楽曲の魅力と1人の女性の前向きな生きざまが呼応する愛と友情のミュージカル『ビューティフル』上演中!
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世界中で愛され続ける数々の楽曲を生んだ、アメリカを代表するシンガーソングライター、キャロル・キングの半生を描いたブロードウェイミュージカル『ビューティフル』が、有楽町の帝国劇場で上演中だ(26日まで)。
『ビューティフル』は、「A NATURAL WOMAN」「YOU’VE GOT A FRIEND」等で世界的に知られ、絶大な人気を誇るアメリカのシンガーソングライター、キャロル・キングの波乱万丈な半生を、彼女自身の楽曲、更に良き友、良きライバルとして切磋琢磨したバリー・マン&シンシア・ワイルによる数々の名曲と共に描いたミュージカル。2013年に誕生し、ブロードウェイで幕を開けるやいなや大評判となり、2014年に演劇界最高峰のトニー賞主演女優賞、2015年にグラミー賞やイギリスのオリヴィエ賞等を受賞。現在もブロードウェイだけでなく、全米ツアーやロンドン公演など、各地でロングランを続け、多くの観客の支持を集めている。
今回の帝国劇場での本邦初演は、この作品の英語圏以外での初上演となる。ヒロインのキャロル・キングには、2009年に声優として史上初のNHK紅白歌合戦出場&アルバムオリコンチャートNO.1を獲得し、声優・歌手・ナレーターとしてマルチに活躍する水樹奈々と、デビュー曲『Jupiter』のミリオンヒット以降、歌手として輝かしい活躍を続け、2014年にはミュージカルのヒロイン役で初舞台に挑戦し話題を呼んだ平原綾香のWキャストという魅力的なキャスティング。また、共演に中川晃教、伊礼彼方、ソニン、武田真治、剣幸の豪華俳優陣が集結。音楽評論家の草分け的存在であり、多くの大ヒット曲の作詞・訳詞を手掛けてきた湯川れい子が訳詞を務めるという、強力な布陣での上演となった。
【STORY】
ニューヨークに住む16歳のキャロル・キング(水樹奈々/平原綾香)は、ソングライターになる夢を抱え、教師になるように勧める母親のジーニー(剣幸)を説得し、名プロデューサーのドニー・カーシュナー(武田真治)に曲を売り込み、作曲家への一歩を踏み出していた。だが、容易に新曲へのOKが出ず、思索に励む日々が続くキャロルの前に、同じカレッジに通うジェリー・ゴフィン(伊礼彼方)が現れる。劇作家を志しているジェリーは、戯曲の中に必要な歌の作曲をキャロルに依頼し、キャロルは自分の楽曲に歌詞をつけてくれるようジェリーに求め、意気投合した2人はたちまち恋に落ち、キャロルが作曲家、ジェリーが作詞家としてコンビを組んで楽曲制作に励む。ほどなくしてキャロルは妊娠。結婚した2人は更に必死で仕事と子育てに奮闘する。
同じ頃、2人はドニーがプロデュースする新進作曲家と作詞家のコンビ、バリー・マン(中川晃教)とシンシア・ワイル(ソニン)と良き友人となり、互いにしのぎを削り、ヒットチャートの首位を争うようになる。ライバルの出現と、ヒット曲を書き続けなければならないという焦燥感から、ジェリーは精神的に追い詰められるようになっていき、家庭を大事にしたいキャロルとの間には衝突が絶えず、芸術の為と言い放ち公然と浮気を繰り返すようになる。
なんとか2人の仲を修復しようとするキャロルだったが、ジェリーの精神状態は更に不安定になり、ついに結婚生活は破綻。28才で2人の子持ちのシングルマザーとなってしまうキャロルだったが、シンガー・ソング・ライターが台頭してきた時代の波と共に、はからずも自分の曲を自分で歌うことになる。それはキャロルの人生を、新たな門出へと切り拓く道となっていき……。
既成のヒット曲を使ったジュークボックス・ミュージカルは、ABBAの楽曲を使って世界的な大ヒットとなった『マンマ・ミーア!』の登場以来、ミュージカル界の一大ムーブメントとなり、数多くの作品が生み出されてきた。楽曲自体がすでに高い知名度を持っていることは、音楽が作品の価値を左右するミュージカルにとって、この上ない利点であり、この系譜の作品で、昨年上演された『プリシラ』の出演者の1人、陣内孝則の名言を借りれば「負けないケンカをしているミュージカル」に他ならないから、こぞって制作が行われたのも当然だったろう。
