“SNS世代”に問題提起を【DATS×向井太一 東阪ビルボードライブで対バンライブ】DATS編
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DATS
名実ともに新世代の音楽シーンを席巻している4人組バンド・DATSが、6月7日にニューアルバムをリリースした。2013年の結成からまもなくして、大型音楽フェスのSUMMER SONICに2年連続出演。銀杏BOYZや[Alexandros]、BIGMAMAといった名だたるバンドを世に送り出してきた、下北沢の名門レーベル・UKプロジェクトからCDをリリースしてインディーズデビュー。そして、今年はフジロックフェスティバルに出演を果たした……。と、痛快なほどのスピード感で注目を集めてきた彼らは、こちらから見ると順風満帆かに思えた。しかし、それは本人たちがセオリーや王道に囚われ、不要な枠組みを自ら作り出してしまう結果になったと明かす。そんな彼らが自分たちで作り上げてしまっていた“枠”から抜け出し、より自由に、純粋に音楽と向き合って今作を生み出した。テーマは“SNS世代のリアルな日常”。これまでのギター・ロックを軸にしたバンドサウンドとはうって変わって、英詩に馴染みがない人でも心が自然と弾むような、ロックのエモーショナルさと打ち込みのビートやシンセをふんだんに効かせたダンスミュージックを融合させたアルバムに。今回は、メンバー全員に制作までの過程を振り返りながら、歌詞に込めた想いや今の世代ならではの価値観についても語ってもらった。
杉本亘(Vo, G)
――今年の頭にUKプロジェクトからRallye Labelへ移籍して、今作のリリースに至ったわけですが、どのようにして決めていったのですか?
杉本亘(Vo/Sys):2016年の末頃には、レーベルを移籍することに関しての話が出ていました。正直、僕たち自身でバンドの低迷を感じていたし、自分たちでどうにかしないといけないという思いがあって、2017年はどういう風に活動していくかを自分たちなりに考えていました。その結果、Rallye Labelから先ずは「Mobile」を限定リリースすることになったんです。その時点では、まだ他のアルバム収録曲は全くて。ただ、この1曲が今後の自分たちをもっと発展させていく大事な曲になると確信していたので、この曲を起点に今年のプランをやんわりと描いていきました。それを伝えるとRallyeから、「だったらこういう風にしていけばいいんじゃないの?」とテーマである“SNS世代の日常”に繋がるような面白いアイディアで肉付けしてくれたので、うまくアルバムを作っていけた感じです。
――2013年に結成してから、14年、15年と2年連続で『SUMMER SONIC』に出演。UKプロジェクトからCDリリースをするなど順風満帆なイメージを持っていたんですけど、バンドとしては“低迷”を感じていた?
早川知輝(Gt):そうですね……。
杉本:正直、「別にフェスに出たから何なの?」って話じゃないですか。
伊原卓哉(Ba):僕は後からDATSに加入した最後のメンバーなんですけど、たしかに“順風満帆”なイメージを持って入ったんですよね。だけど実際に入ってみると、失礼な言い方かもしれないけれど、「そうでもねぇな」と思った。実際は、僕が入ってからの1年しかDATSを知らないけれど、それでもうまくいってない空気でしたね。試行錯誤しながら曲作りしていて、尚且つ自分たちがどういうフィールドで勝負したいのか、どういうふうにお客さんに対して発信していくのかとか。いろいろなことを考えすぎていて音楽に集中できていない部分が実際にあった。バンドが考えなくてもいいことを考えてしまっていた頃に、初めて真っ直ぐ音楽と向き合って作れた曲が「Mobile」。そういう風に曲ができたのは僕が入ってからは初めてです。
早川:元々は杉本が作る曲が好きで4人はDATSをやってきたんです。だから彼に一度、好きに曲を作ってもらおうと思って話しました。そしたらすごくいい曲ができたので、この方向で行こうとすぐに決まりましたね。
伊原:それまでは皆で一緒に曲を作っていこうとしていたんですけど、意見を盛り込みすぎて、ごったごたになっていました。だから一度、亘に“今やりたい曲を作ってきてくれないか”と頼んだ。
――メンバーそれぞれにやりたいことが沢山あったから、収拾がつかなくなったと?
