【山人音楽祭クイックレポ】小谷美紗子 ミニマムな編成で届けた強くしなやかな音と言葉
小谷美紗子
山人音楽祭2017 【妙義ステージ】 小谷美紗子
eastern youthからTK from 凛として時雨まで、意外にも映る対バンを行う小谷美紗子だが、彼女をよく知る人からすれば彼女が並外れてハードコアな表現をするアーティストであることは周知の事実であるはず。
思いの外日差しが強い昼下がり、ドラムの玉田豊夢とともにあまりにも何気なく妙義ステージに表れた小谷。二人で音出しとマイクチェックをしつつ、そのままジャジーでほろ苦い恋を歌う「Rum & Ginger」を、まるでリビングルームに入るように自然に鳴らし始める。でも、実のところ鳴らされるピアノの一音、発音の一つ一つに必然がある。あるというか、絶妙な間合いと息遣いで、聴く人それぞれの心の中に情景や感覚を生み出していく。それが小谷のやり方だ。
小谷美紗子
このフェスに誘われたことは、本人よりむしろ周囲にいる若いスタッフが興奮していたと語る彼女。だが、この日の選曲は若いリスナーが対象であることを前向きに意識しているようにも受け止められた。鋭い言葉で相手を打ちのめしてしまいがちな10代、本当に伝えたかったことは闇の中。匿名で簡単に人を傷つけてしまうこの時代に、改めて人の心はSNSなんてなかった時代から変わらないんだな、と気づかせてくれた「明日からではなく」が、今まさにデジタル・ネイティヴなオーディエンスにはどう響いただろうか? 即座には判断できなかったが、真剣に聴き入っている人はその場から動かない。暴れ疲れて芝生に寝転んでいる人の耳にもきっと断片ぐらいは侵入したのではないだろうか。
玉田豊夢
ラストは、今まさにもう日本は取り返しのつかないところまできてしまったんじゃないだろうか、もはや個人の力でどうにかなるものではないのだろうか?そんなモヤモヤした気持ちに、確かな喝を入れるような「見せかけ社会」が響いた。
取材・文=石角友香 撮影=Shingo Tamai
小谷美紗子
1. Rum & Ginger
2. Who
3. 明日からではなく
4. 忘れ日和
5. 見せかけ社会