夏の風物詩、少年王者舘の新作公演『シアンガーデン』が名古屋、東京、伊丹で

2017.8.7
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舞台

少年王者舘『シアンガーデン』チラシ表  コラージュ/アマノテンガイ


初の密室モノはどんな展開に? 虎馬鯨作、天野天街演出で新たなる扉は開くか

今回で39回目となる少年王者舘の本公演『シアンガーデン』が、8月10日(木)~13日(日)までホームグラウンドの名古屋「七ツ寺共同スタジオ」で上演。その後、18日(金)~22日(火)まで東京「ザ・スズナリ」、26日(土)~28日(月)まで伊丹「AI・HALL」と、3都市ツアーを行う。

前回公演『思い出し未来』より

古くからのファンにとっては少年王者舘=夏のイメージが定着していると思うが、2年半ぶりの本公演となった昨年の『思い出し未来』は3月に上演。今作は久しぶりに王者舘らしい時季の上演だが、2009年の番外公演『ライトフレア』(原作:カシワナオミ)以来、約8年ぶりに劇団員で役者の虎馬鯨(コバクジラ)が劇作を担当したり、出演者も過去最少の7名(公演地によって変更あり)だったりと、いつもとはちょっと趣の異なる作品になりそうなのだ。

左から・虎馬鯨、天野天街

「次の演目を決める劇団の総会がありまして、天野さんの新作にするかとかいろいろ話し合う中で、候補のひとつとして「書いてみたいものがある」と発言したんですね。そこから多数決で書くことが決まって」と、虎馬鯨。王者舘での脚本執筆は、2007年の『シフォン』、前出の『ライトフレア』、2013年の番外イベント『同級生~咲く汽笛~』に続いて4作目となる『シアンガーデン』。その気になる内容はというと…彼が最初に記したイメージはこうだ。

外では雨が降っている。
いつ降り始めたかは定かではない。
ひょっとしたら五億年ほど前から降っているのかもしれない、と男は思う。
ぼろアパートの四畳半一間の部屋に寝転んで、ただ、じっと天井を見つめる男。
彼は、何もかもを失って、何もかもを忘却の彼方へと追いやった。
「俺、まだ生きてるのかなぁ」なんてことを、時々ぼんやり思ったりしている。
ある時、天井板の隙間から、一粒の水が男の頬に落ちる。
雨漏り。
久しぶりの現実的な感触に少なからぬ衝撃を受けた男は、ゆっくりと身を起こし、天井を見上げる。
─ぽたっ。
なんともいえない間をおいて、再び天井の一点から水が落ち、腐った畳に吸い込まれる。
男は次の一滴を待つ。
天井から畳に視線を移す男。
畳には染みができている。
男は次の一滴を手のひらで受けてみようと思い、染みの上に手のひらをかざす。
─ぽたっ。
くすぐったい感触を伴って、手のひらに落ちてきた液体をじっと見つめた男は、「なんかキレイだな」と、久しぶりに声をだす。
そして男は、この「一粒の水」を、集めてみたい衝動にかられる。

稽古風景より

【シアン】と聞くと、シアン化カリウム(青酸カリ)やシアン化ナトリウム(青酸ソーダ)などで知られる猛毒のシアン化合物が思い出されるが、マゼンタ(赤紫)やイエロー(黄色)と並ぶ色料の3原色のひとつで、カラー印刷のインク・トナーに使われる青緑色の名称でもある。虎馬鯨が劇作の発想を得たのは、後者の方だ。
「職場にプリンターがありまして、僕はインクカートリッジの青色が【シアン】というのを知らなくて、変わった言い方をするんだなと。まず言葉が面白いと思ったのと、青というよりは水色っぽい綺麗な色だな、と思ったのがそもそものきっかけですね」

そこから“水”のイメージが拡がり、以前から漠然と書きたいと思っていたアパートを舞台に書き始めたのだという。3つの部屋の住人たちが不可思議に絡み合い、〈穴〉〈忘れな草〉〈雨〉〈ロボット〉〈オニごっこ〉などを巡ってさまざまな事象が巻き起こる本作は、出演者全員に対してあて書きスタイルで書かれた脚本だ。これについては、
「その役者の普段のイメージで、例えば井村(昴)さんだったら、舞台の上でこんな感じでいたら面白いだろうな、とかその程度のことです。普段というか私生活というか、そんなものをちょっと虚構に置き換える感じ。あて書きしてみようと思ったのは『ライトフレア』の時からで、今まで書いてきたものの中では『同級生…』がわりと思い通りに書けたなというのがあったんで、それの応用です。似たような書き方はしてるんですけど、感触が違うというか。『同級生…』は最初から最後まできっちり「こういうことを書こう」と決めて書いてましたけど、今回は全部を把握しないまま感覚で書き始めたみたいな感じです」と。

