本折最強さとし×善雄善雄が語る、ゴジゲンの新作公演『くれなずめ』

2017.9.21
インタビュー
舞台

善雄善雄(左)と本折最強さとし


若手映画監督としても注目を集める松居大悟が主宰する劇団、ゴジゲンの新作公演『くれなずめ』が、2017年10月~11月に、下北沢の駅前劇場など3箇所で上演される。来年で結成10周年を迎えるゴジゲン。劇団の魅力や新作公演について、劇団員の堀善雄改め善雄善雄(よしお・ぜんゆう)と本折最強さとしの二人に話を聞いた。

本折最強さとし(左)と善雄善雄

−−新作公演は『くれなずめ』。どんなお話なのでしょう?

善雄 まだ稽古が始まっていないので詳しくは僕らも分からないのですが(笑)、「結婚式」らしいです。

本折 タイトルの『くれなずめ』は「暮れなずむ」から来ているそうです。より能動的な命令形になって『くれなずめ』と。僕も最初はよく分からなかった(笑)。

−−全員劇団員でやるのは、意外にも初めてだそうですね?更に東京、京都、北九州と3都市ツアーも初めてだそうで。

本折 そうですね、名目上は(笑)。前回『劇をしている』(2016年)、前々回『ごきげんさマイポレンド』(14年)も全く同じメンバーでやっているんですが、それが劇団員になったということで、記念すべき第1回です。ちなみに、僕が一番最初にゴジゲンに参加した『たぶん犯人は父』(09年)の時には東京と福岡公演がありました。それ以降はやっていないと思うのでツアー自体が久しぶりですね。3都市となると初めてです。

善雄 そうそう。京都で行われたヨーロッパ企画さんの『ハイタウン』という企画にゴジゲンの6人もお邪魔したことはあるんですが。

本折 あれは楽しかったなぁ。修学旅行みたいだった。毎日同じ部屋で雑魚寝して、「誰が可愛い」だの「誰が誰を好きになった」のだの……。松居大悟もこの間言っていたのですが、「永遠に続く放課後」みたいなのをずっとやっているんです。

善雄 うん、同じ言葉を前回の『劇をしている』の時も使っていましたね。

本折 僕らは学生を卒業してだいぶ経つけれども、結局放課後のノリみたいなのはずっと続いていくのは、一緒だなぁと思います。

善雄 早く家に帰ればいいのに、ずっとたむろしている感じ。

善雄善雄

−−ゴジゲンの劇団員になられたのは?

善雄 はい。つい最近、劇団員になりました。今年の7月7日です。まだ1か月ちょっとですね。きっかけは、僕が脚本を書いて、(ゴジゲンの)目次立樹演出のゴジゲン番外編『なんかすごいSF的なやつ』という作品をやっていたのですが、そのアフターイベントで松居が来てくれたんです。そして、その場で急に相撲を始めて、僕が負けたんですね。「何したらいい?」と聞いたら「劇団員になったらいいんじゃないかな」と言われたんです(笑)。ここ2、3年ずっと同じ面子で芝居をやっていたので、名前や所属は違うけれども、まぁ劇団みたいなものだなというのは思っていました。長年付き合っているカップルが「いつプロポーズされるんだろう?」と思うぐらいのノリ。プロポーズをされなきゃされないでいいなと思っていました。劇団員になろうがならまいが、どちらでもよかったです。関係性は変わらないなと思っていたので。

本折 僕、今まで劇団2つ辞めているんですよ。「もう所属するのはいいや、どうせ辞めちゃうし!」と思っていたんです。このゴジゲンという同じメンバーでやってきましたけど、なんとなく劇団化すると嫌だなぁと思っていたんです(笑)。所属があると僕、辞めちゃうから(笑)。一緒になるということは別れを含んでいるわけじゃないですか。永遠に一緒なんてないので。括りがなければ別れもない。……あれ、なんでオファーを受けてしまったんだろう?(笑)

善雄 あなたはオファーを受けないかと、僕は思ってた(笑)。

本折 松居としては「こいつはどう思うか分からないな」と思ったんでしょうね。善雄のようなシチュエーションじゃなく、サシで飲んで、その場で劇団員にならないかという話をされました。断られるかもしれないと思ったのかな。でも、自分としても「入るということは辞めるということだからな」とは伝えてあります。僕にとって劇団員になるということは……形かな。籍入れました、判子を押しました、みたいな感じです。法的に拘束力のない形のね(笑)。

本折最強さとし


−−本折さんはシアターコクーンの『プレイヤー』に出演されました。小劇場から始まってシアターコクーンですが、ホームはどちらですか?