そんなムーブメントには大きく分けて、既成の楽曲を新たに創作した物語に当てはめて構成されるものと(前述の『マンマ・ミーア!』がその代表格)、楽曲を歌った歌手の伝記を本人の曲で紡いでいくスタイル(昨年の本邦初演が大ヒットとなった『ジャージー・ボーイズ』が金字塔)とがあり、この『ビューティフル』は、後者に属する、キャロル・キングの半生を彼女の楽曲で紡いだものだが、シンガーソングライターになるに至るキャロルの、作曲家であり、クリエイターだった時代が作品の大半部分を占めていることが、これまでのジュークボックス・ミュージカルとは大きく趣を異にするものになっていた。
と言うのも、この作品で非常に面白いのは、キャロル、ジェリー、バリー、シンシアというメインキャストが揃ってクリエイターであって、歌手ではないことだ。舞台に登場した時、彼らはまだ無名の「何かになろうと夢見ている」若者で、その目指す道に立ちはだかる困難、思いがけないハプニング、創作の苦悩などを常に抱えている。この夢を信じて生きていくことの難しさには、誰しもが必ずや共感できるだろうものがあるし、その共感があるからこそ、決して挫けないキャロルのポジティブさと、かけがえのない友の存在に、胸を熱くし、心震わすことができる。どんな苦しい時にも、必ずあなたの傍にいると歌ってくれる「YOU’VE GOT A FRIEND」、朝が来て笑顔を見せれば世界が美しく変わると高らかに唱える「Beautiful」、既成の楽曲が、このストーリーの中で息づく登場人物たちの気持ちに寄り添った時、舞台から放たれる感動には、楽曲が持つパワーを何倍にも増幅させる力があった。しみじみと、前を向いて生きてゆく勇気をもらえる見事な作品だ。
そんな『ビューティフル』な世界に生きる、出演者たちが更に舞台を熱くしている。
ヒロインキャロル・キングをWキャストで演じる水樹奈々は、ミュージカル初挑戦、初主演、初帝劇デビューという、プレッシャーがなかったはずはないだろう、大きなプロジェクトに懸命に対峙している。作品が16歳からのキャロルを描いていて、小柄な水樹がその少女時代にまずピッタリとはまる利点があったし、年齢を重ねるにつれて台詞の発声が絶妙に変化していくのは、さすがに声優界のクイーンならでは。数々のビッグナンバーも果敢にこなし、水樹奈々というパーソナリティに、キャロル・キングを引き付けている仕上がりなのが面白かった。
もう1人のキャロル・キングの平原綾香も、二度目のミュージカル挑戦というキャリアだが、自身が歌手であることをバックボーンに、やがて歌手となるキャロルの人生の変遷を、ソウルフルな歌唱力で見事に表現している。癒しの歌声で知られる常の平原とは、全く異なる迫力ある歌唱法が耳を奪い、いつしか舞台にいる平原がキャロルその人に見えてくる。「美人でもグラマラスでもないから歌手になるのは無理」と端から言い続けるキャロル役を、十分魅力的な平原が演じて尚、そういう役柄なのだなと納得させる演技力も盤石で、平原がキャロルに飛び込んだと言える演じぶりだった。
つまり、2人のキャロル役者が、全く異なるアプローチで作品の主演をそれぞれ十二分に務めているので、見比べる妙味の大きな、刺激的なWキャストとなったのが喜ばしい。少なくとも是非両キャロルの2バージョンを観て欲しい舞台だ。
そんな2人のキャロルの夫であり、作詞家であり、公私共にパートナーとなるジェリー・ゴフィンの伊礼彼方が、役柄に実によく合っている。まずキャロルが一目惚れをするに足る美丈夫ぶりに説得力があるし、ヒット曲を書き続けなければならないというプレッシャーに押しつぶされていく過程をきめ細かく演じていて、ジェリーの焦燥にも共感でき、決して悪役には見えなかったのが大きな利点だった。特に、「この曲で僕らはどこまでも行ける」と希望に満ちていた若き日々が輝いているからこそ、終幕キャロルの楽屋を訪ねてくるシーンがしみじみと生き、ここのジェリーの台詞は必聴。豊かな歌声も効果的だった。