稽古風景より

この脚本を受け取った演出の天野天街は、前の役のセリフの語尾と次の役のセリフの語頭を同じ音にして重ねて発語させたり、同じセリフのやりとりをリピートさせるなど、独自の演出方法で言葉や登場人物を立体化すべく、上演台本として整える作業を行ったというが、虎馬鯨は「僕はジャンジャンやってもらっていいと思います」と言い、ビジュアル的な表現についても一任しているという。

その点について天野に尋ねると、
「舞台美術の田岡(一遠)さんと何度も「ああでもない、こうでもない」って話したけど、出たり入ったりするのがひとつの扉しかないアパートの一室というビジュアルと、隙間がなくて閉じた空間だということは守りたい。第4の扉である客席側に何があるか、っていうことは置いておいて、3方向が完全に〈密室〉で〈閉じた空間である〉ということにこだわります。いわゆる出ハケの袖がない空間というのは、初めてですね」と答えた。

稽古風景より

また、〈密室〉という初の試みで仕掛けていきたい演出プランとしては、
「例えば、狭い部屋の中にいる人が、扉も開かずにどんどん減っていったら面白いですよね。《シュレーディンガーの猫》みたいに、隣にいるものがいるのかいないのか見るまでわからないはずなのに、わかっているのはなんで? とかね。それは穴があるから覗いてたっていうのもあったり、じゃあ穴がなかったらどういう状態になってるのか、とか。コバケイ(虎馬鯨の愛称)が書いたセリフの「思ったら叶う」とかキーポイントがいろいろあるんだけど、“思い込んだら出現する何か”とかね。それが閉じた空間だったら、“自分を自分で出現させる”みたいなイメージにもなるかもしれませんよね。そういうことができるだけ単純な出入り口もないようなところで行われていくと、何か見えてくるかもしれない」と語り、
「ビジュアル的に見えているのは部屋の中だけど、イメージってどんどん外に行くし、どこにでも行くから、そこは心の中かもしれないし宇宙の外なのかもしれない。だけど部屋の中という設定であるとするなら、外からの侵入っていうことが有効になってるくるんじゃないかな」とも。

虎馬鯨の脚本をベースに、天野式イメージの連鎖と因果律操作、〈密室〉という制約が加わり、王者舘公演に於いて“かつて見たことのなかった何か”が立ち現れてくるかもしれない今作。夏休みを利用して、各公演地で異なる出演者を楽しみに足を運んでみるのも。

出演者の一部。前列左から・小林夢二、岩本苑子、水柊 後列左から・る、井村

取材・文=望月勝美

公演情報
少年王者舘 第39回公演『シアンガーデン』

■作:虎馬鯨
■演出:天野天街
■出演:夕沈、小林夢二、る、岩本苑子、井村昴、篠田ヱイジ[名古屋公演のみ]、山本亜手子[名古屋・東京公演のみ]、水柊[兵庫公演のみ]、中村滎美子[東京公演のみ]、がんば(きのこともぐら)[兵庫公演のみ]

<名古屋公演>
■日時:2017年8月10日(木)19:30、11日(金)14:00・19:30、12日(土)14:00・19:30、13日(日)14:00
■会場:七ツ寺共同スタジオ(名古屋市中区大須2-27-20)
■料金:一般前売・予約3,000円、当日3,500円 学生前売・予約2,000円、当日2,500円 ※要学生証
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「大須観音」駅下車、2番出口から南東へ徒歩5分

<東京公演>
■日時:2017年8月18日(金)19:30、19日(土)14:00・19:30、20日(日)14:00・19:30、21日(月)14:00・19:30、22日(火)14:00
■会場:ザ・スズナリ(世田谷区北沢1-45-15)
■料金:一般前売・予約4,000円、当日4,500円 学生前売・予約3,000円、当日3,500円 ※要学生証
■アクセス:小田急小田原線・京王井の頭線「下北沢」駅下車、南口改札から徒歩約5分

<兵庫公演>
■日時:2017年8月26日(土)14:00・19:30、27日(日)14:00・19:30、28日(月)14:00
■会場:AI・HALL(伊丹市伊丹2-4-1)
■料金:一般前売・予約3,300円、当日3,800円 学生前売・予約2,300円、当日2,800円 ※要学生証
■アクセス:JR「伊丹」駅下車すぐ。または阪急「伊丹」駅下車、東へ徒歩約10分


■問い合わせ:少年王者舘 070-1624-5884 syounen@oujakan.jp
■公式サイト:http://www.oujakan.jp/

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