林翔太「蛍光ペン1本、使い切りました(笑)」——膨大なセリフ量とともに挑む2作品「台本を読んで湧いた感情を、そのまま届けたい」Reading Rock『ガリバー』『月世界旅行』インタビュー
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Reading Rockトラベルショー 『ガリバー』/『月世界旅行』林翔太
2025年7月4日(金)より、Reading Rock(朗読×音楽ライブ)のスタイルで、旅をテーマにした冒険譚『ガリバー』『月世界旅行』の2演目が、2週連続で天王洲 銀河劇場にて上演される。
この度、出演者の林翔太のオフィシャルインタビューが公開された。
“演劇と音楽の融合”を掲げ、演出家・鈴木勝秀と音楽家・大嶋吾郎が長年にわたる実験と研究の末に築き上げてきた、新感覚の朗読×音楽ライブスタイル——“Reading Rock”。今回は“旅”をテーマにした冒険譚2作品を、天王洲 銀河劇場にて2週にわたって連続上演する。
7月4日(金)~6日(日)に上演されるのは、アイルランドの風刺作家ジョナサン・スウィフトの小説『ガリバー旅行記』を原作とする『ガリバー』。<小人の国><巨人の国><空中浮遊国><馬の国>という4つの国を旅したガリバーの物語が、ユーモアと鋭い風刺を交えて描かれる。そして7月11日(金)~13日(日)には、フランスの作家ジュール・ヴェルヌによる長編小説を原作とした『月世界旅行』を上演。月面到着を夢見る男たちの情熱と突き抜けた想像力を、ロックサウンドがさらに鮮やかに彩る。
『ガリバー』では若き医師であり探検家・ガリバー、『月世界旅行』では月を目指す熱き青年インピー・バービケインを演じるのは林翔太。数々の舞台を経験してきた林にとって、意外にも今回が初めての朗読劇となる。作品の魅力、そして挑戦への想いを語ってもらった。
ーー初挑戦となる朗読劇。出演が決まったときのお気持ちはいかがでしたか?
同年代の俳優仲間や事務所のメンバーが朗読劇に出演する話をたくさん聞く中で、やっと自分にも機会がきたんだと、素直にうれしかったです。ラジオドラマに出演したことはあるので、“台本を読みながら演じる”という意味では経験があるのですが、朗読劇を観たことはなくて。正直なところ、「セリフを完璧に覚えなくてもいいのかな?」なんて、楽観的なイメージを持っていたんです(笑)。普段は稽古初日までに全部覚えて臨むタイプなんですが、今回はスズカツ(鈴木勝秀)さんから「覚えなくていいよ」と言っていただいたので、ちゃんと言えるレベルまで読み込んだうえで、覚えずに稽古に行きました。逆にそれが新鮮で、「本当にこれで大丈夫かな?」って、ドキドキしましたね(笑)。
ーー新しい感覚の稽古だったんですね。今(※取材は6月下旬)、稽古は何日目ですか?
3日前から始まって、今日が稽古場の最終日です。
ーー朗読劇ならではの短期間稽古も、新鮮なのでは?
初めての感覚です。以前のラジオドラマのときも、稽古は2回くらいだった記憶があるので、「あ、こういうものなんだな」と思いました。でも今回は2作品分の稽古があるので、そのぶん密度は高いですね。
ーー『ガリバー』が初週、『月世界旅行』が翌週の上演ですね。
はい。最初の2日間は、それぞれの作品の読み合わせをしました。昨日はバンドの皆さんと合流して、『月世界旅行』の音の入り方や、どのセリフがきっかけになるのかを確認して。今日は『ガリバー』のほうを、音楽と合わせます。
ーー『ガリバー』と『月世界旅行』、それぞれのキャラクターに扮したキービジュアルも印象的です。特に『月世界旅行』のバービケイン役は、紫の髪にリップとネイルという大胆なビジュアル。撮影時のエピソードはありますか?
『ガリバー』は自分に近い見た目だったんですけど、『月世界旅行』のビジュアルを見たときは「誰!?」って(笑)。紫のウィッグにリップ、ネイルまで塗って、ガラッと変わった自分に最初は驚きました。でも不思議とすぐに見慣れてきて、気持ちも高まりましたね。
ーーでは、それぞれの役についても教えてください。まず『ガリバー』から。
僕が演じるガリバーは、好奇心が旺盛で、旅が好きで、複数の言語も話せる人物。旅行にあまり行かない僕とは真逆ですね(笑)。物語は、彼が4つの国を旅した経験談を語る構成なんですが、バラエティ番組で「こんなことがあったんですよ~」って話すイメージで、なるべく自然に、素に近い感覚で演じています。
ーーセリフ量も相当ですよね。
はい、びっくりしました(笑)。僕、普段は台本にマークをつけないんです。自分のセリフに蛍光ペンで線を引くと、そこだけしか覚えられなくなりそうで。いつもは他の人のセリフも含めて、全部覚えるつもりで向き合っているんです。でも今回はさすがに蛍光ペンを使いました(笑)。本番の照明を考慮してピンクを選んだんですが、台本の半分を超えたあたりで1本使い切ってしまって。念のため2本買っておいて良かったです(笑)。
ーー蛍光ペン1本使い切るなんて…(笑)! では、『月世界旅行』で演じるインピー・バービケインはいかがですか?
