山田裕貴『闇金ドッグス6』インタビュー 「説明しなくても伝わる」観客を信じて作る‟映画”への思い
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山田裕貴 撮影=鈴木久美子
『闇金ドッグス』シリーズは、異色のヤンキーアクション映画『ガチバン』シリーズの登場人物の一人・安藤忠臣(山田裕貴)を主人公にすえてスタートした作品だ。『ガチバン ULTRA MAX』でチンピラとして登場した忠臣は、『ガチバン NEWGENERATION2』では組長として登場。『闇金ドッグス』では闇金業者に転職し、元ホスト・須藤司(青木玄徳)を相棒として、債務者や裏社会の人間たちと生々しい金と欲望のドラマを繰り広げてきた。
そんなシリーズの最新作『闇金ドッグス6』が8月5日(土)に公開となる。今作は、忠臣がある債務者を詰めていくうちに、その妻で学生時代の元恋人・未奈美(西原亜希)と再会する、『闇金ドッグス』初のラブストーリーだ。主人公の安藤忠臣を演じるのは、もちろん、山田裕貴。『トモダチゲーム 劇場版FINAL』、『HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY』『HiGH&LOW THE MOVIE 3 / FINAL MISSION』、『亜人』、『二度めの夏、二度と会えない君』と多数の出演作を控える山田だが、6度にわたって主人公を演じることとなった同シリーズへの想いは深い。メガホンをとった元木隆史監督や制作陣、相棒の青木らとのチームワーク、そして、「好き」と力強く語る映画の現場まで、“安藤忠臣”をめぐる様々な思いを語ってもらった。
「こんな顔は初めて」と思われるのは悔しい
山田裕貴 撮影=鈴木久美子
――ラブストーリーをやる、というお話は以前からあったんですか?
『闇金ドッグス5』が終ってすぐぐらいですかね? 「次はどうするんですか?」と聞いたら、プロデューサーさんに話をしていただきました。最初は「ええ!?マジですか?」と思いましたし、「忠臣のラブストーリーはどうなるんだろうな」というのはありました。ですが、(忠臣は)あんなにイキった頃もあるので、過去に女性関係が無かったわけもないでしょうし、今でも相手がいてもいいわけです。という風にいろいろ考えた結果、「たぶん、昔は忠臣もちゃんと恋愛をしていたけど、その人(未奈美)以外にはいないんじゃいか?」みたいな話をスタッフさんと話していたので、今のかたちになったんだと思います。
――爽やかでありつつ、大人のほろ苦いラブストーリーで、非常に楽しめました。何より、池谷雅夫さんの脚本がすごくうまい。忠臣の過去も掘り下げ、人間の本質も掘り下げ、司との関係も変わる。
絶妙ですよね。忠臣としては、全てにおいて結構痛いところを突かれるお話なんです。「闇金やってて、幸せですか?」という問題と、「女を幸せにしたいとか、思わないんですか?」という問題と。今回のぼくは、みんなに振り回されることで、“良くなっていく”というか。
山田裕貴 撮影=鈴木久美子
――これまでの『闇金ドッグス』と違って、忠臣の感情の起伏がすごく激しいですね。
それはちょっと意識しました。普段は怒らない人が怒ると怖いし、普段しゃべらない人がしゃべったら、「おっ!」っとなるじゃないですか。今までローなトーンで溜めていたぶん、未奈美という存在を(忠臣にとって)どれだけ大きいものにするかということが重要だと思ったので、普段だったらそんなに怒らないようなことでも、すぐにカッとなってしまったり、未奈美が現れたことで揺るがされて、昔の自分みたいなものが蘇っている、という風に見せたかったんです。
――忠臣のピュアな部分を新鮮に感じる方も多いかもしれません。