早川:やりたいことが溜まっているからアウトプットしたいというよりは、より今の環境を変えたいからとにかく新しいことをやるしかない、という気持ちですね。それが上手くまとまらなかった。
杉本:皆、それぞれ自分たちなりのやりたいことがあったと思います。例えば、バンドを良くするためにはどうしたらいいのかという意見をたくさん持っていた。だけどその根底には、“売れるためにはどうしたら良いのか”という気持ちが、正直あったと思います。自分たちがフェスに出ているからと言って、数字的に結果を出しているわけじゃないし、UKプロジェクトという大きなレーベルにいる以上はもちろん売れるためのことも考えなくてはいけないのかなとか。そういった考えに勝手に縛られてしまっていました……。売れるためにはこういう音を作らないといけないとか、日本語で歌わないといけないんじゃないかとか、音作りにまで“売れるためにはどうしたらいいのか”という考えに根差したアイディアとか意見が出てきてしまっていた。そういう自分たちの中で勝手に作ってしまった“枠”に、自分たち自身が閉じ込められて出られず、右往左往している状態が続いていたんです。だから、2016年はそれを打破する1年間にしたかった。
大井一彌(Dr):リアルじゃなかったよね。打算に根差した活動をしていたから。リアルじゃなかったけれど、今作はおかげさまで僕らのリアルを打ち出して、そこから完全に抜け出せたという感覚を持てています。
大井一彌(Dr)
――“低迷”の中で悩んで得たことがあったからこそ、リアルを今作で掴めたと。
杉本:もちろんUKプロジェクトにいたからこそ得たものも沢山ありましたから。
伊原:“売れるためにはどうしたらいいのか”という考えだって、別にマイナスでもないと思うんですよね。ただそれが根底にあっちゃいけないだけ。もっと多くの人に知ってもらうためにはどうするかという面で言えば、UKの先輩方のライブパフォーマンスを間近で観れたからこそ得ることができたこともあります。
早川:なかなか第一線で活躍しているアーティストのライブを間近で観れないからね。
伊原:個人的にUK時代の先輩と今ででも飲みに行ったりしていますから!
大井:名門には名門のやり方がある。僕らは偶然、それにフィットしない突飛なチームだったというだけで、ハマっていたらきっとハネていたと思います。
杉本:あと語弊があるかもしれないですけど、とにかく不遇でしたね。だけど、逆にそれがよかったんです。例えば、そもそも制作費なんてかけられずにやってきましたから、無いなら全部俺たちで作るしかないという気持ちになれたし、動画作ったり自分たちでやってきました。だから、今回の『Application』も制作費が実はゼロなんですよね。「制作費が無いけど、これぐらいのもん作ってみましたよ」って驚かしてやろうみたいな。そういう不遇な環境だからこそ生まれたものだってありましたね。
早川:すべて揃っている状況からでは生まれなかった、ハングリー精神から自分たちで作り出していくことも学べたよね。
杉本:結果的に、移籍してリリースした今作が数字を伴っているかと言われれば、決してそうでもないですけど、ミュージシャンとしてとても楽しくできてきている。それが1番、本質的なことだからいいのかなと思っています。楽器だって自分の得意なものを使えばいい。“変幻自在バンド”とか言ってますけど、意外と自然であり、かつ必然的でもあったのかなと思っています。元々、ギターの早川はベーシストで、ベースの伊原はギターリストでしたからね。俺もギター使ってましたけど、今はキーボードをやってる。演奏する楽器だって、こうじゃないといけないとか枠に捉われているとしたらもったいないなとさえ思うようになりましたね。
早川:プレイヤーのエゴみたいなのは出したくないんです。楽曲至上主義なんですよ。曲がより良くなる方法でやれたら何でも良いんです。“俺はギタリストだから、ギター以外触らない”とか言わない。
早川知輝(G)
