ロックとムービーの甘い関係
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ロックとムービーの甘い関係~劇場で観るロック~
昔から、音楽と映画の関係は深く、ライブを収めた作品やドキュメンタリーなど数多くの映画が生み出されている。
『タクシー・ドライバー』を始めとする多くの作品で有名なマーティン・スコセッシは、ザ・バンド(The Band)のラストライブを収めた『Last Waltz』を撮ったり、『羊たちの沈黙』でアカデミー監督賞を得たジョナサン・デミがトーキング・ヘッズ(Talking Heads)の実験的なライブを収録した『Stop Making Sence』を監督するなど、音楽史のみならず映画史に残る名作も多い。
そんな音楽と映画の蜜月を感じられる作品がこの秋に相次いで公開されるので、その一部を紹介しよう。
『Roger Waters The Wall』
まずは、一夜限りの全世界同時公開という一大イベントが差し迫っている映画『Roger Waters The Wall』。
この映画は、元ピンク・フロイドのリーダーであるロジャー・ウォーターズが、ピンク・フロイドの名盤『The Wall』を完全再現したライブツアーの模様を収めたもので、2015年9月29日(火)に世界同時公開となる。
日本での公開予定の劇場は、イオンシネマ板橋(東京)、イオンシネマ港北ニュータウン(神奈川)、イオンシネマ京都桂川(京都)、イオンシネマ茨木(大阪)の4か所で、
ア ルバム『The Wall』は、ピンク・フロイドの11枚目のアルバムとして79年11月30日に発表された2枚組全26曲のコンセプトアルバム。
アルバムの発表当時には、アルバム を曲順通りに演奏するという完全再現のライブが行われたが、その内容は演奏が進むと同時にバンドとオーディエンスの間には実際の壁が築かれて行くという非常にコンセプチュアルなものであった。ライブ中盤では壁によってオーディエンスの視界は完全に遮断され、最後にはその巨大な壁が崩壊するという 演出は大きな話題となった、まさに伝説のライブ。
ロジャー・ウォーターズは、ソロとしてこの 『The Wall』の再演に着手し、2010年に北米、2011年にヨーロッパ、2012年に再び北米、2013年には欧米の野外スタジアムで公演するという巨大 プロジェクトを敢行。その際に各地で映像収録が行われていたようで(筆者が観た2011年のアテネ公演も収録が行われていた)、足掛け4年に渡る映像の収録からこの映画は完成した。
この映画『Roger Waters The Wall』は2014年9月6日にトロント国際映画祭でプレミア上映されており、多くのプレスや批評家から好意的に受け入れられているが、今のところ伝わってくる情報によると単なるライブ映像のみの映画ではなく、第二次世界大戦で亡くなった父親の墓や、戦死したイタリアの戦場を訪れ、ロジャー自身の歴史も掘り下げていくドキュメンタリーとして仕上がっている。
2010 年から始まった『Roger Waters The Wall』という巨大プロジェクトは映画公開で一つの区切りとなるが、この深遠な物語を持つアルバム『The Wall』は79年の発表以来、いまだに世界中のオーディエンスを魅了し続けているという事実には驚かざるを得ない。
映画『Roger Waters The Wall』オフィシャルサイト
『Heart Like A Hand Grenade』
続いては、グリーン・デイ(Green Day)のドキュメンタリー映画『Heart Like A Hand Grenade』。
この作品は2004年に発表された、アルバム『American Idiot』のレコーディングに密着したドキュメンタリー。『American Idiot』は当時のイラク戦争やブッシュ政権に対する怒りをロックオペラ化した野心作で、大ヒットを記録すると共にバンドに2回目のグラミーをもたらした名盤中の名盤で、ミュージカルとしてブロードウェイで上演されたこともある。
グリーン・デイがアルバム制作時のスタジオの様子を公開するのはこの映画が初めてで、本作の監督であるジョン・ローカーは突然バンドサイドから「レコーディングでおこること全てを記録に残してほしい」との連絡を受けて、そのまま9か月間にわたる密着を敢行。この間に、スタジオ風景はもちろんのこと、メンバー間の会話や、アルバム完成後のライブまでも撮影が許されたという、レアな映像で綴られている。
本作は、10月15日より公開される予定となっているが、残念ながら日本での公開は未定。
映画『Heart Like A Hand Grenade』オフィシャルサイト
『The Reflektor Tapes』
次は、カナダから世界を席巻し、昨年のフジロックでのヘッドライナーの雄姿も記憶に新しい、アーケイド・ファイア(Arcade Fire)のドキュメンタリー映画『The Reflektor Tapes』。
この作品は、グラミーも獲得した4作目のアルバム『Reflektor』のワールドツアーに密着したライブ&ドキュメンタリー映画で、フライング・ロータスの作品でが2013年のサンダンス映画祭において審査員特別賞に輝いたカーリール・ジョセフが監督を務めている。
単なるライブ映像ではなく、世界中を回る過程で撮影された印象的なシーンを多く含む、ロードムービーと言ってもいいこの作品は、9月23日に劇場公開される予定になっているが、これも残念ながら日本での公開は未定だ。
『DENKI GROOVE THE MOVIE? 〜石野卓球とピエール瀧〜』
続いては、日本が誇る電気グルーヴの初 のドキュメンタリー映画『DENKI GROOVE THE MOVIE? 〜石野卓球とピエール瀧〜』。
これは、昨年結成25周年を迎えた電気グルーヴの結成から現在までを、貴重な映像と数多くの関係者の証言をもとに描きだす、初のドキュメンタリー映画。
元メンバーの砂原良徳を始め、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、山口一郎(サカナクション)、Bose(スチャダラパー)などの証言や、結成当初からの映像で綴られたこの作品は、12月26日(土)から2週間限定で上映される予定。ちなみに公開日は石野卓球の誕生日。
『DENKI GROOVE THE MOVIE? 〜石野卓球とピエール瀧〜』オフィシャルサイト
『Amy』
最後は、この夏に公開されて大いに話題となったエイミー・ワインハウス(Amy Winehouse)のドキュメンタリー映画『Amy』。
これは、彗星のごとく現れ、グラミー賞を獲得するまでのスターダムにのし上がった彼女が、死に至るまでの半生を追ったドキュメンタリー作品。数々のスキャンダラスな話題で騒がれながら、困惑するエイミーの言葉と表情が印象的だ。
エイミーは奇しくも27歳という、多くの伝説的なミュージシャン(カート・コバーン、ジャニス・ジョップリン、ジム・モリソン、ジミ・ヘンドリックスなど)が亡くなっている年齢でこの世を去った。
この作品も残念ながら日本での公開はなかったが、11月にはDVDの映像商品としての発売が予定されている。
このように、魅力的な作品の公開が続く音楽映画ではあるが、音楽にとって映画は、スクリーンによる画のインパクトや、サラウンドシステムによる音のインパクトが大きく、非常に親和性が高いものと言っていいだろう。その為か、ここ日本でも今年は多くの音楽映画が上映されており、小さなブームを形成しているとも言える。
今回は、劇場上映作品を紹介したが、これ以外にも、DVD発売をメインにしたものや、ネット配信のために創られる独占作品など、発表されるチャンネルが増えており、それに伴い作品数も増加傾向にある。
映画以外のチャンネルで発表される作品については、次回以降に紹介したい。