今までにない暗闇テクニックで描く『にんぎょひめ』、to R mansionとその仲間たちが海の物語で大騒ぎ!

2017.8.5
インタビュー
舞台

to R mansion

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 座・高円寺のSENDAI座☆プロジェクト『白墨の輪―音楽劇―』『フランドン農学校の豚~注文の多いオマケ付き~』と並ぶ[夏の劇場]と題したシーズンラインアップのひとつに、どうしても紹介したいと思った、to R mansionプレゼンツ『にんぎょひめ』がある。

大道芸のパフォーマンスの様子

 to R mansionをご存知だろうか。私が初めて見たのは、2007年の茨城県・ひたち国際大道芸だったから、まだ結成まもないころだ。かわいらしい女の子とやたらと胸とお尻が大きい日傘のマダム、シックなスーツ姿で首から上がない謎の男などが優雅に踊りながら行進している姿が脳裏に焼いついた。パントマイム、アクロバット、マジック、ダンス、演劇をベースにオブジェを駆使した、破天荒で、明るく楽しくもはかないパフォーマンスをストリート、シアター問わずに繰り広げている。これまでに世界14カ国74都市で観客を笑わせ、驚かせ、感動を振りまいてきた。to R mansionの総合演出を手がける小島フェニックス、パフォーマーで制作担当の野崎夏世に『にんぎょひめ』のことを聞いた。そうそう、変身前の写真はイメージを壊す恐れがあるので不掲載とします(笑)。

身体表現とオブジェを使ったパフォーマンスを繰り広げるデーハなやつら

『ちきゅうばこ』

野崎 「to R mansionでは年齢とか国籍とか関係なく楽しめるもの、ボーダーを超えて共感できるものを目指しています。その場に集まった人たちで喜びを得たり、発見したり、そういう共有できる時空間をつくっていくためには、シンプルほうがいい、物語も込み入ってないほうがいい。メンバーも役者やパントマイマー、ダンサーとバラバラで、それぞれが違った身体表現が得意だったものですから、自分たちが共有できる表現を考えるところから始まったんです」

小島 「僕は総合演出として作品を外から見て、メンバーから出てきたアイデアをチョイスし、パッケージングするというような作業をやっています。やはり目立つことが一番。ヴィヴィッドな色とか、かつらの形が面白いとか日本では注目を集めましたが、エディンバラ国際芸術祭に行ったら埋もれてしまったんですよ。向こうはナチュラルにおっぱいもお尻も大きいし、衣裳ももっともっとぶっ飛んでいる。とてもショックを受けて、エディンバラの人たちに負けないようにと話し合って、今のビジュアルになっていきました。今も進化中ですが」

野崎 「身体表現とオブジェを駆使して、お客さんの想像力を引き出すような表現をしたいという思いは変わっていないんです。ただストリートをやるようになって、天候、そのときのお客さんのコンディションなどに対応できるようにと、先輩たちからたくさんのことを教えていただきました」

『フライングシュワシュワカーニバル』

 そんな彼らは、2009年に座・高円寺の日本劇作家協会プログラムで『ちきゅうばこ』を上演したが、めぐりめぐって今年は劇場との提携公演となった。「原作のあるもの」「夏休み期間中に親子で楽しめるもの」というコンセプトで検討する中で、アンデルセンの『にんぎょひめ』を選んだ。

小島 「今まではゼロからお話を考えていたんですけど、原作のあるものを自分たちがやったらどうなるかと。脚本の目次さん、松居さんとは誰でも知っている物語にしようと検討しました。その中で、『にんぎょひめ』はto R mansionが得意なオブジェクトを使ったり身体表現で描くのに可能性が高まるのではということで選択しました。一番は海中の場面の浮遊感でしょうね。遊びがいというか、苦労のしがいがありそうです(笑)。物語通りにせりふをつないでいくようなお芝居にはあまり興味がないし、僕らがそれをやっても面白くない。アンデルセンの物語をベースにしつつ、ニニギノミコト、イワナガヒメ、コノハナサクヤヒメという日本の神話の設定を加え、見たことのないお話になっています」

野崎 「主宰の上ノ空はなびが、『にんぎょひめ』は暗いお話だけれど、見ている人が“人魚姫がんばれ、がんばれ”と応援したくなるような、道化の物悲しさとみんなに好かれる愛くるしさを持っている存在としてやりたいというアイデアも盛り込んでいます」

