佐野瑞樹×味方良介×猪塚健太「演劇の楽しさを五感でヒリヒリと感じて」舞台『ウエアハウス』インタビュー
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味方良介、猪塚健太
2017年10月8日(日)から開幕した舞台『ウエアハウス~Small Room~』。客席最大72席という超濃密な空間をあえて選んだのは、この作品が持つ閉塞感や不安感を高めるためだろうか。出演者の佐野瑞樹、味方良介、猪塚健太の3名にインタビューをしたのは、稽古スタート2日目。「演劇が好き」「妥協したくない」…そんな強い思いが全員の言葉の端々に感じられる。きっとこれからの稽古場では俳優3名と演出家・鈴木勝秀の熱いぶつかり合いがあるのだろうと確信するインタビューとなった。
取り壊しが決まった教会の地下にある"憩いの部屋"で、地域サークル「暗唱の会」のメンバーが活動を行っている。活動内容は、各自がそれぞれ好きな詩や小説、戯曲などを暗記して、メンバーの前で暗唱するというもの。メンバーのエノモト(佐野)が詩の暗唱を一人で練習していると、そこへ若い男シタラ(味方)が現れる。質問ばかりしてくるシタラに戸惑いながらも、いつしかエノモトはシタラのペースに巻き込まれていく──
■「頑張らなきゃいかんぞ」と思った(佐野)
――『ウエアハウス』の上演は演出・鈴木勝秀さんのライフワークですね。
猪塚 原作の『動物園物語』、読みました。『ウエアハウス』と設定も登場人物も違うけれど重なるところもあって、この作品を軸にスズカツ(鈴木勝秀)さんが毎回アレンジをしてずっと上演してきたという歴史を感じました。なんでもないようで意味がありそうな会話や、クセになりそうな面白いやりとりが後半に進むにつれて繰り広げられるので、飽きることなくすぐに読んじゃいました。芝居となると、さらに原作と変わってきて、すごく面白い作品になるんじゃないかなと思います。
味方 遠回しな言い方や、言葉遊びのようなセリフが面白くて、ついつい先が気になっちゃう。たぶん原作ではなくて、スズカツさんが書いた言葉の面白さですね。台本を文字で追っても面白いし、セリフとして音で聞いても楽しめるという不思議な作品。3人芝居だからというだけでなく、それにしても言葉数がとても多くて、覚えるのが大変ですね。
佐野 ストーリーが難しいということでなく、演じるにあたって役者として転機になるような骨太な脚本だった。これはちょっと頑張らなきゃいかんぞ、と思いましたね。この作品をきっちり演じることができたなら、役者として非常にプラスになるというやりがいを感じます。やりきらなきゃダメだ、中途半端なことをしてはいけないという、覚悟みたいなものができました。
味方良介、猪塚健太
――それぞれどんな役を演じられるんですか?
佐野 僕の演じる“エノモト”は、いたってナチュラルで一番共感できるタイプ。平均点の普通の人間が“シタラ”(味方良介)に出会って予期せぬなにかに巻き込まれてく様子を演じたいと思います。シタラという奇妙な人間から「とにかくうまくこの場を立ち去りたい」と願う……突然わけのわからない状況に陥ると逃げたくなるのは人間の本質でしょう。実際に、今だって突然テロに巻き込まれるかもしれないし、事故で命を失うかもしれない。ミサイルも飛んでくるかもしれないし、戦争が起こるかもしれない。シタラのような人とも出会ってしまうかもしれない……。突然の何かが起こるかもしれないという恐怖は昔よりも身近になっているので、そんなリアルな感じをうまく表現できたらいいですね。ただ、「普通」ほど演じるのが難しいことはない。キャラが突出しちゃった方が演じるのは簡単ですから。
味方 反対に“シタラ”の方はたぶん普通の人ではないですね。とはいえ頭がオカシイわけでもなく、ちょっと観点がズレていたり、ものの見方が違っている人。一段上から周囲を見ていて、相手の情報や魅力を引き出すことができる人。けれどもシタラのとる行動はたぶん常人ではないので、僕自身がシタラになりきらないとお客さんには単純に「頭のおかしいキャラクターだ」と思われてしまう。そうならないようにリアリティを持つことが難しい。でもこれは演劇だから、他の二人がどう演じるかによってシタラという人間も変わってくるので、これから稽古しながらいろんな発見をしていくことになりそうです。
猪塚 僕の“テヅカ”という役は、そんな二人の間に途中から入っていく役。普通の人間なんだけど、エノモトとはまったく違う種類の普通の人かな。でも、ちゃんとまともなことを言っているんだけど、おそらくテヅカは何にも考えてないです。人生うまいことやってきた結果、中身のない人間になっている。
佐野 結果、テヅカは要領が良くて得をして、エノモトは他人から押し付けられがちで損をする……みたいな。