そして、この2人を観る為だけにでも、もう1回観劇を増やしても良い!と思わせたのが、バリー・マンの中川晃教と、シンシア・ワイルのソニンのペア。元々大変贅沢なキャスティングだと思っていたが、キャロルとジェリーの物語であると同時に、バリーとシンシアの物語でもあるドラマを、絶妙に、もう言葉がないほど巧みに活写していて、次第にこの2人から目が離せなくなるほど。何しろ役柄の人物造形が双方、適度にカリカチュアライズされたアメリカンなものなので、1つ間違えると、日本人が演じることに面映ゆさを覚えかねないところを、共にこれ以上ない匙加減と押し引きで、パワフルかつ軽やかに演じていて素晴らしい。もっと聞きたい!と思わせる歌唱力も2人共言うまでもなく、日本版『ビューティフル』の最高殊勲ペアと言って過言ではない活躍で、作品を帝劇の大舞台に相応しいものに押し上げる力となっていた。
また、2組のヒット・メーカーを見出す名プロデューサー、ドニー・カーシュナーの武田真治は、ちょっと気障で、でも紳士で、派手な振る舞いの中に優しさがあるという、実に情のあるプロデューサー像を描いている。この時代のアメリカのプロデューサーがこんなに情に厚い人なんだ、と驚きも感じるが、それも含めてやはりこの舞台は「ビューティフル」。個性を活かした良い助演だった。
もう1人、キャロルの母ジーニーの剣幸は、自らの結婚生活の破綻から、娘に安全な道を歩ませたいと願っている、母親の情をドライな物言いの中にきちんと滲み出している上手さが光った。「ソングライターなんて夢みたいなことを言っていないで教師になりなさい」と、娘に説いていた冒頭をきっちりと見せているから、終幕のちゃっかりぶりが抜群に効いてくる。どこの国にも共通しているらしい「母親あるある」を印象づける好スパイスとなっていた。
そして、この舞台を特別なものにしているのが、アンサンブルメンバーの活躍だ。メインキャストがクリエイター役であるこの舞台では、彼らの書き下ろす楽曲を歌う「大スター役」をアンサンブルメンバーが担うことになる。だから、ピアノやギターだけの伴奏で、更に楽譜を片手に「こんな曲ができた」とクリエイター本人たちが紹介しあったあとで、名曲の数々をゴージャスにショーアップして披露するのは、アンサンブルの面々。ザ・ドリフターズ、シェレルズ、ライチャス・ブラザーズ、リトル・エヴァ、等々、大スターに扮したアンサンブルメンバーが、レベルの高い歌唱力とダンス力で、華やかな場面を次々にこなしていく姿は、日本のミュージカル界の成熟を如実に表わすものとして、大きな感動を生んでくれた。『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『君はいい人、チャーリー・ブラウン』等々、ミュージカルシーンの大きな役どころで活躍しているキャリアのある面々が、アンサンブルメンバーに多く名を連ねているのも納得で、これほどアンサンブルに働き場の多いミュージカルは、ちょっと他にないのではないか。その意味でも、非常に見応えのある舞台だった。
何より、ピアノを使った巧みな場面転換なども興味深く、帝国劇場の大舞台に、キャロル・キングのあくまでポジティブな、愛に溢れたメッセージが響き渡ったことを喜びたい舞台となっている。
初日を前に囲み取材も行われ、水樹奈々、平原綾香、中川晃教、伊礼彼方、ソニン、武田真治、剣幸が公演への抱負を語った。
【囲みインタビュー】
──初日を前にした現在の心境を。
水樹 ついにこの日がやってきたと、かなりの緊張と興奮と色々な思いでテンションが上がりまくっている状態です。私の人生初のミュージカルなので、この初日が本当に初舞台となります。初めてだからこそ出せる思い切りの良さや勢いで、全力投球でとにかく自分を信じて頑張りたいなと思っています。
平原 ついに帝国劇場生活が始まると思うとワクワクしますし、この舞台は初めてなのですごく興奮しています。帝国劇場に入ったときに圧倒されて、何かがいるなという感じでした。
伊礼 何?、何?いない、いない(笑)。
平原 うん? そう?だけど…(笑)
ソニン 良い意味ででしょう?