 補足すると、コノハナサクヤヒメの伝説とは、天照大神の孫・ニニギノミコトがコノハナに求婚したことを喜んだコノハナの父オオヤマツミは、姉のイワナガヒメを共に差し出す。ところがニニギノミコトは醜いイワナガヒメを送り返し、美しいコノハナノサクヤヒメとだけ結婚したためオオヤマツミはカンカンに怒ってーーみたいな話だ。この話が今の皇室のはじまりにつながる。to R mansion版『にんぎょひめ』の特徴は、二人の姉妹の物語として描くという。

テアトル・ノアールの演出法で描く海の世界に妄想がひろがる

『The Wonderful Parade』

 to R mansion版『にんぎょひめ』を際立たせるのが、2016年に手がけた『The Wonderful Parade』で初挑戦したテアトル・ノアールという演出法。10数年前だろうか、真っ暗な空間にブラックライトを当てることで例えば白い手袋が浮き上がって見えるブラックシアターが流行ったが、テアトル・ノアールは、舞台のつらから数間(けん)下がったところに暗闇のカーテンがある、あるいは混ざり気のない暗闇がどんと鎮座するかのような照明演出だ。

野崎 「ある一線から手前は普通に明るく見えるけど奥は見えない。暗闇のどこからも出てこられるし、どこからも消えられる、そういう自在な空間なんです。そのシステムに成功したフランス人のパスカル・ラージリさんという演出・照明家をお呼びしてつくったのが『The Wonderful Parade』でした。彼とは4、5年前にフランス領ギアナでの演劇祭で出会ったんですが、彼も私たちのことを気に入ってくれて、私たちにその手法を教えてくれたんです。だから私たちがご一緒させていただいている丸山武彦さんはとっても特別な照明家なんです。また緻密な作業になるので経験を共有している人たち、出演者だけでなく舞台監督さんも衣裳さんも含めてチームとしてやることが大事。

 ただ『にんぎょひめ』に決まり、じゃあ王子様はどうしようというときにコンドルズの藤田善宏さんがぴったりじゃないかということでお願いにいきました。チャタさんは、いろんな現場で一緒になることが多くて、私たちファンだったんですよ。興行主という見世物小屋を開く見せ場があるんですけど、素敵なシーンにしてくださると思います。スタンダップコメディエンヌとしても、俳優としてもずば抜けたセンスと機転で、お客様のハッピーで優しい気持ちを引き出すヤノミさんをはじめ、とにかくto R mansionが愛してやまないアーティストばかりをお迎えし、最強の『にんぎょひめ』をお届けします」

 いずれにしても、アーティスト写真を見てもふだんからデーハな衣裳の個性的なキャラクターの面々が集うだけに、本番もにぎやかになりそう? まさにおもちゃ箱をひっくりかえしたような。

 最後に余談だが、チラシのデザインを手がけたのは、あるサイトによると「野球でいうと王貞治。サッカーでいうとカズ」とたとえられている、大御所中の大御所アートディレクターの大貫卓也氏だ。上ノ空はなび野崎夏世は、衣裳姿で事務所を訪ねたというから、きっと大貫さんも驚いたことだろう。恐れ入る。

 そういうユニークなメンバーがつどった『にんぎょひめ』に注目!

取材・文:いまいこういち

公演情報
to R mansionプレゼンツ『にんぎょひめ』
日程:2017年8月17日(木)~8月20日(日)
会場:座・高円寺1
■原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン
脚本:目次立樹(ゴジゲン)
脚本監修:松居大悟(ゴジゲン)
演出:to R mansion
総合演出:小島フェニックス
出演:
上ノ空はなび、野崎夏世、丸本祐二郎
Coppelia Circus、ヤノミ、チャタ、佐川健之輔、遠藤昌宏、藤田善宏
料金:
【全席自由・税込】大人3,500円、
(以下to R mansionのみ扱い)
60歳以上3,000円/中・高校生2,000円/小学生以下500円、
親子ペア3,500円 ※未就学児童膝上に限り無料
開演時間:17日19:30、18日11:00 / 19:30、19日・20日11:00 / 15:00
問合せ:to R mansion(トゥーアールマンション)Tel.080-3410-8000
■『にんぎょひめ』公式サイト http://tormansion.com/ningyohime.html

 
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