• トップ
  • 舞台
  • アツい男芝居を世に送り続ける、憲俊率いるSCANP公演 第7弾、名古屋で上演

アツい男芝居を世に送り続ける、憲俊率いるSCANP公演 第7弾、名古屋で上演

2017.8.1
インタビュー
舞台

SCANP SEVEN『南方の兄弟』出演者の一部。前列中央が憲俊


人のために生き、散っていった戦時下の人々の生き様と想いを描く

観光PR部隊として、今や全国各地で展開されている〈おもてなし武将隊〉。その先駆けとして2009年に結成された〈名古屋おもてなし武将隊〉で、初代・織田信長役を務めた憲俊(けんしゅん)率いる演劇ユニットSCANPが、8月4日(土)から3日間に渡り、名古屋の「千種文化小劇場」にて『南方の兄弟』を上演する。

SCANP SEVEN『南方の兄弟』チラシ表

〈名古屋おもてなし武将隊〉は、三英傑を始めとする愛知ゆかりの6武将&陣笠隊で構成され現在も活動を続けているが、憲俊は2012年に卒業。その前年に「名古屋でTEAM NACSのような集団を作りたい」と、武将隊仲間と共にSCANPを立ち上げたのだ。現在のメンバーは殺陣師でもある憲俊のほか、〈徳川家康と服部半蔵忍者隊〉で伊吹役を務めた藤田誠樹、同じく〈グレート家康公『葵』武将隊〉で初代・井伊直政役を務め、『カブキカフェ ナゴヤ座』では名古屋山之助としてカブキショーも行う(こちらの記事を参照)岩田将臣の3名。年に1度の本公演は毎回、出演者とスタッフを集めるプロデュース形式で行っている。

その第7回公演となる『南方の兄弟』は、【教科書に載らない歴史の偉人を描きたい】という憲俊の原案を、演劇組織KIMYOの宮谷達也が脚本化。演出は、名古屋のCBCテレビで多数のドラマを手がけてきた演出家・プロューサーの小森耕太郎が担当し、宮谷はSCANP FIVE、小森はSCANP FOURからの付き合いになるという。

第二次世界大戦下、インドネシア独立に加勢した日本兵たちの生き様を描いた今作はどのような作品になるのか、稽古場に伺い主宰の憲俊と演出家の小森耕太郎に話を聞いた。


── SCANP公演の原案は、いつも憲俊さんが考えていらっしゃるんですか?

憲俊 最初はいろいろな人たちに手伝ってもらうパターンもありましたけど、8割がた原案を出して、昔は脚本も書いてました。ただ、自分は脚本畑じゃなくてプレイヤーなので、最近はオイスターズの平塚直隆さんとかKIMYOの宮谷君とか、プロに書いてもらったものをやろうと。でも、やりたいことはあるので「こういうのをやりたい」っていうのを脚本家に伝えています。

── 今回の『南方の兄弟』は、どのように生まれた作品なんでしょう。

憲俊 これは僕にとって思い出の作品なんですよ。僕は第二次世界大戦とか日露戦争とか、武将隊もそうですけど歴史が好きだったので、第二次世界大戦モノの芝居をやりたいなっていうのから書き始めて。調べていくうちに慰安婦の存在とか、どこまでが本当だったとか南京事件がどうだとか、敗戦国だからの悔しさや人を殺した苦しみもありながら、そういうのをいろいろ考えていくうちに…深いですよね。11年前に東京で芸能人の付き人をしていたんですけど、それを辞めて老人ホームでバイトしていた時、おじいちゃんたちにも話を聞いていくうちに自分の中で高まって、「絶対やってやる!」って。

現代の青年がタイムワープして、祖父たちの戦争を幽霊というポジションで見るという話なんです。当時はその青年役を僕がやろうとしていたのが、11年の時を経て、愛弟子が青年役で、自分は祖父の兵隊側を演じるという時の流れにもグッとくるというか、それも楽しいです。

── 11年前の原案から宮谷さんの脚本化でどんな風に変わりましたか?