本折 コクーンがホームって言いたいところですけどね(笑)。ある意味僕の中ではいきなり飛躍しているんです。急にポーンとエベレストに飛ばされてあわあわしているような、早く下山したいような感じです。高尾山ぐらいにいたいなぁと思っているぐらいなんです(笑)。ホームで言えば、圧倒的に小劇場、ゴジゲン、です。ゴジゲンは、家族ではないんですけど、演劇という世界にいる中では綱渡りのセーフティネットみたいな存在です。今、すごく高い所を歩かせてもらっているけど、セーフティネットがあるから高い所も挑戦できるような感じでしょうか。セーフティネットがなかったら死んでるでしょうね。まぁずっとネットに寝っ転がっているわけにもいかないんですけど。あってくれているという感じですね。

善雄 セーフティネットがゴムで柔らかすぎて結局床に叩きつけられる可能性はあるけど(笑)。

本折 それは油断がなりませんね。

−−キャパもお客さんとの距離も違うとは思いますが、俳優として感じる「違い」は何かありますか?

本折 そうですね。緊張感の度合いでしょうか。稽古場での最初の緊張感と、実際に劇場に立った時の緊張感と……周りの環境が圧倒的に違いますよね。ゴジゲンは……緊張しないですからね(笑)。

善雄 うん、しない(笑)。

本折 前回か前々回か、開演の10秒前ぐらいまで「出たくない!行きたくない!」と言って、楽屋で駄々をこねていたんですよ。ゴジゲンの前回、前々回が、自分たちの人生を切り取ってやっていた作品だったので、自分自身をさらけ出さなきゃいけなかったんです。それをやり続けるの嫌じゃないですか(笑)。

善雄 役を背負うという言い訳ができなかったのでね。

本折 そう。役が否定されたら自分も否定されちゃう。そういう意味では、本番迎えるまで、ゴジゲンでもガチガチ緊張していました。

−−そういう意味だと、今回の『くれなずめ』は久しぶりの物語だそうですね。

善雄 らしいです。

本折 らしいです。……前回も物語って言っていましたけどね(笑)、でもさすがにもうないでしょう。切り貼りできる僕らの人生がなくなっちゃう(笑)。

善雄善雄

−−主宰の松居大悟さんの印象は? お二人にとってどんな存在ですか?

本折 変わったってことで言えば、売れちゃいましたね。1回ゴジゲンが活動休止する前と後では明らかに彼は変わっているんです。彼は演劇が嫌になって辞めているのでね。今は自分が演出を押し付けることはなくて、全員で何しようか?どうしようか?と稽古場で鍋をつつきながらやっています。それで出来上がっちゃうからすごいんだけどね(笑)。普通それじゃできないでしょう!?と思うんですが(笑)。一方、僕が初めてゴジゲンに参加した2009年ぐらいの時、ゴジゲンは松居自身のコンプレックスをテーマにやっていた。僕はそれからゴジゲンにずっと出ているわけじゃないので、あくまで印象ですけど、活動休止が近づくにつれ、「ネタもないけど、作らなきゃ」と無理やりやっていた感じがしました。作り方という面では、変わってきたと思うんですけど、普段の松居に対してはそんなに変化は感じませんね(笑)。


善雄 うん、懐は広がっているなという印象です。演出やったり、脚本書いたりしていると、自分の頭の中の世界を押し付けたくなるのが一般的だと思うんです。僕も昔「ザ・プレイボーイズ」という劇団をやっていたときは、そうなっちゃってました。松居の場合、活動休止する前は「セリフをこう言ってくれ」という要望もあった気がするんですが、だんだん言わなくなってきて、今は「ありのまま出てこい」というスタイルですね。全部受け入れてくれる。例えば、僕に対して「お前は気持ち悪い」と、ゴジゲンの東迎がサラリと言ったりするんです。僕としては、その状況をそのまま舞台にあげたらお客さんに引かれちゃうんじゃないかなと思って、なるべく大丈夫なようにしたいと思うのですが、松居はそのまま台本にして、そのままやれって言う。なんというか、僕らのありのままの部分を武器に変えて使おうとするんです。

−−さらけ出す稽古場ということで、緊張感があるのでは?