彼もかなり好奇心旺盛ですね。物語の始まりは戦争の話から。南北戦争が終結し、兵器の需要がなくなったアメリカで、バービケインはもっと高度な砲弾を作りたいという情熱から、月への発射計画を立てるんです。すごい行動力ですよね。僕自身も宇宙には興味があるので、「そうなんだ」と思う知識が台本にたくさん出てきて、読んでいて楽しいです。
ーー鈴木さんは、バービケインたちの行動を“フロンティア精神”と表現されていました。
そうですね。命懸けで未知に挑んでいく感じは、うらやましくもあり、ちょっと怖くもあり…。もし「宇宙に行ける」ってなったら、「死んでもいい」と思えるのかもしれないなぁ。でも、僕は飛行機に乗るときも毎回ちょっと覚悟してますから(笑)。何が起こるかわからないですし。
ーー絶対安全ってわけじゃないですもんね(笑)。だから旅行も控えめに?
そう、飛行機に乗らずに行ける場所を選びがちです(笑)。
ーーそんな林さんが『月世界旅行』ではロケット砲弾に乗って月を目指すという、かなりスケールの大きな旅に出るんですね。
そうなんですよ(笑)。実際、ロケット砲弾の中ってどんな感じなんだろう? って想像しながら演じるのも面白いです。
ーー演出の鈴木勝秀さんから演技に関する指示はありましたか?
明確な指導というより、「あまり役を作り込まなくていい」と言われました。まず『ガリバー』についてですが、台本を読んでみて、ガリバーというキャラクターは“芝居芝居”していないほうがいいなと感じたんです。だからナチュラルに読んでみたら、スズカツさんが「すごくいいね」と言ってくださって。そこで方向性が決まりましたね。『月世界旅行』は物語のスケールも大きいし、月面着陸を目指す話なので、もう少し“芝居寄り”になるかと思っていたんですが、こちらも「毎回、自由に演じていいよ」と言われて。結果として、がっつりした演技指導が入ることはなく、感覚を大事にさせてもらっています。
ーー共演される田村雄一さんと細見大輔さんは、2022年に上演された『月世界旅行』(主演:塚田僚一)にも出演されていました。田村さんはバービケインに敵対心を抱くニコル大尉役、細見さんは助言を与えるフランス人ミシェル・アルダン役です。おふたりと何か会話はされましたか?
本当に自由に演じていらっしゃるおふたりで、いろんな声色を使っていて。僕も自然と引っ張られて、いろいろ試しています。「前回はこういうふうにやっていたよ」と教えてくださったり、「ここで何か振るかも」なんてアドリブを予告してくださったり(笑)。皆さんが初演で作り上げてくださった土台があるからこそ、「ここは遊んでいいんだな」と、僕もすぐに掴むことができました。
ーー“声色”の幅は、やはり経験によって培われたものなのでしょうか?
どうなんでしょうね? でもこれまでに女性役やおじいちゃん役を演じることもあったので(笑)、気づいたらいろんな声を出せるようになっていたのかもしれません。
ーーご自身の声については、どんなふうに感じていますか?
好きか嫌いかで言えば…特別好きではないかな、嫌いでもないけど(笑)。「大好き」とは胸を張って言えないです。喋っているときに自分の耳に届く声と、録音した声ってまったく違って聞こえるじゃないですか。初めて歌をレコ―ディングしたときは、自分で聴いて「うわ、こんな声してるの!?」ってちょっと衝撃で。でもさすがに今は慣れました(笑)。
ーーそんな中でも、“声で表現する”ことには楽しさを感じている?
感じますね。僕は、わりとナチュラルなお芝居が好きなので、大げさな身振り手振りよりも、声のトーンやニュアンスを変えて表現するほうが性に合っている気がします。だから、今回みたいな朗読劇はすごく楽しいです。
ーーちなみに、鈴木さんとご一緒するのは今回が初めてなんですね。
はい、初めてです。
ーー初対面の印象はいかがでしたか?
じつは、勝手に「厳しい方なんじゃないか」と思っていたんです。何度もお世話になっている演出家さんから以前にお名前を聞いたことがあったので、この作品の出演が決まったときに「スズカツさんって、どんな方ですか?」ってメールしたんですよ。そしたら「特殊ですが、私は大好きな演出家です」と返ってきて(笑)。
ーー実際に会ってみて、印象は変わりましたか?
とても話しやすい方でした。スズカツさんのほうからいろいろ話しかけてくださいますし、僕も気になることがあればすぐに聞ける雰囲気で、すごくありがたいです。
ーーその「特殊」という点については…?