憲俊 僕の原作は脚本家じゃないので粗いんですよね、動線が。武将隊の時は3分とか5分の芝居だったのでそういうのは書けるんですけど、そこから次のシーンにいく繋ぎが下手らしく、自分の描きたいシーンを写真のようにブワーッと繋げているだけなので、プロに任せようと。宮谷君は僕のやりたいことを一番わかってくれる名古屋の脚本家さんかなと思ってます。書いてもらうのは3回目なんですけど、僕は“ダダ漏れた情熱”みたいなのが好きで、それを表現するのは宮谷君が一番ウマが合うなぁと思いますね。

── 演出を小森さんにお願いした経緯というのは。

憲俊 彼がCBCでドラマを撮っていた時代、僕が21~2歳の頃に役者として出会わせてもらって。それと所属事務所から「経験だから」と言われて、小森さんの作っているドラマのADのADみたいなこともしていたんですよ。そのきっかけがあったから仲良くなりましたね。東京へ行くのも応援してくれていたし、東京へ来た時はご飯を食べさせてくれたり。それで武将隊で名古屋に帰ってきて自分で芝居を創ることになって、一緒に呑んでいる時に、「耕太郎さん、演出やってくれる? じゃあお願いします」と。毎年ケンカしながらね(笑)。

── 小森さんの演出は今回で4回目ということですが、毎回ケンカに?

憲俊 お互いがお互いをわかり合えるところもあるし、絶対にわかり合えないところもあるから、よくケンカします(笑)。僕は原案者として「ここを見せたい」っていうのがあるんですけど、それを効果的に見せるために耕太郎さんはこっちの道をチョイスする。僕よりも芸能に長けている人なので信じなきゃいけないけど、叫んだ方がいいのに「落ち着け」って言われて、たまに言う事聞くけどたまに歯向かうとか。でも役者の仕事はそうであるべきだと思っていて、演出に言われたままだと操り人形なので。その時生まれた感情を表現して「OK」と言わせる表現をすればいいと思っている節があるので、ちょっと反抗します。

── 今作の見どころや注目してほしい点はどんなところでしょう。

憲俊 武将隊をやってた時は、僕以外全員素人だったんですよ。その人たちにのために朝の4時5時まで脚本を書いてたんです、楽しくて。で、次の日朝8時に起きてみんなで稽古とか。でも全然苦じゃなかったし、自分が初めて活躍できる場をいただいたエネルギーが、自然と人のために向かっていたんですよね。人のためにしていたら勝手に評価されて褒めてくれる大人が増えて、僕は人のためにやった方がエネルギーを出せる人間だとその時気付いたんです。自分のためだけにやろうとするとエネルギーが強すぎるので人を傷つけてしまうし、アクが強いというのを感じてるので。

この作品は人のために命をかける男たちの話なんです。なかなか今は人のためっていうのはできないし、自分のことばかり思っちゃうじゃないですか。でもこの作品を創りながら、人のために生きられればいいな、これでみんなが仕事増えればいいな、って。たぶん人は人のために生きた時に輝くんだろうな、というのを感じてこの作品が生まれた。人のためにカッコよく死んだ人たちを見てほしいですね。あとは僕の思う、教科書に載らない歴史の偉人たちを感じてもらいたいなと思います。

毎回、派手なアクションも特色のひとつであり出演者も多いSCANP公演。小森は演出家としてどのようにまとめ上げていっているのだろうか。

── 宮谷さんの脚本をご覧になって、どんな印象を持たれましたか?

小森 兵士6人のキャラクターはよく書き分けられてるなぁと思いました。宮谷君には今まで3回書いてもらってるんだけど、なるべく史実に従って嘘をつきたかったんですよ。そこはお願いして。インドネシアの独立の話も徹底的に調べて、その上で嘘をつくっていうことをしたかったんで、その辺もわりと書いてくれたかなと思います。

── SCANPの作品を演出される時に、気をつけてらっしゃることなどはありますか?