本折 うーん、全部さらけ出しているので、逆に緊張感がないのかなと思う。分かり合っているかは分からないけれど、出すだけ出しているんで。どう思われるんだろう?と悩むことはないですよね。他の稽古場に行くと、その演出家のことがよく分からないから、こういうことしたらダメかなぁと思うことがあるんですけど。

善雄 ありますね。どう思われたい、格好良く見せたいとか全然消えてきている。

本折 それね。好き放題やってやろうみたいな。

−−なるほど。そこが一つの魅力に繋がっているかもしれないですね。

本折 そうですね。そうだといいです。家族よりもさらけ出しているもんな。もう母親に股間とか見せられないもん。恥ずかしくて。でもゴジゲンなら見せられる。

善雄 それはまた意味が違うでしょ(笑)。

本折 違うか。でもまぁ家族よりもさらけ出している部分は大きいと思います。

−−善雄さんと本折さんは共演されるのは前回の『劇をしている』以来ですか。

本折 そうですね。復活前だったら『チェリーボーイ・ゴットガール』(09年)ですね。

−−そうなんですね。私も大学生の頃拝見しました! 私にとってのゴジゲン観劇デビューですね。

善雄 お〜!

本折 あの名作を(笑)。

善雄善雄

−−お互いの印象を教えてください。

本折 プライベートだと一番会うんですよ。家も近いし、飲みに誘いやすいんです(笑)。飲んでいて僕が善雄に対して思うのは、なんでこいつはモテないのかということ。僕はずっと考えているんです。考えてあげているんですよ、勝手に。

善雄 おおお(笑)。

本折 答えは出ないんですけどね。いや、でもすごく善雄はいい奴なんです。王様の称号を持っているんですよ。料理が上手なので「料理王」とか、運転してくれるので「移動王」とか、カメラ機材で撮影してくれるので「撮影王」とか。こんなにスペックが高いのに、なんでモテないんだろうって。これ、僕の悩みなんですよ。

善雄 最強さんはモテますからねぇ。

本折 そういっている僕も彼女いないんですけど(笑)。飲み屋で「最近どうなの?」と聞いて、善雄に起こった出来事を分析するんです。何がダメだったのか。

善雄 教科書通りにやっているつもりなんですけど……。

本折 結果は明らかに出ているのに、原因が突き止められないんです。まさに量子力学の世界なんです。原因が突き止められない!(笑)

善雄 うるせえな(笑)。

本折 いやぁ、研究しがいがありますよ。

善雄 アドバイスが的確かは分かりませんが、最強さんにはよく相談はさせてもらっています。ゴジゲンで一番年上で34歳なので、みんな頼りにしている。トークショーをやっていても、困ったらこの人がいればなんとかなると思っています。

本折 僕、勢いがあるからね!(笑)

本折最強さとし

−−俳優としてはお互いをどう見てらっしゃいますか?

本折 俳優としては……変なんですよ。善雄って。こないだの番外公演も、僕は参加できず、観客として見に行ったんですけど、変なんですよ。お芝居自体、すごい上手いわけじゃないんです。何でも演じられるわけじゃない。そこにいるだけで、善雄は善雄なんです。なんだろうな...見てて気持ち悪いんですよ、いい意味でね(笑)。見てて気持ち悪いなぁと思うんですけど、それは注目はされるわけじゃないですか。松居も言っているんですけど、舞台上にいちゃいけない存在なんじゃないかっていう(笑)。そういう俳優です。

善雄 え、松居は僕のことを舞台に立っちゃいけない俳優って言っているんですか?