武田 エネルギーとしてね?
平原 そうなの。いい意味でのファントムみたいな。
武田 エネルギーじゃないじゃん(笑)。怪人か!(爆笑)。
平原 うん、劇場の神様がいる感じがして、まだお会いはしていないのですが…(笑)、そういうパワーを感じるすごく素晴らしいステージだなと思って、そのパワーを感じながらお稽古をしています。通しや、場当たりと慣れないことばかりですが、信頼のおける最高の仲間と一緒に頑張っていますので、この夏しっかりと、良い歌とお芝居をお届けしようと思っています。ぜひ皆さん来てください。
中川 キャロル・キングが生み出した名曲たちを、この物語の中でたくさん聴ける訳ですけれど、未来の妻になるシンシア・ワイルド…
ソニン ワイル!シンシア・ワイル!
中川 うん、シンシア・ワイル。ソニンちゃんはワイルド。
ソニン あぁ、あぁ(笑)。
中川 そのシンシア・ワイルと僕が演じるバリー・マンの2人が生み出していった名曲たちも、この物語の中にはたくさん溢れています。音楽、音楽、音楽、これがミュージカルのひとつの醍醐味かなと思うんですけれども、一方でこの物語は、作詞・作曲家といったクリエイターたちの、音楽が生まれるまでの苦悩、物語も描かれています。その両面を是非とも早くお客さまに感じて頂きたい、そんな思いでいっぱいです。
伊礼 僕はお2人のキャロルと対峙している時間が長く、2人共が全然違うキャロルなので、彼女たちが抱えている興奮、高揚に僕も鼓舞されてですね、激しく脈を打っています。今まで帝国劇場に、僕は実働20分までしか立ったことがないので。
全員 へ~!!
伊礼 初めて20分以上僕は、帝国劇場の舞台に立たせて頂けるので。
中川 計ったの?
伊礼 計ったことあります(笑)。
武田 ちなみに何の舞台で?
伊礼 『エリザベート』と『王家の紋章』で、実動で20分くらいの出番でしたが(笑)、今回は初めて2時間以上舞台に立たせて頂くので、意気込んでいます。よろしくお願いします。
ソニン この帝国劇場ではここ最近はミュージカルばかりで、ストレートプレイは久しぶりだと聞きました。私自身も、帝国劇場に立つ時は、ミュージカルとしての音楽がたくさんあって、歌い上げることの多い作品に出てきたもので、今ブロードウェイのスタッフと日本のスタッフとで、帝国劇場に来てくださるお客様にどういう風に観て頂けるのだろう?と試行錯誤しながら作り上げ、ドキドキワクワクしながら、私も稽古をしてきました。ですから、帝国劇場での新しいパフォーマンスを見られるんじゃないかなと思っているので、お客さまの反応がすごく楽しみです。この1ヵ月の舞台の中で、日本のお客様に愛されていくように、良い意味で作品もどんどん変化していくんじゃないかなと思っていますので、多くのお客様に観に来て頂ければと思っています。
武田 帝国劇場に立つというのは、ミュージカルや演劇を志す者にとって、最終目的地と言っていい位の場所で、聖地とも言われるところで、この夏1ヶ月間舞台に立たせて頂ける(一言一句に力を込めて)喜びと、興奮に、溢れております。
伊礼 そのトーン何?(爆笑)