今までも“特殊な方”とはたくさん出会ってきたので…(笑)。冗談はさておき、「ちょっと変わってるな」と思うより、「この方のやり方に自分がどう合わせられるか」を考えるほうで。
ーーなるほど。鈴木さんに対しても、「台本を読みながら、その場で感じたことを自由に表現してほしい」というスタンスの演出家、という受け止め方なんですね。
そうですね。実際、そういう方だと感じています。
ーーでは、音楽についてもお聞きします。大嶋吾郎さんが手がける音楽には、どんな印象をお持ちですか?
僕は『ソーホー・シンダーズ』(2019・2021)でご一緒して以来です。今回はロック寄りの楽曲が多いですが、吾郎さんって本当にどんなジャンルでも作れるんですよ。それに吾郎さんの音楽は、聴いていると想像がどんどん広がっていく感じがして、大好きです。『ガリバー』で言えば、少しスローテンポな楽曲が特にお気に入りで、「このメロディとか、オケで流れてる音、めっちゃいいなぁ」って、毎回しみじみ感じながら歌っています。僕はもともとバンドサウンドが好きで。例えばKinKi Kidsさん。コンサートでは後ろにバンドを入れて、生音で演奏されるじゃないですか。その雰囲気や臨場感が、伝わってくる熱量にすごく心を惹かれます。
ーー今回も生バンドの中で、歌や芝居ができるのは楽しみですね。では改めて、台本を読んだときの感想を聞かせてください。
『ガリバー』は旅のエピソードを通じて、最終的に戦争の話に着地していく構成なんですが、現代とリンクする部分も多いと感じました。後半に、人間が兵器を作る愚かさについて、ガリバーが長ゼリフで語りかける場面があるんです。感情を前面に出して熱く語ることもできると思うんですが、本読みではあえて淡々と冷静に話してみたら、スズカツさんに「すごくいい。ちゃんと戦争について考えていることが伝わってきた」と言っていただけて。でもこれは、「こう演じよう」と狙って作ったわけではなくて、台本を読んで自然と湧いてきた感覚をそのまま出しただけなんです。僕と同じように、お客さんにも何か感じ取ってもらえたら嬉しいですね。
ーー終戦の8月を前にした7月という時期に、戦争について考えるきっかけがあるのは意義深いと思います。林さんご自身としては、朗読劇に初挑戦する中で課題に感じていることや、吸収したいことはありますか?
普段の舞台では稽古を重ねるうちに、「この場面ではこういう感情になる」という“点”がどんどんできていくんですけど、朗読劇ではそれがあまりないなと感じていて。毎回、微妙にニュアンスを変えて試せるんですよね。前回の通し稽古で真面目に言っていたセリフを、次の通しではちょっとおちゃらけて言ってみたり…そういうトライができるのは面白いです。遊びの余白を見つけていける感覚は、今後の作品にも活かせると思います。
ーー演技のスタイルとしても、自由度の高さが新鮮なのですね。
そうですね。でもそのぶん難しさもあって。僕は相手の目を見て芝居するほうがやりやすいな、と。通常の舞台だと、セットや動きも感情を表現する要素になりますよね。「このセリフでソファに座る」とか、「怒ったら相手の胸ぐらをつかむ」とか。でも朗読劇は“声だけ”で届けるので、本当に難しいなと実感しています。
ーーセリフを覚えることに慣れている分、台本を持って演じること自体も大変ですか?
そうなんです、正直、覚えたほうがラク(笑)。読みながら喋るのって、思った以上に難しいんですよ。あと朗読劇は初めてなので、まだ自分の“ルーティン”が定まっていないのも不安要素で。普段は本番前にひとりで通すのが習慣なんですけど、今回は台本を読んでいい舞台なので、「本番前に何をすればいいんだろう?」って(笑)。1回、早口で全部読んでみるとか…? 何もしなかったら、口が回らなくなりそうで怖いです(笑)。瞬発力も、もう少し鍛えたいですね。
ーー本番までに林さんの朗読劇ルーティンが決まるのも楽しみにしています(笑)。最後に、公演を楽しみにしている皆さまへ、メッセージをお願いします。
朗読劇って、役者が大きく動かず、台本を読みながら演じるからこそ、想像する楽しみがあると思うんです。ガリバーってどんな服を着てるんだろう? どんな見た目なんだろう? 登場人物たちはどんな空間にいるんだろう? そんなふうに、自由にイメージしながら楽しんでもらえたら嬉しいです!
文:豊泉彩乃
公演情報
原作:ジョナサン・スウィフト「ガリバー旅行記」
上演台本・演出:鈴木勝秀
音楽:大嶋吾郎
林翔太
田村雄一
細見大輔
日程:2025年7月4日(土)~7月6日(日)
会場:天王洲 銀河劇場
席種:全席指定9,500円
原作:ジュール・ヴェルヌ「月世界旅行」
上演台本・演出:鈴木勝秀
音楽:大嶋吾郎
林翔太
田村雄一
細見大輔
大嶋吾郎
日程:2025年7月11日(金)~7月13日(日)
会場:天王洲 銀河劇場
席種:全席指定9,500円
公式X:@travelshow_jp