たちはそれぞれが小さな箱のような部屋に上演中ずっと居続け、その間をダンサーだけが行き来するという実験的で抽象的、そしてとても美しいステージとなる。キャストは松雪泰子、小島聖、初音映莉子、宮本裕子、芦那すみれ、奥野美和、霧矢大夢という、いずれも美しき実力派が顔を揃えることになった。その中で、人生を終わらせようと決意したこの女性が死の魅力を語るパートを演じる“影の部屋の女”というキャラクターを演じることになった松雪泰子に、作品への想いや意気込みを語ってもらった。
ネリー・アルカン Ulf Andersen/Getty Images
出演を決めたきっかけと作品の魅力とは
――『この熱き私の激情』は、この9月まで松雪さんが演じられている『髑髏城の七人Season鳥』での極楽太夫役とは、真逆と言っていいような世界観の舞台になるのでは?という気も致しますが。
はい、そうかもしれないですね(笑)。
――この作品へのオファーを受けた時、最も魅力に感じた部分はどこでしたか。
初演の舞台の映像を観させていただいたのですが、舞台美術が本当に素晴らしくて。ぜひ、マリー(・ブラッサール)さんの演出を受けてみたいと、強く思いました。ひとりの人物を何人もの俳優があらゆる側面から演じて、多面性を表現していくというスタイルも面白かったです。閉じ込められた環境の中でほとんど独白だけで芝居をするというのは少し怖くもありましたが、とても興味深かったです。海外の演出家さんだと、最初にワークショップをやって密度を上げていく稽古ができますしね。
――では、今回もワークショップをされるんですね。
今やっているお芝居が終わったら、早速やることになっているので今から楽しみです。
――マリーさんと一度お会いされたそうですが、どんなお話をされたんですか。
まだほんの少しだけしか話していないのですが、役の造形のことや精神構造の部分とかを細かく話しながら一緒に作っていけそうだと感じました。とにかくこの作品の場合は舞台美術、その空間自体が特殊なので、その環境の中で、しかも独白で表現していくというのがすごく不思議な体験になるんですって。たぶん味わったことのない感覚だから面白いと思うわよ、とおっしゃっていました。
――その部屋の中からは、外に出てこないんですか。
出ないんですよ。ですから、お客様からは全体が見えているんですけれど、出演者の私たちはお互いの姿が見えない。正面以外は壁に囲まれている状態ですからね。
――閉塞感がすごそうですね。
それもあると思うし、孤独な感じにもなるでしょうね。一緒にお芝居をしているんだけど、一緒にやっていないような感じにもなりそう。ただ、お互いの声だけを頼りにして繋がっている感覚を持つのかもしれないですね。実際に稽古してみたら、また違う感覚が生まれるのかもしれませんが。
――松雪さんは、そのひとりの女性の中のどういったキャラクター、側面を担われるんですか。
彼女にとっての“死の瞬間”ですね。
――役名としては“影の部屋の女”とありますね。
そう、死に向かう部分を担当するわけなので、それまでにあらゆる時間を経て生きてきて、そこが最終地点じゃないですか。そこに来るまでどういう時間を過ごし、どのような精神状態になっていったのかという意味では、そのすべてを引き受ける立場になるのではないかと思うんですよね。だからそこを踏まえて凝縮した上で、死というものに向かっていく。そのさまをどれだけ繊細に表現できるかなということなんじゃないかと思うんですけれど、まだ今の時点では具体的には全然想像がつきません……(笑)。だけど、出てくるキャラクターはそれぞれにすごくやりがいがありそうです。最初のほうに出てくるエキセントリックなキャラクターも面白そうだし。
――しょっちゅう、叫び声をあげているような?
そうそう(笑)。でも今回は日本版なので、言葉が日本語へ翻訳されます。その「音」の変化で、つまり日本語という言語にのせた時に、伝えたいことがしっかり伝えられるのかなということは考えますね。海外のものを日本語でやる時ってそこが一番難しいので。翻訳してくださる方が稽古場にも来てくださって、その場で最もいい言葉に変えていく場合もよくありますけど。英語と日本語ではニュアンスが微妙に違ったりすることがあるので、稽古をしていく中で、その台詞の本質に流れているものがなんなのかということをマリーさんとディスカッションして、それをちゃんとつかまえた状態で自分の肉体と声を使ってどこまで表現できるか。その点は特に、稽古でしっかりと向き合いたいなと思っています。
女性ばかりだからこそできることがある
――今回の共演者の面々は、どんな印象ですか。
みなさんと、初めましてなんです。素敵な方ばかりなので、ご一緒できるのがとても楽しみ。女性ばかりの稽古場というのも初体験なんですよ。
――しかも演出家もマリーさんですから、本当に女性ばかりの現場ですね。
女ばかりだからこそできること、共感しあえることもありそうですよね。
――では、最後に改めて意気込みを語っていただけますか。
とにかく今回は、とても美しい作品になるのではないかと思います。舞台美術もすごく綺麗だと思いますし。
――お衣裳も素敵ですし。
素敵ですよね。私も初演を映像で観た時は、客観的にものすごく冷静に観られたというのが不思議な感覚でした。とても美しくて、しかも芸術性が高くて。
――あまり他の舞台では味わえない感情が湧いてきそうな気がします。ちょっと、実験を観察しているみたいな感じになるんでしょうか。
そういう感じかもしれません。しかも出演者全員が出ずっぱりなのでどの部屋も覗きたくなっちゃうだろうし、お客様も観ていて大変かもしれませんね(笑)。そういう作品を日本人の女優さんたちでやったら果たしてどんな風になるのかというところを、ぜひ楽しみにしていただければと思います。
インタビュー・文=田中里津子
銀河劇場
アステールプラザ広島 大ホール
2017年11月23日(木・祝)
北九州芸術劇場 中劇場
2017年11月25日(土)〜26日(日)
ロームシアター京都 サウスホール
2017年12月5日(火)〜5日(水)
穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール
2017年12月9日(土)〜10日(日)
■スタッフ
翻訳:岩切正一郎
■公式サイト:http://www.parco-play.com/web/program/gekijo2017/