武田 これがマジの私の話し方です(爆笑して調子を変え)本当におごそかに最終稽古に臨んでおります。トニー賞も獲ったこの作品、海外からのスタッフをお招きして、日々ブラッシュアップして参りました。1ヵ月間、キャロル・キングとジェリー・ゴフィン、バリー・マンとシンシア・ワイルのラブストーリーとあわせて、アメリカの音楽史、世界のポップス史を彩った楽曲と共にこの物語を楽しんで頂けると思います。 たくさんの方に来て頂けたらと思います。よろしくお願いします。
剣 今まで色々なミュージカルをやってきていますが、ミュージカルというのは、ミュージカルの為に書かれた曲でずっと構成されていて、場面のつながりなども、ものすごく考えられた曲が作られていると思うんです。でも今回はキャロル・キングが自分の人生にあわせて、その都度作っていった曲をまとめたら彼女の人生になったというところが、今までのミュージカルとは違うところですね。私はキャロルと同じ時代を生きた人間なんですが、あの時代はこうだったなと彷彿とさせるところもありますし、それがひとつの素晴らしい作品としてまとまっているのがすごいことだなと思います。キャロルの音楽をよくご存知の方は懐かしいと思うでしょうし、知らなかった方々もキャロル・キングってこういう人生を歩んだんだと分かって頂ける、楽しいミュージカルだと思います。そして今ここにいる皆さんが、すごく素敵に歌って、今の若さと本当のキャロル・キングを掛けあわせた魅力があります。またアンサンブルの方たちが本当に素晴らしいです。どこをとっても楽しめる作品ですので、是非いらしてください。
中川 素晴らしい!!(拍手)
──皆さんの役柄と見どころ、魅力を教えてください。
武田 それはたいしたことが言えないので私から(爆笑)。この中で唯一クリエーターじゃないのでえ(笑)。僕が演じるドニー・カーシュナーは、キャロル・キングを最初に見出した人ですね。ジェリー・ゴフィンとのコンビで名曲を世に送り出したプロデューサーになります。以上です。
平原 それだけじゃないでしょう?(笑)
武田 いや、だから先に言っとこうと(笑)。
伊礼 僕は、作詞家の役なんですが、最初は劇作家として生きていきたかった人物だったそうなのですが、キャロルと出会って、自分の言葉を彼女のメロディに乗せることによって、世界中の人たちに曲を送り出す訳なんですけれども。ミュージシャンやアーティスト、何かを創りだしていく人たちは、最初は創り出していけているんでしょうが、ある時壁にぶち当たった時に、自分と対峙して苦悩する一番わかりやすい人物です。
武田 キャロルを苦しめたりするよね?
伊礼 そうですね。でも自分を苦しめた結果キャロルも苦しめているんじゃないかな?と思うので、そこに翻弄されるキャロルたちは可哀そうだなと思いつつも、自分しか見えていない人物なんだろうと、僕は解釈しています。
平原 キャロル・キングは今でも第一線で活躍されている本当に私も尊敬しているミュージシャンで、彼女の一途さでしたり、素敵な笑顔だったり、彼女が創り出す音楽が本当に素晴らしくて、私も毎回尊敬しながらこの役に取り組んでいます。この役どころというのはキャロル・キングを見て頂ければわかる通り、とにかく人間性が素晴らしいです。そして音楽、その二つが秀でている人物だと思っています。ジェリー・ゴフィンという夫に惚れて…惚れてっていうとなんかすごいですけど…。
伊礼 いいじゃない!惚れてもいいじゃない!