猪塚 よく考えるとすごく怖い存在ですよ。イメージですが、テヅカは現代社会にどんどん産まれている人種で、最近はテヅカのような人間が世の中を仕切ってきているんじゃないかなと感じます。二人に比べて登場シーンは少ないですが、だからこそパンチがあとあと効いてくる役になるといいですね。
――『ウエアハウス』はSNSなどをはじめコミュニケーションについて考えてしまう作品ですね。
佐野 俺はSNSってそんなに詳しくないからなあ……インスタってなんだかもよくわかんないし。どこまでも進化していくから、いずれインターネットが大きな問題になるかもしれないし、まったく違うコミュニケーション方法が生まれるかもしれない。俺も最初はスマホにすごく抵抗があったもん。でもある時ふと使ったら「これ最高だわ、全員スマホにした方がいい」って思った(笑)。
猪塚 最近はみんなスマホですよね。あまりにもSNSが大事にされていて、それに関わる事件も多いし、普段から「このままでいいのかな」と考えることもありますよ。『ウエアハウス』はその疑問をかなりダイレクトに取り上げている。直接のコミュニケーションを大事にしたいという気持ちもわかるけど、自分も結局はSNSをすごく利用していて、ないと生活できない。
味方 そうそう。SNSをやってないとダメみたいな空気もある。でもあまりにインターネットばかりになると、ナマモノに触れなくても満足して、劇場に足を運ばなくなるかもしれない。
猪塚 矛盾してるんだよね。僕らも必要でみんなSNSをやっているんだけど、発達すればするほど僕ら生身の人間の出番がなくなっていく。SNSやインターネットを通したコミュニケーションに対して疑問はあるけれど、簡単には切り離せない難しさと面白さについて、あえて突っ込んで考えられる作品だと思います。
味方良介、猪塚健太
■“演劇好き”な3人が集まった
――稽古は始まったばかりですが、いかがですか?
猪塚 実際に相手と合わせると、一人で考えるより想像が膨らみますね。予想通りのセリフがくることは絶対にないので、相手の演技によって自分も変わる。少人数の会話劇なのでなおさら皆でやった方が良くなっていくんだな。1回、2回、3回と読み重ねるとどんどん変わっていくので面白いですよ。早くセリフを覚えて台本を手放したいです。
味方 3人でだと、自分だけでは気づかなかった発見があるよね。やってみて初めて「こう聞かれるからこう答えてるんだな」とわかる。今回の作品はとてもじっくり台本の読み合わせをしている。じっくりと台本を読んで、みんながちゃんと作品を理解していくための時間があることはすごく大事なことだと感じますね。
佐野 とにかく楽しいよね。二人とは今回の作品で初めて会うけど、二人ともすごく演劇が好きそうだから、セリフが入ったらますます楽しめそうだね。自分のセリフだけしか頼れない会話劇というガチなお芝居を、一緒に面白くやれるんじゃないかな。でも普段はエンターテイメントなコメディが多いんでしょ?
猪塚 うちの劇団(劇団プレステージ)は完全にエンタメですね。
佐野 でも本人は無骨だよね。演劇好きって感じでいいよ。カッコ良くみせたいからってチャラい演技するんじゃなく、魂入れてくる感じ。その役者が本気かどうかなんて一瞬でわかる。軽く笑いをとりにくる役者だとイラッとするからね。
味方・猪塚 わかるなぁ。
佐野 中身がない目先の芝居はダメだ。でも二人はそんなことないから良かったよ。猪塚くんは僕らと比べたら出番が多くないけど、そんなことは関係なく「僕、セリフ合わせしますよ」と言ってるからね。
――演劇好きの3人は相性が良さそうですね! 一緒に飲みに行ったりするんですか?
猪塚 まだ行ってないんですよ。とりあえずセリフを覚えないと安心して飲めない。でもお酒を飲むかどうかはまず気になったところで、全員飲む人だということはすでに確認済みなので、みんながセリフを覚えた暁には飲みにいきます!
佐野 そう、飲んじゃうと寝ちゃうからね~。前の日に10時間寝てても酔ったら寝ちゃう。あれって気絶らしいね。今はセリフが入ってなくて他のことに手がつかないから、はやく飲みたかったらはやくセリフを覚えよう、と。
猪塚 気絶してる場合じゃない。
佐野 ほんとだよ。今は気が気じゃないもんね。なにをしてても「あそこのセリフはなんだっけ……」と気になっちゃう。はやくちゃんと覚えて、通し稽古をして、一杯飲みながらその日の稽古について話す……最高ですよ。
味方 早く覚えようっと!
――とにかくセリフ量が多いのでまず覚えるのが大変そうですよね。シタラなんて円周率を暗唱したり……。
味方 あれは心が折れますよ…。
佐野 俺、円周率だけ覚えるのと台本全部を覚えるのだったら、台本全部覚えた方がいい(笑)
味方 でも絶対に間違いたくないんですよ!ちゃんと言いたい!
佐野・猪塚 そうだよね!
味方 とりあえず本番までには覚えようと思ってます。
佐野 キツいなあ……すごいなあ……。
猪塚 寝るときにずっと流しておいたら?
味方 頭がおかしくなりますよ、そんなの~!