小森 必ずアンサンブルの子たちが出るんですけども、お芝居はアンサブルも含めて創るものなので、役付きとか役付きじゃないとか、主役とか主役じゃないっていうのはあまり思ってほしくないな、と思って創ってるのが一番あって。主役の空気に合わせて全体が総合芸術に見えるようにちゃんとやること、一人一人がワガママな芝居をしない、勝手な間でやらない、っていうことは口をすっぱくして言ってます。だんだんそれが出来るようになってきましたけどね。

── 稽古を拝見して、一人ひとりが際立って見えました。それはホンの時点から指示されていたんでしょうか。

小森 そうです。キャラクターの書き分けっていうのは一番最初にお願いしたかな。今まではどうしても主役ばっかりのホンだったけど、今回はよく書けてると思いますよ。

── 今回の演出のポイントというのは?

小森 いかに力を抜くか、ですね。放っとくと全部怒鳴るんですよ、この芝居って。そんな芝居観てたら疲れるし、“静”の部分がなきゃいけないという話をずっとしてて。いかに力を抜くところをいっぱい作るかっていうのが、僕は今回のテーマだと思ってます。どこで自分の感情が変わるか、っていうところに向けて感情のMAXを持ってこなきゃいけないんで、その前に吠えちゃったりすると見てて何が大事かわかんなくなっちゃうんで、それはやめてね、っていうことだけをポイントとしてずっと言ってるかな。

脚本家はどうしたって勢いで書くので。以前、岩松了さんが「僕なんかト書きで“泣く”とか書いちゃうんだけど、演出してる時に泣かなくていいと思ったら、いいよ泣かなくて。でも脚本家はついそう書いちゃうんだよね」って仰ってたんです。僕は岩松さんが言ってることが正しいなと思ってるんで、脚本家の書くト書きの一文字一文字は疑ってかかるんですよ。だから今回、ホンを読む時に全員に「まず疑え」と。前に出るって書いてあるけど、「何で出るの?」とか。そういうことをまず考えろっていう話をすごくしてて、宮谷君のホンはそういうところは複雑に難しくなってるんで、捉えようによってはどうとでも捉えられる。作家の書いた意味って何なんだろう?と思って、役の話を散々したら、或る日突然芝居がピッて変わった。役者ってずっと見てると、スイッチが入る日があるなぁと。

── 今回の座組みは集団としてのバランスが良いですよね。

小森 そうですね。そこは憲俊中心によくまとまっていると思いますよ。キャラクターを描き分けられるようによく人を集めてきたし、そこはプロデューサーとしての良い部分じゃないかな。

── 争いのシーンなど、殺陣は基本的に憲俊さんがつけられているんですよね?

小森 それを僕が見て、これはこっちだよと。今回、憲俊にお願いしたのは、「戦争で武士じゃないんで、泥臭い殺陣にしてくれ」と。刀で綺麗に切るんじゃなくて、倒れながら殴って撲殺するとか、そっちの方向で作ってくれって話をしました。

── 今回の舞台で一番見てほしい点はどこでしょうか。

小森 人はなんで戦うのか、なんで戦争するのかな、って。それが自分のためでない時に戦うってどういう時かというのを感じてもらえたら嬉しいですね。結局、インドネシアの独立は(日本人の)自分にとっては何の関係もないですよね。そのために命を落としていくっていうことがどういうことなのか。

── その辺りは憲俊さんと思いは同じなんですね。

小森 そうですね。見てほしい部分は一緒ですね。でもお互いがそれに対してどう感じて、どういう風な結論を持ってるかは別だと思いますけど。


戦乱の中、遠く南方の地でそれぞれの立場から他者や誇りを守るべく命を賭した人々。戦後72年の夏を迎えた今、戦争を知らない私たちもこの舞台を通して、過酷な時代に生きた彼らの想いとSCANPが伝えたかったものにふれてみよう。

取材・文=望月勝美