平原 そう?そう?、うん、だから大好きになって、ジェリー・ゴフィンにもやっぱり一途になって、でも音楽にも一途で、そして子供か生まれたら子供にも一途で。誰に対しても一途に生きている存在なんですね。だからすごく演じているとパワーが必要になってくる役どころです。あともう1つ素晴らしいところは、すべてにおいて愛があるところだと思っています。どんなに傷つけられても、最後までその人を愛し続ける人だからこそ「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」という名曲が生まれたり、他にも様々な名曲が生まれたので、私にとってのキャロル・キングは「すべての人に愛を!」と言うのが実はテーマで、そんなすごく素敵な役だと思っています。
水樹 綾ちゃん(平原)が私の気持ちを代弁してくれたように、私も同じ気持ちです。彼女の魅力はどんな時にでも折れない、諦めない心だと思っています。ハートが強くないと彼女のような激動の人生で、自分自身をも裏切らずに進んでいくことはできないのではないかな?と思います。本当に彼女はどんな時でもまっすぐ、誰に対しても思いやりを持って接していて、深い愛に包まれた方なんだなと思っています。この作品は色々な方に観て頂きたいのですが、特に夢を持って頑張っている若い世代の方にも是非観て頂きたいなと思っています。なかなかうまくいかなくて、結果が出せなくて、やっぱり自分は無理なんだと諦めて逃げてしまう状況って起こりうると思うのですが、キャロルのどんなことがあっても信念を貫いていくという気持ちがあれば、夢に限らず、どんな状況、苦難にぶつかっても乗り越えていける、そんな気持ち、勇気が湧いてくる作品だと思うので、是非キャロル・キングから、皆さんへのメッセージを届けられたらいいなと思います。
中川 バリー・マンという役を演じるのですが、今皆さんのお話を聞きながら、僕も頭の中で整理していて、この物語の中によく出てくる言葉に「ヒット・メーカー」というのがあります。先ほどもお話しましたように、クリエーター同士が拮抗しあいながらその時代を創っていった、そこで生まれた名曲たちが散りばめられて、こんなにも素敵な物語が生まれている。この舞台は、50年代~70年代くらいまでを描いていますが、同時期を生きた日本のクリエイターの方たち、例えば中島みゆきさん、松任谷由実さん、山下達郎さん等々の音楽を聞いてきた方たちが、お客様の中にたくさんいらっしゃるのではないか?という期待があります。お客様の側から見たら今尚記憶に残る懐かしい名曲たちという側面と、我々演じる側からは、なぜその名曲が生まれたか、何故その曲が必要とされたのか?までを演じるという演じ甲斐があります。普段お客様が観ることのない、音楽が生まれるまで、という裏の部分をクリエーターとしての役作りの中で、ヒットメーカーという言葉を捉えて頂けると、この作品がより一層わかりやすく届くのではないかと思います。もう1つは、カップルになるんですね。キャルロからしたら、(伊礼)彼方さんが演じる、作曲家と作詞家のカップル。僕たち(ソニンを示して)2人もカップル。更に剣さんが演じるキャロルのお母さんにも旦那さんがいたのだけれども別れてしまっている。(武田)真治さんの役だけは、唯一その辺があまり描かれていませんけれども。
武田 例外です(笑)。
中川 でも私たち音楽を生み出す、ヒット・メーカーを目指す人間にとっては、ドニー・カーシュナーというプロデューサーがいなければ世に出ることはできなかったという意味では、別の形でのカップルというものがそこにあるのかもしれません。そう考えた時に、夫婦の在り方だったり、何が幸せなのかはわからないけれども、先ほどから出ている「愛」というものがこの作品の中には感じられます。そして最後に、これはすごく個人的な思いなのですけれど、自分がバリー・マンを演じていく中で、50年代の音楽を勉強していて、キャロル・キングたちが影響を受けた音楽が前半に流れるんです。例えば「リトル・ダーリン」という曲が流ますが、この曲は日本では先日亡くなられた平尾昌晃さんがカヴァーされているんですね。50年代、60年代、世界と日本がある意味で近かった、この芸能の仕事を私たちの先輩方が作ってきてくださった時代があって、今の私たちがいるということを力に変えて、この舞台を届けていきたいなと思っています。
武田 素晴らしい!