本折 言っています。

善雄 もともと僕が出ている舞台を松居が見にきて、終演後に「次出てくれませんか」ってスカウトされている側なんですけど……。

本折 まぁそれも魅力なんだよ。

善雄 怖いわ、本当に。仕事なくなるわ!(笑)

本折 そういう人間を使いたい人いるでしょ。やれるものとやれないものがあるけど、やれるものに立ったらすごい武器だよ。でもやれないものはやらないでください(笑)。

善雄 最強さんは何でもできるなと思っています。駅前劇場でも、スズナリでも、コクーンでも、笑いもとるし、動けるし。松居が監督する映画の現場に、声をかけてもらって行ったりするんですけど、最強さんは行動力がすごいんですよ。それやっちゃう? 下手したらNG出るぞっていうことも、ばんばんやっていくんですよ。

本折 松居の現場だからできるんですよ。カメラマンさんには怒られます。

善雄 そういう意味で、やっぱりすごい俳優だなとは思っています。

本折 自分なんてまだまだです。世界は広いですよ。

−−今回は駅前劇場での上演です。

本折 僕は一番好き。やりやすい。サイズ感が合っている。

善雄 前々回の『ごきげんさマイポレンド』が駅前劇場で、前回の『劇をしている』がOFF・OFFシアター。どちらも好きな劇場ですが、もっと広いところでやったらどうなのかな、やってみたいなという気持ちはあります。

本折 俺は駅前でも完全にコクーンサイズでやるからね。

善雄 え、うるさくない?(笑)

本折 2階席を意識してやる(笑)。うるせぇなと思って欲しい。コクーン帰りがありありと見えて、こいつやばいなと思われたい。感化されてきちゃったんですね、みたいな(笑)。

本折最強さとし

−−最後に読者の皆さまに一言お願いします。

善雄 バイトで結婚式場に勤めていたことがありまして、ありとあらゆる方の結婚披露宴を見てきました。その時に思ったのは、結婚式は、それまでのお二人が生きてきた人生の縮図なのかなって思って。その二人が何に時間を使ってきたか。例えば、印象的だったのは、ヨサコイで出会ったお二人がいたんです。会社終わりにヨサコイサークルにずっと通ってらっしゃって出会われたと。その披露宴では仲間がずっとヨサコイを踊ってくれてて。あくまで一例ですけど、学生時代や社会人になってから、何に時間を使ったのか、何に生きてきたのかというのが表れるんだなぁと思いました。だから松居が結婚式の話にしようと思うと言った時に、あぁ、ゴジゲンと合っているかもなぁって思ったんです。結婚式というのは、人生の節目でもあるし、全員劇団員になったという点ではゴジゲンも節目ですから。気合を入れ直して、やりたいなと思っています。

本折 まずは絶対に物語を書かせます。それは約束しましょう。物語を求めている人も、きっといるはずなんで。ゴジゲンは今まで物語をやって、それからドキュメンタリーになって、物語を見たい人は絶対いると思う。俺もやりたいので、完成させます。あとは、めっちゃ芝居を見ている人に見て欲しいです。それであえて、ゴジゲンが劇団化してどうなったかを判断して欲しい。前回、前々回は松居としてもごまかしたと僕は思っています。演劇と真正面とぶつからずに行っているんで、今回は真正面から行きますから。僕らは若手かどうか分からないけれど、今、ドカンと来る劇団がないじゃないですか。そこにゴジゲンきたなと思って欲しい。松居はそう思っていないかもしれないけど(笑)、俺はそれぐらいに思っています。次の大人計画や劇団☆新感線だな、時代を作るのはゴジゲンだな、と。それでゴジゲンでコクーンに戻る!(笑)みなさん、よろしくお願いします!

取材・文=五月女菜穂  撮影=安藤光夫

公演情報
ゴジゲン第14回公演『くれなずめ』

■作・演出:松居大悟
■出演:奥村徹也、東迎
昂史郎、松居大悟、目次立樹、本折最強さとし、善雄善雄

【東京公演】
日時:2017年10月19日〜29日
会場:下北沢駅前劇場

【京都公演】
日時:2017年11月4日,5日
会場:KAIKA(京都市下京区岩戸山町440 江村ビル2F)

【北九州公演】
日時:2017年11月11日,12日
会場:北九州芸術劇場小劇場

■公式サイト:http://www.5-jigen.com/​