猪塚 スズカツさんからも稽古前に「とにかくまずセリフを早く覚えろ」と言われましたよ。覚えてから自分の中で引っかかりを見つけて創っていってくれ、と。
味方良介、猪塚健太
■劇場では「ツバを飲む音も聞こえる」ほど
――鈴木さんはどんな演出家さんなんですか?
猪塚 本作で初めてご一緒するんですが、意外と笑顔が可愛い方で安心しました(笑)
味方 僕はスズカツさんとは2年ぶり3作目ですが、挨拶に行ったら「これは俺のライフワークだから頼むね。気合い入ってるから」とプレッシャーをかけられました(笑)。やっぱりスズカツさんがこの作品にかけている思いは強いし、僕もスズカツさんとまた一緒に作品を創れるのが楽しみなのでその思いに応えたい。「この2年間自分もやってきましたよ、スズカツさん!」というのを見せて「おお、やってんな。またやろうな」と思ってもらえるようにステップアップしていきたいです。ただ、僕は1度めちゃくちゃに怒られましたよ。稽古が止まったくらい……。
佐野 ええ~!?
猪塚 何をしたんだ……。
味方 いや、単純なミスなんですけど、ものすごく怒られました。そんなこともあり、とてもいろんなことを教わったので、今回ご一緒できるのが嬉しいんです。たぶんスズカツさんって、演劇が大好きで仕方ないんですよ。それが全ての面に出ている、演劇のプロフェッショナル。でも役者が自分から聞きにいかないと教えてくれないところがあるので、積極的に質問していきます。説明するときはサッカーの話で例える事が多いから、サッカーのルールは勉強しておいた方がいいかも(笑)。
猪塚 そうなんだ、メモしておこう。
味方 すごく演劇が好きで、稽古場で楽しいときは「楽しい、面白い」とストレートに言うし、気持ちを隠さない。誰も笑っていなくてもスズカツさんだけが笑っていることもあるんです。ぼそっと「ここ良かったよ」「あそこ違うんじゃないの」とか言ってくれたり、役者のことをちゃんと見てくれています。本番も全部見るんですよ。自分の演出した作品を客席で観るのが好きなんだそうです。たぶん作品のいちばんのファンがスズカツさん本人なんだと思う。だから僕たちはそれに応えなきゃいけない。スズカツさんのためにやってるわけじゃないけれど、楽しんでくれる人を楽しませるのが、僕たち俳優だから。
佐野 そっかあ……僕は全然話してないんだよね。今はまだ噂だけで、スズカツさんの稽古方法が独特だと聞いています。普通、最初から最後まで通す“通し稽古”って多くて5~6回だけど、スズカツさんは1日1回は通して、終わったあとたいしたダメ出しもなくサクッと帰るのが毎日続くって……有名だよね?
味方 そんな感じですね。
佐野 面白い稽古法だよなあ。どんな感じなのか楽しみだね。たぶん自分から積極的に正解を探し続けていかなきゃいけないんだけど、それって役者に信頼を置かないとできないこと。集中力がいるでしょうね。毎日が本番みたいになるんじゃないかな、楽しみですよ。
味方 集中力はすごくいりますよ。スズカツさんは「演劇にはとにかく集中力が大事だから。集中力がないと演劇はできないから」と言っています。集中力を高めるためか、最終日になるとピリピリしてくるなか、みんなで床に寝て1時間半ほどリラックスの時間っていうのがありました。
佐野 ええ~! 稽古最終日に!(笑)
味方 そう!リラックスできるし、なかには寝ちゃう人もいるんだけど、最終稽古でこれやってていいの?って。それに、最後の方の通し稽古では開演30分前の開場から始まる。ちゃんと客入れ用の音楽を流して。
佐野 え、稽古なのに!?
猪塚 はあ~すごいな。それだけスタートダッシュしてるってことかな。
――とくに今回は3人芝居ですし、劇場は最大72席でお客さんとの距離が近いので、集中力がないと作品に引き込めないですね。
猪塚 ツバを飲む音も聞こえる距離ですね。
佐野 俺、足が震えそうだな(笑)。
味方 それ絶対に連鎖するからやめてください!
佐野 まあ、濃密な空間だし、ガチな会話劇だから、役者としてすごくやりがいがあるね。いい感じに演劇の面白さが伝わるんじゃないかな。
猪塚 その演劇の面白さを体感して欲しいですね。全身で味わってほしい!
味方 これだけ濃密な3人芝居ってなかなかないですよね。すごく勝負しなきゃいけない作品だし、この勝負に勝ったら役者として次のステージに行けるという挑戦です。ちゃんと向き合ってちゃんとやれば、こんな芝居ができるんだということを、お客さんにも同世代の役者にも見て欲しい。目で楽しむ華やかな作品もいいけれど、五感でヒリヒリと感じてもらって、演劇って楽しいんだ、こんな素敵な世界があるんだと知ってもらいたいですね。
取材・文・撮影=河野桃子
■会場:アトリエファンファーレ高円寺
■脚本・演出:鈴木勝秀
■出演:佐野瑞樹、味方良介、猪塚健太
■公式サイト:http://www.stagegate.jp/stagegate/performance/2017/warehouse/