忠臣はもともとピュアなんです。『ガチバン ULTRA MAX』のときの、字も読めない、勉強もできない、そして、兄貴を撃つために、自分の中でめちゃくちゃ迷う……忠臣ってそれが一番のベースだと思っているんですよね。結果、「兄貴は自分が(殺る)」と、窪田さんに向かっていくのも、ピュアだからこそなんですよね。だから、もともと真っ直ぐな人間というベースがある。だから、「こんな顔は初めて」と思われるのは、ぼくにとっては悔しい問題です。この作品をきっかけに、『ガチバン』シリーズから観ていただきたいと思っています。「観てくれよ!最初に出てるんだから!」という思いがあるので(笑)。
――忠臣がローなトーンになったのは、『闇金ドッグス』からですよね。
『ガチバン ULTRA MAX』で、兄貴(山口祥行)を撃ち殺したのか?殺してないのか?わからないけど、たぶん殺したんでしょう。「一度、人を殺れた」という、何も恐れない感覚。それが、(忠臣が2度目に登場する)『ガチバン NEWGENERATION2』で出ていて。「俺はもう無敵だ」「食われる前に食うんだ」という感じが『ガチバン NEWGENERATION2』で出ています。そして、その後の『闇金ドッグス』なんです。忠臣はある程度のものを乗り越えて、ローギアで生きてきたんですが、未奈美の登場で乱される。そこが面白いのかな、と。
山田裕貴 撮影=鈴木久美子
――だからこそ、『ガチバン』シリーズを観ていると、より面白い。
そうなんです。だから今回の『闇金ドッグス6&7』は、より(『ガチバン』シリーズを)観て欲しいと思った作品なんですよね。正直、いつもの『闇金ドッグス』だったら、「(過去作を)観なくても、観られる」と言います。でも、今回はいつも以上に「過去作も観てから、今作を観てほしい」と思うんです。お客さんを呼ばないといけない身としては、かなり矛盾してるんですけど(笑)。
――(笑) 作り手としては単体としても観て欲しいけど、役者として、忠臣としては過去も観て欲しい、と。
そうですね。‟今回をきっかけに”でも嬉しいんです。でも正直に言うと、これを初めて観に来るっていうのは、ぼくはつらいです。“ぼくは”つらい。
――未奈美とのホテルのシーンも素敵でした。今までの『闇金ドッグス』のイメージなら、もっとドロドロした場面になるはずですが、意外に淡々としてますよね。
実は、ぼくもやる前は、「それ(ドロドロ)はあってもいいな」と思ってたんですよ。結果、脚本が出来上がって読んだら、「(ラブシーンが)終わった後」と書かれていて。ただ、“流れ”が見えたので、それもいいかな、と。何せラブストーリーというだけでもチャレンジですから、シリーズを好きなお客さんは、「え?忠臣、そんな?」となると思うので(笑)。でも、勘違いしてほしくないのは、(忠臣の)そういう面を見てないから、そう思うだけだと思うんです。本来はみんなが持ってる部分なので。ぼくはやってみて、すごくスッキリしていいものになったな、と思います。
「説明しなくても伝わる」チームで作る‟映画”の魅力
山田裕貴 撮影=鈴木久美子
――シリーズものは回を重ねてくると、過去作を知らない方のために説明的なセリフや演出を入れがちです。ただ、今回の『闇金ドッグス6』はそういうものがほとんどないですね。
ぼくも説明するのは嫌いなので、余分は省いてはいます。「ここで、視線を交わしておいたほうがいいですか?」とか、いわゆる“映画の製作陣の目線”で考えることはありますよね。忠臣としては、意味を持っちゃうから見たくないはないんですけど。でも、「やります?」って聞いたら、元木監督は、「いい。やらなくていい」ってくださるんです。もう、ぼくと意図が一緒なんです。説明しなくても伝わりますし、「お客さんもそんなに馬鹿じゃない」というのをわかってやってくただっています。だからぼくは、「映画っていいな」と思います。それは別に、『闇金ドッグス』だけじゃなく、そういう風に感じながら出来るのが、映画の良いところなんですよね。作品を作る上で、俳優も監督もスタッフさんも、“チーム”という感じが強いんです。
――ただ、“説明しない”というのは、共演者と息が合っていないと難しいのでは? 今回は青木さんと現場でどう演じるべきか、話しあうことはありましたか?