ソニン 質問なんでしたっけ?あまりにも聞き入ってしまって忘れちゃった(笑)。
武田 役どころの魅力ね。
ソニン そうですよね(笑)。私はシンシア・ワイルという作詞家の役で、彼女は元々ダンスや女優になる為の勉強をしていて、ミュージカルの曲を作るのが自分の中では夢だったりする役です。この『ビューティフル』という作品は、キャロル・キングが主人公であることもあって、「女性」といのが1つのテーマにもなっていて、あの時代に女性が曲を書くという衝撃的なもの、キャロルも自分は望んでいないけれども、すごく進んだ先駆者だったりもしています。シンシア・ワイル自身も考え方がとても先鋭的で、バリー・マンとのカップルも、シンシア・ワイルが先にイメージを思いついて引っ張っていく。女性がリードするというのが、今は当たり前にもなっていると思いますが、それが珍しかった時代なので、それを現す役割りも担っていると思います。先ほども言っていましたが、カップルで作品を創る。シンガーソングライターも出ていますが、この時代の中でカップルで作品を創る面白さ、カップルでの化学反応もありますが、カップル対カップルというライバルとして、互いに刺激しあって、高めあっていく感じも出ているので、キャロル・キング&ジェリー・ゴフィンのカップルと、バリー・マン&シンシア・ワイルのカップルとの対比も、すごく作品のスパイスになっていると思います。見て頂いてもわかるように、ファッションもかなり違っていて、あ、でも今日のキャロルは、1番のドレスアップの衣装を着ていますが、ファッションの違いや、流れている空気の違いも出ています。また、実際にキャロルとジェリーは別れてしまうのですが、バリーとシンシアは今現在も続いているカップルなんです。そういう対比としての役割を担っていると思いますし、ご覧になって楽しめるところだと思います。
剣 キャロルの母親なのですが、常にキャロルの父親について文句を言っていて「男なんて」とずっと言っているのを聞いてキャロルは育つので、母親のようにはなりたくないという、反面教師だったんですね。それでも常に、キャロルには自分がした苦労をさせたくない、普通に幸せになって欲しいと願っている、一番愛情深い母親像が、ちゃらんぽらんな感じの中で、どこかに見えれば良いなと思っています。
──では主演のお2人から改めて意気込みを。
水樹 初めてのミュージカル挑戦で、しかも主演で、この伝統ある帝国劇場に立たせて頂くなんて、もうこの上ない幸せでいっぱいです。初めてということで最初は、何がわからないのかもわからない、という状態から右も左もわからない中に飛び込んだんですけれども、カンパニーの皆さんから温かい手を差し伸べて頂いて、なんとかこの舞台にしっかり主役として上がれるというところまでやって参りました。この稽古期間を信じて、カンパニー一丸となって最高の舞台をお届けしたいと思っています。日本初演ということで、皆さん『ビューティフル』ってどんな作品なんだろうと思っておられて、様子見をされているお客様も中にはおられるかも知れませんが、とにかく絶対楽しい、たくさんの感動が詰まった作品なので、来て頂けたらその時間は最高のものになると私は信じています。皆さん是非劇場にいらしてください。私たち全力でお迎えします。お待ちしています!
平原 このミュージカルは本当に最高です。実際に私も自分の人生を精一杯生きていて、そして今、キャロル・キングの人生を生きている。このカンパニーの皆も、それぞれの人生を生きながらこの役に没頭している。それが周りで見ていると本当にカッコよくて、皆の人間性や歌声に惹かれて帝国劇場生活を送っています。このミュージカルを観に来てくださったら、終わった後は必ず「ビューティフル」な気持ちで帰って頂ける素晴らしい作品だと思いますので、是非いらして頂きたいです。この夏はこのカンパニーの、ここにいるメンバーとアンサンブルの皆が仲間だと思ってくださったら、皆さんに楽しい気持ちになって頂けると思います。きっと帝国劇場にいるファントムも喜んでくれると思いますので、しっかり頑張りたいと思います。是非劇場でお待ちしております。待ってます!
全員 待ってま~す!!
【取材・文・撮影/橘涼香 舞台写真提供/東宝】
■会場:帝国劇場
■日程:2017年7月26日(水)~8月26日(土)
水樹奈々/平原綾香(Wキャスト)
中川晃教 伊礼彼方 ソニン 武田真治 剣幸
伊藤広祥 神田恭兵 長谷川開 山田元 山野靖博
エリアンナ 菅谷真理恵 高城奈月子 MARIA-E ラリソン彩華 綿引さやか
■音楽・歌詞:ジェリー・ゴフィン&キャロル・キング バリー・マン&シンシア・ワイル
■演出:マーク・ブルーニ
■振付:ジョシュ・プリンス
■オリジナルセットデザイン:デレク:マクレーン
■オリジナル衣裳デザイン:アレホ・ヴィエッティ
■オリジナル照明デザイン:ピーター・カックゾロースキー
■オーケストレーション・ヴォーカル&音楽アレンジ:スティーヴ・シドウェル
■演出リステージ:シェリー・バトラー
■振付リステージ:ジョイス・チッティツク
■音楽スーパーヴァイザー:ジェイソン・ハウランド