杉本:それこそ、ミュージシャンとして楽しいことをするというスタンスになれたのって、ぶっちゃけyahyelの活動で気づいた部分が大きいんですよ。元々、yahyelはDATSで出来ないことをやりたいという想いが俺の中で切っ掛けとなって結成したバンド。もちろん、他のメンバーはそれぞれ想いがあったと思いますよ。もっと自由に、“やりたいことをやりたいようにやる”という想いで始めたプロジェクトだったはずが、DATSよりも先に話題になっちゃった。「売れるためにはどうすればいいかとか関係ねぇや」って、yahyelの活動を通して気づいたわけです。やりたいことをやった方がいいんだと思えた。じゃあ、DATSでもやればいいじゃんということになって、今作に至るわけです。
大井:結局、音楽の中身が大事になったんですよね。それが今回のアルバムでいうと“SNS世代のリアルな日常”というテーマができたり、それを伝えることがとても重要になった。音源だったら、歌詞がどう伝わるかというのがすごい重要になる。ヘッドホンで一番歌詞が刺さるフォーマットは打ち込みかもしれないし、ライブ会場で聴くんだったら音をそのまま流すんじゃなくて熱量を持った演奏をして歌って届けるとか。だから、僕たちはライブと音源の差がすごくある。個人的には、歌詞に注目してほしい作品になっていますね。
――歌詞でいうと、これまで通り英詩を貫いていますね。より歌詞を伝えることにこだわっているからこそ英詩で、海外シーンにも届けてるというも意識もはっきりとあるのでしょうか?
杉本:全然、それはないですね。むしろ意識としては日本にフォーカスして活動していますよ。
大井:言ってしまえば、武道館を埋めたいんですよね。
杉本:“ザ・日本のロックバンド”にとっての成功の象徴でもある日本武道館を埋める。それをひとつの大きな目標として活動しているので、意識しているのは海外よりも断然日本ですね。英語で作った理由としては、今作のテーマである“SNS世代のリアルな日常”って日本だけでなく海外でも同時進行的に起きている状況じゃないですか。だからもし海外の人がCDを手に取って歌詞をみて聴いた時に、日本で生活する若者の人たちはこういう視点でこの状況を捉えているんだ"と感じてもらえたら、それはそれで面白いなというのもあったので、英語にしています。
伊原:歌詞カードに載せている訳詞の意訳がすごいんですよね。かなり具体的な内容を書いているんですけど、英語になるとどうしてもより曖昧な言葉になってしまうんです。なので、どちらかというと日本の人のほうが歌詞から具体的な意図を感じてもらえるんじゃないかな。
伊原卓哉(B)
――お話を聞いている限りでは、「そこまで英詩にこだわりがあるわけでもない」ということは今後の楽曲に日本語詞もありえそうなトーンですね。
大井:可能性としてはありえるかもしれないですね。日本語で歌うことは別に抵抗はないですから。好きですし。なので乞うご期待ですね。杉本が帰国子女ということもあって、よりネイティブな発音ができたり自然と口ずさむフレーズが英語だからということもあると思います。また、聴いてきた音楽が洋楽だったりするのもありますよね。とはいえ日本人の帰国子女が、英詩を駆使してまた世界を目指すケースなんてよくあるっちゃあるじゃないですか?だから、日本語詞も視野に入れることでドメスティックな市場でより活躍できるしいいんじゃないかなと。
――英詩での楽曲作りは、杉本さんにとってごく自然な選択肢だったのですね。
杉本:自分が好きな洋楽をよりもっと多くの人にも興味を持ってもらえるような、そんなきっかけに自分たちがなれたらいいなとかは思いますよ。大きいスケールで語るとそういうことも視野に入れてはいます。DTAS自体が、最初に立ち上げたコンセプトとしてダンスミュージックとロックミュージックの融合であり架け橋。洋楽と邦楽の架け橋。クラブとライブハウスの架け橋。そういうきっかけになるということが、実は自分たちのブレないコンセプトです。そこは今も昔も変わらずに続けていきたいところですね。