「ここでこうやりたいんですけど」とか、「ここで動きたいんですけど」という話はするんですけど、会話があればいいと思っています。なのでもちろん、やってみて「あ、そう来るんだ」って感じるときもあります。ここまでやってきたので、それがすごく楽しみなんです。ぼくは、考えをみせたほうがいいときと、悪いときというのが絶対にあると思っています。話し合うことが全てじゃないし、仲が良ければいいってわけでもない。だから、すごくいい距離感でやれているというか。ぼくは青木さんを信頼しているから、甘えるというか、頼っていて。ぼくが好きにやれるのは、青木さんがいるからですよね。
山田裕貴 撮影=鈴木久美子
――台本を一緒に読んだりはするとは聞きましたが。
ほんとに、(台本に)スケジュールの〇が十何個とあるんですよ。「次、どこだ?」という感じです(笑)。
――ああ、そういう確認の意味で、台本を一緒に読むんですね(笑)。
どこかのシーンで話し合ったこともあったんですが、実はもう覚えてなくて(笑)。ラストファイナンスのシーンを1日で撮影する日もあったので、シリーズを通して毎回、「前回の撮影をどうやって乗り切ったっけ?」と細かい部分を思い返しても、覚えてないことが多いですね(笑)。
――ハードなスケジュールだからこそ生まれるパッションみたいなものもありそうですね。
芝居の中で感じることは、いっぱいありますね。「あの顔いいわ~」とか。それこそ、司に「闇金やってて、幸せですか?」って言われるシーンは、忠臣としてグッときましたし。ちょうど、ホテルから帰ってきた後のシーンなので、「女を幸せにしたいとか、思わないんですか?」って言われるところも……あそこはきましたね。
――『闇金ドッグス4』ではヤクザ時代の兄貴(升毅)、今回の『闇金ドッグス6』では元恋人と、忠臣の過去に関係する人物がどんどん登場しています。同じように、『ガチバン』シリーズの登場人物が『闇金ドッグス』に出てきてクロスオーバーしても面白いかな、と思うのですが。いかがですか?
ありですね!ただ、ひっちゃかめっちゃかになるかもしれないので……映画を1本作るのに、そうなってしまうのは、もったいないと思うんです。ちゃんとやるなら、面白いんじゃないですかね。
――『闇金ドッグス』の世界観にあった人ならいいのかな、と思います。例えば、『ガチバン NEWGENERATION2』で忠臣と戦った斗氣雄(陳内将)とか。
ぼく(忠臣)に関わった人が出てくるのは面白いと思います。かなり難しいとは思いますが、窪田さんもまた共演させていただきたいです。
山田裕貴 撮影=鈴木久美子
――6作目なので、過去のシリーズを観てない方もいらっしゃると思います。そういう方に、どこを見てもらいたいですか?
全部です! やっぱり、全部観て欲しいです。
――それは、『ガチバン』も含めということですか?
『闇金ドッグス』を観るんだったら、『ガチバン』も含めて全部観てほしいです。ぼくもまだ知らない、演じなきゃわからない忠臣もあるだろうし、台本を読んで、「ああ、こう思うのか」と思うこともあります。これだけ(忠臣を)生きてくると、台本を読んでも、「わかる、わかる。忠臣はこうだよね」という風に、リンクしてきているというか。だから、今回は思いを(製作陣に)言わせてもらったりもしたんです。最初の段階の台本をもらったときに、「ここはこうしてください。ここはこうしたいです。ああしたいです」っていう意見を並べて、送らせてもらったり。それがかなり反映されて、今の完成版の台本になっているんです。それでやりやすかったというのも、あると思います。
山田裕貴 撮影=鈴木久美子
――台本に意見を盛り込んでもらうっていうのは、他の現場でもよくやられるんですか?
いや、『HiGH&LOW』のような、自由に生きなきゃ埋もれちゃう作品ぐらいですかね(笑)。出番が少なかったぶん、どういう風に爪痕を残すか、ということを意識しました。村山(編注:『HiGH&LOW』の山田の役)で印象的って言っていただいている「あっかんべー」という仕草も台本にあると思われていたんですが、アドリブなんです。そういう部分は結構いっぱいあります。でも、今回の『闇金ドッグス6』は、台本の段階で、「ラブストーリーで話の絡め方が難しい」とわかっていました。最初は、忠臣がむちゃくちゃ語っている側だったんです。それを、「もっと相手側にしゃべらせて下さい」と変えてもらいました。それは、忠臣が過去を清算している人間だから、というのもあります。基本的には結構いろいろと意見を言わせていただいて、それを相談させていただきながら反映していただく、というかたちです。
――それも、同じチームで長くやってきたからできたことなんでしょうね。
そうですね。ほかの現場では難しいかもしれないです。
――もう、最後まで行くしかないですよね、『闇金ドッグス』シリーズは。
やめるつもりはないですね。(忠臣が)死ぬのか……結果的に債務者に殺される、でもいいし。続くならいつまででも、やりたいです。
山田裕貴 撮影=鈴木久美子
『闇金ドッグス6』は公開中。『闇金ドッグス7』は2017年9月2日(土)より、シネマート新宿ほか公開。
インタビュー・文=藤本洋輔 撮影=鈴木久美子
山田裕貴サイン入り“愛”色紙を1名様に
撮影=鈴木久美子
山田裕貴 撮影=鈴木久美子
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(2017年/日本/カラー/シネマスコープ)
ラストファイナンスの社長・安藤忠臣(山田裕貴)。若くしてヤクザの親分になったものの、稼業を引退して、闇金の世界へ足を踏み入れた。元イケメンホストだった須藤司(青木玄徳)と共に、癖のある債務者を追い込む毎日。その日、忠臣は、最悪のカードを引いた。債権ブローカーから焦げ付いた債権を安く買い取り、債務者から更に搾り取る。債務者の名前は、伊良部慎太郎(長谷川忍(シソンヌ))。その価格は400万。忠臣の計算では、まだ1,000万は引っ張れると踏んでいた。しかし、忠臣の元に訪れたのは、10年以上前まだ幼き頃に分かれた恋人・荒木未奈美(西原亜希)。今は結婚して伊良部となった荒木は、借金を背負った夫が行方不明となり、手がかりを探しにラストファイナンスにたどり着いたのだった。
(2017年/日本/カラー/シネマスコープ)
※逢沢の逢は一点しんにょう
闇金稼業も板についてきた須藤司(青木玄徳)は、ほとほとこの仕事に嫌気がさして、きっぱりと足を洗った。生活保護費をだまし取られて生き地獄の債務者を、たかが数万円の借金でも追い詰める。そして、その老いた母と無理心中するに至らしめてしまった事がその理由だ。無一文な司は、場末のキャバクラのボーイの職にありつく。元イケメンホストの司は、そつなく仕事をこなしていくが、No.1ホステスのエマ(逢沢りな)からはキツく当られる。一方、司を失ったラストファイナンスの社長・安藤忠臣(山田裕貴)は、一人での回収作業に困り果て、なれない求人募集でなんとか一人雇う。ある時、エマに執拗に迫る面倒な客を上手く撃退した司。それがきっかけで、二人の距離が少しずつ狭まっていく。エマは、昼にはOLの仕事をし、家には交通事後で障害者となった姉の介護をし、夜はホステスとして働く。司はそんなエマの心の支えになってきたある日、エマには、奨学金の負債が700万円もある事を知る。
脚本:池谷雅夫
企画・配給:AMGエンタテインメント
公式サイト:http://yamikin-dogs.com
(C)2017「闇金ドッグス6&7」製作委員会